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♯ 3

楽しみにしてたよという方も、別にいらないよという方も、投稿が遅くなってすみません!!



腰が痛いな。


そう思いながら遠い目で、町や森を眺めるリーディア。

二日前。家族や沢山の使用人達に見送られ、アルバートの住うお屋敷へ向かっている道中である。


そう、二日だ。

二日も野営したり宿で寝たり馬車に乗ったりだけをしている。

正直言って暇なのだ。

十八年生きてきた中で、ここまで暇なこともあるまい。

私はあくびを噛み殺しながら、母に渡されたアルバートのあれこれをまとめた紙の束を再度読もうと開いた。

なんでも「夫婦になるのなら、相手側について少しぐらいは知っておくべきよ!」何だとか。

たしかにあまり第二騎士隊長ということ以外は、彼のことを知らない。なら知っておくべきなのは納得だなと私も思い、暇になったときに見てみたのだが、流石に生まれたときの体重は要らなくないだろうかと切実に思う。

うん。いや、かわいいよ。でも幼少期の写真を無断で見ているのだと思って見ているとアルバートに悪い気がしてくる。私は明日会うアルバートと果たして目を合わせることができるだろうか。

何かとても罪悪感が‥‥。


まあ良いや。

バレなきゃ大丈夫。


少し迷いながらも私は紙の束を読み返し始めた。

だってキラキラした目でこちらを覗いている写真のアルバート様、可愛いんだからしょうがないよね。




今私が向かっているのは王都にあるアルバートが住む屋敷だ。

本来ならば侯爵家の領地に戻り公務を行うのか嫡男の務めなのだが、彼は王太子直々にお願いされて王太子近衞騎士兼騎士団へ入り、第二騎士隊長にまで上り詰めているため、公務をする暇もなく、しょうがないなと先代侯爵様、つまりアルバートのご両親が領地でせっせと働いていらっしゃる。


ちなみにうちの男爵家は、両親とも「自分の大事な子供を王都に置いたまま公務は無理〜心配〜」と駄々をこねて優秀な執事に丸投げして領地ではなく王都の屋敷に住み着いている。

だからたまに母と父が領地へ帰らないと、優秀だけどキレると本当に何するかわからなくて怖い執事は追いかけて王都まで来ちゃうので、泣く泣く親は月に二度ほど帰っていく。


私とミルゼからしてみれば、やることないなら領地でのんびり畑仕事でもしてれば良いのにと思ったりしなかったり。


でも両親の本音はきっと、父の方が商業を主に頑張っているから技術者の居る王都に結構頻繁に用事ができてしまう。そしたら二人会えない日が続いて寂しいからこっちに来てんじゃないかなぁって怪しんでる。

だってこの人達、娘の婚約本人が知らないところで勝手に決めちゃうほど子供に気遣いなんてこれっぽっちも来れてないんだもん。

「きっと」じゃなくて「絶対」だと思う。

珍しく弟とも意見が合致したし。


それに比べてアルバートの方は、逆に溺愛されっぱなしらしい。

「息子の顔が見れないと寂しくて死んじゃう」と彼の年の離れた弟とご両親とで、王都まで頻繁に会いにいくんだとか。

息子さん二十歳過ぎてるのに少し溺愛されすぎてるような気もするが、きっとこれも愛が強いが故なのだろう。

羨ましい家族愛である。




不意にとんとんと肩を優しく叩かれて、紙から視点を外すと、唯一屋敷から私について来たメイドのリリマが窓を指さしていた。


「お嬢、あれが今日の宿です。少し今までとは違い質が落ちていますが、金は浮くので我慢してください」


「うん、わかった。それは別に良いけど『お嬢』って何?急に呼び名変わってびっくりしたんだけど」


リリマは強かに笑みを浮かべた。

私に口調を指摘され、気づいてもらえたことに喜びを感じているらしい。


「え。知らないのですかお嬢!?最近嘔吐の間で流行っている劇で『お嬢と冷酷執事』ってのがあるんです。それでちょーイケメンな執事がお嬢様をお嬢と呼んでいたので下町でお嬢呼びが今大流行しているみたいなので真似してみました!どうです?キュンとしました?」


「それ教えたの多分母様でしょ。何でそんないらない情報あげるかな。あと『お嬢』って呼ばないで恥ずかしいじゃない」


「そんな照れないでくださいよ、お嬢〜。キュンときちゃって恥ずかしかったんですか。もう恥ずかしいならそう言ってくれれば良いのに、強がっちゃって〜このこの〜‥‥‥?お嬢、聞いてます?」


「‥‥あれ?その劇ってもしかしてお嬢の名前はバリスで、執事がマシスロードじゃない?」


「はい!そうですけど何でご存知なんですか?‥‥ッハ!!もしかして隠れファン!?」


ペチンと彼女の頭を叩いた。

しまった。つい手が勝手に動いてしまった。

しかしリリマ図太い神経してるし、叩いたって減るものでも無いし。


「お嬢様、今けっこー失礼なことお考えになったのでは?」


「ち、違うわよ。それきっと私の友人が描いた脚本だと思い出しただけ。懐かしいな。結構内容練るのに手伝ったのよね」




私に文句を言うリリマを横目に、今日の宿の姿を瞳に写した。


真っ白な外観に窓の縁は金、ドアはうちの邸よりも物凄く大きい。

男爵家よりも大きい宿ってどうかと思う。

父様も母様も屋敷を建てるとき「お屋敷で迷子になるのもねぇ」と言って一回りも二回りも小さな屋敷を建てた。お金は上手く出来すぎてるほどにじゃんじゃか入ってきているのであるにはあるのだが、二人は一向に手をつけず貯金してばっかりだ。

たまに「ちょっとだけいいの買ったら?」と擦り切れた母のドレスを指差すけれど、「物は大切に、ねっ?」とか何とか言っちゃって、おまけにウィンクしながら鼻歌を歌うので、当人が良いなら良いかとばかり思っていた。


ううんと間違いだった。



色々と間違いだった。



父や母は大丈夫。これまでの経験があるから安心だけど、私と弟は無理である。我が家よりも数倍大きな他の貴族の邸を見た瞬間、耐性がついてなさすぎて頭がショートしてしまうのだ。


今や幼少期と比べれば、だいぶ慣れたもののやはりウチより数段いいものを見てしまえは緊張して狼狽える。

ほんとなんで私の家はこう、後先考えず今の感性で物事を決めるのだろう。


もう。子供の頃にミルゼと一緒に王都のお城に登城して馬車を降り立ち、城を見た瞬間一緒にぶっ倒れたのは黒歴史なのに。




そんなふうに思い耽っていると、馬車が緩やかにスピードを落として停止した。

どうやら着いたようだ。


まだ豪華なものや高い価値のあるものには免疫があの少し足りないけれど、見るのはやっぱり楽しいので、心躍る気分になる。

綺麗な部屋が早く見たいなと、上機嫌でリリマが開けたドアを潜った。







「美味しい!これどうやったらこんな味になるんですか?私が料理をしたらいつも失敗するんです。ちゃんと分量測っているのに」


「ハハハ嬉しいこと言ってくれるねぇ。これは隠し味を入れてるから他のところよりうまいのさ。隠し味の中身は企業秘密だから言えないけれどね」


リーディアはお皿に注がれたスープを飲み干して、あまりの美味しさに頬を落とさないように押さえた。

スープは特別、高い食材を使っているわけじゃない。しかしながらほっこりして安心するというか、不思議と笑顔になってしまうような旨さがある。


こんな味が一番好きな味なのよね、と思いながら彼女はおかわりをお願いした。


「でしょでしょお嬢様。ここの宿、平民だけじゃなくて冒険者や、お忍びで来ているお貴族様も来るそうなんです」


「成る程。だからお料理もいろんな幅があったり、宿の隣に馬小屋があったりするんだ」


道理でご飯が美味しいはずだ。

やはりそこらの平民や冒険者なんかは、ちょっと適当な料理を出したところで文句は言われないが、貴族のお嬢様や坊ちゃんらへんのいい暮らしをしている者たちは、たとえお忍びだろうと文句を言って文句を言うに違いないだろう。

そしたらきっと客に迷惑がかかり、客足が遠のいてしまう。

なので誰も文句が言えない程のレベルにしているのだ。


「宿経営も大変ね」


しかし、そういう貴族向けにしてしまえは、よく宿を利用する平民や冒険者は入りづらくなり主な収入源が減ってしまうだろう。


と、普通は思ってしまう。


だが本来は、ごく普通の平民や魔物と戦いへとへとな冒険者からしてみれば、当たり前に出てくる美味しい料理やフカフカなベットは憧れの的である。

いつか一回でいいから泊まってみたいと夢を見る。


それがどうだ。

いつもよりほんの数枚金を渡すだけで、こんな非日常を味わうことができるのだ。

それなら行かないわけにはいかないだろう。


そういうこれら全ての思想を予想して、前代未聞の経営を成功させたのがこの女将さんである。

先ほど話した時にも感じたけれど、優秀さでもあるが料理の味にも出ている、人を安心させるような性格に多くの人々が魅了されていったのだと思う。





カランコロンとドアのベルが気持ち良い音を響かせた。


「いらっしゃいませ、ようこそ夜星の宿へ。宿のお泊まりですか?それとも腹ごしらえで?」


女将さんが人の良い笑みを客に向けた。

スープを待っている間に暇をしていた私は、そっと今来たお客さんを目で捉え、‥‥‥ため息をついた。


「どちらもで」


「お願いしますわ」


フードを被った二人組。

二人はフードで隠しているつもりなのかもしれないが、どこからどう見ても、百人中百人お貴族様だと答える雰囲気があふれていた。

隠せない気品と洗礼された動き。

これは貴族の中でも上流貴族に当たる方々だろう。

声や背丈から見て、恐らくまだ若い者のようだ。ひとりは男性で連れは女性だろう。駆け落ちか、婚約者とのデートか。どちらにしろ、いけない事なのには違いない。

いや。ちょっとだけ結婚されている可能性もなくはないのだが。


「じゃあ小銀貨六枚だよ。お釣りはあまり出ないようにしておくれ」


「ああ。そうしたいのは山々なんだが、これしか持っていないんだ。お釣りがないというのならお釣りはいらない」


カリンと金属の擦れる音がした。

私はそれを見てギョッとする。

同じく女将も、これまでいろんな貴族を相手にしてきたとしてもこれに慣れていないようで、口元を引き攣らせていた。

周りの酒や料理を楽しんでいた人々の中で近くに座っていたり、興味津々に見ていた人達はあまりの非現実的なものに唖然としている。


「? どうかされましたか。あれ?もしかして足りていませんでしたの?おかしいですわね、わたくしが家庭教師から習った時は銀より金の方が価値が高いと聞いていたのですが。でもわたくしは銀の方が美しいと思うのですけれど」


そういうと連れの方は、ガサゴソと男の方のバックを漁ると更に五枚、机に乗せた。


最初の二枚と今乗せた五枚で計七枚ある。


あってしまう。






あの『金貨』というものが。





一枚あるだけで一年はたらふくご飯が食える、まさに喉から手が出るほどに欲しいものがポーンと出てきた。

しかも彼らの言い草では、まだまだバックの中に金貨が入っているような物言いだ。


私のような貴族で、商業を営んでいる家系は金貨に触れることがよくあることだが、本来なら貴族でも容易く手に入るものではなく、ましてや平民など金貨なんてお伽話みたいな物な認識になっている。

 そんな時に、金貨をこんな一眼が多い場所で出すだなんて知らないにも程がある。きっと余程のボンボンだということは現時点で命名白々なのだった。



女性の方はこれで足りるでしょうと、胸を張っているが、大いに間違っている。

本当に。まじでやばい。

違うのだ。女将さんがいまだに動けないのは、足りないんじゃなくて足り過ぎてどう接したらいいのかがわからないのだ。

決して自分たちの持っているそのコインの価値を見誤らないで頂きたい。

それはきっと持ち出してはいけない金だと思う。

早くそんな危険な物、お家に返しておいで。



「いや、あの‥‥‥さ、流石にこれは、む、無理というかね。なんと、いうかーーー」


「‥‥‥もうダメじゃないですか〜、これは偽物のお金でしょう?どこの劇団の演者かは存じ上げませんが、いくら悪ふざけだからって冗談が過ぎますよ。小道具のお金を出すなんて、宿泊する気あるんですか〜?」


女将がなかなか話し出そうとせず、金貨をしまうことを促さないので失礼ながら私が割り込ませていただいた。

私の突然の登場に、二人は目を見開かせている。

私はわざと大きな声でこれは金貨ではないことを周りの人にしっかり伝えた後、さらりと彼らの手元に小銀貨六枚を手渡した。その代わり、テーブルに置かれた金貨は男のバックに無理矢理押し込む。




そして、彼らの拳の中を開ければあーら不思議。


「あっれ〜!なんだちゃんと小銀貨持ってるじゃないですか。ほらこれを出して、女将さんが許可出して、はい宿泊できますよ。良かったですね。あぁ女将さん、やっぱりスープのおかわりはなしでお願いします。ごめんなさい急に。‥‥ではでは、私はこれにて」


「え!ちょっと待ってーーー」


にっこりといい笑顔を残して、誰からも話しかけられない速さで二階の宿泊部屋へ逃げ込んだ。呼び止められていだ気がするけれど振り返ってもいいことはないだろうと思考し、気づかないふりをする。

だって女将とか、あの二人組に何か言われたり聞かれたりするの、めんどくさいんだもの。

どうせ

「どうして金貨じゃダメなんですか」

とか、

「何で小銀貨を下さったんですか。お金返します」

なんてどんどんお金持ち発言をして、もっと彼らが注目されてしまう。

そしたら私が困るのだ。特に金持ちという点について。




「ちょっとちょっとお嬢様。一体全体どうしたんです?そんなに急いで入ってきて。お嬢様が本気ですればドアなんて、まるで枯れ木の枝のように砕け散るのでやめて下さいね。弁償だけは勘弁ですよほんとにーーーあいたっ」


「誰がドアを壊すか!」


しまった、つい手が。

いやーびっくり。手って勝手に動くんだなぁ。びっくり、びっくり。


「ぐーで殴るなんて、全く私はそんな風にお嬢様を育てた覚えはないんですけどね」


あなたと私の歳は同じだと思うんですが。


そうツッコミしたい衝動を抑えて、そのかわり私は大きなため息をついて、ベットへダイブする。

枕が太陽の匂いがして、少し不安が収まっていく。心がぽかぽかする匂いだ。


やはり此処は高級宿屋だと感じざるおえない、物の使いやすさがある。

布団は滑らかで、ざらざらなんて一度もしない質感だし、床は裸足でも冷たいと感じぬよう工夫がされている。鏡は一眼で年代物だとわかる古物なのに、まだサビひとつつかずに元気よく輝いていた。


壁には絵画が飾られていて、有名な画家の名ではないにしろ、これからの先が楽しみだと思うほどの腕前の良い画家が描いたもので、見ているだけで心が癒されるような清々しさがあった。特に本物のの海だと思ってしまうほどの美しい透明な碧が綺麗である。いつか良い目を持つ鑑定士に掬い上げられ、世の中に出されるのであろう。


そんな風に思えば、この宿を取ってくださったアルバートには感謝が絶えない。

急にとんとん拍子で婚約が決まり、しかも相手は他国の美女な王女なんてものではなく、ただのちんちくりんな少女で迷惑極まりないというのに、わざわざとても良い宿泊地を用意して要らぬ仕事を増やさせてしまった。

申し訳ない気持ちが、更に無断で見てしまった子供の頃の写真のこともあり、リーディアの胸を強く締め付けた。


アルバートに会ったら償いではないけれど、できる限り精一杯、淑女修行を頑張ろうと誓って握った拳を天井に突き上げる。

しかし彼のことだから、色んなことの感謝を述べてもふんわりと和むような明るさで「なんのことでしょう?」と微笑んでいそうな予感がした。

‥‥‥それはなんかずるい。



するとふと、ある疑問が頭をよぎった。


アルバートから婚約のことを聞いた時には、びっくりし過ぎて頭がキャパオーバーしていたけれど、冷静になって考えてみればとても不思議なことに違いない。

どうして?なぜ?

一度考えてしまえば、もやもやして寝付けない。

そして考えてしまえば、何故か言いたくて仕方なくなり、


「どうして他にも良い位の令嬢がいたのに、私と婚約したんだろう」


ついつい呟いて茶髪をぐしゃりと潰した。





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