第9話 百折不等(ひゃくせつふとう)
「そうじゃ……その調子じゃ。ここで高温になりすぎてもいけないんじゃ。玉鋼はちょっと赤くなるくらいで……そのまま叩いていくんじゃ。……そうじゃ。5mmくらいになったら水に入れて――」
「……これ、今度から僕がメインでやるって? こんなの出来るわけないじゃんか――」
「無駄口を叩くでないぞ。ほれ、自然に砕けなかった部分を小槌で叩いて割る。これを小割りという――」
「火の番っていうかこれじゃあ2代目じゃんか……」
「ほっほ、そりゃあいいのう! 焔が跡を継いでくれたら刀ももう一度打てるかもしれんのう」
「へ……そりゃよかったね……へへ……」
炎の維持をしつつ、爺ちゃんから教わって覚える……。
やっと昨日、風呂の温度が44℃きっかりに調整できるようになったばかりなのに……。
「基本的に刀は一人じゃ打てんのじゃ。機械のハンマーでもあれば別じゃがな」
「キツイ……」
*
ある程度鍛冶を手伝わされた後、風呂の火を頼まれた。
「ほほ、今日もまた頼むぞ。どれ、腕前を見せてもらおうかの」
「任せて! 昨日みたいにやればいいんでしょ?」
指を鳴らして薪に火をつける。
「うーん、今日は燃えがいいね! これならあっという間に適温になるよ!」
「……ふむ」
ボォォォォ……
「あれ……ちょっと火が……。……抑え方が……あれ、火が消えない……」
ゴオォォォ……
火の勢いは止まらず、爺ちゃんは水をかけて消火する。
風呂釜の中の湯はグツグツと煮えている。
「うん、あったまるね」
「茹で上がるわ!! この馬鹿者!」
ゴンッ
「うぐいてっ……」
げんこつを食らった。
*
夕方には木刀で素振りの練習をする。
「81、82、83……」
「切っ先が下がってきておるぞ。高さを保つんじゃ」
「97、98、99、100……ハァ……ハァ……」
「焔よ……。その……なんていうか……言っちゃ悪いとは思うんじゃが……。センスないのぅ……」
「えー……ハァハァ……マジかあ……。それで本当に……特訓次第でどうにかなるのかな……」
「それはわからんが……ワシは仁ですら何か光るもんを見出してな。無理矢理に武術をやらせてたんじゃが、まあ本人は嫌々やってたみたいでの。一応、全国でもトップレベルに強くなった。剣道でも空手でも熟しておった。じゃがの……。やる気の問題っていうのかのう。幾ら素質があっても最後の最後でやる気がついてこなくての。全国で優勝することはなかった。力量はあっても想いが足りんかったってことじゃ」
「え、お、親父が……? あの気持ちを重んじる親父が……」
「だからじゃろうな。自分が無理矢理やらされてた武術を、お主に無理強いせんかったのは」
……親父。
引きこもってただの、無理して武術やってただの……何も知らなかった。
なんかほんと、今更知って、色々気づかされたわ……。
そんな僕は甘やかされてただけなんだろうか。
……この平和な世界で力は不要。
そう思っていた。
火の力を得てからもずっとそんな感じだった。
いじめられるようになってからより一層、力は不要だと思っていた。
仕返しをすれば自分も同類だからと思って、ただただ耐える日々……。
結局、力ってなんなんだ?
……爺ちゃんは言ってた。
「武術は悪い奴らを倒すだけの力じゃない」と。
「弱い自分を封じ込め、律するためのもの」……と。
確かに僕はそれを最初から理解していたわけじゃない。
言われて気づいただけだ。
負けるってのは自分自身、気持ちが折れた時なんだよね……親父、爺ちゃん。
諦めるわけにはいかない。
頑張りぬくしかない。
弱音を吐くのは死んでからでもいい。
その頃にはもう吐けないけど。
「……よし、焔。一休みせんか――」
「1、2、3、4、5……」
「(……努力が素質を上回ることはできると信じておる。頑張るんじゃぞ)」