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第9話 百折不等(ひゃくせつふとう)

「そうじゃ……その調子じゃ。ここで高温になりすぎてもいけないんじゃ。玉鋼はちょっと赤くなるくらいで……そのまま叩いていくんじゃ。……そうじゃ。5mmくらいになったら水に入れて――」


「……これ、今度から僕がメインでやるって? こんなの出来るわけないじゃんか――」


「無駄口を叩くでないぞ。ほれ、自然に砕けなかった部分を小槌で叩いて割る。これを小割りという――」


「火の番っていうかこれじゃあ2代目じゃんか……」


「ほっほ、そりゃあいいのう! 焔が跡を継いでくれたら刀ももう一度打てるかもしれんのう」


「へ……そりゃよかったね……へへ……」


 炎の維持をしつつ、爺ちゃんから教わって覚える……。

 やっと昨日、風呂の温度が44℃きっかりに調整できるようになったばかりなのに……。


「基本的に刀は一人じゃ打てんのじゃ。機械のハンマーでもあれば別じゃがな」


「キツイ……」





 ある程度鍛冶を手伝わされた後、風呂の火を頼まれた。


「ほほ、今日もまた頼むぞ。どれ、腕前を見せてもらおうかの」


「任せて! 昨日みたいにやればいいんでしょ?」


 指を鳴らして薪に火をつける。


「うーん、今日は燃えがいいね! これならあっという間に適温になるよ!」


「……ふむ」



ボォォォォ……


「あれ……ちょっと火が……。……抑え方が……あれ、火が消えない……」


ゴオォォォ……


 火の勢いは止まらず、爺ちゃんは水をかけて消火する。

 風呂釜の中の湯はグツグツと煮えている。


「うん、あったまるね」


「茹で上がるわ!! この馬鹿者!」


ゴンッ


「うぐいてっ……」


 げんこつを食らった。





 夕方には木刀で素振りの練習をする。


「81、82、83……」


「切っ先が下がってきておるぞ。高さを保つんじゃ」


「97、98、99、100……ハァ……ハァ……」


「焔よ……。その……なんていうか……言っちゃ悪いとは思うんじゃが……。センスないのぅ……」


「えー……ハァハァ……マジかあ……。それで本当に……特訓次第でどうにかなるのかな……」


「それはわからんが……ワシは仁ですら何か光るもんを見出してな。無理矢理に武術をやらせてたんじゃが、まあ本人は嫌々やってたみたいでの。一応、全国でもトップレベルに強くなった。剣道でも空手でもこなしておった。じゃがの……。やる気の問題っていうのかのう。幾ら素質があっても最後の最後でやる気がついてこなくての。全国で優勝することはなかった。力量はあっても想いが足りんかったってことじゃ」


「え、お、親父が……? あの気持ちを重んじる親父が……」


「だからじゃろうな。自分が無理矢理やらされてた武術を、お主に無理強いせんかったのは」


 ……親父。


 引きこもってただの、無理して武術やってただの……何も知らなかった。

 なんかほんと、今更知って、色々気づかされたわ……。

 そんな僕は甘やかされてただけなんだろうか。


 ……この平和な世界で力は不要。

 そう思っていた。

 火の力を得てからもずっとそんな感じだった。

 いじめられるようになってからより一層、力は不要だと思っていた。

 仕返しをすれば自分も同類だからと思って、ただただ耐える日々……。


 結局、力ってなんなんだ?


 ……爺ちゃんは言ってた。

 「武術は悪い奴らを倒すだけの力じゃない」と。

 「弱い自分を封じ込め、律するためのもの」……と。

 確かに僕はそれを最初から理解していたわけじゃない。

 言われて気づいただけだ。


 負けるってのは自分自身、気持ちが折れた時なんだよね……親父、爺ちゃん。


 諦めるわけにはいかない。

 頑張りぬくしかない。

 弱音を吐くのは死んでからでもいい。


 その頃にはもう吐けないけど。



「……よし、焔。一休みせんか――」


「1、2、3、4、5……」


「(……努力が素質を上回ることはできると信じておる。頑張るんじゃぞ)」

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