第69話 忘若無人(ぼうじゃくぶじん) 1
◆逆井光side◆
入学試験日に雨なんてついてないわ。
せやけど、こっからウチの伝説が始まるんやから気合入れんとな。
……目にもの見せたる。
*入学式当日 入学試験会場にて
「ふん。得物も持たずいい度胸だな。それでいて劣属。«火単»……と言うより異端だな。そんな覚悟でこの炎天化時代をやっていけると思うのか?」
「まあ……人生ハードモードの方がおもろいやん? それに逆境に強いんや、ウチ」
「おもろい……か、人生舐めているな。入学できずに手ぶらで帰るのも面白いぞ! 出でよ【マッドドール】!」
ゴゴゴゴゴ……
召喚された泥人形はかなり精巧に練られている。
噂通りの代物や。
「試験内容は10分以内にその【マッドドール】1体の無力化以上で合格とする。この部屋にある武器選択の的確な判断や、自身の能力での打開が目的である。始め!」
ザシュ……
ただ指示通りに向かってくる無謀な泥人形に手を翳す。
「10分ねぇ。センセには悪いんやけども、コレをウチのプレリュードにさせてもらいますわ」
「ほう、面白い。やってみろ(逆井平八郎の一人娘……その程を推し量る!)」
ある程度引き付けてから近接魔法を放つ。
今出せる、ウチの『華麗にして最高の焔』……。
魔武学に逆心の烽を!
「【フラムリボン】!」
泥人形の両手両足を炎のリボンで封じる。
移動手段を断たれた木偶はそのまま倒れ込んで燃え出す。
が、ウチの火を以てしても泥人形の四肢を裂く事は叶わんかった。
「……ちっ、マッドドールの無力化を確認。試験を終了する……」
まだ泥人形は藻掻いていたが、これ以上は無駄だと判断したのだろう。
「あーらセンセ! 加減なんてせぇへんでもええのに! 支払うモンなんかウチ、持ってへんよ? じゃあ……イッペン揉んどきます?」
「は、な、なにお言っているのだ! ……早く行け!」
「んフフ、またよろしゅう」
部屋を出て案内通りに体育館へ向かう。
*
ウチかて、この炎天化時代に«火単»なろう思たんは理由あんねん。
『属性理解』と『属性解釈』。
他属性を得らんで1つに絞ることで、単属熟練度の更なる向上を臨める。
いらん思て捨てるんやなく、何でいらんのか突き詰めるんが研究やあらへん?
そんなんばっかやから炎天化発現から何の進展もなく日ばっかり経つんや。
ウチが終わらしたる。
オトンの意志を継いで炎天化の根源を世に晒すんや。
……オトン、死んどりゃせんけどw
見とれよ、ウチをバカにしたヤツら……。
ゴォォ……
黒と紫のモヤが突如として現れる。
そこから現れたんはハゲたオジンやった。
「……む、今なにか失礼なことを考えなかったか?」
「いんや、ぜーんぜん? なんでっか?」
「……ふむ、そうか。私は魔武学第一高校、教頭の郡山だ。逆井光くん、君が今年の首席だ。皆はまだ試験中。入学式までに答辞で読む内容を考えてお――」
「あ、パスで」
「な、なに⁉ 魔武学で答辞を読むということがどれだけ名誉なことかわ――」
「ウチ、あがり症なんですわ。次席に頼んでもらってもエエですか?」
「あ、あがり症……? それ、本当かどうか調べてもい――」
「センセ! 大変申し訳あらへんけど女の子の日も重なっとるんですわ。トイレ行きたいんやけどもどこでっか?」
「むっ、むうう……そ、そうか。……トイレはあっちの廊下のすぐ右にあ――」
「すんません。ほな、入学式で」
フフン、ウチが一番か。
ま、初め一番でもこっからやからな。
在学過程で強くなる要素なんていくらでも転がっとる。
最初だけで終わらすつもりもあらへん。
それはええねんけど……教頭の転移魔法、エエなぁ。
*
体育館にも大分生徒が集まってきた。
ウチにピッタリな制服もあったし満足やわ〜。
「それでは諸君! 時間がきた! 整列したまえ!」
……なんや、あの銀髪は。
上級生か?
「私は魔武学第一高校2年の真道月詠、生徒会副会長をしている。本日の進行は私が担当する!」
なんやあれ……。
……ウチには見えるで……禍々しいMAなんが。
「それでは魔武学第一高校入学式、開始である!」
それにドえらい硬ッ苦しい物言いやん。
あらぁ疲れる性格しとるわ。
せやけど魔武イチん生徒会言うたらバケモン集団なんやろ?
闘ってみたいわなぁ。
「続いて新入生挨拶! 代表の藤堂忍くん。前へ!」
お、コイツが2番手か。
……せやけどなんや、けったいな恰好しとるな。
「……新入生代表の藤堂忍です……。答辞――、期待と不安に胸を膨らませ――」
2番手と手を組んで魔武イチを牛耳るんもオモロイな。
こういうんは、ワンツーで決めちまうんが手っ取り早い。
1年はウチらが仕切るんや。
他に強そなヤツはおらんかな?
……うーん、まっ焦ることはない。
タップリ吟味してジックリ野望を進めていくんや。
せやけど……暇やな。
式典の話なんて聞いてもムダや。
上辺だけのアッサイ内容に必要性なんて皆無。
最後だけ聞いとりゃええんよ。
「それではこれにて! 魔武学第一高校、入学式を終える! 新入生諸君は邁進していってくれ!」
しっかし……あっつい女やな……。
ウチの一番苦手なタイプやわ……。
あーゆーんは相手にせぇへんのに限る。
……とりあえず、あの2番手にはツバつけとくかいな。
入学式を終えた学生は、みなすぐに体育館から出ていく。
ウチは前を歩いていた2番手に近寄り、話しかけようとした。
「入学早々、拙者に何用か」
気配を察したのか距離を取られる。
いくら興奮してたかて気取られる程、耄碌しとらへんけども。
……しかし「拙者」っていつの時代の人間やねん。
「アンタに話あんねん。表、出よか」
「ええ、お嬢さん。参りましょう」
な……なんやコイツ、顔見てすぐ態度を変えよった。
ま、ウチの美貌のせいでこうやってすぐ男を虜にしてしまうん。
ウチ……ホンマ、罪なオンナやわぁ。




