第53話 完全燃勝 （かんぜんねんしょう）後編
ちょっとノリで進めてきちゃったけど、なんか俺の想像を勝手に超えてどんどんと話がおっきくなってってる気がする。
もはや自分でも止められない……！
大丈夫なの？
ちゃんと収集つくんだろうか。
最後まで無事、書き終えることができるのだろうか。
正直俺にもわからない。不安。
意を決し、彼と戦うことを覚悟した。
このことを……負けたら記憶を消されることを、二人に言うべきだろうか。
……逆にプレッシャーになるかな？
でもこれは自分だけの勝負じゃない……。
お昼のときにでも軽く話しておこう……。
そう考えながら歩き、自陣へ戻る。
＊
「選手の皆さんは退場してください！ 拍手をお願いします！」
へぇ……ちゃんと健闘を称えて拍手させるなんて、意外としっかりしてるんだな。
――え、退場……？
終わってる……！！
一斗缶潰し……見たかったのに。
「いたいた！ おーい、皇くん！ 次、パン食い競争だよ！ 早く入場門に集まってー！」
――やば……２種目目に出ること、すっかり忘れてた……。
「あれ、具合でも悪い？ 大丈夫？」
「あ、ううん。大丈夫。ありがとう」
彼は土山風来。
班員以外のクラスメイトで唯一、僕と普通に接してくれる――そんな気がする。
そういった関係は大事にしていきたい。
入場門へ急ぐ。
＊
しかし初競技だけど……みんな普通に魔法とか使うんだよな……。
三人四脚なら火の能力を使っても気づかれにくいけど、個人競技じゃそうもいかない……。
絶対、気づかれないようにしないと。
「第２種目、パン食い競争！ 選手入場です！ さあ、体育祭らしくなってまいりました。この競技のポイントは――吊るされたパンの高さ！ 地上から約３ｍ！ それを《《手を使わずに咥えてゴール》》してください！ 落としたり、食べきってしまったら失格！ あくまで《《咥えたままゴール》》です！」
……パンまで３ｍもあるのか。
みんなどうやって落とすんだ？
「それでは第一走者、スタンバイしてください」
激ムズ競技じゃないか、これ……。
やっぱ他の人のやり方を見ておくか。
運動会でも、パン食い競争って謎の種目だったよな……。
しかも衛生面がどうこうで、今はほとんどやってないし。
「皇殿と同じレースじゃないか！」
また誰かに声をかけられた。
どうやってパンを落とすか見たいのに――。
「と、藤堂さん……！ お、お疲れ様です！」
そこには、忍者なのに普通に体操着を着た藤堂さんがいた。
――うーん、シュールだ。
あ……今、変な顔してなかったかな……？
「畏まらなくていいよ。ここではお互い選手なんだからさ」
相変わらず優しい。
「それでは第１レース！ 位置について、よーい……！」
パンッ！
「スタートしました！ 赤１−４、速い！ 若干フライング気味ですがギリギリセーフ！ 続いて水色２−１、灰色３−３！ さあ、どうやってパンを落とすのか！」
どうするんだ……？
「灰色３−３、遠距離から«土魔法»！ 見事に糸を断ち切ったー！ 赤１−４、«水魔法»を放つ！ が、パンに直撃！ これは濡れパン！ 美味しくなさそうだー！ 水色２−１は……おっと、身体強化！ 自らジャンプしてパンを咥えたー！ タイミングばっちりだ〜！ その後は緑２−４、キャッチ！ 黄１−２、キャッチー！」
……なるほど、大半は身体強化からのジャンプってわけか。
３ｍを跳べる無魔なんて、この世界でもまずいないだろう。
「次の次か。よろしく頼むよ皇殿」
食い入るように見ていたからか、返事を待たずに鼻緒を結び直している。
「はい、お願いします！」
……ん、鼻緒……？
ぞ、草履……！！
そこは忍者！！
「赤１−４！ 明らかに美味しくない顔でゴール〜！ １着、灰色３−３。２着、水色２−１。３着、緑２−４」
藤堂さん以外は全員、知らない人だった。
まぁそうだよな……。
あまり関わりないもんな。
そして自分たちの番となった。
白組にどうにか貢献しないと……。
「よし……いくぞ……！」
パン！
「第３レース、今スタートしました！ 白１−１、速い！ 一番で飛び出した！ 紫２−３……一瞬消えたように見えた……？ いや、実際いなくなっている⁉ 桃３−１、何故かスタート直後から動かない！ もうレースは始まっているが……ってな、なんと魔法発動の準備をしている……⁉」
藤堂さんが――消えた……？
何か仕掛けてくるに違いない。
こっちは最速で走って糸を焼き切る！
火の力を使う動作はないから怪しまれないはず……。
あとはパンを落とさず、そのまま咥えるだけだ……。
よし、今だ！
右拳を強く握る。
「《バーニングリミッツ》……！」
ボッ――。
「……ついにスタート位置の桃３−１、魔法発動――！！ ……こッ、これは……広範囲のグループバインド⁉ 全員まとめて動きを止める気だー！！」
バインド……⁉
ヤバい、今止められたら……！
パンを落としたら失格だ……せめて、咥えるところまで――！
ハグッ！
「な、なんと白１−１！ 自分のレーンのパンが勝手に落ちてきた⁉ そしてそれをしっかりキャッチ！」
よし……、とりあえず咥えられた……！
ボムッ
「今度は煙……ッ⁉ な、なんとー！ 消えていた紫２−３！ 突如姿を現し、煙幕攻撃だー！！ その衝撃でバインドを無効化⁉ しかし……どうやらスタート付近にいた何人かは、すでにバインドの影響を受けてしまったようです！」
ケホッ……！ これ、藤堂さん……⁉
いきなり広がった濃い煙が、一瞬で視界を奪っていく。
しかも魔法まで無効化したって――？
パンはちゃんと咥えているはずだ。
あとは……このまま真っ直ぐゴールまで走り切るだけ……！
「紫２−３！ 藤堂忍！ さすが忍者の末裔、忍術で翻弄してきたー！ 断トツトップでゴール！ さー、まだまだ煙幕のせいで状況は不明！ ……おっと、白１−１！ 煙の中から飛び出して今ゴール！ 早い段階でパンを咥えられていたのが幸いしましたね！」
ケホ……ハァ、ハァ……モグモグ……。
息ができない恐怖――あの時の記憶が、まだ完全には消えてくれない。
ゴール直前、あの時の恐怖が蘇り、全身が凍りつきそうになった……。
「他の選手は依然として煙の中！ 恐らくパンの位置が掴めず苦戦しているのでしょう。バインドにかかった選手が風魔法使いだったのは、不運としか言いようがありません！ なお、他レーンのパンや糸への攻撃は禁止！ ３分以内にゴールできなければ０pt、さらに自分のレーン以外のポールを攻撃すると−10ptで失格です。選手の皆さんはご注意を！」
ハァハァ……
心臓の鼓動がなかなか収まらない……。
「いやー皇殿、見事なスタートダッシュ。それに運良く糸が切れるなんてことは……ね。何かしたんだよね。あ、拙者はそういったことは詮索しないから安心してよ」
藤堂さんは、にこやかに拍手で迎えてくれた。
「ハァ……ハァ……いや、むしろ藤堂さんの煙幕に救われました……。あれがなかったら、多分バインドを食らって動けず失格でした」
「うーん。まさか広範囲のバインドを仕掛けてくるとはねえ。いやー、拙者の運が良かった」
……あのタイミングでバインドを無効化する煙幕を放つなんて……。
デバフの発動を知らずに、あんな芸当ができるだろうか……？
しかも煙幕は《風魔法》の前では無力。
手前にいた風使いがバインドにかかったのを見計らっての行動……？
もし全部計算のうえだったのなら――。
部長が言っていたとおり、藤堂さんは本当に強い。
「３分経ってしまったー！ ３着以降はリタイア！ さすがに-10ptを恐れてか、バインドにかかっていない選手もその場で待機！ ですがこれは良い判断だと思います。無理して減点されても意味がないですからね。この場合、３着以降の点数は１・２着に割り振られます〜！」
ドドドン！
「そ、そうなのか……。なんかありがとうございます。藤堂さんのお陰で点数上がっちゃいました」
「続いて第４レース、位置について――！」
「ハハ、ホントは皇殿もリタイアさせるつもりだったんだけどね」
…………！！
「だから褒めてたんだよ」
……やっぱり、この人は優しいだけじゃない。
忍者らしい非情さも、その奥にしっかり持っている。
勝負の世界って、本来こういうものなんだよな。
「おーい！ ホッくんすげー！ 超貢献じゃーん！」
あ、如月さん……あんな遠くから……。
まったく、逆井さんといい、どうしてみんな大声で呼ぶんだよ……恥ずかしいじゃんか……。
「――クラスメイトかい？」
「はい……そうです」
「あ、あれかな。三人四脚のチームの子だね？」
「え、どうしてそれを……」
「フフ、あの一年主席のアッシュ＝モルゲンシュテルンと勝負するんだろう？ 学校中の噂だよ。部長もギャンブルの胴元になってるし……」
ま、マジか！
そんなに話がでかくなってたなんて知らなかった……。
「まあ頑張ってよ。拙者は純粋に皇殿に興味があるからね。部長とは違う意味で――」
「……興味？」
……え、どういうことだろ……。
藤堂さんは答えず、ただ微笑んだ。
その笑みが、なぜか胸の奥でざわつきを残した。
藤堂さんの「純粋に興味」発言。
……まさかアッチの趣味じゃないよね……？
俺にもわからないけどｗｗ
R6.5.5
