第6話 垂髫戴白(すいちょうたいはく)
トントン……グツグツ……ジュゥー……
凄い手さばきで料理している。
少しは手伝おうと思ったがその必要はないみたいだ。
「ではいただきます」
そう言って手を合わせた。
作法的には前世と変わんないんだな。
異世界って言っても偏に何種類も存在している。
西洋風だったり現代風だったり……。
僕も詳しいわけじゃないけどよくアンジに薦められて読んでたな……異世界モノ……。
アンジ……。
「んー。食事中じゃが話してもよいぞ。何が聞きたい?」
「あ、はい……えーと……。いきなりだとちょっと……聞きたいことが多すぎて……」
「ほっほっほ。じゃあワシから聞こうかの」
人様の家で食事するなんて久しぶりだから緊張する……。
まぁ婆さんの家に暮らすようになった時も慣れるまで時間かかったもんな。
「まずお前さん――名をなんというんじゃ?」
あ、そう言えばまだ名乗ってなかったか。
これは失礼にあたるよな……。
僕は箸を置き、改めて挨拶をした。
「申し遅れました。僕は皇……、『皇焔』と言――」
「ごっふぉ!!」
え、おじいさん……話してる途中で咽るんじゃないよ……。
うちの婆ちゃんみたいに誤嚥したかな……。
急に畏まったから驚いたかな?
……落ち着いたみたいだ。
「では改めて――。僕は『皇焔』と言います。助けて頂いてありがとうございました」
「す、すまん……まさかな……。ちょ、ちょっと……お前さんが想像以上に礼儀正しくての」
そう言ったおじいさんは僕の顔をマジマジとみてきた。
「あー、そうでしたか。ちゃんとしようと思えば出来るんですけどね」
つまりはいつもちゃんとしていないと言うこと……と僕は胸の中でこっそり自分にツッコミを入れた。
「……『焔』じゃな。えー、ワシは皆から『ケンゴウ』と言われておる。こっちの方が馴染みがあるからそう呼んでくれ」
ケンゴウ……。
『剣豪』からきてるのかな、名前の由来。
見るからに体格いいしな。
一体幾つなんだろう……。
50,60……?
生きてたら僕の親父よりちょい上くらいかな?
「焔よ。お前さんは行くところがないんじゃろ? どうせ当てもあるまいて。空き部屋がある。ここに住んでもよいぞ」
え、それは助かるー!
このじいさんはやっぱりいい人だ……。
「ありがとうございます! 何でもします!」
「今……何でもすると? ほっほっほ! こりゃ鍛えがいがありそうじゃわい」
あれ、もしかして墓穴掘った?
まぁとにかく宿無しにならなければなんでもいいさ。
「時に焔よ。お主、何故魔力もなしにいつから«火魔法»を使えるのじゃ?」
「へ……僕、魔力ねぇんす?」
いきなり言われたことが衝撃すぎて言葉遣いが変になってしまった。
「むう。ワシも魔力はないが、お前さんは毛ほども魔力を感じぬぞ」
「てことは……一生魔法は使えないってこと……?」
「そうじゃな」
そ、そんなぁ……転生した意味が……。
魔法を使えないなんて、僕はまた役立たずなのか……?
ただただ過酷な世界でやり直しさせられるってこと?
――あ、でもいじめられてた世界からは逃げられたか……。
それだけが救い……か。
「じゃ、じゃからの。ワシが聞きたかったのはいつからお前さんは«火魔法»を使えたか、なんじゃ」
「そ、それは前世の5歳くらいから火の能力が使えてましたが……。でもあんなタバコの火くらいにしかならないのは魔法って言わないですよね」
「5歳か……。ふむ、特訓次第じゃないかのお。ただ、この世界では魔力がないのに魔法が使えるパターンは今までに前例はない」
特訓次第……。
言われてみれば最初はライター程度の火力しかなかったけど、色々試してたら松明くらいにはなった。
――ってことは、この火で子供の頃に夢見た「悪い奴らをバッタバッタ」とやつけて正義の味方になることが――!
「そうだよ! この世界ならようやく僕の火の能力が活きるってことでしょ? 悪い奴らも多いはず! きっと魔王なんかもいるから、そいつらを全員やつけて――」
「あ、あのな……焔よ。熱くなってるとこ悪いんじゃが……。この世界は今、火属性モンスター『炎獣』……つまり……メラビーストしか出んのよ」
「ぽえ?」
変な声がでた。
……どういうことだろ?
「お主が転生した場所……不死山。あの山から半径80km以内は「炎天化現象」と言っての。消えぬ炎で常に燃え盛っておる。約5年前に不死山が噴火してからああいう状態になってしまったんじゃ。それからは山は赤く、木々は燃え、常に山火事状態じゃ。しかも年々その範囲が広がってっとる。それに伴って炎獣が出現……。この炎獣ってのは実際、«火属性»を得た既存の動物やモンスターたちじゃ。つまり今――火属性はいらん子なんじゃ」
「うぇー⁉」
「でも大丈夫じゃ。魔法としての火は実用的じゃし、魔法がダメならワシのように剣技で埋め合わせればいいんじゃ」
……いらん子。
前世でも転生後でもいらん子なんだね、僕は……。
「お前さん、ひょっとしてしょげてる?」
じいさんは僕を心配してくれている。
「ま、まぁしょうがないですよね、こればっかりは。人生山あり谷ありですからね……」
「ワシが……お主を鍛えてやろうかの」
え、じいさんが?
教えられるのかな……。
体格は良いんだけどちょっと疑っちゃうよな。
でも命の恩人だし、信用できるし……お願いしようか。
「じいさん、是非お願いします」
「じ、じいさん……とは……! まぁよいか。間違いではないしの。じゃあビシビシしごいてやりますわい」
こうして僕は助けてもらったじいさんの家に転がり込んで、家事手伝いの代わりに弟子入りさせてもらうことになった。