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第46話 聞風喪胆(ぶんぷうそうたん)


 家の前に着いた。



 あれからお互い感慨深くなっちゃって帰ったんだよな……。

 無言が続いても気まずいとは思わなかったけど、今にしてみれば夕日を見た後に喋ることもなくなった感じか……。


 それもそうだけどこの力のことも気になるし……魔武本ももうすぐだ。

 ――いやいや、その前に中間テストだってあるんだから……。

 やることいっぱいだ……。


 恋にかまけてる暇はあるんだろうか……。


 はぁ……。



「ただいまー……」


「ほっほ、おかえ――。なんじゃその格好は? 最近の流行りなのかの?」


「――あ! いや、これはちょっと……」


 やばっ、なんにも考えてなかった。

 ――いや、他に考えることがありすぎたんだ!

 なんて言い訳しよう……。


「あ、あのね爺ちゃん……」


「早く風呂に入ればよい。もう沸かしとるからの。全く……最近はお主の方が忙しくなってきて全然風呂を沸かさんくなったじゃろ。これじゃとワシが楽できんでのう……ブツブツ……」


 ……心の声がだだ漏れだよ、爺ちゃん。

 まぁいいか。


「――あ、そうだ爺ちゃん! 僕、ようやく火が消せるようになったからもう火の始末は大丈夫だよ!」


「おお、ほんとかぁ! いやー、これでようやっと水をぶっかけないでよくなったんじゃな!」


「あ、うん……ほんと悪かったね……」


「じゃあ風呂入っとれ。飯の支度しとくでな」


 ほんと、爺ちゃんには助けられてばっか。

 こうやって帰ってきたらお風呂もご飯もあるんだからね……。


 今まで全部自分でやってたからこそ……このありがたみがわかるよ。



「ふうーーーー……」


 湯船に浸かりながら息が漏れる。

 至福の時だ。


 ただ、漫然と時間を費やすわけにはいかない。

 今後どうすべきか、考える必要がある。

 リラックスしながらでもやるべきことをピックアップしておくか。


 まず――


ドタドタドタ……ガラッ


「ほ、焔や! お、お主……今日はどこへ行くと言っておったか⁉」


「ブッホォ! じ、爺ちゃんだっていきなり入ってくるじゃん!」


「確か隣町に行くと言うとったじゃろ……! テレビで大騒ぎしとるぞ……」


「え、どういうこと⁉」


バシャア


 つくづくゆっくりできる時間がないなと思った。



「――また、ビル火災の原因も不明であったため、現在調査中ということです。……それでは炎天化担当レポーターである古盾さん。繋がってますか?」


「はい、こちら現場の古盾です。えー……燃え広がった炎の影響でしょうか……。ビルの3階までしか確認できません。恐らく4階から上は燃えて崩れ落ちたと見えます」


 げ……昼間のがニュースになってる……!


「古盾さん。先程言った、消防車が到着する前に火は消し止められたということは事実なんでしょうか」


「えーそうですね。119番通報があったあと、到着までに十数分かかったということなんですが……もう火は消えていたということなんですね……」


「一般の方が消火したということなんでしょうか」


「えー、見てもわかる通り、4階から上が崩れ落ちるほどの大火事だったわけでして、一般人が消せるような火ではなかったということなんですね」


「では、魔法での消火が有力なんでしょうか」


「はい、そうなんですが……。«水魔法»ならば消し止めた後に大量の水が残るはずなんですね。それもなかったということでして。専門家によれば、『魔法での消火は考えにくい』ということなんです」


「«水魔法»ではない……。では転移魔法という線はどうでしょう。例えば……『火を別の場所に移した』――と考えられないでしょうか?」


「そもそもですね。火を消火できるような魔法を使った形跡がないんですよ。建物内の階段には風の魔法痕だけでしたし、火だけがそっくり消えていると言った印象も受けます。唯一、建物の外に……ですね、駆けつけた一般の人のでしょうか。«氷魔法»を使った形跡があります。今も薄っすらと氷が張っているように見えますね。溶けて濡れている感じです」


「古盾さん。目撃者情報などはありますでしょうか」


「はい、実際にビルの6階にいた少女の父親がインタビューを受けてくれました。こちらはその時の映像です」


 ……なんか大事おおごとになってるけど……。

 なんも悪いことしてないのになんでビクビクしてるんだ……。

 爺ちゃんも真剣に見ている。



「……そうです。娘がプレイルームで遊んでいたのもありますが、6階のトイレに行ってたんですね。そしたら警報機が鳴って……。すぐに店に戻ったんですが、店員さんが『みなさん避難しました』って言うからてっきり誰かが連れて行ってくれたのかと思って……外に出てしまったんですよ。でも探しても外にいなくて……。妻は買い物中だったんでそっちに行ってるはずない……どうしようって。そしたら学生さんでしょうかね……男女の学生さんが6階から娘を抱えて飛び降りたんです。その瞬間、ビルは崩れて……。もう……間一髪でした。多分、助けてくれてなかったら……考えたくもないです。ちゃんとお礼を言おうと思ったんですけどすぐいなくなってしまって……。この場をお借りしてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。娘の命の恩人です」



「――インタビューを受けてくれた男性はこのように語っておりました。現場からは以上です」


「古盾さん、ありがとうございました。――はい。こういうことらしいんですが……。今日は専門家の先生に来ていただいております。魔法学研究の第一人者である逆井平八郎先生です」


「こんばんは」


 逆井……って名字……まさか部長の……?

 あり得る話だよな……魔法の研究者だし。

 でも普通の教授っぽい見た目……だし……。


「先生。今回の火災の件、どうみてますでしょうか」


「これはちょっとやそっとじゃ解決できん問題や思います」


 この訛り……!

 絶対そうだ、そっくり!!


 そう考えるとほんと、魔武イチってとんでもない人たちの集まりだよ……。

 肩身狭い……。


「今回の火災の原因は調査中っちゅうことやったんですが、〝何が問題か″に着目する必要があるんですわ」


「と、言いますと……」


「スプラッシャーが作動してるんにも関わらず、コレだけの大火災が起きるっちゅうことがですわ」


「スプラッシャーというのは«水»の永続魔法がかかったスプリンクラー……という認識でいいですね」


「作動しても火災が止まらんでスプラッシャー自体が溶けてしもたと……。このビル自体、老朽化してたん問題あるんかと思うんやけど、許可証なんかも★4で出されてたって聞いて驚きましたわ。耐久評価も高かったちゅうことです。それやのに5階と6階が崩れるなんていうんはもう……人災としか思えんのですわ」


「はい、ここで確認です。詳しく説明しますと、このビルの建設は今から40年前だったんですが、近年の魔導発現から数年……。魔法による補強や修繕は行われていて、耐久許可証の★4が認定されていたということなんです」


 少し眠くなってきた……。


「これはどういうことかと言いますと……はいこちら。★4と認定なしの建物の違いです。まず認定なしだと震度6強の揺れが直に影響を及ぼすのですが、★4認定の建物だと体感を震度1以下に抑えらるんです。耐火性という面でも★4であれば本来は1000度の熱や炎まで耐えられるということなんですが。――今回の件、人災というのはどういうことなんでしょうか」


「そのまんまやがな。放火や、放火。しかも純正スプラッシャーが溶けるほどの高火力な«火魔法»の使い手や思うとります」


「ですが、魔法痕もないとなると……放火自体、魔法じゃないのではないですか?」


「む……、むうう。せ、せやなぁ……」


「はい、先生ありがとうございました。幸いこの事故での死者はでていないということです。では一旦CMです」



 よ、よかったぁ……。

 ホッとしたよー。

 死人を出さずに済んだ……。



「焔や、まさかお主……、放火犯じゃ……」


「え、何言って⁉ そんなことするはずないじゃん!」


「今のお主ならできるじゃろ……。魔法痕もないってことは……」


「爺ちゃん、怒るよ!」


「す、すまん……。お主が隣町に行ったって言うのを知ってたんで、何か知ってるんじゃないかってワシも興奮してての……。あんなに焼け焦げた洋服を着とったからの……」


「……知ってるも何も。あの父親の娘さんは僕らが助けたんだよ……」


「ほ……本当か焔よ! いやー、良かったのう!」


「全く、手のひら返すんだから……」



 安心したのか少し目が潤んでいる。

 ……本気で疑ってたんだろうか。



 しかしこの火災、一体なにが原因だったんだろ。

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