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第43話 燃火之急 (ねんびのきゅう)前編

 今日は3人で魔武本の三人四脚について作戦会議をする日である。



 そんなわけで隣町にあるおあつらえ向きな河川敷まで来ているのだが……。


「はい、教官の如月です。今日集まってもらったのは他でもありません」


 随分、口調の優しい教官だなー。


「ここまできたら絶対にアシモやクラスのみんなをギャフンと言わせます。いいですかー?」


 如月さんが仕切っている。

 魔法が使えなくてちょっと引き腰になってたと思ったんだけど大丈夫そうだね。


「――やる」


 おお、凍上さんもマジそうだ……。

 これはやらないと。


「じゃあ早速。脱いで」


 ……へ?

 何を言ってんのこの子は……。


「ほらハナちゃん! ホッくんも! それぞれがどれだけ走れるか見るんだから、本気ガチでやんないとわかんないよ!」


 そう言うと、如月さんは脱ぎ始めた。

 は、破廉恥少女!?


 ――と言っても下には陸上部っぽい格好をしていた。

 なんだ、当たり前か。


 ギャルっぽい見た目だからこういうのは案外適当なのかと思ったけど、本当の意味の〝適当〟なんだろうな。

 力の抜きどころをわかってる。

 それでいて締めるところは締める。

 いいメリハリだね。


バサッ……


 そうこうしているうちに凍上さんも脱いでいた。


 僕だけ……か?

 この状況でまだ自分の立場がわかってないのは……。

 ――いや、わかってはいるんだ……わかってはいるんだけど……。

 まだ何て言うか……実感が湧いていないというか何というか。


「ハナちゃん……知ってはいたけど……ボインボインじゃん……ボインちゃんじゃ――」


「あ、あだ名にするのはやめて!」


「え、バレた? ごめんごめんw」


 そう言われてつい凍上さんの胸を見てしまった。

 見るつもり無かったのに言葉に釣られてガン見してしまった。


 っわぁ……!


 お、おっきい……。

 ドキドキがとまらない。

 見ないようにしないと。

 でも好きな子の全てを見てみたい気がする。

 ヤバい、自分今どんな顔をしてるんだろ。

 こんなんじゃ顔が見られ――。


「あ……」


 凍上さんと目があってしまった。

 ……気まずい!!


 顔を見ないようにしてたのにそういう時に限って意識しすぎて見てしまう。


「あの、皇くん……そんなに……」


「んー、いいねぇ! 青春だねぇ……。ホッくんはまだまだ青いねぇ……」


 いじられる。

 照れくさい。


「よしっ、それじゃまぁやってこ! まずお互いの走りを見せよっ」


 この切り替えの早さ、さすがとしか。


「んじゃあたしから走るねぃ」


 そういってクラウチングポーズを取ったと思ったらすぐに走り出した。


 …………⁉

 は、速い!

 軽い柔軟から、アップもしてないのにめちゃくちゃ速い。

 この前見たの――あれがMAXじゃなかったのか!


「……確かに速い」


 凍上さんもそうつぶやくほどだ。


 如月さんは河川敷の途中にある1本の時計灯にタッチしてあっという間に戻ってきた。


「ふぅーっ、と。こんな感じ」


 200メートルはあったろうに全然息も切れてない。

 長距離選手とはいえ、あれだけのスピードで走ったら少しは疲れそうなんだけども。


「次はどっち? ホッくん? ハナちゃん?」


「私が行く。魔法を使ってもいいんだよね?」


「もちろん! 体育祭を想定してのことだし自分がやれる最大限、思いっきりやっちゃってよ!」


 軽くコクンと頷くと凍上さんはMAを展開し、体を動かしはじめた。


 小さくてこんなに可愛らしい子なのに、いつもこの子を見ると頼りたいと思うのはなぜだろう。

 本来なら男がひっぱっていくってのが普通……って思うんだけど。

 恥ずかしげもなく、この子には甘えたいとかそう思ってしまう。

 僕はこの子によって、それだけの安心感が得られるんだ。


「そ……それじゃあ行きます///」


 あれ、まだ準備運動の途中なのに。

 凍上さんも走りたくてうずうずしてるのかな。


 走る前に彼女の足元から魔法陣が描かれる。


 魔法陣が描かれたのを確認し、地面をつま先でトンと叩いた瞬間、さきほどの時計灯までの道に氷のカーペットが敷かれた。


「…………! これは!」


「すごい……スケートリンクみたい……」


 敷きめられた氷を確認すると凍上さんは走り出した……というより滑り始めた。


ドペッ……


 そして3mいくかいかないかくらいで彼女は盛大にすっ転んだ。


「「ええーっ!!」」


 如月さんとハモる。

 転んでしまった凍上さんは座ったままこっちを見てきた。


「私、スケート初めてだった」


 地面に敷いた氷を滑るということは初の試みだったらしい。

 だとしたら意外とチャレンジャーなのかも。


「は、発想はよかったよね、うん。あれなら普通に走るより速いと思うし――」


「そ、そうだね。練習したら絶対速いんじゃないかな!」


「……もっと滑りやすいように綺麗な氷を張る。だけど素人の私たちがスケートで勝負するのはやっぱりリスクがあるか……」


 凍上さんはもう先のことを考えている。


「――課題はあるってことね。じゃあ最後、ホッくん! フルパワーで走っちゃって!」


 ゴクリ……僕の番か……。


 1人で走る限定ならば、後方に衝撃のある火を出しまくった反動でスピードがあがるんじゃないかってのは考えていた。


 でもコレはあくまで1人での話。

 三人四脚で僕だけが衝撃で走っても2人を置いていってしまうだけだ。


 ……待てよ……?

 そしたら3人とも火を出せれば……?


 ……いやいや、何考えてるんだ。

 それに今は1人で走る状況、考えるなら後にしよう。


「よし、いくね……」


 心の中で「ヨーイドン」と声をかけ、両手を後ろにして走り出す。


 掌から衝撃を交互に繰り返して前へと突き進む。


ボッボッボッボッ……


 腕を振らない代わりに火の衝撃を推進力とする。


 この数十メートルを走っててわかったけど衝撃を出すとその分、体のバランスを崩しやすいため体幹が必要だ。


 時計灯をタッチして切り返す。

 切り返す時も爆発の衝撃を利用し、半回転。


ドゴン! バキッ……


 「腕を振るより、火の衝撃の方が速いかも」というアイデアをその場で考えて実践してるもんだからどうなるかはわからない。


 そういった点では凍上さんと僕は似てるのかも。

 本番に強い……というか実践型というか。


 でも行きより帰りのほうが断然速い気がする。

 この100mでコツを掴んだんだろうか。


 戻ってきた2人は揃って真っ青になっている。


「ハァハァ……。へへ……こんな感じ――」


「ホ、ホッくん……あれはやばいんじゃ……」


「皇くん……やりすぎ」


「はは……そんなに良い走りを見せられた?」


「いや……あれ……」


 2人が焦って指をさしている方を向くと――。


 時計灯が折れている。

 半回転のタイミングで爆発させたからそこから焼け焦げて折れてしまったようだ。


「え、げ! あれ、僕のせい……? べ、弁償しないとまずい⁉」


「あれ、ここのモニュメントだから……」


 ちーん……。





「――あの、近すぎません……?」


 窓際のカウンターは2人掛けだったが、どの席も埋まっていたため詰めて座らないといけなかった。


「え、だってどこも空いてないじゃん? 別にいいでしょ、同じ班のよしみなんだしっ……いただきー!」


 そういいながら僕が頼んだ5個しか入ってないチキンナゲットの1つを持っていかれた。


 今は河川敷から移動して、駅前の『マッテリア』というハンバーガー屋さんに来ていた。

 恥ずかしいのは、三人四脚と同じように僕は二人の真ん中に挟まれていること……。

 それも2人掛けを無理やり3人で座るというごり押し感……。


 凍上さんは如月さんの勢いに圧倒されているのかあまり喋っていない。


「ホッくんはさ、中等部ん時に何か部活やってたの?」


「うん。一応サッカーやってたよ。レギュラーになったことないけど……」


 そう聞かれた時って必ず「レギュラーになったことない」って言うんだよね自分。

 「期待させないために先手を打ってる」的な。

 それか、そうやって言うことで前もって言い訳をしてるか……。


「え、そうなの? 見事な走りだったけど……。なるほどね、サッカーか。――ハナちゃんは何か部活やってた?」


「ノーマルのバスケ部だった」


「お! やっぱうちらやれんじゃない? ベース・ベストじゃん! ホッくんの爆発はちょっと危なかったけどネ。でもほら、ボアとかガーディアンの時みたいにさ、3人の時でもその力で支援とかってできない?」


 サポート……。

 確かにあの時は僕の機転で危機を脱した。

 でも今回は対人だし、ちょっと難しい気はする……。


「えーと……、さっきのは火を爆発させた衝撃で推進力を得てたんだけど……。フレイルボアから参考にしたんだけどね。3人で走った時に今の僕がやれるとしたら、足から火を出して勢いよく蹴り出すくらいしか……」


「ふーん、いいじゃん。勢い良いほうがいいじゃん。勢い大事……じゃーん!」


 そう言いながらまたナゲットをもってかれた。

 よく食べるね、この子は。

 まぁ話しかけられるのは楽だけどね。

 こっちから話しかけて無視されてもやだし……。


「他に良い案があったらまた言って」


 凍上さんは落ち着いてこちらを見ている。


 ハァ……そんな凍上さんも可愛いなぁ……お胸もあったし……。


 ハッ、しまった……もしかして心を読まれて――!

 いや、MAを展開してないから大丈夫だよね。


ジロー……


 目を合わせた時からジト目で見られている。

 ……何故?

 もしかして目を合わせると心が読めるってのは今でも……?


コクリ


 凍上さんは如月さんに気づかれない程度で頷く。


 そ、そうだったの……ご、ごめん……。

 心の中で謝罪をする。


 こんな変なことばっかり考えてたらほんとに嫌われるよな……。


「んーっ……そろそろ帰る? ――あたし夕方から用事あるからあとは2人でよろしくやってよ……プフフ」


 如月さんがニヤニヤしながら帰ろうと準備をし始めた。


「ちょ、ちょっと如月さん! 何を言って……」


 慌てて弁解しようとしたその時――!


ドゴオオオン!


 地鳴りのような音が近くから聞こえてきた。

 今の音で店の窓ガラスが振動している。


「な、なに今の音……⁉」


 いきなりの爆音に耳を押さえたのは僕だけじゃなかった。


「何かが爆発したような音が……」


「かなり近かった、早く行こ!」


 そう言って準備をしていた手を早めて如月さんはすぐに走り出した。


 僕らも行こう!


「ええ!」

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