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第40話 一葉知秋 (いちようちしゅう)前編

 僕は部室へ向かう間もずっと悩んでいた。

 ――大騒動にまで発展した先程のやりとり。

 同じクラスなのに何故か争うことになって……。

 凍上さんと如月さんの権利(?)を賭けるとか意味がわからないことにまで……。


 ……はぁ、負けたらどうなるんだろ。

 さすがに2人共3班に移動させる――って意味じゃないよね?

 まあそれは先生が許さないだろう、きっと……。


 なんでアッシュくんはあんなよくわからない賭けを――。

 とりあえず部活へ行こう。



コンコンコン


「お疲れ様ですー」


 そう言いながら部室の扉を開けた。


コンッ


「いてっ!」


 な、なんだ!?

 上からなんか硬いものが降ってきたぞ……。


「――黒板消し? なんでこんなレトロなものが?」


 魔法が主流となったこの世界で黒板消しは必要なくなったはずなんだが……なんで今更……?


「にひひ! 藤堂、ウチの勝ちや! 5枚貰うで!」


 部長……そんなにふんぞり返って何を……?


「ぐぬぬ……! あ、皇殿。久しぶりだね。元気だったかな? ――あ、ごめんね……こんなワナ、仕掛けちゃって……」


 そう言って藤堂さんは黒板消しを指さした。


「え、えと……」


「時々、部長のギャンブルにつき合わされるんだよ……。今回は『皇殿がこの仕掛けに気づくのか、それともかかってしまうか』っていうので……。もちろん拙者は気づく方に賭けたよ。そう願って――」


「そんな願望だけじゃ食っていかれへんのや藤堂。馬でもパチンコでも皆、当たれ当たれと願っとるわけやがそれで当たれば苦労せぇへん。必要なのは勘やねんな。匂いやねんな。たかが祈りだけで物事うまくいくわけありゃしまへん」


 僕はそんなギャンブルの馬だったってわけか……。

 ここでも賭けの対象にされるとか……。


「――すまない、皇殿。こんな古いものまで用意して……」


 そう言って黒板消しを拾う。


「言うても大事なのは形からやで。形式を大事にせな、何も始まらんのや」


 わざわざこんなドッキリをするために黒板消しを仕入れたのか……。

 ……扉の上を見ると、小さいモヤが見える。


「もしかしてこれ、魔法で……?」


「そうなんだよ。わざわざ【ブラウンゲート】を永続魔法にして扉のレール上に設置したんだ。扉を開ければゲートが開いてセットしてあった黒板消しが落ちる……って仕組み。こんなくだらないことに転移魔法を使うなんてどうかして――」


「ド・ウ・カ・シ・テ・ル……ッテドウイウコトカナー、トウドウクン?」


「あ、いやー……ど、どうかして――扉の色とゲートの色が一緒で『同化してるー』……って……」


「ホー、なるほどの。色が一緒だったからバレにくかったっちゅうこっちゃな!」


「ふぅぅぅー……」


 ――藤堂さんは毎回こんな大変な思いをしてるのか。

 不憫だ……。


「皇はん。ギャンブルはのう……ヒリつく勝負じゃなきゃオモロないんよ。今回にしても、皇はんが()()()()()いう保証はなかったんや。……ウチらに対してちょい警戒しとるのも気づいておったし。注意深ーく部室に入ってきよる可能性もあったんやから。校外学習後っちゅうことも影響してくるさかい、正直読めんかったで?」


「――それでも部長は僕が引っかかる方に賭けた……ってことですよね」


「いや、先に藤堂に選ばせたんやけど、低倍率の方に手堅く張るとはのぅ! あんなナリして藤堂も堅実タイプやったっちゅうことや」


 ってことは、少なくとも部長は「引っかからない確率」の方が高いと考えてくれてたのか。

 それはそれで期待に答えられなかったって意味にもなる。


「――で、何を賭けてたんですか?」


「金やあらへんで! ()()()()学食券5枚分や! 2500円相当や! にひひ」


 ……結局お金に直結してますけど。


 丁度、自分に〝ビリオンホース〟とかいう称号をつけられた状態だからな……。

 ギャンブル怖い。


 ただでさえ〖アカシックライブラリ〗のこと、巌くんと如月さんの無魔状態のこと、魔武本でアッシュくんとの真剣勝負――などなど問題山積みなのに……。



「――皇殿。なんか思いつめてるね。黒板消しどうこうの話じゃなさそうだけど……。よかったら話してみてよ」


 うおっ、藤堂さんも読心術バリに察しが良い人だった⁉

 ――というよりもやっぱり僕がわかりやすいってだけ?


「なんやー? 皇はん。悩みでもあるんか? ウチに話してみ。オネーサンが優しーく聞いたるさかい。あ、でも恋の悩みはあかんで? まだウチとうてからそないに経っとらんからの。焦らんでじっくりと――」


「部長はちょっとシーっ! 皇殿、まずは座ったらいい」


「なんやもう……」


 促されるまま、椅子に座って話すことにした。



「先輩方に聞いてほしいことは何個かあるんですけど……。まず、校外学習でのことなんです。僕らの班が呪界散策中に……〖希少点穴〗に落ちまし――」


「キタで早速!! ほれみい藤堂! ウチの勘!! コレやコレ!!」


「……まぁ、すごい……読みですけどね……」


 ん……?

 な、なんだ……どういうことだろ?


「え、何がですか……?」


「いや、なんにもあらへんでぇ! アハハ……」


「読み――ってどういうことですか?」


「なんもあらへんて!! ――それでどないしたんや? 落っこった後や。どのテーブルやったんか……。〖宝珠神殿〗〖宝物庫〗〖輝石鉱山〗〖アカシック――〗」


「それです、〖アカシックライブラリ〗でした」


「――ウチ……マジすごない?」


「さすがです、部長」


 2人とも顔を見合わせている。

 さっきとは一転、真面目な顔つきになって。


「ほな単刀直入に聞くで? 〝本〟は手にしたんか?」


「は――」


「イエ〜ァ!! 藤堂!! 今日は祝杯やーっ!!」


「バンザイ! バンザイ!」


 …………⁉

 まだ「は」しか言ってないのに……。

 藤堂さんまで大興奮してるけど……何がどうなったの⁉


「1人でじゃないですよ! 校外学習の班員で――」


「そりゃわかってるわ! そうやないんや」


「いやー、凄い……。まさかここまで筋書き通りだと」


「え……⁉」


「あっ……、言い方が悪かったね。――あのね、実は拙者達も〖アカシックライブラリ〗を踏破してるんだ」


「え!! そうなんですか⁉」


 なんと!!

 もしかして楠先生が「逆井さんの論文」とか言ってたのもそれが関係してる?


「まぁ正確にはもう1人おったんやけどな。ソイツは……◯◯(ゴニョゴニョ)してしもうたんやけども」


「――そこだけはあまり思い出したくないですけどね」


「ま、それはどーでもええわ。ウチらともう1人でライブラリ到達してんのやけど。魔法研究部としてはどーしても情報が足りんねんな。ウチらの近くでライブラリ到達しよったんは学長くらいやったし。――それがホントかどうかもわからへんのやけど」


「校長――」


 僕が聞いたのは校長が回復・蘇生魔法を使えることを公言しないこと――。

 〖アカシックライブラリ〗を踏破したって知られたら感づく人もいるかもしれない。

 これに関しては何も言わない方がいいか……。

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