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第39話 不破頼動(ふわらいどう)

 翌日、学校に着くとクラス中が盛り上がっている。


 どうやら体育祭が前倒しになって中間試験のすぐ後に行われるということだ。

 週末の職員会議で決まったらしい。


 今年の夏は100年ぶりの暑さになると予想されている。

 そのため、炎天化の影響で暑くなる前に行ってしまおうという話だ。



 体育祭――通称、〝魔武本〟と言われている。

 由来は知らない……。


 しかも体育祭は三学年4クラスの合計12チーム対抗で行われるらしい。

 紅白の二色にとどまらない。


 学年が違うと力の差は大いにあるのだが、「魔法を駆使すれば差は埋められる」といった学校側の方針だ。

 一年が勝つこともあれば三年が負けることだって十分にあり得るらしいけど――。


 その1、2年の差がどれだけ大きいか……。

 身を持って知らせる思惑なのか、力の差を見せつけてそれをバネにさせる考えでもあるのか。



「俺はパン食い競争にでるぜ!」

「私はリレー!」


 うーん、賑わっている……。


 するとアッシュくんが口を開いた。


「例年通り、体育祭は締めの競技である騎馬戦と三人四脚に点数の重きをおいているとのことである。私がこの2種目に出場すれば優勝は造作もないこと。任せておいてくれたまえ」


「「「ウヒョ〜!」」」


 うーん、すごい自信だ。

 アッシュ=モルゲンシュテルンは初代英雄PTメンバーの孫……。

 ――例の一件以来、話をしてないけど……。


 あの強さ含め、あれだけ自信があるのは羨ましいな。

 僕にはそんな感覚、一生味わうことはないんだろうけど。


 遠目で彼を見ていたら目があった。

 すると彼はこちらに近づいてきた……!


「皇くん、大丈夫だ。自信ないだろうが私がいれば勝てる。大船に乗った気持ちでいたまえ」


「――あ、うん……」


 怖かった……けど普通だった……。

 あの路地裏でのやり取りが嘘のように思える。


 彼は最後にニヤリと笑って再び取り巻きへ視線を戻した。



 すると入れ替わるように如月さんがやってきて目の前の席に勝手に座って話しかけてきた。


「ホッくん! 1種目も決めてないのあたしらとハナちゃんだけだよ!」


「え、凍上さんもそうだったの?」


「好きな人のそういうとこ見てないのか君は!w」


「え゛⁉ なんで好きってわかったの⁉」


 如月さんも、もしかして心を読む能力があるのか⁉

 なんだ、この世界は――心を読むのが流行ってるのか!



 恐る恐る如月さんを見ると……ニヤニヤしている。


 ――あ、しまった、やられた。


「あー違うから! 残念ながらカマをかけたわけじゃないからね? あたしほら、よく気づく子だからさ。――ってそんなのはいいんだよ。でも気をつけなよ? アシモも多分、狙ってるからさ」


 や、やっぱり!

 主席でイケメンの彼に言い寄られたらイチコロだろう。

 諦めたほうがいいか……。


「あ、そんでね、何を言いに来たかっていうと――。三人四脚やってみない? あたしとホッくんとハナちゃんで」


「え、えええ⁉ 3人で⁉」


 突拍子もなさすぎて驚いた。

 本気で言っているのだろうか。


「そうだよ。ほら、三人四脚は責任が重すぎてもう1チームは決まってないしさ。どっちにしろ1人2種目はやんないといけないわけだし。――まぁあたしが魔法使えないのがネックなんだけど……。中学まで陸上やってたから足の速さは大丈夫! ヨユー!」


 そういう問題じゃない気もするけど……。

 ――って、ギャルなのに陸上部だったの⁉


「ほら、ちょうどハナちゃんいるから話してみる!」


 な……どんどん話が進んでいってしまう。


「ハナちゃー! まだ何やるか決まってないでしょ? あたしらと一緒に三人四脚やらなーい?」


 凍上さんは如月さん越しに僕を見た。


 ――あ!


 昨日あの後、連絡しようと思ってたの……凍上さんの顔を見て今思い出した!!

 巌くんの事で感傷的になっちゃっててすっかり忘れてた……。


「…………。いいですよ」


 え、いいんだ⁉


「はい! じゃあ決まりね。まぁ魔法使えないせいで2人に迷惑かけるかもしれないけど――。こうみえてあたし足だけは速いから! ホントは長距離走向きだから瞬発力ないんだけどね。2人がいるなら頑張れるかもしんない! 早速登録してくる! 2人とも、もう1種目も考えておきなよ~!」


 ――トントン拍子すぎてついていけない。


 凍上さんは本当によかったんだろうか。

 チラッと彼女の方を見ると、大きく頷いた。


 あ、心を読んでるのか……。


「昨日ごめん、連絡し――」


 言い訳をしようとしたら手で制してきた。


 ――あ、そっか全部わかってるのか。

 ほんと変なこと考えられないな……。


 ちょっとでも変なこと考えたら……。

 って、これも聞かれてるんだった。


 恥ずかしい!


「大丈夫……わかってるから――」


 …………。


「私から話しておきたいことがあって。話せる時でいいから。時間ある時に――」


 うん、わかったよ。

 と、心の中でやりとりする。



「皇くーん、聞いたよー」


 大きい声が響く。

 そう言いながらアッシュくんは如月さんのように僕の前の席へ座って話しかけてきた。


「――君、三人四脚に出るって? いやはや。さすがに無茶なことはしない方がいいと思って忠告にきたんだ」


 笑っているアッシュくんの目の奥底はとても冷え切っていた。

 忠告と言うよりも警告に近いのでは――と思ってしまうほどであった。


「周りの人もそう思っているよ。ビリになってクラスの点数にならないのは困る――」


 主席がそう言うんだから仕方ない。

 辞退しようとしたその時――


「待ちなアシモ」


 颯爽とやってきた如月さんは少し怒っていた。


「なんでわざわざホッくんに言いに来るのさ。あたしに直接言えばいいじゃん」


「如月くん。いや、一応確認のためだよ」


 なんかこの2人も馬が合わなそう……。


「――で何? 負けると思ったから辞退させようってこと?」


「いやいや……だから確認しようと思ってただけさ。なあ皇くん――」


「……う……うん」


 どう答えたらいいんだ……!

 なんか2人して一触即発なんだけども……。


「それ、わざわざホッくんに言う必要ある? あからさまじゃんか」


「――如月くん。そこまで言うのならやってもいいけど、それで3位以内に入れなかったらどうなるか見ものだよ? 賭ける覚悟はあるのかい?」


「よーし、賭けてやろうじゃん。アシモは何が望みなん?」


「じゃあ皇くん。華々くんと如月くん、2人の〝権利〟を私に渡す――というのはどうだい?」


「……え? ……権利ってどういうこと? 僕にそんなの決められるわけ――」


 何が望みか聞かれてそれを即答するってどういうことなの……。


「何それ? そんなの賭けの対象にならないじゃん。どういう意味かよくわかんないけど受けて立つ!」


「ちょ……、如月さん⁉」


「ホッくん、やったんな。絶対負けない。少なくとも私らはそう信じてる。な、ハナちゃん」


「私もそれでいい――」


「ちょ、ちょっと、2人とも……! なんでそんなことに――」


 凍上さんもいきなり加勢しちゃってるし……。

 どうなっちゃうんだこの状況……。


「ほほう――。そこまで言うなら、私にも勝てるということでいいんだね? 私のチームに勝てなかったら、その時は負けってことでいいかな?」


 え……なんだって?

 他のチームに勝つだけじゃなく、アッシュくんのチームにも勝たなきゃいけないってこと?

 ――ってことは三人四脚で実質、1位をとるしかないってことじゃんか!


「ガツンと言ったんな。たまには格好つけてみなよ」


 この異様なやり取りに周りもざわざわし始めている。



「おっ! いいぞすめらぎー! 命知らず!」

「こういうのなんていうんだっけ、勇猛果敢? 無謀?」

「アッシュ様に勝てるわけないじゃない」

「文華……、なんでそんな無魔なんかに――」



「みんな何も知らないくせに……。ホッくん、ここやらなきゃ男がすたるよ」


 もう僕もあとには引けなくなっていた。

 頭の中がパニックになって焦っていた。


「アッシュくん、わ、わかった……。勝たせても……もらうよ――」


ウヒョオオオ!


 歓声にも驚嘆にも罵声にも聞こえるざわめきが起こる。

 クラスメイトの前で大々的に宣戦布告をしてしまった。

 膝はガクガク震え、心臓の鼓動がバクバクと音を出して鼓動していた。


 ――なんてことをしてしまったんだ……。

 言ったそばからすぐ後悔をする。


「――ではここにいるみんなが証人だ。大会当日を楽しみにしているよ」


 そう言ってアッシュくんは教室を出ていってしまった。


「ちょっと、文華! なんでそんな無魔なんか……。どう考えてもアッシュ様の圧勝でしょ?」

「どうしちゃった? 興奮が足りなくてヒリつきたいの?」

「わかった、皇に弱みでも握られたんでしょ!」


 ――みんな言いたい放題だ。


「文華……。あみのいない間に変わったわね。この勝負、オッズでいったらアッシュ様は等倍、皇くんはビリオンホースよ」


「アミ子。それ、なんの話? ビリオンホースってなに?」


「――競馬よ。お父様の嗜みでよく魔法競馬に顔をだすんだけど、100円買うと1万の払い戻しがある万馬券。100円で10億の払い戻しがあるビリオンホースってのがあるのよ」


「つまり――どゆこと?」


「皇くんが勝つことはありえないってこと!」


「――あ、そういう意味ね。なんでそんな回りくどい言い方を……」


「ちょ、ちょうど昨日お父様のお得意様と競馬場に行ったから……。そ、それにビリオンホースなんて未だかつて配当されたことなんかないんだからね!」


 体調よくないとか言いながら家の行事には行ってるのか!

 全く……心配して損した……。


「なるほど。確かに無魔のホッくん、かたや英雄の孫のアシモ。差が明確なのは事実だね」


 ……そうだね、僕もそう思うよ――。


「――でもこれは個人競技じゃない。わたしらもいる」


 そう言って如月さんは凍上さんの肩を抱き寄せた。


「え、あ――凍上さんもメンバーなの?」

「あ、そうなんだ……」

「これは楽しみだ! ヒヒー!w」


 …………。

 収集つかない……。


ガラッ


「はいー、もうじき予鈴よれい鳴るわよー。あらかた決まったかしら? 決まってない人は放課後までに決めといてね」


 楠先生が唐突に入ってきた。

 ナイスタイミングすぎるよ、先生……。


 周りのクラスメイトはサッと自身の席へ戻る。

 相変わらずみんな、規律は守るよな……。


 ……とにかく、もう後戻りできない。

 吐いた唾は飲めない。

 やるしかない……。


 ――中間試験まであと30日。

 中間試験が終わってから1週間後に体育祭。

 猛特訓しないと……だね。

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