第31話 絶対絶命(ぜったいぜつめい)
*
「痛ったー……。み、みんな大丈夫⁉」
「俺は大丈夫だ」
僕らは呪界散策中、突然深い穴に落ちてしまった。
もう少しでゴールだった――はずだった。
みんなの声がするから無事なんだろうけど辺りが暗くて良く分からない。
ぷに……ぷに……
「うん、こっちもだいじょう――ぷに?」
「あっ……」
あろうことか、僕は凍上さんを下敷きにしてしまい、気づけば体にしがみついていた。
「ご、ごめんなさい!!」
すぐに謝ったけど凍上さんは黙って後ろを向いてしまった。
やってしまった――。
何を触ったかはわからないけど、ラッキースケベなんて自分に起こるハズがないと思って警戒してなかった……。
嫌われなきゃいいけど……。
「――おい、見てみろ」
巌くんが張り上げた声は辺り一面に響いた。
穴の先は禍々しい雰囲気に包まれている。
僕たちは高難度のルートを選んだ訳ではない。
安全にクリアできる――予定だった。
それなのにこの状況は……。
「ねえ……。なにここ……怖いんですけど」
開けた場所に一番近かった如月さんは、そう言うと後ずさりする。
目を凝らすと祠の奥には銅像が1体、堂々と鎮座している。
だが銅像と言うには違和感がある。
――大きすぎるのだ。
5m以上はあるだろうか。
嫌な予感がしてくる。
背中に冷や汗がつたっている。
「――私達は恐らく〖希少点穴〗に落ちたみたいですね」
「きしょうてんけつ……? なにそれ、あたしらどうなっちゃうの?」
「それは――」
「来るぞ……、気をつけろ!」
ゴゴゴゴ…………
巌くんの声から数秒後、地面が揺れだす。
祠の奥にいた銅像にヒビが入って動き出し、ゆっくりと立ち上がった。
「なんかまたヤバい状況に……」
この状況に誰も余裕で構える人などいないだろう。
「うちらって持ってる? 誰? あたし? 巌くん? 皇くん?」
「――そんなこと言ってる場合じゃない。フレイルボアよりも数倍強いぞ」
はっ、もしかしてこいつは……!
ここが〖希少点穴〗なら――爺ちゃんが言ってた、あの……なんとかガーディアン⁉
もしそれが本当ならマジでヤバいことになる……。
確か一人仲間を失ったって――。
物理攻撃が無効化されるとも言ってたな……。
しかもあの爺ちゃんが転移硝石で逃げたんだぞ……⁉
「このガーディアンは物理攻撃が効かないらしいから気をつけて!」
それだけ言うのが精一杯だった。
全員死ぬかもしれないとはさすがに言えない。
「はぁぁ……【ビスターキャノン】!」
巌くんは相手から攻撃される前に先制の岩を放つ。
ガラガラガラ……
だが一瞬で破壊された。
全員で一斉にかからないと有効ではないと考え、みな構える。
「行きます! 【フローズンロード】!」
凍上さんが足元を凍らせ動けなくするが、その程度の氷はすぐに破壊される。
「フレイルボアより強いんじゃ……あたしの風魔法なんて無理じゃない……」
如月さんは動けず立ち竦くんでいる。
「《血防衝》!」
巌くんは自分の周囲に防御壁を張っている。
ガーディアンをよく見ると、岩を掴む時に手の色を青に変えて壊している。
足元の氷に対しても、足全体が赤くなることで氷をすぐ溶かしているようにも見える。
するとガーディアンはゆっくりと口を開けた。
「な、なにを――!」
ビビッ……ブシュウ……
光線のようなものが巌くんを貫いた。
防御壁のお陰でダメージを軽減したように見えたが……。
「ぐ……」
しかしあたったところから血が吹き出している。
やはり今のは岩でも完全に防げるようなものじゃなかったんだ……。
むしろ防御していなかったらと思うとゾッとする。
「巌くん、大丈夫⁉」
「あ、ああ……」
「ひどい出血……。巌さん、ちょっと冷たいかもしれないけど……【アイシクルヒーリング】」
「……すまん、凍上」
出血部を凍らせて止血……、凄い!
「こ、こうなったら……あたしだってやれる!」
耳のピアスに力を入れると棒が現れる。
その棒を回転させて風を呼び込んだ。
「【ウインドライオット】!【ストームパトリオット】!」
だがガーディアンの手が茶色に変わり、風を全て弾き返した。
「きゃあ!!」
ダンッ……
如月さんは飛ばされて壁に激突した。
「如月さん! 大丈夫⁉」
「だ、大丈夫……ぶつかる前に風で軽減したから……」
「これは……どうしたら……」
僕はみんなの心配をすることしか出来なかった。
敵はお構いなく近くにあった岩を拾う。
あれは巌くんが生成した岩――。
それを掴むと物凄い勢いでこちらに飛ばしてきた。
ブンッ
軌道は僕の方に……と思った瞬間――
ゴキン
鈍い音を立てて僕の右足に直撃した。
「ぐ、うあああああああ!!」
激痛とともに成す術なく倒れ込んだ。
「うグッ、グギギ……」
痛い痛い痛い痛い……!!
痛みで何も考えられない。
「皇! 大丈夫か……うっ……!」
自分の脚を見ると、当たった部位から下がブランブランになっていて血が吹き出している。
恐らく骨を粉砕されたのかもしれない。
「うわあああ!!」
自分の足を見て余計にパニクった。
痛すぎて息が出来ない。
「皇くん! っ――! ……止血と固定を……するからちょっと……我慢して……」
何故か僕より痛そうにしている凍上さんが脚をガチガチに凍らせてくれた。
そのお陰で痛みだけは軽減してきた。
「ハァ……ハァ……今度こそ……絶体絶命じゃないか……さすがに太刀打ち……できないぞ……」
痛みに意識を向けている場合じゃない。
……どうしたらいい……どうしたら打開できる……。
この状況、僕一人じゃとても無理だ……。
どうにかして皆を……。
倒せないにしても何か手を……!
僕は一つの案を導き出した。
痛みに倒れている場合ではない……。
「……こ、今回はこれで……やってみるしか……」




