第30話 大惑不快(たいわくふかい)
今日は1班のメンバーで役割分担を決めるところだ。
「むう……、やはり俺が仕切るんだよな、そうだよな、班長だしな……。――コホン。えー、第2回校外学習〝呪界散策″対策会議を始める」
堅苦しいのは巌くんが慣れていないからだ。
「初めに、今回から新たなメンバーということで、凍上が参加することになった。ただ、時間が無くて1班の紹介が全然できてなかったからな。もう一度簡単に自己紹介しておく。まずは俺だ。魔法は変異属性の«岩»。体術を使うが、岩を使えば遠距離からも攻撃できるオールラウンダーとして陣形を組む。よろしく頼む」
なんか静かだなぁ……。
なんで如月さんは喋らないんだろ?
――あ、そうか!
村富さんがいないからギャルパワーを発揮できないのか!
凍上さんもどちらかというと静かな感じだし。
「次はどうする? 誰が自己紹介するんだ?」
「あ、じゃあぼ――」
「次はあたし! 魔法は«風»の単属性! 棒術での前衛特攻! ホントは風の単属ってディフェンス型が多いんだけど――まぁ気持ち的にはドSなのでよろしくっ!」
あれ、普通……な感じだ。
思い過ごしかな?
元気がなかったように感じてたんだけど。
しかも最近ずっと喋ってなかったもんなぁ。
「じゃあ次は――皇」
「はい。えと……皇です。魔法はなくて、武器は木剣か短剣……で……中衛担当です。お願いします」
近接攻撃しか出来ないのに陣形では中衛、それなのに魔法は使えないという曖昧なポジション。
この紹介だけ聞くと、僕の立ち位置は謎だし相当弱いと思われるよな。
ホント恥ずかしい……。
「では凍上、紹介を」
「はい、凍上華々です。3班では後衛をしていました。現魔法は変異の«氷単»。遠距離からアイスエリアの生成、氷の礫、近距離だと氷の爪などがあります。タイプは巌さんに似ていますが、炎からの相性は岩に比べて最悪なのでどちらかというと妨害役として動きます。よろしくお願いします」
「――うむ。では陣形と出現する炎獣対策でも考えていくか。今、凍上からもあったが、俺と凍上はポジションが似ているようだ。それも含めて決めていくか」
先生にも言われたように今回は頑張らないと……。
でも活躍しなきゃいけないって言っても、炎相手に僕の能力が使えないのが問題なんだ。
――入試の時を思い出す。
マッドドール相手に火能力なしだと、凹ますことしかできなかった。
つまりマッドドールを消滅させたのは火の力によるものだ。
だがあの人形は逆に、属性があったから効果があったようなものの、炎獣相手なら効果はないだろう。
つまり対炎獣だと、純粋な力で対抗しなきゃいけない。
それなのに僕は筋力も低いから致命傷を与えられない。
フレイルボアの時みたいに蹴りメインで戦う……?
だけど村富さんがいないからバフもかけてもらえないし、その都度巌くんに岩のプロテクターを作ってもらわないと服が溶けるかもしれないし……。
――そう考えると自分一人ではなんにもできないや……。
「――らぎ、皇。聞いてるか? 陣形はこれでいくがいいか?」
「あ……うん、それで……」
「大丈夫か? 校外学習は一瞬の油断が死に直結する。気を抜くんじゃないぞ」
「……うん」
そう答えるのがやっとだったが、考えていても仕方がない。
「じゃあ陣形はそんな感じだ。俺らが進むルートはどうする?」
「最短最速、ド真ん中でいいんじゃない? あたしらのタイプ的にそんな感じがするけど?」
「ふむ。だが今回は村富がいないからサポートを得られないし、呪界表層部の攻略難度もEランクと前回の不死山散策よりもワンランク上がっているからな」
「前回だってあんなことにならなければ余裕だったと思うんだけどねー」
「確かにそれはあるな……」
「――何かトラブルがあったんですか?」
凍上さんが聞く。
「あ、いや……それはだな……」
巌くんは言い籠っている。
「あのね、凍上さん。内緒にしてね。散策中ちょっとコースから外れてさ。その時にイビルウリボウに出くわして――」
「5合目のメラビースト……」
「そうなの! 偶然滑落してきたみたいでさ。そしたらその後――」
「フレイルボア……」
「そーそー! 詳しいね。やっぱ凍上さんて頭良いんだ」
「皇が打開策を考えてくれてな。討伐しようと思えば出来たところだがバレると色々まずいので止めておいたんだ」
「皇くんが――」
あ……。
きっと凍上さんも「え、この人なんかが?」って……ほら、唖然としてるよ。
「どうやったんです?」
「脚を岩で保護してー、バフかけてー、下段蹴り……? 皇くんには悪いけどあんなこと普通やろうと思わないよw」
……褒められてるのかな?
「そのフレイルボアの体長ってどれくらいありました?」
…………?
凍上さんが必要以上に食いついてくる……。
「え……1m以上はあったよね……?」
「俺が落とし穴を掘ったんだが、およそ180cmだな」
「――村富さんのバフはプラパー。岩で保護してたとは言え――」
凍上さんはちらっと僕の方を向いてきた。
凍上さんには僕の火のことはいってあるから良いんだけど、まだ班員には言ってないからこれ以上詮索されるとちょっと危なっかしい……。
しかし――相変わらず目線が気になる……。
じーっと見られると緊張するんだよな。
この子の癖なのかな、目を逸らさないのって……。
「なるほど、はい。わかりました、脱線させてしまってすみません」
――と思ったら急に話をブッた切る。
フフ、ほんと面白い……飽きないw
「もうあんなことはコリゴリだがな。――よし、では話を戻すぞ。ゴールまでのルート内に出現する炎獣はレッドドッグ、フレアフライ、イグニスネイク、ラピッドラビッツ、そしてランクが高いデビルブルなど合わせて5種類だ。前回のこともあるから、比較的攻略難度は低めのルートで考えていたが……。最短最速という意見があるのだがどうするか?」
「凍上さんもいるんだし大丈夫じゃん? あたしも今回は新武器で行くから~ムフフ」
みんな強いな……。
下手したら大怪我――この前みたいな事故が起きれば最悪、命を落とすかもしれない。
死への恐怖はないんだろうか。
僕は……。
自殺をする勇気があったのにと思われそうだが、一度自殺をしたからこそ余計に怖いのだ。
強制的な脱力、闇に吸い込まれそうな意識の遮断、二度と目覚めることのない永遠の眠り――。
溺水時もそうだった。
BMWの時もフレイルボアの時も……。
死んでいてもおかしくなかった。
今は死ぬのが怖い。
この世界から自分の意識がなくなることが怖い。
人は認識されなくなった時点でその世界から存在しなくなる。
時間が経ち、やがて記憶からも薄れていくということ。
「誰かに必要とされたい」「早く僕を助けてほしい」と――そう思ってしまう。
僕は力が弱い以前に、精神が圧倒的に弱いんだ。
「では出現する炎獣を想定した演習をどうするか。放課後でもいいか?」
「異議なし! 今度は頑張ろう! せめて一体でも強敵倒してゴールしよう!」
「できる範囲で頑張らせてもらいます」
「…………」
「――では解散」
途中から全然話に参加できていなかった。
やはり心のどこかで、僕が足を引っ張る気がして班に馴染めていない……気がする。
それは自分だけなのか、周りも感じているのか。
*
演習は円滑に進んでいる。
1組の副担任(入試の時に気絶させてしまった先生)……通称〝気絶先生〟が出現する炎獣をマッドドールで再現する。
そしてそれぞれの班員で連携しての模擬訓練。
――僕はなぜかあの気絶先生とはあまり話していない。
これは思い込みとかじゃなく、絶対そうだ。
あのことを根に持っているに違いない……。
触れないでおこう。
そうして呪界散策当日を迎えるのであった。




