第27話 泰然自弱(たいぜんじじゃく)
今日は体験入部の日である。
ここ、魔武学第一高校では、部活のほとんどが強豪で、学校が力を入れていることの一つでもある。
そのため、丸一日体験入部の日を設けて自身が入る部活を決めるのである。
ちなみにこの世界では本当の『帰宅部』が実在する。
なんか、魔法を使ってどれだけ早く家まで帰れるか……とかっていう部らしい。
なんじゃそりゃ!
――とは言ったものの、僕は帰宅部でいいかなと思っている。
小学生から中学三年までサッカー部に所属していたとはいえ、一度もレギュラーになれないような技術で強豪・魔武学でやっていける自信は全くない。
*
登校するや否や、校舎の方で大声がする。
見ると上級生たちが自分たちの部活の宣伝をしている。
確か、朝から2時限目までは部活選定が行われるはず。
自分の入りたい部活を選んだあとは話を聞いたり、レクリエーションを行ったりするという。
そして体験入部が終わって入る意思があれば、入部届を出して正式に部員となる。
――あれ、門のところに巌くんがいる。
「おはよう。どうしたの? 行かないの?」
「おう、皇か……押忍。俺は人混みが苦手でな。行くタイミングを図っていたのだ」
相変わらず見た目に反してそんななんだ……。
「一緒に行こうか?」
「うむ、恥ずかしながらそうしてもらえると助かる」
と言うわけで一緒に部活選定をすることにした。
「どこか入りたい部はあるの?」
「«地魔法»を覚えてからは魔柔道部を考えている」
この、頭に「魔」が付くと魔法ありきの部活らしい。
逆に、魔法を使わない普通の部活も存在しているとのことだ。
しかしながら巌くんの体格は痩せ型である。
柔道に向いているのかどうか。
……けど空手をやってたんなら問題ないのか。
「柔道をやったことは?」
「いや、ない。子どもの頃は空手を習っていたんだが、元々柔道に興味はあった。聞いた話だと«地属性»持ちは魔法柔道でかなり有利らしくてな」
「そうなんだ。僕なんて部活をやってたのに今はやりたくないけどな……」
サッカーなんてもうやりたくなかった。
チームプレイなのにボールすらパスされない。
一人でどんなにドリブル練習をしたって、シュート練習をしたって、ボールに触れられないならどうしようもない。
一度、監督の指示を無視して仲間のパスボールを奪ってゴールを決めたけど、誰一人として喜ばなかった。
わかるかな……。
敵にゴールを決められた時と同じくらい、味方が落ち込むんだ。
まるで1対21になった気分だった。
そんな思いから、今ではもうサッカーはやらないと決めていた。
「――それで部活には入らないのか?」
「あはは……。帰宅部とかどうかな? 足には自信あるし、結構いいと思うんだよなー」
「足に自信があるなら陸上や球技でいいと思うんだが。帰宅部は魔法を駆使して家にどれだけ早く帰れるか競っているんだからな。その分、家で学べる時間も増える。魔法がなくて早く帰宅するのはただ早く帰るだけの人だ。この学校に入ったからには魔法を自分のものにするために鍛錬するか、魔法がなくても一人前に成長する努力をするかだ。どちらにしろ、魔武学に入学したら自己研鑽をしなければならないのはわかるか?」
「ぐう……」
ぐうの音は出たけど正論すぎるよ巌くん……。
僕が、〝逃げ〟で帰宅部を選ぼうとしたのはモロバレだったようだ。
「――まぁ自分が本当にやる気になってからでもいいと思うが。人それぞれ色々と私情があるだろうからな。過去の傷はそう簡単には消えない。だがそれに甘んじて何もしないっていうのも自分のこれからにかかわってくるぞ」
「ありがとう、巌くん」
「む、いや。俺はそんな礼を言われることなんかしてないぞ。気にするな」
そう言って巌くんは先に行こうとする。
でも「過去の傷」って……なんかバレてる感じ?
「おっ、あれは確か……岩波中の巌くんだったかな」
「あ、巌くん! その体系! 是非、魔法水泳部に!」
「巌くん! その細身の体で是非うちの部に!」
「絶対、魔サッカーだって! 今からでも全然遅くないよ!」
……凄い人気だ。
中学の時から目を付けられていたんだろう。
熱烈なスカウトだ……。
「皇……すまん、先に行く。《血暝歩》」
ドロッ……トトト……
そう言うと消えていなくなってしまった。
やっぱ凄いな、そんなこともできるのか……!
まあ、大人数が嫌いでも人が寄ってきちゃうことは避けられないからね。
「あちゃー、大勢で押しかけたから逃げられちゃったねえ」
「でも巌くんは中学の時よりも随分静かになった感じしない?」
「確かに……。極端に言うと〝陽キャから陰キャまでの振り幅〟ありません?」
「高校デビューならぬ高校隠居……?」
「なにそれ……」
そんなやりとりが聞こえた。
巌くん、前はあんなに無愛想じゃなかったのかな?
僕の方は無魔っていうのが知れ渡っているのか入部勧誘ゾーンで誰からも、全く見向きもされなかった。
僕には中学校とかの情報が全くないんだもんな。
これもある意味、高校デビューっていうのかな?
昇降口から下駄箱まで進もうとした時〝どこからか〟声がした。
「おっ……、来よったな皇はん」




