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第25話 寸善尺魔(すんぜんしゃくま)

 路地裏から戻ると、如月さんが店の前で手招きしていた。


「こっちこっち。コレ、アミ子が皇くんにって」


「アミ子? ああ、村富さんのことね。ありがとう。如月さんってあだ名で呼ぶの、好きだよね」


「まぁねー。あたしの呼びやすいように呼んでるだけだけどねー。――で、大丈夫だった? アシモは」


「あ……、う、うん。和解して……たよ」


 僕は誤魔化した。

 そうしないと色々大変になりそうで……。


「ふーん。そうなんだ」


「……ところでコレ、何のアイス?」


 黒い見た目に所々黄色と紫の模様が入っている。

 こんなの見たことないが……。


(セサミ)(レモン)(イモ)ソフトだよ。今流行の」


 ……それが最近のセンスだとしたら僕は時代遅れでいい……。

 それにしても感覚が変なのは異世界だから?

 芋は『potato』なのになんで『imo』……?


カリッ……ペロ――


 お、意外とイケる。


「アミ子はちょっと体調悪いって帰ったよ。巌くんはソフト買ったらもういなかった」


 自由だな……。

 如月さんと二人きりになってしまったじゃないか……。


「皇くんはさ。字がうまかったり料理がうまかったりしたけどなんかやってたの?」


「うん、まぁ子供の頃にちょっとね」


「そっか。思いの外、色々できるもんね。そっか……」


 何故かしんみりしてしまった。

 話題がない、つまらない男だからな……。

 如月さんも面白くないだろう。


「…………」


「…………」


 いやいや、気まずいぞ……なんか話題を!!

 何か言いかけた瞬間――


「班……ってさ。基本的に何もなければ1年間は同じなんだよね。だからこれからもよろしくね」


 そういって如月さんは拳を突き出してきた。


 ……僕は少し考えてから、ようやくその意味を理解して拳を合わせた。


「――う、うん。こちらからもよろしく」


「じゃあ帰るよ。また週明けにね!」


 そう言って如月さんは帰っていった。


 はぁ……僕はほんとに駄目なやつだな。

 会話すらままならない。

 こんなんじゃ女の子とデートなんて夢のまた夢だ……。


 トボトボとそのまま家に帰った。



「おー、焔よ。なんか久しぶりに感じるのう」


「それは出番が無かったからじゃん? まだ一日も経ってないよ」


「あー、そうじゃな。ところでどうじゃった? 少しは活躍できたのかの?」


 僕は爺ちゃんに不死山3合目で起きた出来事を話した。



「ふむ……フレイルボアとな……。しかし矢鱈にイビルウリボウが滑落することはないんじゃが――。過去に起きた滑落による被害は……3年ほど前に1件。4合目の炎獣討伐にでかけたPTが3合目で滑落してきたイビルウリボウに遭遇、その後フレイルボアとエンカウントして――確か2名が亡くなったの」


「え、死者がでたの!?」


「おぉ。だから炎獣図鑑が改定されて記載されるようになったんじゃ。イビルウリボウの滑落による死亡事故――とのう」


 4合目の炎獣を討伐できる力を持ったPTでも死亡する5合目の敵だったとかヤバ……!!

 ――ってか僕たち死んでてもおかしくなかったってこと?

 いくら滅多に起こらない事故でもまずいだろう。


 例えるなら――。

 『動物園に行ったらいきなり檻から出てきた猛獣に出くわす』ようなもの。


「学校側には言ったのかの?」


「ごめん、規定の散策場所から外れちゃってたから怒られると思って黙ってた」


「少し外れたぐらいでエンカウントするとは思えんのじゃが……。ワシもあそこらへんにはよく行ってたのでな。わかった、ワシから清美に言っておこう」


「それならよかった」


「――ム? 待て、焔。どうやって逃げてきたんじゃ? BMWほどではないが逃げ切るのは至難なはずじゃが……」


「あ、うん。今言おうと思ってたんだけどさ。仲間に補助してもらってなんとか落とし穴に落として逃げてきた」


「ほほう。落とし穴に落とした――が、倒さなかったんじゃな」


「……なんかさ、イビルウリボウがかわいそうになっちゃって。親を倒したら誰がその子の面倒を見るのかなって。一人で生きていくなんて難しいじゃん。――ってなーに? また生ぬるいって笑うんでしょ!」


「いや……そうじゃな。炎獣も元は動物。簡単に奪っていい命ではない。じゃが人間に害が及ぶとしたら――どうじゃ?」


 てっきり「甘いのう!」って言うかと思った。


 ――人間に被害?

 人の命は尊いって……?

 炎天化とはいえ生き物を倒すとか殺すとか……それが当たり前の世界なんだもんな。


 前世もある意味同じだったけど……。

 人間が生きていくために他の動物を殺して食べる。

 無理やり栄養を流し込み太らせる。

 交配した種を売買する。


 ――これが人間のすること。

 娯楽や自分たちのために行ってきた、数えきれない生態系の略奪。

 それが現実――。



「焔やい。どうしたんじゃ、険しい顔をして……。倒さずに落としたまま逃げたんじゃろ? なら自然治癒ですぐ回復しとるはず。大丈夫じゃ」


「爺ちゃんはさ……、炎獣とか魔物とか倒してきたんでしょ?」


「そりゃあのう。人を救うためじゃからな」


「人のためなら獣とか魔物はどうなってもいいって思ってる……?」


「むう。炎獣の討伐を楽しいと思ったことはない。じゃが結局は同種を信じるしかないんじゃ。他の種族とはコミュニケーションにも限界があるじゃろ? 相手がこちらをどう思ってるかなんてわからんからの。ワシら人間に危害を加えるなら倒す。たとえそれが――間違っていようともの」


 ……そうか、信じるしかないんだね。

 躊躇ったら自分や仲間に被害が及ぶかもしれない。

 そうならないよう、時には非情になることも必要なんだ。


 あのアッシュくんは人間にも非情だった。

 あれは自分に危害を加えるものだったからだ。

 彼もまた、自身の信じた道を進んでいるのかもしれない。


「ごめん、変なこと聞いて。明日も学校だから色々済ませてから寝るね」


「色々って――今日くらい修行は休んだらどうじゃ。たまには休息も必要じゃぞ! って、あー――」


ガチャ……


「全く……人の話を聞かないんじゃからのう。ふう。……仁の小さい頃にそっくりじゃ。やはり血は争えん。『皇の血』のことわり――か」



 走りながら考える。

 明日は魔法学概論、久々に普通の授業だ。


 まだまだイベントが目白押しなんだよな。

 確か……部活動体験入部があって、中間テストのあとに呪界の散策、期末テストが終わって前期修了、夏休み。明けたらすぐ体育祭、期末テスト、それだけだっけ?

 あ、あと魔武学頂上決戦とかなんとかっていう大会もあったな……僕は出ないけど。

 まだ決まってないけど一年の終わり際にも大々的なイベントもあるとか。


 忙しいねぇハァ、ハァ……。



 軽くランニングをして汗を流す。

 これも最初は大変だった。

 慣れた今はさほど苦ではなくなった。



 そして寝る前の日課『凍上さんを思い浮かべる』。

 他の人からしたらちょっと気持ち悪いかもしれないけど、想い人のことはいつだって考えていたい。

 寝る前ならあわよくば夢で会えるかも――とか。


 思ったより僕ってファンシー? ロマンチスト?

 ――なんて。

 自分でも知らない自分に気づく。



 そして気づいたときにはいつものように意識を失って眠るのだった。 

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