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第19話 油断対敵(ゆだんたいてき)

 この数週間、もちろん何もしていなかったわけではない。

爺ちゃんとの特訓は欠かさず毎日行い、家で過ごす大半をイメージトレーニングと家事に充てた。


 でも爺ちゃんの言った通り、僕にはセンスがないのだろう。

 居合の技を一つ会得するだけでも入学までの2カ月丸々かかったし、それ以降は何も進展なく「全然ダメだ」と言われている。


 爺ちゃんも親父も剣術が得意だったんなら、僕にその血が流れていてもおかしくはないはずなんだけど……。

 それはまた別の話なのか。


 武器が苦手ならばと、『空拳くうけん』にも挑戦した。

 武器を使わず拳としゅうを使う。

 爺ちゃんに「蹴はまぁまぁだが拳はてんでダメだ」と言われた。


 時間は有限。

 余裕があったわけではないので、自分のいいところを伸ばすか弱点を克服するのかで迷った。


 だがここでまた、親父の言葉を思い出した。




~~~




焔は漢字得意だよな、字もうまいし。

――だけど国語がてんでダメだな。

文章問題とか筆者の理解とか苦手だろう。

でもな、自分の良い所を伸ばしていくことの方が重要なんだ。

人ってのは、自分が苦手と思っていることをするのはどうしたって嫌いなんだよ。

だから自分の好きな事をどんどんやってっていい、伸ばしていっていい。

俺はそう思っている。

だが、単に簡単なことだけに目を向けるんじゃなく、全体を見て自分が得意だと思うものを重点的にやる。

それがいつかお前の武器になる。




~~~


 ――いや、そんなの当たり前だよな。

 よくよく考えれば親父はいつも当たり前のことしか言ってない。


 僕のサッカーだってそうだったはずだ。

 一度やってみて楽しかったから続けただけだ。

 そのうちこれしか出来ないんじゃないかと思ったから、逆にサッカーしかやらなかった、出来なかった。

 続けた先に専門的な道があると思ってたから……。

 まぁ一度もレギュラーにはなれなかったけど……はぁ。


 それよりも爺ちゃんはあらゆる武術に精通していて、基本の型から特殊な型まで万能である。

 ちょっと頑張りすぎるとすぐ腰を痛めるが、それでも稽古中は目を見張る。

 というか集中力、威圧、覇気といったものまですべてが洗練されていて完璧なのだ。


 本当にやれる武術を全て会得してきたっていうのか……。

 全部に全力を……?

 そんなことが出来るんだろうか。

 普通なら、あれもこれもと手を出していれば必ず何かがおろそかになるはず。

 なのに爺ちゃんはどうして……。


 ……考えて何かが得られるなら考え続けよう。

 それで済むなら死ぬまでそうしよう。


 だが違う。

 「明日やろう」ってのは「今日はやめよう」だ。

 言い訳を続けて何が得られる?

 言い訳や屁理屈をするために生き永らえたわけではない。

 そう思って今までだって……これからだってやっていくつもりだ!





 朝が来た。


 起き上がろうとしても体が鉛のように重い。

 気合を入れたって体は正直だよな……。


 昨日の奮起した気持ちはどこへいったんだろうか。

 全くやる気が起きない。

 起き上がれない。

 これは僕の深層心理がそうさせているんだろう。


 行きたくないという気持ちが……自身の呪縛が、足枷あしかせにつながれた様に動作を緩慢にさせている。



「焔よ。ほれ、起きんか」


 爺ちゃんは何も知らずに僕を起こす。


「特訓のし過ぎでもう体がいかれたのかの? 今日は遠足じゃろ、頑張って行ってこんか!」


 布団から剥がされる。


「だから遠足じゃないっての……」



 僕は足を引きずって学校へ向かった。



 学校へ着いた。

 教室に入ると3人が待っていた。


「あー、きたー。皇くん、遅いぞー。時間ギリギリセーフだけど」


「皇ー。あんたねぇ、弱いんだったらそれなりの動きってもんがあるでしょうがー」


「すみません……」


 反射的に出た謝罪すみません

 今まで散々使ってた言葉だから体に染みついていたんだろう。


「まぁいいわ。コースも3人で決めたから。んで皇はやっぱ後衛。私らの荷物持ちだけしてればいいわ」


「すまん。俺は皇を待とうと言ったんだが――」


「いや、僕が遅くなったのが悪いんだ……」


 朝起きた時は本当に吐き気がしてダルくて……とても行ける状態じゃなかった。

 足を引きずって歩いてきたっていうのは比喩じゃなく、本当にそんな感じだった。


 メンタルをやられているような……。

 今では前世よりも半端ないアウェイ感を感じている。

 さすがのアンジもいないし知ってる人と言えば爺ちゃんだけなんだから。


 それもそうだ。

 まだこの世界にきて半年も経ってない。


 やれることはやった。

 だけど必要なこと、求められることが多すぎる。

 これでは軽くキャパオーバーしてしまう。


 それでも……食らいついてでもやっていかなくちゃいけないんだ……。



 バスに乗って約30分。

 着いたのは不死山の2合目。

 ここまではバスで来られる標高である。

 ここから3合目の広場まで歩いていきタイムを競う。

 道中、3合目に出現する炎獣5種類を倒してドロップアイテムを拾ってからゴールする必要がある。


 決められた範囲を歩けば問題ないはずだ。

 3合目の攻略難易度はF⁺(エフプラス)と言われているがその実、炎獣自体は多く出現する。

 それでもある程度の実力があれば容易いとされている。

 僕には無理だけど……。


 理由として、基本的に炎獣は火属性。

 弱点がモロなので対策が立てやすい。

 それが炎天化現象での炎獣攻略唯一の利点である。


「はい、じゃあ早速各自スタートしてね。クラスごとに出発点は違うから大丈夫だとは思うけど、もし他のクラスと出会っちゃっても喧嘩しないように。怒られたくなかったら――ね。それじゃスタートー」


 それぞれの班が違うルートで同じ場所を目指す。



「さあ、早速きたわね。ライトドッグ2体、来てるよ!」


「任せろ、【ブラックストーンズ】!」



 巌時雨――攻撃型«岩属性»、武器なし。

 見た目は細身な体つきだけど、筋肉量は相当だろう。

 雨あがりの原っぱで寝ころんでいた時、服が濡れて体の筋肉が浮かび上がってたけど、かなり引き締まっていた。

 本人は、石の投擲魔法とは言ってたけど……。

 石を出したあとおもいきり投げつけてるだけにしか見えないんだよな……。

 あの技は石を出すまでが魔法でそこから物理になるとか……かな?

 それと、彼の属性は普通の«四属性»じゃないんだよね。


 最近授業で知ったんだけど、基本は火・水・風・土の4種類。

 それプラス、変異属性って言って光や闇、炎・氷・嵐・地・雷・無属性なんていうのもある。

 前世でやってたゲームなんかだと、«光»とか«闇»は普通にあったけど、この世界では特殊な扱いになってるっぽい。


 巌くんはその変異属性の«岩属性»らしくて、普通の«土属性»よりも威力が高くて攻撃特化って言ってた。

 凄いね、自分の力を使いこなしててさ。

 それでいて謙虚で寡黙……憧れるよ。



「右からファイラタートル1体、防御固いから文華、バフかけるよ! 【ハイヤースカイ】 そして……【スカッシュシャワー】!」



 村富愛美――支援系«無属性»«水属性»、武器なし。

 箱入りお嬢様で、頭も良いし何より魔法が凄い。

 火の弱点である«水属性»持ちで、支援魔法が凄いって評判だ。

 前も説明したけど、バフ値の上がり方が「加算」ではなく「乗算」という希少魔法持ちで、対象の能力値が高い程効果が顕著に現れる。

 今現在は最大で120%までかけられるとのことだが、魔法力の消費量が多いというデメリットがあるらしい。

 効果時間もそれほど長くないから常時かけっぱなしには出来ないそうだ。

 «水魔法»の方はというと取得レベルは低いのだが、火相手には低レベルでも大ダメージでありコスパが良いため乱発できるという。



「アミ子ありがと! かなり弱ってるね~。一気に決めるよ……、【シェザーニードル】」



 如月文華――攻撃系«風属性»、武器は棒。

 «風魔法»と棒術を使うヤンキー風少女。

 ゲームとかでは、«風魔法»は«火属性»に対してあまり効果がなかった気がする。

 火の勢いが増すとか燃え広がるとかっていう理論なのかな?

 でもそれはイメージであって、防御に使用すれば実際はかなり優位だ。

 故に«風魔法»は特定の条件下を除いて火魔法に対する防御は高いと言える。

 それに棒術……、まだそれほど使っているところを見たわけじゃないからなんとも言えないけど、爺ちゃんに聞いたら『風魔法+棒術使い』っていうのはあまり見たことがなくかなり珍しいらしい。

 その武器と魔法の相性は悪くないらしいが、«火»相手に燃えやすい棒を使うのはあまり得策ではないと。

 まぁこだわりがあって使ってるんだろうけど……。


 現に、先ほどの魔法によってファイラタートルは火攻撃を出せないまま瞬殺された。



 そして僕と言えば……。

 火の能力は使わず――いや、使いものにならず。

 慣れない短剣と体術のみで戦っているため苦戦を強いられている。

 短剣は学校からの支給品。

 皆は普段自分が使っている武器を使っている。


 〝火の能力″のことは相変わらずクラスメイトには黙っている。

 使ったところでどうせ効果がないか、回復させてしまうのがオチだろう。

 ただでさえ使えない男と言われてるのに、ちょっと魔法っぽいことが出来ると思ったら「いらん火属性」……なんてことが知られたら何を言われるかわかったもんじゃない。



「皇くん……大丈夫? やっぱりキツイ?」


「皇、行けるか?」


 みんなから不安がられ心配される始末……。

 結局どこへ行っても僕はこんな感じなのか……。


「ハァ……。陣形なんか気にしなくてよかったわ。いっそ座って見てれば? 劣等生くん。私らだけで行けるっしょ」


 ついに見限られてしまった。

 なんて悔しいんだ。

 何もできないなんて……。



 その後も3人で順調に進んでいく。


 だが、3人でも行けるという気持ちの緩みが、後の悲劇を生む結果に繋がってしまうことを、この時は誰一人として知る由もなかった。

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