第18話 暗運低迷(あんうんていめい)
再来週、入学して初めての行事――炎天化現象真っ只中の不死山への遠足もとい散策がある。
前に爺ちゃんと刀の話をしたが、不死山3合目までは比較的に行きやすい。
危ないのは呪界方面だ。
そっちは魔物の巣窟で、かつて僕が転生したときの出現ポイントだった。
不死山散策の日程である2週間後までに班を作り、班長・副班長を選出しておくようにとのこと。
班の構成は、ひとクラス9班までと決まっていて、40人いるクラスは4人の班が5組、5人の班が4組と人数は均等にならない。
理由は定かではないが、あえて人数に偏りを出しているとの話だ。
しかし、クラス全体がまだ馴染んでおらず、知り合い同士で班を作ると偏ってしまう恐れがあるとのことで、ベースとなる班のメンバーはくじ引きにて選出することになっている。
くじ引きでも極端に偏りがある場合は教師判断で変更もあり得るらしい。
そんなことよりあわよくば、凍上さんと一緒の班になりたいんだが……。
同じ班のメンバーは誰だろう。
「えー、第1斑。巌時雨、如月文華、皇焔、村富愛実。続いて第2班――」
一瞬で希望は消えた。
凍上さんと一緒にはなれなかった。
でも巌くんがいる。
少しは喋ったことがあるから安心した。
一班の顔合わせに行くと、
「えー……アッシュくんと一緒がよかった……」
「あー、あの主席くん? まあ確かにそれなら楽はできたかもねー」
女の子2人はぶーぶー言っている。
「大半が4人班だけど5人のとこもあって、それも運だからねー。最初はこの班でやってもらうからー。不具合があったら変更もするけど、当分はそれでやってもらうから仲良くするんだよー」
先生はのほほんとしている。
キツそうな顔をしているのに意外におっとり系なのかな……。
「え⁉ じゃあこのどうみても弱っちいのと不愛想と、当分一緒……?」
「魔武学は実力主義だからねぇー。でも不愛想なのは仕方ないんじゃん?」
うーん……。
凄いはっきり言うなぁ……。
「はーい、振り分けは以上! えーと……校外学習は基本的に一位通過だと特典があります。やるからには全力でやってもらいたいっていうのがうちの学校の方針とのことでー。勝てば一人一部屋、食事もベッドもグレードアーップ!」
「「「うおおおおお……!!」」」
……みんな騒いでいる。
そりゃアツくもなるかあ。
不死山の近くのホテルは最高級ホテルで、炎天化の影響を受けないようにかなり強力な結界が張ってあるらしい。
だから安全に泊まれるというお墨付き。
散策も一泊で行われるということだ。
「でもー……? 負けたら当然……。わかってますよね? ビリの班は楽しいキャンプです。自炊してくださいー」
「「「げえええええ……!!」」」
……みんなすごい騒いでいる。
そりゃそうなるよなあ。
負けたら不死山の麓でキャンプだもんな……。
いくら安全な場所とは言え、呪界も近いし薄気味悪い。
「無魔くん。ちょっと、足ひっぱんないでよね」
さっきから、この凄いはっきり言う子は村富さん。
顔に似合わず物言いがキツイ……。
ちなみに『無魔』ってのは、〝魔力無し〟の蔑称だ。
「……まぁまぁ。楽なのが一番いいけどねー。もう一人の男子は不愛想ってより……ザ・無口って感じだね!」
この子もはっきり言う子。
名前は如月さん。
元気なヤンキーって感じだ。
「ところで……『皇くん』? 魔力がなくて力もなさそうなのに入試に受かるって……どういうこと? 実は凄い能力を持ってるとか?」
「何言ってんの如月さん。そんなのどうみたって裏口でしょ。コネがあるようにも見えないし。でもそれじゃあこの学校は続かないんだから」
酷い有様だ……。
やっぱり学校ってどこもこんな感じなのか……。
入学するんじゃなかった……。
早くも絶望しそうになる。
「……皇。よろしく頼む」
「ああ、巌くん。お願いね……」
萎えてしまった気持ちをどうにか切り替えて挨拶をした。
「はいー、じゃあ顔合わせしたー? 班長・副班長が決まったらお互いの魔法や体術、武器なんかを話しておくと対策を立てやすいと思うから自由にしていいよー。3合目までの炎獣は5種類、情報を黒板に貼っておくから各自確認してねー」
班長は立候補で村富さん。
副班長は、如月さんがやりたくないからってことで巌くんに決定した。
僕はそもそも話し合いにも参加させてもらえないように見受けられた。
この不死山散策は、散策という名の実践型試験であるらしい。
低評価が続けばもちろん、学校側から目を付けられるんだろう。
いくら爺ちゃんと校長が知り合いだからって、弱いだけの生徒を卒業させることはないと思うし。
気持ちが折れそうだ……。
*
なんやかんやで日数は過ぎ、不死山散策前日となってしまった。
「はい一応おさらい〜。私はー、サポート兼前衛で文華も前衛。巌くんはオールラウンドで。皇は……決めてなかった。とこでもいっか。適当に中衛で」
「『アミ子』チューエイってどこなんだっけ? 真ん中?」
女子二人は仲良くなるのが早かった。
徒党を組んで僕を疎外する。
「『アミ子』って……そのあだ名、許可してないんだからね。……そうだよ。アミのサポートあればかなり楽できるから余裕」
「『プラパー』ってさ、かなり希少なバフ魔法だよねー」
プラパーというのはプラスパーセントのことで、支援系の魔法での能力の上がり方である。
ベースが強ければ強いほど、バフによる恩恵が大きいらしい。
「まーね。でも弱い人にかけても意味ないんだ。例えばさ、1000の120%と10の120%はそれぞれいくつ?」
「え、いきなり……? 1000は1200……でしょ?。10だと……え、12にしかならない? え、合ってる?」
「合ってるわよ。上がり幅は同じ1.2倍でも差は188と単純にこれだけ変わってくるの。今のは例だけどね。つまり弱いのにかけても意味ないし勿体ないんだよねぇー」
村富さんは僕の方を向いて喋っている。
居心地が悪すぎて今にもトイレへ駆け込みたくなる。
巌くんも最初は怒ってくれていたが、今は諦めて黙っている。
「じゃあ明日だね。皇くん、遅刻には気を付けてねー」
「そうよ。荷物持ちも必要だし、さすがに3人じゃ陣形整わないからね」
そう言ってそそくさと帰ってしまった。
「皇、すまん。言われたい放題にしてしまって」
「あ、いや……巌くんが謝らないで……。僕が悪いんだからさ」
「むう。俺はあの娘たちのように、お前が無能だとは思ってない。無魔だろうがなんだろうが、入試に受かっていればそれなりということだ。この学校が裏口するわけはないだろうからな」
あー……そう思ってくれてるのはいいんだけど……実際、裏口寸前だったんだよー……。
ごめんね巌くん。
さすがにこの事実までは言えないわ……。
折角の気持ちに答えれそうもない……。
「ありがと」
精いっぱいの返事をして僕らも家に帰る。
*
爺ちゃんに今の現状は話していない。
学校の事も聞かれるが、順調であると嘘をついた。
お金まで出してもらってるし色々手配もしてくれてたし。
……なんか結局、前世の時と状況がそっくりだ……。
布団に入りながら思う。
やっぱり体質なのだろうか。
「せめて早く慣れよう……」
慣れる……?
だが何に……?
学校に?
クラスに?
いじめに……?
精神的にかなり疲れているのだが、寝る前には深く自問自答するのであった。




