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第16話 前提万里(ぜんていばんり)

 とりあえず話をまとめると……。



 魔武学の校長と爺ちゃんは面識があって昔PTを組んでいた。

 そして僕の同級生のアッシュ=モルゲンシュテルンの祖父ともPTを組んでいた。

 爺ちゃんは前世でも転生後でもかなり強かった。

 校長の年齢は不詳――というか触れたらマズイとかかな。


 とりあえず外も暗くなりそうだし、学校までの道をもっかいおさらいしておかないと……。


「爺ちゃん、話は大体わかった。教えてくれてありがとう。またわからないことがあったら聞くからさ」


「ふむ。道を覚えに学校へ行くんじゃろ? その前に飯を食っていけ」


「あ、そうだね。食べたら行ってくる」


 そういってご飯だけ早めに食べた。



「気を付けていくんじゃな。夜になると結構暗いからの」


 最悪この火でランタンを作れば問題ないと思うし、道に迷う方が心配だ。


 僕は爺ちゃんに挨拶をして学校までランニングを兼ねて走る。

 風呂に入ったのにまた汗かいちゃうか……。

 また入ればいっか、どうせ沸かすのなら簡単だし。



「――と。あれ、どこだここ……」


 まだ完全に真っ暗になっていないが早速道に迷った。

 何故か前に来た河川敷のようなところに出た。


「ここはあの時に……。このあと道なりに歩いていけば確か……」


 そうだ、ここら辺で雨が降って……もう少し行くとあの子と出会った木が……。


 あった。


 木を見ていたらあの子の事を思い出した。

 前髪はちょっと長くて目にかかっていた。

 背は僕より低くて色白。

 目を閉じて思い出すが……ぼんやりとしか思い出せない。


 明日は会えるだろうか。

 同じクラスになれたらいいんだけど。


 あ、僕こんなにも女の子の事を想ったのって初めてかも……。

 遠くから見られるだけでいい。

 話をするなんて烏滸おこがましい。

 いつもはそうやって思うことにしていた。


 だけどせめて同じクラスだったら……。



「――あ、あれ?」


 気づくと辺りは暗かった。

 フクロウが鳴いている。

 さっきまで薄っすら見えていた木はもう闇に溶けたように見えなくなっていた。


「…………」


 自分の愚かさに頭を悩ませた。

 恋をするってこういうことだってね……。


 僕は松明を作り、あたりを照らしながら学校を目指す。

 家から学校までの道のりはどうにかわかったが、覚えるまで結局4往復くらいしてしまった。


 方向音痴って困るね……、ホント。



 家に着いたらもう夜の22時を過ぎていて爺ちゃんは寝ていた。

 僕もすぐお風呂に入って床についた。





 翌朝……。


「ふぁぁぁぁ……」


 眠い。

 昨日は大変だった……。

 だけど今なら目を閉じても学校にいけると思う!


 ――それは嘘だけど。


「おはよう焔よ。昨日は遅くまで大変じゃったの」


 爺ちゃんは相変わらず早起きだった。

 巻割りと鍛錬を終えて瞑想も終えていたようだ。


「爺ちゃん、おはよ。もう学校までの道は大丈夫になったよ」


「ほっほ。方向音痴は大変じゃのう」


 ……自分のことを棚に上げて……全く……。


 さて、初日ってことで少し早めに出るか。


「それじゃ爺ちゃん、行ってくるよ」


「うむ。まぁ気張らんでいいとおもうぞい」


 ……そうしたいんだけどね。

 そうもいかないんだよね……。



 初日の今日の予定は、身体適性検査……とかなんとか。

 もらった用紙には「綿密な検査を実施。検査官3名がそれぞれを査定する」とかなんとか書いてあったな……。


 爺ちゃんも言ってたけど、やっぱり魔武イチは炎天化の中心に近いから力の入れようが違うらしい。

 僕のダメさ加減が浮き彫りにならなければいいけど……。





 そうこうしてるうちに学校に着いた。

 やった、迷わずに行けた!!


 ――だが人の気配がしない。


「まさか休みってことはないよね……。早く来すぎたのかな?」


 校舎の入り口まで歩いていく。

 するとクラス分けの用紙が張り出されている。


 僕はどのクラスなのか……えーと……。


「――いやいや! こういうとこはアナログだな! 魔法でどうにかならないのかいw」


 160名もいるんだぞ?

 自分の名前を4クラスから探すのは大変――と思ったら、1組だった。

 順番に探していって正解だった。


 担任はくすのき調しらべ先生か……。

 女性の先生かな?

 校長もそうだし、イメージ的に魔法使いって女の人って感じだもんな。

 これは僕の先入観かもしれないけども。


 あ、あの子はどのクラスなんだろう。

 って言っても名前も知らないしな……。

 名前も知らない子を好きになってもねぇ……。


 ――と適当に見ていた名前の欄にアッシュ=モルゲンシュテルンがある。


「……英雄の孫と一緒のクラス……」


 これはプレッシャーだ。

 そう言えばあの原っぱにいた人……「アッシュに気をつけろ」って言ってた人……。


 いわお……くん?

 いわお……なんだっけ。


 その人も一応探してみる。


 いわお……、同じクラスに巌って人がいるけどこの人なのかな?

 まぁ割り振られてるんだったらもう何を言っても変わらないんだし。

 なるようになるか……。


 僕は自分の教室に向かった。



 時間まで30分以上、余裕があったが緊張のあまり続々と集まってくる人と目を合わすことができなかった。

 まだ学校への恐怖は拭えていなかったみたいだ。

 刷り込まれたイメージは簡単に払拭ふっしょくできず、フラッシュバックするかの如く自身に重圧をかけてくる。


 人が集まるにつれて段々冷汗が出てきた。



「か、帰りたい……」



 そんなことをつい呟いてしまうほどかつてないプレッシャーに押しつぶされそうになる。

 いじめられているときはいじめにただ耐えればよかった。

 今はどうなるかわからない状態でひたすら待たされている。

 僕は目をつぶってただ待つしかなかった。



「押忍、皇。同じクラスだな。よろしく頼む」


 聞き覚えのある声がした。

 閉じていた目を開いて声のする方を向くと、彼は立っていた。

 まだ一度しか会っていないのになぜか懐かしく感じるほどすがりたかった。

 僕は涙を流さないよう至って普通に挨拶した。


「ああ、巌……くん。おはよう、同じクラスなんだね。よろしく」


 そうだ……前世とは違うんだ。

 僕をいじめていた奴らはいない。

 初めて会う人ばかり。

 これならきっといじめられないで済むかもしれない……。


「お、君は……皇くんかな? 私はアッシュ=モルゲンシュテルンだ。これからクラスメイトとしてよろしく」


「お、お願いします……」


 いきなり話しかけてきたのは主席で答辞を読んだアッシュ=モルゲ……モル……なんとかくんだ。


 ……しかしながら巌くんはアッシュくんを黙って睨んでいる。

 この2人に何かあったんだろうか……?


 一方、アッシュくんの方は特に気にも留めていない……。


 それよりも思いの外、アッシュくんは人当たりがいい。

 びっくりした。

 てっきり僕なんかには目もくれないと思っていたのに。


「あの。皇さんて言うんですね」


 ……この声は⁉


 そこには想いを寄せていた女性がいた。


「あ! あの時の……! お、同じクラスなんだね」


「そのようですね。私は凍上とうじょう華々(はなか)と言います。やっと自己紹介できました」


 凍上さん……か、よかった。

 ようやく……ようやく名前が聞けた……。

 それに同じクラスになるなんて奇跡だ!


 ……待てよ?

 ひとつのクラスに40名で4クラス。

 39/159だから約25%か。

 よくよく考えると、同じクラスになるだけなら1/4でなれたんだもんな。


 それは良いとして、同じクラスになったのなら少しは話が出来るかも……!



 さっきまでどんよりと落ち込んでいたのに、もう笑顔がこぼれ出した僕。

 客観的に考えると、単純なんだろうな。


 そうこうしていると教師らしき人が入ってきた。


「はい、号令かけてー。誰でもいいからー」


「起立、気を付け、礼。おはようございます」


 アッシュくんが自発的に日直らしい仕事をし始めた。

 さすが……。


「はい皆さん。おはようございます。私は1組担当の――」


 でかでかと黒板に楠調と名前を書いた。


「『くすのきしらべ』といいます。皆さん、3年間よろしくお願いします」



 ……3年間?

 クラス替えとかないのか。

 ってことはずっと凍上さんと一緒かぁ……。


「それでは時間になりましたので、1組から身体適性検査を始めていきます。順番に整列して3階の魔法研究室まで進んでくださいー」



 僕の歩き方は完全に浮足立っていた。

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