第15話 日新月歩(にっしんげっぽ)
「さて……、どこから話そうかのう」
風呂後に居間で爺ちゃんの生い立ちを聞くことになった。
「――焔はある意味恵まれとる。ワシなんか父親の顔を覚えておらんくての。ワシが生まれてすぐ、浮気して離婚したようじゃ。じゃからワシは母親1人に育てられた。当時は父親がおらんで良くいじめられたもんじゃ」
……え、爺ちゃんもいじめられてたのか。
って浮気……。
「浮気して出て行った父親をよく恨んだもんじゃ。ワシという可愛い息子を見捨てて、他に女を作ったんじゃからな」
可愛い息子ねぇ……。
「でもそこからじゃった。独学で武術を極めようとしたのは。体も心も鍛えて、そんくらいじゃ泣かないようになりたかった。強くなりたかった。最初は自分の成長のために始めた武術だったが、いつしかワシの周りに敵はおらんかった。みなワシを避け、そして畏れるようになった」
普通、強くなろうとして本当に強くなれるのって一握りなんだよなぁ……。
「じゃが中学の時、剣道全国大会決勝……、相手の放った突きで竹刀が折れてワシの目に突き刺さり右の眼は使いもんにならなくなってしまった」
「え、うそ……、失明したってこと? 今も見えてないの?」
「そうじゃ。じゃがワシは割とすぐにそれを受け入れた。くよくよしてたって眇になった事実はかわらんからの。それはさほど重要なことではない」
重要なことじゃない……って何言ってんの!
片目見えなくなったらドン底だよ!
てか距離感掴めないのに剣道やれるものなの?
「前以上に特訓し、練習量も半端なく増やし、ワシは前よりも……眇でも気にならんくらい強くなった。高校を卒業して、ワシは企業専門の大会で活躍し続けた。そこで知り合ったのが焔もよく知る『婆さん』の栞じゃ。おしとやかでワシと性格が真逆での。心底惚れたもんじゃ。アプローチを何度も断られての。数十回と告白してどうにか付き合うことになった」
じ、爺ちゃん意外にもアグレッシブ……!
「ワシの父のように、嫁さんには絶対不幸にさせないと誓った。そして結婚――25のときに仁が生まれた。ワシみたいに辛い思いをさせたくなくての。徹底的に仁を鍛えたんじゃ。今思えばそれはワシのエゴだったんじゃろな」
…………。
「そしてワシが54歳の時、栞と一緒に生まれてくる孫の洋服を買いに行った時じゃった。――ん? 変じゃな……。ワシの記憶では『女の子』の服を選んでいたような……」
「え! 僕に女の子の服を着せようとしてたの!?」
「いや……違うんじゃが……はて? ――まあええか。そんでな、金を下ろそうと銀行に行ったら運悪く銀行強盗にあってワシらは捕まってしまったんじゃ」
「え!? 爺ちゃんの死因とか聞かされたことなかったけどそれ、ホントの話!? 実際にそんなことあるの!?」
「そりゃホントの話じゃ。一瞬の隙をついて犯人に一発入れたんじゃがな。客に紛れた仲間がいたんじゃ。ワシは背後から撃たれた……。あの痛みよりも熱い感覚は今でも鮮明に覚えてるわい」
銀行強盗とか遭遇することあるんだ……。
「このままじゃ栞を守れないと思っての。体に何発も銃弾を食らいながら死に物狂いでもう1人を倒した。そしてワシもそのまま絶命したんじゃ。起きたらこの世界だった」
「そんなことが……」
「ワシも焔と一緒。気づいたら不死山の麓じゃった。獣が寄って集って襲いかかってきたがタダの獣、みなとっちめてやったがの。がっはっは!」
「さすが爺ちゃん、転生直後でも『強ええ』してたんだね」
「まだ不死山も炎天化現象が起こる前だったんで綺麗なもんじゃった。獣は多いが湧き水は豊富で植物も生い茂っておった。道中、修行中の男に会って『刀匡には強い男たちがいる』と聞き、そこを目指した。その時にそやつから転移硝石をもらったんじゃ。今思うと、これがなかったら本当に御陀仏だったんじゃよ。そんでの。刀匡に向かう途中、険しい道のせいで道に迷ってしまってのう。辿り着いた先は――呪界じゃった」
……ほーら、やっぱり方向音痴だ。
東に行こうとして北に行ってるんだもんな……。
「その呪界にはの、〖希少点穴〗という穴があってな。どこへ通じるかわからん穴があるんじゃ。ワシぁそこに落ちてしもうて落ちたその先に――3人の冒険者がおった。それがオレガノ=モルゲンシュテルンと土田清美との出会いじゃった」
「え……モルゲンシュテルン……? 土田清――え、まさか校長?」
「そうじゃ。創設時からの魔武学学長。そしてワシの元パートナーじゃ」
「な! あのロリっ子の校長と⁉ それにモルゲンシュテルンって――英雄だかなんだかの⁉」
「最近聞いたんじゃが、孫が魔武イチに入ったんじゃろ? いやはや、これも運命かの」
「…………」
「あ、話の途中じゃったの。んで〖希少点穴〗にはごっついガーディアンってのがおるんじゃ。奥の部屋への侵入を阻んでいての。ワシらは共闘して倒そうとしたんじゃが、その敵はほぼ物理が効かんかった。ワシの攻撃は見事に無効化された。言い訳じゃないが、ただの棒キレでやってたんじゃから無理はない! ほっほっほ」
爺ちゃんでも倒せない敵がいるのか……。
「1人仲間を失いながらもワシと清美とオレガノは逃げ果せた。旅人から貰った転移硝石のお陰じゃ……。その後すぐ、オレガノはパーティーを離脱していった。『より強くなるため、より強いパーティーへ』と言っておった。残されたワシらは程なくしてツレとなった。清美は魔を極めんとし、ワシは武を極めんとした。そしてワシらは背中を預けられるようになった。その後、パーティーを去ったオレガノが戻ってパーティー再結成。3人で魔王のところまでやってきた」
ま、魔王……ゴクリ。
マジか……。
「最後の最後でオレガノが――。――まぁ言い伝え通り言うか。えー、『自身の捨て身技で魔王を封印する』までに至った。最終的にワシは隠居、清美は次世代の冒険者を育てるべく、学校を設立――とまぁこんな感じじゃ。確かに魔武学の学校長はワシのパートナーじゃった。じゃがただのパーティー仲間、スケベはしとらんぞ。ワシの嫁は栞ただひとりじゃからの」
「そ、そんなのいちいち言わなくていいよ! っていうかツレ……? 無理あるよ⁉ パッと見、女子高生より若かったよ⁉ 並んで歩いてたら絶対に警察のお世話になるよ⁉」
「そういやぁ最近会ってないのう。元気にしとったか? 連絡は全て便りじゃからなぁ。ちなみに……あの格好は――。本当の姿じゃないぞい」
「え、どゆこと?」
「清美の実年齢はグハァ!」
「え、爺ちゃん! 急にどうした!」
「そうじゃった……清美に呪いをかけられてたんじゃった……。歳の事を言うと結構深刻な虚血状態になる」
「なにそれ、こっわ!」
「いいか、絶対に年齢のことは言うんじゃないぞ……そこは割と真面目に言っておくからの。どうなっても知らんぞい」
改めて読んだら……。
変な話だな、ここ。
説明しておきたかったところではあるけども
ちょっと凝りすぎてるところもあるし
ガバガバなとこもある。
まあそんな脆弱なところも
ある意味「味」になればw
R6.4.16




