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第14話 虚止進退(きょししんたい)

「あ、雨宿りの女の子……」


 振り返った先にあの子がいた。


「朝はありがとうございました。入学早々雨に濡れるとこでした」


 僕を見かけてわざわざ挨拶に来てくれたのか。

 なんて可愛いんだろう。

 ちょっとツンとしたところも、礼儀正しいところも僕の好みだ……結婚したい……。


「あ、あの……そ、それだけです!」


 そう言うと走っていってしまった。

 あ……まだ名前も聞いてないのに……!

 なんで行ってしまったんだ……。


 僕、変な顔してたかな?

 爺ちゃんにも「顔に出やすい」とか言われてたし、変な人って思われてなきゃいいけど……はぁ。


 僕はトボトボと学校をあとにした。





「焔よ、おかえり。入学式、どうだったかのー?」


 家に着くと爺ちゃんはあっけらかんとして聞いてきた。


「どうもこうも! 雨は降るし入試はあったし! てかなんでちゃんと教えてくれなかったのさ!」


「入試? 紹介状を見せれば入試は免除だったじゃろうが。――雨は知らん。お前さんがちゃんと天気予報を見んのが悪い」


「そ、それは……確かに僕が悪い。それは認めるけど! でも入試免除ってどういうこと? ……あとそうだ、爺ちゃんを様付けしてる教師がいたんだけどどういう関係の人⁉ 爺ちゃんって実は凄い人なの?」


 爺ちゃんは目を泳がせながら答えた。


「お、おー……アイツじゃな。アイツは結構怖かったじゃろ。昔は不死山攻略部隊におったからな。色々ブッキラボウなやつなんじゃ。アイツは……仕事のお得意さんでの。ワシが上客だからじゃ……ないかの?」


 え、それだけで僕にもあんな敬語を?

 最初会った時、「怖い」っていうか「本当に教師か」ってくらい、感じ悪かったんだけど……。


「それよりもなんじゃ、結局入試は受けたんか?」


「え? あ、うん。なんか……ズルした感じに思ってさ……」


「ほお、でも入試に落ちても入学はできたじゃろ?」


「ちょっと! なんで落ちたって思ったのさ!」


「む、だって難しかったじゃろ入試。で、今年の課題はなんだったんじゃ?」


「泥人形を()()()する、だよ! 受かったよ!」


()()()? ()()()じゃのうて? じゃが操ってる教師によって人形自体の強さもそこそこバラバラだったりするんじゃがな」


「だから……その爺ちゃんのお得意さん先生が試験官だったよ」


「――なに?」


 爺ちゃんの目の色が変わった。

 ギラリとこちらを睨んできた。


「アイツの人形を()()()したのか?」


「え……あ、う、うん。無力化? 無効化と何が違うの? 爺ちゃんから教わった《霞》と僕の火を混ぜて当てたら消えたっていうか……」


「消え……? うあっはっはwww」


「うわぁびっくりした! 凄んでたと思ったら大笑いして……。なんなの……」


「いやー、番狂わせじゃな。久しぶりにワシの勘が外れたわい」


 なんのことやらわからないが……爺ちゃんに一泡吹かせたってことでいいのかな?


「と、とにかく学校への道順がわからなかったからもう一回学校いってくるよ」


「ほほ……相変わらずそゆとこは真面目じゃの。ならついでに食材を買ってきてくれ」



 ……結局買い物まで頼まれてしまった。

 お駄賃あるからとか言ってたけど頼まれてたもの買ったらほとんど残らないじゃんか……。

 全く、そんな子供だましを……。





 河川敷を歩いていると、前から大勢走ってきた。


「マブイチーファイ! ファイ!」


 部活かな……?

 一年は入学式だったから……二年か三年……。

 野球部とかサッカー部かな?


 ……え、ちょっと待って?

 走る速度……異様に速いぞ……。


 なんか足元にうっすら魔法陣みたいのが見える。

 あれも魔法の効果なんだろうか……。


「やっぱ魔法やば……」


 つい口に出た。

 それくらい魔法の凄さを思い知らされる。

 

 ……あれ、河原の土手に誰かいる。

 あの色の制服は……一年生かな?


「…………」


 まだ雨があがったばかりだからここらへんは濡れてるってのに……。

 その男子学生は横になってずっと空を見つめていた。


 少しの間、見ていたら話しかけられてしまった。


「……なんだ、新入生か。こんな場所に何の用だ?」


「いや……そっちも新入生だと思うんだけど……。というか、濡れないかなーって」


 こちらへ向いていた顔を空に戻して続けた。


「雨に濡れるのは気にならない」


 ……無愛想な人だな……。

 まぁいいか、人それぞれだしな。


「そうですか、ではこれで……」


「待て。一つ助言しといてやる」


「え……」


「アッシュ=モルゲンシュテルンには気を付けろ」


 い、いきなりなに⁉

 アッシュなんとかって……確かあの主席の人だよな。

 その人に気をつけろって?


「え、それってどういう……」


 それ以上、彼は喋らなくなってしまった。


 僕は諦めて帰ろうとしたら、


「俺はいわお時雨しぐれだ。また会うことになる」


「巌くんだね。僕は皇焔。よろしく……」


 そんな挨拶をした手前、帰らないわけにはいかなかった。

 ちょっと変わった人なのかな。





 言われたコンビニへ向かう。

 この世界のコンビニはどうなっているんだろうか。

 前の世界みたいに無人なんだろうか?

 そんな訳無いか。


 ……と思ったら無人だ!

 技術力も前世と変わらないじゃん……っと思ったら違った。


 ……魔法だよ。

 魔法で管理されてるのか。

 買った商品をカゴごとこの台に乗せると、魔法が付与された合計が表示される。

 その表示金額をトレイに乗せるとレジから残りの魔法付与分の金額が返金される仕組みになっているらしい。


 ……ある意味ハイテク?


 チラシになにか書いてある。


[永続魔法により完成した無人コンビニです。魔法付与が得意な方、一緒に働きましょう]


 時給4500円⁉

 へぇ……そんなに高いんだ。

 魔法が使えるって人は高級取りなのかな。


 だけどこのレジは魔力がある人専用のレジらしい。

 魔力を通すことで魔力砲身に管理されてる番号を読み取って金額の請求がされる……と書いてある。

 多分クレジットカードみたいなものかな。


 もちろん、無魔の人でも買えるように、普通のセルフレジも設置されていた。

 ただ……、今は魔法レジが主流なのか普通のレジはかなり狭かった。





 メモ通り買い物を終え、一旦家に帰る。

 下ごしらえをしていた爺ちゃんに買ってきたものを渡す。


「ほっほ、御苦労さん。少し休んだらどうじゃ?」


「やっぱ暗くなる前に先に爺ちゃんの稽古をやりたいんだけど」


「――お主、ホント真面目じゃの。入学式の日くらいサボってもバチは当たらんのに。……それじゃあやるかの」


 そう言って今日も稽古を始める。





 ふう……。

 稽古後のお風呂は相変わらず気持ちいいよな……。


「焔よ、タオルおいとくぞい」


「ありがとー! そういえば爺ちゃんってさぁ……。めちゃくちゃ強いけど前世でも強かったのー?」


「そうじゃな。それこそ、お主には黙っとこうと思ったがの。学校にも行くことになったし頃合いか。風呂出たら居間に来るがよい」


 ……何を聞かされるんだろう。

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