第13話 異風堂々(いふうどうどう)
扉を出て少し先に行くと、机の上に冊子が置いてある。
そこには『学生服支給あり 学ラン・ブレザー、色を選択できます。気に入った制服のページに触れてください。私服希望の方は冊子には触れずそのまま体育館まで入場ください』か。
へぇ……私服でもいいんだ。
……ページに触れるとどうなるんだろう?
そう思って触った瞬間、僕はたちまち学ランを着ていた。
はは……魔法すご……。
でも私服希望の人なんているのかな?
その後案内通りに進んでいると、『入学式はコチラ』という看板があったのでそれを頼りに進む。
先ほど入試を終えたばかりなのに、入学式……。
入試と入学式をまとめてやるとか奇抜すぎると思ってしまう。
すると体育館が見えてきた。
そこには……。
大勢の生徒がいた。
入試を突破した者たちである。
皆、入試を終えたばかりで、一様に魔力が迸っている……ような気がする。
魔力がない僕に、わかるはずもないだろうが。
僕は自然と、先ほどの女の子を探していたが……パッと見、見当たらなかった。
落ちてしまったとは流石に思いたくないが……。
「お待たせいたしました! それでは適当に8列作って並んでください。入学式を始めます」
というアナウンスが流れた。
すると、さっきまでギラギラしていた生徒たちは黙って列を作りだした。
何と言う切り替えのスムーズさ……。
さすが魔武イチ、真面目な人が多いのかな。
「はい。皆さんがキビキビ動いてくれたお陰でスムーズに入学式が始められます。初日なのに素晴らしい。それでは入学式を始めます」
校長先生だろうか、前に出て話し始めた。
「開会の言葉。教頭先生、お願いします」
あ、教頭先生だったか。
貫禄は校長っぽかったんだけど。
「只今より、魔武学第一高校、入学式を始める。礼!」
ザッ……
「学校長挨拶。校長先生、お願いします」
ここまでは、至って『普通の学校』って感じだ。
……まあ、なにも特別なことなんてないか。
それにしても校長はどこにいるんだ……?
ボムッ……
すると壇上の真ん中から煙があがり、小さな女の子が飛び出してきた。
「皆さん、入学おめでとうございます。私が学校長の土田清美です」
下から出てきた上に、こんな小さな女の子が……校長⁉
「160名全員が入試試験に受かったこと、心から嬉しく思います」
あ、じゃああの子も受かってるんだ……良かった。
「この学校が設立したのが5年前。あの炎天化が起こった年です。それから2学年が卒業していきました。今や、何十名もの卒業生が前線で働いています。ですが、それと同じくらいの人数がこの学校を退学・自主退学しています」
ザワ……ザワ……
そんなに……!?
さすがの皆もザワザワなるか。
そんな人数が退学になっているとなれば……。
「退学者の中には、この学校についていけなかった者。問題を起こした者。AMA展開中に対人攻撃魔法の使用。そして一番多いのが編入です。魔武学第一高校、通称魔武イチは主に冒険者の育成や炎天化の解明を斡旋している学校です。故に授業内容が、魔法学と体術メインでの授業構成となっていることが多いです。そのため、攻撃に向かない鑑定・アナライズ系のサポートや支援といった魔法スキルを持つ者への措置として編入制度があるのです。その者たちは相手の弱点を読んで指令を出す役割だったり、次世代の生徒を育てる教育者としての道などがあります。この中にもきっと何名かはいると思います。この先、そういった能力が新たに開花することだってあり得ます」
新たに開花……。
「いいですか? 戦うことだけがこの国の、世界の助けになると思わないでください。どんな形でも誰かを助けたいという気持ちさえ失わなければ、その道が開けると思います。そのために、日頃からの皆さんの在り方であったり、心身の療育の場として魔武イチで学びを深めていってもらいたいのです。……長くなりましたが皆さん、一人ひとりが健やかに育っていかれることを祈っております。以上」
パチパチパチパチ
……さすが校長、良いことを言うから圧倒された。
でも、この世界ではあんな小さい子が校長になれるんだ。
……編入かぁ。
僕なんかがいい例だよな。
炎天化の前線に行ったって火の能力じゃどうしようもないと思うし、この先何か能力でも見出せたらそっちの道もあるってことか。
そうだ、火を使って料理人になるとか?
職が見つからなかったら本当に爺ちゃんの跡継ぎになるっていう道もあるから安泰かな。
「続きまして新入生挨拶です! 新入生代表、アッシュ=モルゲンシュテルン。壇上へ!」
「はい」
おっ、まさかの外人……?
「雨の音が響く今日、私たちは憧れの学び舎、魔武学第一高校に入学しました」
あれっ、日本語だった。
ハーフとかかな?
そして私服の人、いた……。
「皆が今、この場所にいるということは、並大抵の努力では成し得なかったことと思います。時に苦しみ、時に喜び。しかし、それらが紡いだ記憶全てが自身を構成する事象だと思っております」
なんか壮大なスケールの話だなあ……。
「斯くして、私の祖父は初代英雄選抜パーティーのメンバーでした」
ザワザワザワザワ……
お、皆がさっき以上にどよめいているぞ……?
「祖父は、世界に仇名す悪の権化である魔王を封じ、自らの命と引き換えに束の間ですが平和を取り戻したのです。祖父は私の憧れの人でした。私自身、祖父の様になりたいと思っておりました。ですがもう、会うことすら叶いません。だからと言って私が目指すものは何も変わりません。その気持ちは私に受け継がれております。この思いが消えることはなく、むしろ日々強くなっていく一方です」
凄い熱……というか圧を感じる。
「皆様聞いて下さい。私が炎天化の原因解明、そして解決に導くことを宣言するとともに、これを新入生挨拶と致します!」
ウオオオオ! ピィイッ!
す、凄いなこの歓声……このカリスマ性。
祖父が世界を一度救ったってことは……英雄の孫ってことだよね……?
そして主席ってことはそりゃ全てにおいて優秀ってことだ……。
「自信パネェー! 入試も10秒かかってないって話だろ?」
「俺だって自信あったのに3分弱だったから圧倒的に早いよな。しかもあの人形、消し飛ばしたらしいし」
「無力化はできても消し飛ばすなんてそうそう出来んぜ?」
「成績優秀、容姿端麗、魔力・技量もトップ、性格もカラッとしてて英雄の孫……家は金持ちときた」
「あの堂々とした立ち振る舞い……ホレちゃいそうだぜウホ!」
皆が一斉にどよめいている。
そりゃそうだな……。
周りの声に耳を傾けていたら入学式は終わっていた。
どうやら今日はこれで終わりのようだ。
一旦帰ってから学校までの道を覚えないとな。
明日から始まるってのに、また道に迷ったらかなりの間抜けだ。
雨は上がっているようだった。
校外は水たまりが所々に出来ている。
校門を出たその時……。
「――あの」
かわいい声がした。




