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第12話 艱難真紅(かんなんしんく)

 やっと学校にたどり着いた。


 どうやら学校内は雨が降っていない。

 見えないバリアでも張ってあるんだろうか。


 校門前には教師が立っている。


「159、160……と。あー、お前らで最後だな。入試早々、時間ギリギリとは度胸あるなあ?」


 ……威圧感が半端ない。

 この人は本当に教師なのか……。


「申し訳ありません。急ぎますのでどうか――」


 女の子はそう言って校門を抜けて入ろうとするが、そんな教師は僕たちの行く手を遮るかのように立ちはだかる。

 そして僕たちを交互にみた教師は、


「そこの女子、行っていい。校舎に入って階段を昇れば案内がある」


「え、僕は……」


「あの、この方も――」


「二度言わすな。早くいけ」


 そう言われた女の子は先に行かされてしまった。

 僕はなぜ……?


「まだあと5分はある。それまでに納得のいく説明をしてみろ」


「え、どういうことですか……?」


「お前、無魔――魔力ないだろ。見た感じ筋力もなさそうだし、腕が立つような歩き方でもない。それでこの魔武イチの入試に受かるとでも思っているのか?」


「え! やっぱり入試あるんですか⁉ じ、爺ちゃん……なんで教えてくれなかったんだよー……」


「入試と知らずにやってきたのか? 実際は()()()()みたいなものだ。だが無能のために無駄な時間を取りたくないのでな」


 ……だめだ、僕にはこの教師を説得させることは……。

 ――あ、僕は爺ちゃんから紹介状を貰ってるんだった。


「コレを見せれば入学できると聞いたんですが……」


「ああ? 紙切れ一枚で入学できるわけないだr――」


 紹介状を見た教師はそれを奪い取り目を丸くした。


「け、ケンゴウ様の紹介状……⁉」


「え、ケンゴウ……さま……?」


「失礼致しました。ケンゴウ様とどういったご関係かは問いません。この紹介状があるのは事実。入試を免除させていただきます。どうぞこちらへ」


 そう言って校舎内に通されそうになった。


「いやいや……! 何言ってるんですか! 受けますよ! 入試は受けます! なんかそんなのちょっとズルいし……」


 爺ちゃんは確かに「紹介状を見せれば入学できる」とは言っていた……。

 だけどあの子も入試を受けるのに僕だけそんなズルいことをして入学するわけにはいかない。


「左様でございますか。それでしたらこちらへ。たとえ入試に落ちたとしても入学できますので気楽にどうぞ」


 ……「入試に落ちても入学出来る」って何?


 爺ちゃんって何者なの?

 ちょっと偉そうだった教師が急に態度を変えて()()()して、僕にまで敬語を使いだしたぞ?


 そんな裏口入学みたいなことさせようとして……やりすぎだぜ爺ちゃん……!

 免除されるならってつい、気持ちが揺らいじゃったし。


 ええい!

 僕はまっとうに入学してみせるぞ。



 教室に通されたが、机も椅子もない。

 やはり入試でも学力じゃなくて、魔力と武術しかないのか……。


 そう考えていると、先ほどの教師が出てきた。


「ケンゴウ様のお知り合いとわかっていても、入試を受けるとなった以上、一応はこちらのやり方でやらせてもらう。よろしいか?」


「元よりそのつもりなんで……。お願いします!」


「それでは開始する。出でよ【マッドドール】!」


ゴゴゴゴゴ……


 な、なんだこれは……!

 地面から人形みたいなのが現れたぞ……。


「試験内容は10分以内にその【マッドドール】1体の()()()以上で合格とする。この部屋にある武器選択の的確な判断や、自身の能力での打開が目的である。それでは始め!」


 マッドドール……?

 みたところはただの泥人形だが、開始の合図と同時に動き出す。


 部屋の隅にいるあの教師が操っているんだろうか。

 そんなことを考えていると人形が勢いよく走ってきた。


ザシュッ……


 走ってかわす。

 人形自体は1mくらいの小柄なもののため、躱すくらいならできそうだ。

 ……だが合格基準は()()()だったよな……。

 逃げてるだけじゃだめだ。


 辺りを見渡すと、手前の壁に色んな武器が掛けてある。

 竹刀、木刀、鉄球、鞭、本……水鉄砲のようなものまである。

 この中から選んで戦えってことだったのか。

 始める前にしっかり見ておくんだった……。


 僕は泥人形の攻撃を躱した隙に、水鉄砲と木刀を適当に選んで取った。

 この銃は見た目こそ水鉄砲だが、きっと泥を洗い流して無効化できるに違いない。


 遠距離から銃を使えば楽に倒せる……そう思ってしまった。

 昔からの面倒くさがりが災いしたのか、そううまくいくわけはなかった。


カチ……カチカチ……


 マッドドールの攻撃を躱しながら考える。


 ……引き金を引いてもうんともすんともいわない。

 カチカチという音だけが響き渡る。


 壊れているのか水を入れる必要があるのか……。

 僕が何も知らないだけなのかすらわからない。



「(お前が取ったのは«水»専用の属性銃だ。そんなことも知らないのか……力量もないのに木刀一つでどうにかなるとも思えん。ただ打てば倒せるってもんじゃない)」


 銃が使えなかった以上、この木刀でどうにかしないと……。

 普段、爺ちゃんと行なっている練習のように一歩踏み込んでから面を打ってみた。


バシィッ……


 攻撃は当たり、手ごたえを感じた。

 だが……土で出来ているはずなのに断ち切れない。

 土でできているからこそ、と言ったところか。


 僕は二度三度と続けざまに左右からの面を打った。


バシッバシィッ……


 同様の結果だった。

 その後、突いてもみたが少しへこむ程度で変わらず動いてくる。


「(ほう、太刀筋は見事に人形の中心線を捉えている。だが力も弱いし、なにより踏み込みに自信が無いと見える。緊張からか切っ先も下がっている)」


「合格基準は()()()だったっけ……。叩くだけじゃダメだ」


 僕は火を使う覚悟を決めた。

 この泥人形が«土属性»であれば火はあまり効果がないかもしれない。

 だからこそ、火で断つ……。

 敵が«火属性»以外なら少なからずダメージがあるかもしれない。


 僕は木刀を握りなおす。


 以前、木刀に火をつけて«火属性»の武器にしようとしたが失敗したことがあった。

 今回も同じやり方だと、ただ木刀が燃えるだけになってしまう。

 それは薄々気づいていた。

 だから燃やすイメージではなく、火を通すイメージをする。

 木刀は身体の一部――。

 体から火を出すように、木刀にも火の通り道を作って流してやる。



ブォッ……



「……出来た……!」


「(バカな⁉ 魔力もないのに火のエンチャントだと⁉ ……だが【マッドドール】は«土属性»。生半可な火は通用しないぞ)」



 木刀は真紅の火炎を帯びている。

 燃えているのではなく、火を纏っている感じだ。


「へへ……。ぶっつけ本番は僕の十八番だしな。でも……うまくいってよかった」


 僕はもう一度……両手で構え直して爺ちゃんから会得した居合の技を繰り出す。

 血反吐を出してこの2か月で覚えた唯一の技……プラス僕の炎!



「《霞火かすみび》……!」



ジュッ……バチィィィ!

……ドタっ



「あ……」


 爺ちゃんから伝授された居合の技と、僕の火を混ぜた技名を適当に考えて発した。

 中二病のそれのような技名をつい叫んでしまい、後から恥ずかしくなってきた。


 そんなことより……てっきり先ほどのような鈍い手応えがあると思って薙いだのに、溶けて消えてしまったせいで木刀の勢いが止められず手からすっぽ抜けた。

 つまり、ぶっつけ本番でうまくいったのは火のエンチャントまでだった。


 すっぽ抜けた木刀は飛んでって隅っこの教師の頭に……多分直撃した……んだと思う。

 倒れているし……。


 僕は我に返り、倒れている教師に駆け寄る。


「す、すみません。大丈夫……ですか?」


「……さすが、ケンゴウ様が見込んだ生徒……っ――」


 ……教師が気絶すると同時に奥の扉が開いた。


「あちゃー……あの、先生? ……すみませんでした!」


 そう言って逃げるようにして教室を後にした。

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