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第97話 一路平安(いちろへいあん)1

***




 窓の外に目をやる。


 炎天化の影響が強いのか、師走だというのに皆一様に薄着で過ごしている。

 エアコンのように、気温を一定に保つことができるCF(クーリングフィールド)の中ならば比較的快適なのだ。


 もう季節という概念は意味を成さなくなっている。

 四季に合わせて気温を魔法で調節しているだけに過ぎない。

 「春夏秋冬」は「春春秋秋」と過ごしやすい。


 しかしCF外の気温は、今もなお上がり続けている。

 あと数年後、年間平均気温は30℃を超えてしまうという予想を立てている専門家も少なくない。


 生徒たちは知ってか知らずか、呑気に外で遊んでいる。

 外界で起きている事態を理解していないのか見て見ぬフリをしているだけなのか。

 炎天化現象が自分達には関係ないと思っているのだろうか。

 楽天的に過ごしている。


 ここ、魔武学でも危機感を持っている生徒は一握りなのか。

 別の世界から来た俺がこんなに考えているのに――


「なーに耽ってんだよ皇ーぃ」


バチン!


 思い切り背中を叩かれる。

 ……鮫島くんだ。


「ッ……あの、結構本気で痛かったけど?」


「おいー! 例のイベント……明日だぞ? もっと興奮しろー? してるかー?」


 俺の言葉を無視して鮫島くんは鼻息を荒くする。


「うん……。でも、本当に俺なんか誘ってよかったの? ……今更だけど。他にも誘える人いたんじゃない? 巌くんとかさ」


「は? 何だそりゃ。ホント今更だな。……いいんだよ、俺の見立てで集めたメンバーなんだからよ。それに巌は……、残念だけど()|し《だ」


「え、なんで?」


「――あいつは……、無愛想だからだ!」


「え……それだけ?」


「盛り上がりに欠けるとこっちも困るんだ。――まあ皇もあんま評判は良くないけどな」


「…………」


 やっぱりそうだよね……。

 でも鮫島くんは裏表がない。

 ぶっきらぼうだけど、誰に対しても態度を変えず話してくれる。


「まあよ、決まったんだから素直に行こうぜ? 気にしてたら楽しめねぇ」


 それでもそう言ってくれてホッとする。


「ところで、男子は他に誰が来るの? 教えてもらって良い?」


「あー、言ったなかったな。俺とお前、ツッチーだろ? 田中に……柄路えろだ」


「田中くんも柄路えろくんもあんま喋ったことないや」


「オウ、良かったじゃん」


「……なんで?」


「いや、普通に考えれば仲良くなるチャンスじゃんか。そうやって考えれば良いだろ?」


 普通の高校生ならそう考えるのかもしれないけど……ね。


「でよぉ。ものは相談なんだが――」


「え。な、なに……?」


 何か嫌な予感が……。


「田中は今、恋をしてるんだよ……。だから〝師走肝試し大会〟で後押ししてやりたいわけよ。キューピットってやつ?」


「――ああ、〝キューピッド〟ね。そうなんだ」


 へー……面倒見が良いと言うか世話焼きと言うか。

 鮫島くんのイメージ変わるなあ。


「だからな、ペア分けのクジに……細工をする!!」


「さ、細工……⁉」


「女子用の箱と男子用の箱に分けてちょいと魔法をかければ、引いた順番と同じ番号が出るようにできる」


 そこまでするのか、凄いな……。


「ところで……田中くんは誰が好きなの?」


「凍上だよ!」


「んが…………!!」


 ――ふと何気なく聞いてしまった自分を呪った。

 その可能性を毛ほども考える暇なく、鮫島くんはアッサリと答えてしまったのだ。


 ……まあどちらにしろ、今聞かなくても結局は後で聞かされたと思うから同じなんだけども……。


「そうだよな、驚くよな、意外だよな! 田中のやつ、おっとり系が好きそうに見せかけて、実はツンツン才女が好みっだったてわけだっ!」


 ……そりゃそうか。

 凍上さんは可愛いし優しいし頭いいし強いしカワイイし好かれて当たり前だよな。

 でも田中くんなら感情の起伏もなくフラットだし怒ったりしなそうだから、モラハラもDVもしなそうだ。

 彼なら安心して任せられるか……。

 それが彼女の幸せを願う者の運命……。


「――んで頼みなんだけどさ。お前のペアで脅かす役、やってくんねえ? 釣り堀効果ってやつ?」


「〝吊り橋効果〟ね。――え? ペアで?」


「だってよー、オレもツッチーもホラー系大好きだから楽しみにしてんだ。でもきっとツッチーに言ったらアイツいいヤツだから『僕がやるよ』とか言いかねないし! だから頼む!」


「……う、うん……いいけど。でもペアの人が『ヤダ』って言うかもしれないよ?」


「大丈夫だ! 脅かす方が楽しいから! なら特典もつけてやる! そうだな……よし、ペア相手も決めさせてやる。誰がいい?」



 ……ここで空気を読まず「凍上さん」と言いたい。

 というか男子同士は組まないようにしたら、必然的に異性と組むことになる。


「……女子って誰が来るんだっけ?」


「んとな。如月っしょ? 村富に門音、あと江地えちさん」


 え、きっつ!!

 凍上さん取られちゃったら話せる女子は如月さんしかいないじゃんか!


 俺の人望のなさがここでも明るみになった……。


「で、誰がいい?」


「……えと……じゃあ……如月さん……」


「――へぇ。皇も意外だったわ。門音とか遅咲とかそっち系がタイプに見えたけどな」


 どんな風に見えてるのよ……。


「如月さんはまだ話せるからさ……」


「よしわかった。それはどうにかするぜ! それじゃあ眠れぬ夜を過ごせよ!」


 ……子供じゃないんだから。




***




「焔よ。今宵は悪霊狩りよの」


「――え、なにそれ!? 違うよ、度胸試しだよ!」


「この〖退魔鎮魂刀たいまちんこんとう〗を持っていけ」


ガチャリ


「な、なにその危ない刀は!? ――だから違うってば!」


「本来であれば悪霊狩りがあるとわかった時点で《無魔魂葬》を打てるようにだな――」


「いってきまー!!」


 ダメだ、爺ちゃんは魔を滅する事しか考えてない!




***




「あれ、もうみんないる……? 遅くなりました……」


「オケオケ! よし、全員来たねぇ……ヒッヒッヒー!」


「こ、ここ……ホントに大丈夫なんか……?」


「何よ、柄路えろ。こ、こんなんでビビってるなんて男らしくないのね」


「そう言う村富も足震えてんよー?」


「うっさいわね! あみはお嬢様だし! こんなド底辺企画に来てやっただけでもありがたいと思いなさいよ!」


「ひょーオバケ並みにこわ! と言うわけで……第一回師走肝試し大会、開催します!」


パチパチ……


 この棘々《おどろおどろ》しい場所に10人も集まれたのは凄い。

 皆、怖くないのだろうか。


 それにここは紛れもない呪界……。


 なぜ呪界に来れるかというと、ここが墓場だからだ。

 炎獣に荒らされないよう、墓場は強力な超電磁PA(パルスエリア)となっている。

 人間よりも聴覚や感覚器が鋭い獣は、超電磁パルスを極端に嫌う。

 設置費用が馬鹿高いとかで炎天化全域にはPAを展開できないのが難点だが――。


 ま、そのお陰で安全に度胸試しができるらしい。


 でも今はそれどころじゃない。

 田中くんのことが気になって仕方ない。

 本当に凍上さんのことを……。


 そっちの事を考えすぎて、鮫島くんの言った通り眠れなかった……。


「それじゃあペア決めに入りま。この箱の中からボールを取って、同じ色が出たらその人とペアを組んでもらいやっす。ホントは箱を2個にして男女別にしたかったんだけど、村富がブーブー言うから1個にしてるというね……」


「当たり前じゃない! 運悪くクジで男子とペアになったのなら諦めはつくけど、確定で男子とペアなんて条件は嫌だから! アッシュ様でもいたら話は別だけど♡」


「おー……まだアッシュにご執心なのね。一筋なこと……。――というわけで、()()()男子と組むことになっても女子の皆さんは諦めてくださいな!」


……こうは言ってるけども。




〜〜〜




「サメジー、これじゃ計画がパァじゃんかー!」


「フッフッフー。田中ぁ、皇ぃ。聞いて驚け! 確かに村富には『一つの箱にしろ』って言われたけどな……問題無し! それならそれで俺の魔法【カインド・オブ・ピッチ】で玉の色を自在に変えて、予定通りのペアを作ってやるぜ!!」


「おー、なるほど。あえて一つの箱にして公平性を演出してるんすね! ヒュウヒュウ! 頼りにしてます鮫島さん!」


 ……大丈夫かな。




〜〜〜〜〜




 というようなやり取りをした。

 魔武本の球入れの時みたいな原理かな?

 球を触った瞬間に色を変える……って魔法があったからそれに近いものだろうか。


 ――だけど俺だって凍上さんとペア組みたかったよ。

 協力するって言っちゃったし仕方ないか……。


「5色の玉、2個ずつ10個入っています。同じ色がペアです。……それじゃあ、誰から引く? 誰でも良いけど」


 そう言ってあらかじめ用意した、無色の玉が10個入った箱を振ってガラガラと混ぜたフリをしている。


「――私が引く」


 そう言って凍上さんが箱に手を入れた。

 一番手で引きにいくとかなんか男らしい。


 しかし、凍上さんが手を入れた瞬間……!


パキパキ……!


 箱がパキパキに凍る。


「あ、ごめんなさい。ちょっとりきんじゃって」


サラァ……ボトボト


 すると箱の底が割れて白い球が10個全て落ちてしまった。


「――えっ? 全部白⁉」


「「あっ……あーーっっ!!!」」


 田中くんと鮫島くんは絶叫した。


「ねえちょっと。なんでボールの色が全部白なのよ!」


「これって――イカサマ!? イカサマってやつなのね! 面白ーっい!」


 如月さんは何故か面白がっている。


 凍上さんを見ると全てを理解していたかのように冷ややかな目で鮫島くんを見ている。


 ……いや、俺にまで冷たい視線を送って……!?


 村富さんが球の一つを拾うと白から黄色に変化した。


「はぁ……おかしいと思ったのよね……。やけに素直だったから。――あんたたち……何を考えてたかはしらないけどあみに対して《《サマ》》をするということはどういうことか。どう落とし前つけようか」


 村富さんの表情が変わる。


 たしかこの子は親のギャンブルとか見なれてるっぽいからこういう世界の事に慣れてるのかな……。


「「ごっ、ごめんなさい!」」


「謝って済むと思うんじゃないわよ!! 【フルスプラッシュ】!」


ビシャア


「「ギャァア!!」」


ビッシャァ


 な、なんで俺まで……!!





 村富さんの«水魔法»が頭上で炸裂して男子全員、全身ずぶ濡れにさせられてしまった。


「な、なんでこうなった……?」


 土山くんは不憫でならない。

 彼には今回のことを全く話をしていなかったから、そう思うのも無理はない。

 ……いや、俺だって完全にとばっちりだと言いたい。


「水も滴る良き漢とはオレのことかな? おしゃマンBaby〜♪」


 柄路えろくんは……水を得た魚のように急に爽やかになりだした。

 プレイボーイらしいからペアの子が心配だ。

 

 大体、心を読める凍上さんにそんなイカサマを仕掛けようとしたことが間違いだったんだ。

 ――って、それをすっかり忘れてた俺も仕方ないけど。


 なんか毎回そのことを忘れるんだよね。

 常識的範疇を超えてるから……。



「いやぁー、師走の肝試し! 面白くなってきたねえ!」


 開き直った鮫島くんは腰に手を当て、ビショビショになりながら、柄路えろくんに負けじと爽やかに答える。


 ここまで悪びれないと逆に清々しい。



「はい……。ズルなしで……」


 そう言って何かを手渡してきたのは門音さん。


 これは……パーカーの紐かな?

 即席で作ったのか、5本の紐を半分に折り曲げて持ち、10本に見せている。


「へー、なるほど。一斉に選んで同じ紐の人とペアってことね?」


 門音さんはコクリと頷く。


「サンキュー! 門音ッチ! アナログぅ! 機転が利いててサイコーだねっ!」


 ……さすがにウザがられないか心配だ。


「はい、全員紐掴んで」


 ……ん、これは……!


 〝完全なる運〟ならば凍上さんと当たる可能性も⁉


 ハァ、ハァ……!


 この場合、女性と当たる確率は約56%、凍上さんと当たる確率は約11%……!!


 ……ダメだ、確率なんて目安にしかならない!

 神様……!!


 ビシッ!


 紐の先には……!

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