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第95話 無情迅速(むじょうじんそく)9

 学校に着いた俺はまず保健室に足を運ぶ。

 体をキレイにしてもらおうとしたのだが……先生はいるだろうか。


 あ、いた。


「先生、おはようございます!」


「ああ、え……皇くん? どうしたのこんな早くに」


「また……体をキレイにしてもらおうと思いまして……。お願い出来ますか?」


「……あのねぇ、確かにこの魔法は私のオリジナル……固有のものよ。美容系魔法でも〝さっぱりした感じ〟はあっても〝実際にキレイにする〟なんてものは無いわ。だからといってそんなにポンポン使ってもらえると思わないで」


「そうですか……わかりました……」


「……あー、わかったわよ! そこに座りなさい! 全く……。そこでそんなに悄気しょげられるとこっちも罪悪感にさいなまれるじゃないの」


「すみません」


「で、何でまた来たの? 疲れて寝ちゃってお風呂に入らなかったーとか?」


「あ……いえ……。昨日怪我して入院してたので……」


「にゅ、入院⁉ え、また⁉ あの時みたいに⁉ 何でそんなに怪我ばっかするの。どうしてそうなるか自分でわかってる?」


「はい……。無茶ばかりするからです……」


「そうね、そうじゃなかったら半年に2回も入院なんてしない――。……あれ、でも一昨日は普通に学校来てなかった? ん……よくわかんないんだけど」


「え、えーとですね……。昨日部活の遠征があって……。そこでBMWに襲われて――」


 あ……しまった、遠征のことは秘密だった!


「はあ⁉ BMWってメラビーストの⁉ え、正気⁉ ってか……え、むしろ何で生きてるの?」


「あはは……。今まで2回もエンカウントしてるんです。まあ1回目は逃げただけですけど」


 先生は黙って俺の目を見ていた。


「逃げただけ……ってそんな簡単に言って……。……でも嘘はついてなさそうね。それ結構、偉業だと思うけど?」


「な、なんかそうみたいですね。前、学校に来た専門家の人に言っても嘘だと思われました」


「あの3年の南芭くんでも、もしかしたら危ないのに……。凄いわね」


「いや! 自慢してるわけじゃないんです! 自分でもあの時は必死だったので……。逃げて褒められるのもなんだか変だし……」


「皇くん。……人はね、生きていれば勝ちだと思うの」


「……勝ち……ですか?」


「……『長生きすることが勝ち』ってわけじゃないとは思うんだけど。でも死んじゃったらそこで終わり。何も感じない真っ暗な空間に行く。最終的に全人類の魂はそこへ行き着くの」


 ……なんか変な話になってるけど……。


「でも生きていればこの色、この感覚、自身の存在を感じることが出来る。快も不快も確かめられるってことがどれだけ素晴らしい事か!」


「……うーん、難しいです」


「そうね、でも案外簡単なのかもよ。自分は確かに今、ここに存在しているんだから。人が生まれてから今日こんにちに至るまでそれを繰り返しているだけ」


「は、はあ」


「それは良いとして……昨日入院したこと、他の人には黙っていた方がいいわ。きっと逆井さんも言わないはず。……顧問って楠先生でしょ? バレてもちょっと怒られるくらいだと思うけど」


 保健の先生、めっちゃ物分かりのいい人だったー!

 なんかそういう境遇だけは転生してから少しはマシになってきた気がする。


「……ありがとうございます。確かにそうですね、そんな感じがします。でも俺を思ってのことなら何でも嬉しいです」


「……フフ。あなた、聞いてる通り本当に面白いわね。何か憎めないって言うか気になるって言うか」


「そう言ってくれる人はほんの一部……。全ての人に当てはまるわけじゃないんです。それが本当だったら……今の俺はこんなことになってませんから……」


「…………。その歳で闇が深いとか……驚きね。まあ少しリフレッシュなさい」


 そう言うと俺の目の前で右手を広げた。


「【クリンネスライト】……!」


パァァァ……


 一瞬でお風呂上がりの様なサッパリした感じが全身に広がる。

 これ、ホント凄いよな……。


「はいっおしまい。――1年生は今日、半日授業でしょ? こんな魔法じゃなく、早く帰って普通にお風呂入って気持ち切り替えた方が良いわよ。じゃあ私は朝の会議の準備をするから」


 そう言って半ば強引に外へ出された。


 ……何でわざわざ、帰ってからまたお風呂に入れって言うんだろ?

 こんな便利な魔法があるのにさ。



***



 教室には既に何名かの生徒が登校していた。

 特に騒ぎ立つようなこともないため、昨日の俺の入院の件は誰にも知られていないだろう。


 ……しっかし1年間で大怪我が何回あったよ……。


 まず転生直後でしょ……?

 呪界散策時のガーディアン……。

 MM−1でのアッシュ戦……。

 そして今回……。


 つくづく死に損なっている……。

 ここまでだと、悪運が強いというよりもある意味これも運命なんだろうか。





 午前の授業が終了した。

 部室にいってあの後の事を聞こうかと思い席を立った。

 すると突然声がする。


「皇はーん、おはようさーん……」


「うわっ!」


 急に大声を出してしまったため、教室にいたクラスメイトはこちらを見る。


 部長だ……。

 いつもより声は小さかったが、あまりに突然過ぎて驚いてしまった。


「ぶ、部長……昨日はありがとうございました。丁度今から部室に行こうと思ってたところですから!」


「あ、すまん……。せやな、昨日のあの後の話をしたいんでな……。じゃあすぐ部室に頼むで。詳細はそん時に。頼んだで……」


 なんだろ……なんか……元気がなかった感じ……。



 ***



「部長ー、昨日のあの後ってなんです?」


 俺はすぐに部室へ行って部長の話を聞く。


「来はったか。……まあ座りいよ」



 しかし一向に喋る気配がない。



「……え、部長? 寝てるんですか?」


「昨日藤堂が……死んだ」


「……は? え、ちょっと何言って……? まさか……。いつもの冗談ですよね?」


 急に告げられた言葉に頭が追いつかない。


「ウチは藤堂に、『BMWの動向を探る、近辺の偵察、遺体の回収』を任せた。せやけど待てども診療所に来る気配がなかったん。朝、皇はんが退院してった後、シビレ切らしたウチは藤堂につけてた【ブラゲ】で慎重に転移。……先はあの渇口湖。せやけどそこにはまっ黒焦げの塊が《《3体》》並んでたんや……。その内の2体から旅人のDNAが検出されてな。もう1体は……激しく損壊しとってDNAの識別も出来ひんかった。無理くりやが、残る1人の旅人の可能性も示唆しやったん。せやけど藤堂が警察に引き渡して無事保護されとる……。まあ、途中でやられたんにしろ3体並べる意味わからんし連絡すら取れんのやから……。以上のことからその黒焦げの1体が藤堂であるとみて間違いないん……」


「嘘だ……そんなの……」


「ウチかて信じとうなかった。せやけど……一番信憑性高いんがウチのゲート……。藤堂につけてたゲートを開いたら黒焦げの塊やったって言うんが……」


「う……うわああああああ!!!!! 何で……何で……!!」


 信じたくない、あれだけ良くしてくれた先輩がそんな簡単にやられるとは思ってなかったからだ。


「お、落ち着けて皇はん……。せやけど……魔武学にいる以上、これがつねや。逆にウチらが死んどってもおかしくはあらへんかった。現に皇はんは死にかけた。なのに藤堂が死んだ。これが運命やったん――……」

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