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第85話 孤軍奮刀(こぐんふんとう)8

「――まああれだ。力なき無魔が俺に楯突いたとはいえ同情しないでもない。こんな世界に飛ばされていつの間にか最強の生徒との戦いを強いられているんだからな。元々お前にいじめられっ子の気質があったとしか思えないが――」


「え……ちょっと……なんでそれを……」


 アッシュの言ったことが頭の中を駆け巡る。


 今の発言からして、少なくとも僕が転生者ということを知っている口ぶりだった。

 それを知っているのは爺ちゃんと凍上さんだけだ。


 どちらかがアッシュに教えた……?

 いや、そんな訳はない……。


「ッハ! 気になって仕方ないようだな。だがそんなんじゃ俺に勝つことはおろか一発入れることすら無理だろう」


ビュン……


 凄い勢いで球のようなものが飛んできた。


「…………!」


 僕はどうにか身体を反らせて避ける。


「ほう……今のを避けるか。ならば連続でいくぞ」


ビュンビュンビュン……


「うっ……、うわ……!」


 アッシュが投げるモーションをどうにか読んで最小限の体動で交わす。


「魔法弾を避けきるか。地味に反射神経はいいな。ではこれならどうだ?」


ドン!!


「うっ……」


 左脛に鈍い痛みが走り、膝をつく。

 見ると、服の焦げた跡と焦げ臭いニオイがした。


 今までどうにかアッシュの魔法を放つモーションを読んでいたのだが、それが全くなかった。

 何の前触れもなく爆発が起きたのだ。


 やっぱり魔法の速度はギル様よりも上……!


「な? 見ろよこの圧倒的な力の差。お前が勝つビジョンは見えないだろう。全生徒もそう思っているはずだ」


「…………」


「もうこれは学校の大会じゃねぇ。そして真剣勝負でもねぇ。ただの殺戮ショーにしてやるよ」


ドンッドンッドンッ……


「うわあああ!!」



「皇選手! 成す術なし!! 本来ならこうなるのです! 魔法が使えない者は魔法師から一方的になってしまうのが必然……! 今までは単に運が良かっただけなのでしょうか!!」



「く……ハァハァ……。な、なんでここまでするんだよ……。簡単にやれるんでしょ? それをわざわざいたぶるように……人を傷つけてそんなに楽しいの!?」


「……はぁ。お前は一体、何のために戦ってるんだ? 本当にただ成り行きで俺と勝負してるだけなのか?」


「え……」


「俺にはちゃんとした目標があるんだよ……。テメェよりも明確で確実なモンだ。こんな腐った無魔にはゼッテェ負けねぇってな」


 何のために……。

 アッシュに無理やり大会に出されて……僕は成り行きで戦ってるだけ……。


 目標なんてあるわけない。

 勝てるわけがない相手と勝負して、勝つなんて目標を持つことは無駄だから……。


「……煮えきらねぇ……。そういうところがムカつくんだよ! 本格的に痛い目をみせてやる。お前はただの病院送りで済ますかよ」


ブオオン……


 右手を3本指、左手を4本指を出す構えを取る。

 この構えは……【七光(セブンフラッシュ)】の時の……!



「【セブンス・アブステルダム】」



ビチャ……ゴポ……



「ッ……⁉」


 く、苦し……痛っ……重っ……!!



「こ、これは……⁉ 皇選手、突然苦しみだしました! 一体何が起こっているのでしょうか!!」




◆逆井光side◆




「ハァァ……こらぁ度肝抜かれたわ……。マジでヤバいヤツやったってことやんな」


「まあ……ある程度はわかってはいましたけど、ここまでとは思いませんでしたね」


「〖古代魔法〗……。まさか魔武イチ(ここ)でお目にかかるとはの」


「それも一年生で……皇殿の相手とは……いやはや……」


「魔法分類は……アブステータス。デバフの一種で〝7つの状態異常を同時にかける〟〖古代魔法〗やな……。攻撃系の〖古代魔法〗やないにしてもデバフの方がタチ悪い……。凍結、麻痺、羞明、火傷、硬化、酸欠、+Gが一度に襲いかかる。地獄やで……。あら逃げとうなるわ」


 ……皇はんには、ちと荷が重い相手やな……。

 正直タイマンで勝負するには2年早かったか……。

 死なんかったらもう勝ちやで……。

 それくらいの相手やった……。


 気張りぃや……皇はん……!




♠皇side♠




ゴボっゴボボ……


 く、苦しい……!

 苦しいのは……もう嫌だ……!


 僕はその場で水面に上がるように、手足をバタつかせて藻掻もがいた。



「……やば……なんか……みっともないな……。ちょっと笑えないくらい……」

「さ、さすがに……あれは恥ずかしいな……」

「怖えー……くらいたくない魔法だぜ」



「ふむ。少々取り乱してしまったが……君の姿を見て少し落ち着いてきたよ。皇くんにとって溺水が一番苦痛なようだね。だがもっと優雅に舞うといい」


ビシッ……


ビクッ……ビクッ……


 急に身体が痺れてその場で倒れ込む。

 まるで僕は死にかけの金魚のようだ。


「……はぁ。決勝の相手がこれだとつまらないよな。だったらまだ開始直後にリタイア……の方が観客的には面白いと思うのだがね」



「あ……圧倒的……!! これが一年主席で英雄の孫、アッシュ=モルゲンシュテルンです!! まるで一回戦であるかのような余裕を見せております! 一方の皇選手は満身創痍! 正にまな板の鯉……! 弄ばれております! かつてこのような一方的な試合があったでしょうか! これが決勝で行われているのです!!」



「お、おい……。あまりにも圧倒的じゃね……?」

「ここまでだとは思わなかったぜ……」

「魔武本は何だったんだよ……」

「あっちは行事みたいなもんだからな。3対3だったし……。正式な試合だとアッシュに敵うわきゃねぇよな」

「くー……なんで賭け禁止になっちまったんだよ……」

「完全に魔武本の時の進行妨害のせいだろ……。運営側も今まで黙認してたけど、あの二条さんを怒らせてしまったんだからな……」

「とにかくもう勝負は見えたって。どう考えても皇に勝ち目はないよな」

「……だろうな」



スッ……



 状態異常が解かれた後でも僕はまだビクビクいっていた……。



「はぁ……最早もはや醜い。皆もつまらないよなあ。こんなのが決勝だと」


 言い返したいが声も出ないし言葉もない。


「――観客の誰一人として()()がない。本当に人がいるのか疑わしいほど()()……。何故だ? 楽しませるにはどうしたらいい? 何をすればこの静まり返った観客を沸かせることが出来る?」


 口を開こうにも全身が麻痺して動かない。


「……ああ、まだ効果が残ってたか。それじゃあ喋れないな。すまないね」


ポワァ……


「カハッ……ハァ……ハァ……」


 呼吸苦、痺れがとれ、身体が動くようになった。

 まさかアッシュが僕に回復を使ったんだろうか……。


「なあ、どうしたらいい。なぜ魔武本の時のように観客は沸いていないんだ?」


「ハァハァ……無理だよ……こんなに一方的じゃ……ハァハァ……面白いと思うほうが難しいよ……」


「ふむ、やりすぎてしまったか。やはり無魔相手には加減をすべきだったか? いや、これでも手は抜いているはずなのだが……。思ったよりも魔武本での負けが尾を引いていて、自身の気づかぬところで根に持っていたのか――」


 アッシュはブツブツと独り言を喋っている。


「かと言って今のお前は腑抜けも同然。私と競り合う余力も気力もないだろう。この際、観客を楽しませるのは諦めるか……」


 長い独り言の間に、僕は近くにあった木剣を杖代わりにして立ち上がる。


「ああ、そうか皇くん。もうやめようと思う。手加減するのを――」


 「やめる」と聞いて一瞬、試合をやめてくれると勘違いした自分が恥ずかしい。


「手違いで殺してしまってもどうにかなる。この学園に必要な者がお前ではなくこの俺ということに」


 …………。


「そして気づくはずだ。お前がいなくなれば俺の元に来るしか無い女をな」


「……どういうこと?」


「凍上華々を力で支配し、屈服させる。俺に従わないなら嬲り、虐げ、犯す。足を舐めさせ、そして汲まなく全身を。俺を欲しがるまであの肉で弄ぶ。お前の亡骸の前でな」



ブッ……



 その言葉に全身の血が一瞬で沸点を超えた。



「ッ……ハ! 出たなその中二面! その面のテメェをぶっ潰してやる。一欠片ひとかけらの希望ごと消し飛ぶか?」


 僕は持っていた木剣を投げ捨てた。



「……木剣を捨てた!? 命も捨てたか皇選手ーっっ!!!」



「そんなんじゃ俺に触れられやしねぇんだよこの雑魚式がぁぁぁぁ!!」


「……いい加減にしろ……!!」




ドゴッ……!!




「皇殿……!!」

「皇はん!!」

「ホッくん……!!!」



「ほむらああ!!」




「爺ちゃ……」




ドサッ……




「く……バカな……」



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