第79話 孤軍奮刀(こぐんふんとう)2
これ……やるしかない感じだよね。
でも、プラスに考えれば特訓にはなるか。
「さぁ、第1試合! 1年、皇焔 対 2年、剛力強! はじめ!」
「うおおお!! 剛力ぃぃ!!」
「やったれぇぇぇ!!」
「強ぃー! しっかりしろー!!」
本当に始まってしまった。
「試合します」って言っていきなりポンと相手の前に出される僕って……。
不運以外のナニモノでもない。
それに相手はかなり強そうな見た目をしている。
本当に高校生なのだろうか……。
「フヒヒ! お前、無魔な上に力もないクソ弱いって有名な1年だろ? ウハハw まさかこんな雑魚がMM−1本戦に出場出来るとはな。ま、こっちは一回戦からラッキーだぜ。かかってこいよ!」
……ここは異世界。
生まれ変わったあの時……あのどうしようもなかった時の自分とは違う。
力もそれなりにつけてきた。
魔武本でもアッシュ相手に善戦した。
こうなった以上、覚悟を決めるしかない。
「こいつ、脚が竦んで動けなくなってんのか? ウヒャヒャw それなら俺がひと思いにやってやるぁ!」
そう言って持っていた三節棍を振りかぶった。
「《バーニングリミッツ》……」
ジュッ……ボトボト
「……れ?」
棍同士を繋いでいる鉄の鎖の部分を燃やして焼き切った。
「おーっと、剛力選手愛用の三節棍がバラバラ!? 振りかぶった力が強すぎて引き千切れてしまったのかー!」
「な、なんだこりゃ? 今までこんな事……まぁいい。こんなもんなくたって素手で十分だ! 捻り潰してやる」
そう言って拳を握り、こちらに向き直る。
半年以上も爺ちゃんの厳しい修行に耐えてきた。
今や、僕自身の目も鍛えられている。
武器と拳で構えた時の体幹、筋肉の動きでこの人が見た目ほど強くないことがわかった。
けどなんというか……まぁ……どの世界でもこういう絵に書いたような噛ませ犬がいるんだろ。
僕も人のことは言えないけど、さすがにここまでではない……と思う、思いたい。
「それじゃあもう一度……。《バーニングリミッツ》」
ボッ……
僕は後ろ手に指を鳴らし、彼の服だけを燃やした。
「あっ……キャー!」
キャーじゃないわ……はい、終了。
「剛力選手、突如全裸で戦意喪失! 勝者、皇選手!」
……端からみたら僕、なんにもしてないように見えるよな。
動いてさえいなかったし。
「え、今のってどゆこと? 皇の魔法……?」
「何言ってんだよ。皇は無魔じゃねぇか」
「でも相手は皇のこと、何も知らなかったな。確か魔武本も病欠してたらしいし」
「へー、だからか。皇は魔武本準優勝のシード権使ってるって知らなかったもんな」
「そうだな。それに無魔は無魔でもあのアッシュチームに勝った無魔なんだよなー。勉強不足乙……!」
「でもよ、なんで剛力の服が消えたんだ? もしかして皇の隠された能力とか……!?」
「え、やだ……キモ……。近づいたら全裸にされちゃうってこと?」
「いや、それは興味深いけどありえなっしょ。なんたって無魔だし」
「それもそっかー! 筋肉で服がビリビリになっただけかー!」
…………。
前にも言ったけど僕は目立ちたくない。
こんな舞台に上がっただけでも注目されてしまうのに勝ち進めていって……優勝なんかしちゃった日には……!
……いや、優勝は無理か。
前世に小説とかで見たけど、転生した後のこういう大会に出ると簡単に優勝出来ちゃったりするんだよな。
転生した人の能力が強いのか、はたまた相手が弱いのか。
僕は転生しても、不遇な火の能力であることが辛かった。
そんな前世ライターだった能力も、努力次第でどうにか使い物にはなった。
転生すればチートのような力が与えられるっていうのは案外、虫の良い話なのかもしれない。
それにしてもアッシュが気になる。
観客席にいるアッシュを遠目から見る。
……目があった。
冷笑……嘲笑……。
「(その悪あがき、いつまで続くか見せてみろ。仮に決勝まであがってくるようなら……その時は全力で沈める。そしてお前の無様な姿を皆の前で晒す。憧れの凍上華々にもな)」
爺ちゃんから教わった読唇術で、ある程度理解することができた。
久しぶりに見た裏の顔だったけど……そういうことか。
やっぱり皆の前でどうしても僕に恥をかかせたいと……。
最近まで静かだったのは機を伺っていたということか。
はぁ……。
***
「第5試合! 1年、アッシュ=モルゲンシュテルン 対 3年、土橋小路! はじめ!」
「初戦で私に当たるとは不運ですねぇ、土橋さん」
「へっ、さすが1年首席……。魔力量が桁違いだ。だが初戦からリタイアなんてできねぇ。相手が強くたってやるしかねぇ! いくぞ、マドマル!!」
ボコッ……ボコボコ……
「おーっと土橋選手、マッドドールを作り出したー……!! しかし!? アッシュ選手お構いなし!! そこへノータイムで詰め寄っていく!」
「え、お、おま……!!」
ザシュッ……
「な……」
ドタッ……
「手刀……!? 手刀で薙ぎ払っただけ!? マッドドールごと土橋選手を短時間、最短距離で切り裂いた! 早い、速すぎる!! さすが驚異の1年主席、アッシュ=モルゲンシュテルンー!!!」
「泥人形……ごと俺を倒す……か……」
「泥人形で仕掛けてくることくらいアナライズで把握済みさ。俺は面倒臭いのが嫌いなんでな。その泥は生成直後が一番脆く物理に弱いというのも知っている。その瞬間なら泥ごとあんたを断てば……くく。お互い泥仕合は避けたいだろ?」
「勝者アッシュ選手! 圧倒的です!!」
「おいおい、むちゃくちゃだなやっぱ」
「俺、土橋と同じクラスなんだけど、あの泥人形、耐久自体は結構あるんだぜ?」
「そうそ、簡単に切れない切れない! 1年の副担任してるあの……ほら、なんとかって先生の【マッドドール】を覚えたらしいから」
「へー、それをあんな簡単に真っ二つにできるんか。すげぇな。英雄の孫ってのはやはり伊達じゃねぇな」
会場が沸いている。
あんなのと勝負しろっていうのか……。
うーん。
このまま続けていっていいんだろうか。




