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第2話:落第魔法師は予想外の注目を浴びる

「手続きには関しては私が押し通せば今日中にはなんとかなるはずだ。……ということで、君は明日からEクラスの生徒として勉強してもらうことになる」


「……Eクラスですか?」


「この学院の慣習として、Eクラスはなかなか愉快なものが集まるというのは君も知っての通りだ。ふふっ、なかなかお似合いじゃないか?」


 俺は苦笑いを浮かべる。

 A~Dクラスは成績順に割り振られるのに対して、Eクラスは特別だ。成績に関わらず、何らかの個性が認めらたものが集められるのだ。


 確かに、世界で唯一の男の魔法師ともなれば個性の強さはピカ一。お似合いと言われても否定できない。


「寮の部屋は明日までに用意しておく。今日のところは、ここのソファーで寝るといい。そこの戸棚に保存食があるから、とりあえずそれを食べろ。トイレもそこにあるものを使え。混乱のもとになるから、今日はこの部屋から出ないこと。わかったな?」


「お気遣いありがとうございます」


「疲れが溜まっていては学業に差し支える。それだけのことだ」


 俺は学院長の厚意に感謝しつつ、明日からまた始まる学院生活に胸を膨らませて次の日を迎えた。


 ◇


 一限の授業が始まる前の朝礼で、俺は編入生として紹介されることになった。学院長が俺の話を完全には鵜呑みにしていないのと、千年前の人間だと紹介しても生徒たちからは受け入れがたいだろうということから、俺は編入生という扱いになった。


 余談になるが、一学期の成績を誤魔化す上でもこれがベストな形だということらしい。


 担任のアネットという女性教師に連れられ、教団の上に立つ。


「今日からこいつが、編入生としてお前たちと一緒に勉強することになる。ちょっと変わった見た目だが、仲良くしてやるように」


 ちょっと変わった見た目って……酷くね?


「ねえ、あれが噂の男の魔法師?」


「うそぉ、本当にいたんだ。男の魔法師」


「でもちょっと怖いかも……」


 みんな興味はあるものの、女子だけの学院に男が入ってくるのはちょっと抵抗がある感じか。


「アキヤ・イナヅキです。今日から皆さんと一緒に勉強するのが楽しみです。よろしくお願いします!」


 よし、なかなか爽やかな挨拶だったんじゃないか?


「ちょっとかっこいいかも……?」


「男の魔法師って聞いてたけど、わりと普通?」


「男の人の声って新鮮かも!」


 評価も上々。寝る前に必死に考えてきた甲斐があったというものだ。第一印象が肝心だからな!


「よし、じゃあアキヤ。空いてる席に座ってくれ」


「はい」


 生徒の席は教卓より高い位置にある。俺は階段を上って、空いている席を探す。


「あっ」


 昨日俺が助けたリアナと目が合った。

 彼女は俺と目が合ったことに気が付くと、そっと目を逸らして俯いた。

 それから、


「あ、あの……もし良かったら隣、空いてますよ」


「そ、そうか。……じゃあ、失礼するよ」


 俺はリアナの隣に腰を落ち着け、一限の授業を迎えた。



 一限目の授業は、魔法理論に関するものだった。俺が最初の百年で散々勉強したことばかりなので、まったく難しくない。千年の間に魔法理論が進化していたかというと、そんなことはなかった。


 千年前の授業に比べて、むしろ酷くなっている。

 こんな授業でよく生徒は魔法が使えるようになるものだな。


「――飛行魔法の術式は複雑で理解は容易ではない。なにせ、風を完璧にコントロールする必要があるからな。では、この図に飛行魔法の術式を書き込んでもらおう――アキヤ、書いてみろ」


「俺ですか?」


 初日からクラス全員の前で問題を解かせるなんて、厳しい人だなあ。


「編入生だからと言って、特別扱いはせん。解けなくても仕方ないが、解こうとする意志が大切だ」


「わかりました」


 俺は席を立って、階段を下りていく。


「アキヤ君可哀想……あんなの私でもわかんないよ」


「絶対無理だよ。……このクラスで一番優秀なリアナちゃんでも失敗したのに」


「当たらなくて本当に良かったぁ……!」


 どうやら、この問題は普段の授業から見ても難しいらしい。確かに無駄に複雑な術式だよな。


「アネット先生、質問いいですか?」


「答えに繋がること以外なら構わんよ」


「これって、風魔法以外を使っちゃいけないんですか?」


「使っちゃいけないということはないが、風魔法以外でどうやって飛ぶ気だ? ……まあいい、やってみろ」


 俺はアネット先生が書いた図の隣に、新しい図を書き始めた。

 飛行魔法は風魔法を使ったものだが、『風魔法だけ』を使っていると、安定しなくなる。無風の状態だと風を取り込めずに墜落してしまうのだ。


 これを実戦レベルで使うには先を読んだ職人レベルの技術が必要になる。

 魔法で風を作って、それを利用した方がよほど効率的だ。


 俺はサラサラと五大属性の全てを複合した効率的かつシンプルな術式を図に起こした。


「五大属性魔法を全部使うだと……!? そんな術式が成立するわけ……いや」


 アネット先生は目を見開いて、注意深く俺の書いた図を凝視した。

 十分以上ジッと見つめて、「なるほど」と呟いた。


「これは……成立してしまう。……こ、こんな革命的発想、見たことが無い。一体こんなのをどうやって……」


「あ、それと風魔法だけを使うこの術式なんですけど、これ間違ってますよ」


「間違いだと……? 何百年と使われているこの術式が間違っているとは正気か!?」


「本当ですよ。実際に見た方が早いかもしれません」


 俺はアネット先生が書いた図の一部を消して、新たにいくつか書き足す。このくらいの簡単な魔法なら記述量も少ないし、図に起こすのは簡単だ。


「た、確かにこの方が洗練されている……! どうして人類は今までこれに気が付かなかったんだ!」


 驚くアネット先生に、俺は説明を始める。


「そもそも、あの術式では墜落することがあったんじゃないですか?」


「ああ、飛行開始から一分くらいは安定しないから、たびたび墜落してしまうこともあった。当たり前だと思っていたが……」


「それにも理由があるんですよ。座標の定義におかしな部分があるので、その位置ズレが起きた時に魔法が強制解除されてしまうことがある。それが安定しない原因です」


「ちょ、ちょっと理解が追い付かない。少し休ませてくれ。……席に戻ってくれていい」


「あっ、はいわかりました。問題に関しては正解ってことで?」


「そんなレベルではないが、文句のつけようがないな」


 よし、出だしはバッチリだろう。

 知り合ったばかりのクラスメイトたちにバカだと思われるよりは、ちょっとできるやつくらいには思われた方がいい。


 俺は階段を上って、リアナの隣の席に戻った。


「アキヤ君って何者なの!?」


「あんな術式見たことないよ!」


「私キュンときちゃったかも!」


「アネット先生にあそこまで言わせるなんて絶対ただ者じゃないよ!」


「アキヤ君凄い!」


「落ちてきたリアナちゃんを無傷で受け止めたって話、本当なんじゃない!?」


 あれ……あれれ?

 俺が思った以上に評価が高くなってしまった。

 バカだとは思われてないみたいだけど、これはちょっと想定外だ。


 俺は平和に学院生活を送りたいだけで、ここまで目立ちたくはないんだけど、間違いを指摘せずにそのままにするってのも気持ち悪いし、あれは仕方がなかったと割り切るしかない!

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