第73話 俺の味方は……生徒会
また時間をかけてしまいました……
〜あらすじ〜
俺は皇家次期当主選に出ることになった。
その際に起きた姉さんの突然の辞退。
そしてなんと委員長こと城凪夕陽を推薦する姉さん。
委員長は俺の異母姉さんなのか!?
そして姉さんの俺に対する宣戦布告……
どうなる俺!?
姉さんに言われたことをずっと考えていた。
俺は……当日当選しなければならない。
そのためには姉さんを倒さなければいけない。
分かってはいたんだ、姉さんと敵同士になることくらいは。
でも、覚悟が足りなかったんだ。
姉さんは割り切っている。
だが俺は……まだまだ子供だ。
第73話
その日の夜、俺は眠れなかった。
当主選のことで。
その日、俺の運命が決まる。
父との約束の一つとして当主選に勝つということがある。
もし勝てなかったら再び皇家から追い出される。
未練なんて何一つも無いが、今までのことが全てパーになってしまう。
さや先輩のことも……
だから俺は5日後の当主選を絶対に勝たなければいけない。
絶対に負けられない。
そんなときに突然姉さんの辞退宣言。
委員長が実は俺の異母姉で、姉さんの代わりに当主選に出ること。
その後の姉さんの俺に対する宣戦布告。
それらが全て俺の中に混ざり合って……融けはしなかった。
その全てが俺を中から攻撃する。
俺は……
コンコン
「はい」
突然ドアが叩かれた音がしたので、俺は跳ね起きた。
「失礼します」
「ああ、高橋さんか」
入ってきたのは小さい頃からお世話になっている高橋さんだった。
「ご気分が優れませんか?」
「え?いや……」
高橋さんが俺の顔をのぞき見る。
「早くお薬を!」
「あ、ちょっと待って!俺は平気だから」
俺は平静を装った。
が、きちんと装えているだろうか。
「当主選に出たくありませんか?」
「そんなことは……ないんだ」
「お姉さんと戦いたくないんですね」
「……ああ」
俺は本心をさらけ出した。
「子供の頃からお坊ちゃまは……」
「あの、お坊ちゃまは止めてくれませんか?」
「申し訳ありません」
俺はずっとその呼び名が気になっていた。
何か子供っぽくて嫌だった。
「ではカイ様、で」
「ああいや……」
「カイ様は子供の頃からお姉ちゃん、お姉ちゃんと」
「そ、そんなに!?」
俺は高橋さんの言葉に驚いた。
「昔からお姉さんの後を着いてまわっていましたから……お気持ちはよく分かります」
「それってシスコンって言いたいんでしょうか?」
「はい」
「即答かよ!」
誰の目から見ても俺ってシスコンなのか?
血の繋がった兄弟姉妹を大切にして何か悪いか?
「フフフ、いつも通りになりましたね」
「え?」
「私がマイ様に真意を問いただしてまいります。マイ様もカイ様と戦いたくなんて無いでしょうから」
「そうだといいけど……」
あれから少し不安。
俺って実は姉さんのことを何も理解していないんじゃないのか、とか。
姉さんも俺のことを道具としてしか見ていないんじゃないのか、とか。
やめやめ。こんなことを考えるなんて万死に値する。
「では」
高橋さんが下がっていった。
「……ここには俺の味方が少ないのかな」
俺はここから遠い地である日本を思った。
そこには俺と毎日笑いあえる仲間がいて……
そこでの俺は今のように肩肘を張らずに、ナチュラルでいられた。
そんな俺が本当の俺ならば……ここでの俺は差し詰め操り人形……マリオネットということなのだろうか。
俺は鏡を見た。
酷い顔をしていやがる。
「こんなんじゃまたさや先輩に……怒られちゃう……な……」
俺はベッドの上で寝息を立て始めた。
高橋さんがその後戻ってきたことに俺は気がつかなかった。
「ふぐっ!?」
決してふぐを発見したわけではない。
たまたまこんな声を出してしまった。
たまたまこんなワードを打ってしまったというか……
そんなことはともかく、俺は突然のことに驚きを隠せなかった。
「何で誰かにしがみつかれてる!?」
朝起きて最初の発言が「ふぐっ!?」になってしまうのも分かるはずだ。
わかんねえよ。
おい!誰だ今言った奴!
「……何で姉さんが俺の部屋に……?」
俺は姉さんらしき人を見て言った。
昨日は俺に宣戦布告したはずじゃないの?
「ん〜……」
そのときモゾモゾと姉さんが動いた。
「はっ!」
そして突然飛び起きた。
中々面白い光景だった。
「おはよう姉さん」
「おはようカイ……じゃなくて!」
姉さんが頭を抱え始めた。
「何で私がこの部屋に!?」
「俺がそれを訊きたいんですが……」
「くっ……」
そう唇を噛んで姉さんは俺の部屋から出て行った。
何だか少しほっとした。
「……で、何をしようか」
俺はまだあまりまわらない頭で考えてみた。
「う〜ん……よし!朝の体操をするか!」
俺は朝の体操をし始めた。
でもそんなことをやったことがないので、すぐに断念。
「朝飯作らなくてもいいから……暇だ」
選挙活動を朝っぱらからする気はなかったし、父に会いに行く気も無い。
会ったところでまた俺を弄るだけだろう。
「さて……何をしよう……うっ!」
そのとき突然謎の頭痛が俺を襲った。
しかしこの感じを俺は知っている。
……武満だ。
俺の精神が不安定になるとき起きる頭痛だ。
「武満か……クッ……」
俺はベッドに横になって目を閉じた。
すると自然と体から力が抜け、意識はとんだ。
目を開けるとやはり真っ暗な空間。
武満が俺を呼んだのだろうか。
「おい、何の用だ?」
俺は武満に呼びかける。
「お前、俺の言ったことを覚えているか?」
すると背後から声がしたので、俺は振り向いた。
「お前の言ったこと?」
「ああ」
「……いっぱいありすぎて良く分からん」
「……」
武満が何とも言えない目で俺を見る。
何だかバカにされた気分だ。
「な、何だよ……俺は間違ったことは言ってないぞ」
「……前にお前がこの家に来たときにも言ったことだ」
「ああ、あのことか」
俺は何の変哲も無い扉の前に突然立ち止まったことを思い出した。
「後でいいだろ。当主選終わってからで」
「ダメだ。早くしろ」
「はぁ?」
俺はどうして武満がこんなことを言うのか理解できなかった。
しかも少し武満らしくない。
「落ち着かないんだ……ここには何かが隠されている……」
「……分かったよ。高橋さん辺りに聞いてみるよ」
すると武満はすぐに消えていった。
まさかこれだけを言いに来たのか?
俺は少し思案したが、すぐにやめ、頭を覚醒させることにした。
「ふぅ……」
段々この切り替えにも慣れてきたな。
最初の頃は死ぬほど苦しかったのに。
俺はベッドに普通に横になった。
「あ、高橋さんに訊かないと」
俺は部屋を出て、高橋さんを探すことにした。
廊下を歩いているといろんな人間と擦れ違った。
そしてそう擦れ違うたびにひそひそ何かを言われる。
結構うんざりなんだが。
もちろん俺は周りから奇異の目で見られるような存在ではある。
それは認める。
だからといって気持ちのいいものではない。
俺は多少後悔しながらも廊下を歩いて探し続けた。
「ん?」
「あ」
そのとき俺は前から来た委員長と目が合った。
「え、えーと……お、おはよう」
「お、おはようございます」
何かぎこちない。
無理も無いだろうが。
「高橋さんがどこにいるか知らない?」
俺は出来るだけ明るい声で訊いてみた。
「すいません、それはちょっと……」
「いやいやありがとうありがとう!じゃあ俺はこれで」
俺は急いでその場を離れた。
委員長が俺の姉さん……?
そんな心とやはり俺は委員長と戦わなければいけないという事実が俺を襲う。
どれだけ背けようとしても現実は俺に襲い掛かってくる。
願うことなら俺は姉さんと争わずに当主になりたい。
でもそれは叶わない……
「カイ様!」
「……」
「カイ様!」
「はっ!」
誰かに大声で呼びかけられたので俺は急いで顔をあげた。
「どうされたのですか?」
「高橋さん……」
声の主は俺の探し人だった。
「いや、何でもないんだけど……」
俺は高橋さんを見た。
「少し時間あるかな?」
「?」
高橋さんは少し首をかしげたのだった。
「訊きたいことがあるんだ。まず姉さんのこと」
俺は高橋さんを自室に呼んで昨日のことを訊いてみた。
「そうですか。すいません、マイ様のことは……」
「いや、それはもういいんだ。俺が聞きたいのは……俺からじゃなく、他の人から見た姉さんのことなんだ」
すると高橋さんは真剣に俺を見た。
「こんなこと言いたくはないんだけど……俺を勘当するように提案したのは姉さんですよね?」
「それは……」
「分かってる。口止めでもされてるなら無理に言わなくていい。ただ知りたいんだ。高橋さんから見て姉さんはどんな風に映っているのかな?」
俺は出来るだけ冷静に訊いた。
もちろん心の中は穏やかでは無い。
「俺から見た姉さんは……優しくて、面倒見が良くて……厳しいこともあるけど、それも全部俺のことを考えて……だから俺はそれが姉さんだと……思っていたんだ。でも……高橋さんから見た姉さんはどうかな?聞かせてほしいんだ。俺の知らない姉さんを……」
「カイ様……」
高橋さんに俺の真剣さが伝わったのか、高橋さんは話す気になったようだ。
「マイ様は……とても立派な方です。自他共に厳しく、常に冷静、頭の回転も速く、才能にも溢れる……。まさに完璧を絵に描いた人です」
「そうか……」
俺はテレビに出てる姉さんと同じか……と思った。
「ですが……こんなのは本当のマイ様ではありません」
「……」
高橋さんが俺の瞳を見る。
そしてその瞳で俺に語りかけてくる。
「カイ様と一緒にいるときのマイ様は何というか……リラックスをしているというか……その……本当のマイ様なんです!」
「本当の……姉さん……」
俺は自分と一緒の姉さんを考えた。
「だから信じてあげてください。マイ様のことを……」
「……そう、か。でも何で俺に何も言ってくれないんだろうな?どうして俺の前に立ちはだかるのだろうな?」
「そ、それは……」
俺は心の中がグチャグチャだ。
姉さんを信じたい、という気持ちがあればあるほどあふれ出てくる劣情。
「俺のことを考えてるならどうして俺の味方をしてくれないんだよ!」
俺は壁を叩いた。
「皇家で!俺には!姉さんしかいないのに!どうしてなんだよ!どうして!?」
俺の本心は……姉さんに俺の後押しをして欲しかった……
「なのに……俺は……無理だよこんなの……勝てるわけ、ない」
俺は絶望していた。
信じろ信じろって一体何を信じればいいのか分からない。
「不安、なんですね」
「俺は……もう……」
両膝をついて俺は俯いた。
その姿を高橋さんが悲痛そうに見ていた。
「ゴメン。こんなことで呼んで。もういいよ」
俺は高橋さんを強引に部屋から出した。
「カ、カイ様!?」
「ごめん」
バタン
俺は扉に鍵を掛け、ドアを背にして座り込んだ。
電気もつけずに真っ暗な部屋の中で俺は考えた。
まるで俺の心の中のようだと。
悪いな武満、俺は今訊けそうにない……
この日、俺は1歩も外から出なかった。
さすがに高橋さんは心配してくれたが、やっぱり姉さんは来なかった。
その日の深夜、電話がかかってきた。
眠れない俺はそれをさっさと取り上げて相手を確認した。
そこには「さや先輩」と書いてあった。
「ハハッ……今の情けねえ俺がさや先輩と通話……か」
俺は携帯を閉じてそのままベッドの上に放った。
……そして静かに携帯を開けて通話ボタンを押した。
「もしもし」
「もしもし。あっ!そっち今まさか夜?」
「あ、はい」
「ゴメンゴメン!でも何か嫌な感じがしたから」
「え?」
俺はさや先輩の言葉を聞いた。
「何かあったでしょ?何だか声沈んでるわよ」
「そ、そんなことは……」
「カマかけただけなんだけど、当たっちゃったみたいね」
「……」
この人に隠し事は出来ないのだろうか。
というかエスパーか。
「私に相談しなさい!」
「……命令形……」
「不満?」
「そんなことはありません」
この癖はどうにかしなければ。
さや先輩の召使になりそうだ。
「でもその……情けないというかその……」
さや先輩には情けない俺を知られたくないというか……
「大丈夫!今も十分情けない!」
「うっ!」
確かに。
俺は結局話してしまった。
「……そうね。結論から言わせて貰うと……このシスコン!!」
「わっ!」
突然耳元で大声を叫ばれたためについ携帯を遠ざけてしまった。
「カイはお姉さんの気持ちが分からないわけ!?」
「え?」
俺はさや先輩の言葉を注意深く聞いた。
「当主当主って……あなたは当主の重みを知ってるわけ?」
「いや、その……」
途端にしどろもどろな俺。
なんて情け無い。
「当主ってそんなに甘いものじゃない。場合によっては一人で何でもやらないといけない、無頼な状況が続くかもしれないのよ?あなたのお姉さんはそれを知っているからこんなことをしたのよ!」
「……すいません。分かりやすく説明してください」
「つまり!お姉さんはあなたにこう言いたいのよ!姉をいつまでも頼るな!自分ひとりで頑張れ!って!」
「……」
さや先輩はまだ続ける。
「これはお姉さんなりのエールなのよ!当主になったからといっていつまでも姉の力に頼れない。時には対立だってするかもしれない。あなたのお姉さんも苦渋の決断をしたのだと思うわ。あなたのためを思ってわざわざ敵になったのだから」
「姉さんが……俺のために……」
俺の心が軽くなった気がした。
「なーんて」
「………………………………へ?」
「多分そう考えてるんじゃないかってことよ。本当にカイはシスコンね」
「……さや先輩」
俺はジト目で睨んだ。
とは言っても電話越しなので向こうには分からないが。
「でもほぼ正解だと思う……私もお姉さんと同意見だもの。いつまでも甘えるな!」
「……はい」
「返事が弱いわね。私への気持ちはその程度だったんだ……」
何だかしおらしい声が聞こえたので俺は焦り始めた。
「いやいや違います!俺はやります!」
「よし!それでこそ男の子ね!」
「何か微妙に乗せられた感じが……」
俺はまたジト目になった。
「細かいことは気にしない気にしない。頑張ってね。みんなもあなたを応援してるから」
「はい!」
俺の気持ちは決まった。
姉さんが決意したんだ。
ならば今度は俺の番だ。
昔のことなんてどうでもいい。
大切なのは今。
俺はやる。
やりとげる。
そして必ず……
決意を新たにした俺は早速行動を開始したのだった。
何かスランプにかかった気がします……
あと少しなのに!
気合を入れなおします