第71話 ズタボロバレンタインの生徒会
しばらく家に帰れなくなるので更新が停滞するかも、です。
〜あらすじ〜
バレンタイン大会最終章。
レイや咲たちの協力で見事逃げ切りに成功している俺。
残り時間はあと1時間ほど。
Saya SIDE
時刻は11時半を過ぎた。
カイはまだ捕まっていないらしい。
「ねえナナちゃん。ゆうが持っていたのって……」
私はナナちゃんとゆうが持っていった鞭の話をした。
「そうです、瀬川先輩の三大鞭の一つで、その中の最強のサドキングですよ」
「サドキングって……」
私はナナちゃんの料理教室の練習でのことを思い出していた。
確かカイの持っていたサドジャックと私の持っていたサドクイーンはあのとき壊れた。
まさかもう一つあるとは……
まあジャックとクイーンがある時点でキングもあると思わなければいけないけれど。
「確かに威力はサドジャックとサドクイーンを凌駕しています」
ナナちゃんが語り始めた。
「ですが!それ以上に快感もすごいんですよ!!」
「え!?」
「経験済みですから」
「そうなの!?」
カイがいないので私にツッコミ役が回ってきた。
「ですが一つ問題が」
「何かしら?」
「あの鞭……性格もかなりやばくなるんです」
「早く言ってね?」
私はにっこりとナナちゃんに微笑んだ。
さすがにカイを傷つけたくはない。
むしろそれは私が……ゲフンゲフン。
「カイ先輩大丈夫でしょうか」
ナナちゃんは先ほどとは打って変わって不安そうな表情を浮かべた。
「少し心配だけど大丈夫よ。カイだもの」
「そうですね!」
私達は変なところで意気投合した。
Kai SIDE
俺は追いかけっこをまだ続けていた。
自分でもバカだとは思うが、俺はこのポリシーは曲げない。
「カイ!」
「俊哉!」
俺は下駄箱付近で俊哉と合流した。
「咲ちゃんの作戦は?」
「棄却した」
俺は俊哉に平然と伝えた。
「そうか。お前らしいな」
「そんなことより俺もう体力が……」
俺はもう息が切れ切れになった。
「よし!ここは俺が足止めしてやる!」
俊哉がガッツポーズした。
『キャー!!俊哉君〜〜〜〜〜!!』
そんなときにチョコレートを持った女子達が俊哉に突撃してきた。
「げ!?」
俊哉はそのまま女子の波に飲まれてしまった。
「誰が足止めするって!?」
俺は俊哉にたっぷり皮肉を言った。
別に羨ましくなんて無いぞ!
と、虚勢を張ってみたり。
しかしそのおかげか、鬼達の目を盗んで逃げることに成功した。
「カイ!」
はなびの声だ。
「はなび!無事だったか!」
「学校行事にその発言はおかしいわよ」
「確かに」
俺ははなびの発言に同意した。
「それよりこっちに来なさい!安全よ!」
「え?」
俺ははなびによって強引に女子トイレの個室に入れられた。
「え?え?ここって女子トイレじゃ……」
「安全でしょ?」
「た、確かに……」
鬼のほとんどが男子生徒ならこの選択は賢い。
ただ少し、いや、結構大事な何かをなくした気がしなくもないが。
「咲たちは?」
「ああ、咲は教室にいると思う。俊哉は殺気女子達に飲まれた」
「漢字間違ってるわよ」
「ああスマン。気持ちが表に出てしまったようだ」
別にいいんですけどねー。
「で、レイは?」
「レイは……しまった!何か瀬川先輩と戦っているんだ!」
「何で!?」
「俺も訊きたい」
俺ははなびにそう返した。
「まあでもレイだから大丈夫でしょ」
「まあ普通は」
俺は少し瀬川先輩の様子がおかしいことが気がかりだった。
何かどこかで同じような光景を見たような……
「聞き捨てなら無いわね」
バン!!
そのとき勢い良く女子トイレのドアが開かれた。
「「瀬川先輩!?」」
俺とはなびは同時に叫んだ。
「たわいもないわこの娘」
俺はぐったりしているレイを見た。
「あれ?外傷が……ない!?」
「そうよ。1発掠った途端に叫んで気絶しちゃった。1発で恐怖するなんて……肝の小さい娘ね」
「レイが……?」
肝の小さい娘だと?
それはないだろ。
大方本当は痛かったのかもしれない。
「さて、次はどちらが相手してくれるのかしら?」
「レイを……よくもレイを!」
「はなび!」
俺は勢い良く猛進するはなびに叫んだ。
勝てるわけが無い!
「まずは小娘からね!!」
パチン!
「キャア!!痛い!」
「はなび!」
はなびはまともに鞭に当たった。
闇雲に突っ込むからこうなる。
だが、その気持ちも分からなくはない。
「はなびは下がっててくれ。ここは俺に任せろ」
「何言ってるの……よ。アンタは……ターゲットなんでしょ?」
はなびの息はもう絶え絶えだ。
「あれは瀬川先輩じゃない。だから容赦なんて無いんだ」
「でも!」
はなびがなおも食い下がるので俺ははなびを思いきり睨んでしまった。
「う」
はなびの体がビクッと震えた。
しまった……嫌なことを思い出させたかもしれない。
「ゴメン。でもここは俺がやる」
「う……うん」
はなびの言葉に力は無い。
「勝手に決めないでくれる?私はその子を虐めてるの」
「それは無理な相談だ。お前はこの俺が倒すんだからな」
俺は思いきり瀬川先輩をにらみつけた。
一応自信満々に啖呵を切ったのはいいが、勝てる保証なんてどこにも無い。
「そう。ならあなたを虐めてあげる」
「お手柔らかに」
俺は瀬川先輩と対峙した。
Saya SIDE
「で、実際どうなわけ?」
私はナナちゃんに詰め寄った。
「な、何がですか!?」
「レイが負けちゃったじゃない!」
「そ、それは私も誤算です!」
ナナちゃんは泣きそうになっている。
あのとき私とナナちゃんが止めていなければレイは半殺しにされていたかもしれない。
下手すると私達も。
「カイは大丈夫なんでしょうね?」
「ど、どうでしょうか?」
私は悪の元凶のナナちゃんを睨んだ。
「カイを虐めるのは私の専売特許!誰にもそのポジションは譲れないのよ!まだ私ですらカイに鞭打ってないのに……」
「え?打つ予定なんですか?」
「どうでしょうね?」
私はドス黒い笑みをナナちゃんに向けた。
「ヒイッ!怖いです怖いです!」
ナナちゃんはガクガクと震えていた。
その姿が愛おしいと感じてしまうのはドSの性なのだろうか。
「で、でもカイ先輩なら何とか……」
「う〜ん……確かにね」
その言葉は確かに説得力がある。
今まで様々な苦難を乗り越えてきたのだから。
「でも結構私に頼っていたのよね〜」
今回は私の手助けは無しだ。
「頑張って」
私は小さくエールを口にした。
Kai SIDE
戦いが始まって数分経った。
俺は未だに瀬川先輩に近づけてすらいなかった。
周囲の壁は鞭によって抉れていた。
すさまじい威力だ、あの鞭は。
「クッ……あんなのにまともに当たったら死ぬんじゃねえか?」
俺は戦慄した。
「逃げてばかりじゃ勝てないわよ」
瀬川先輩は俺を挑発してくるがその手には乗らない。
俺は周りを見た。
するとモップが目に入った。
「目には目を!歯には歯を!武器には武器を!」
俺はモップを手に取った。
「そんなもので私に勝てるとでも?」
このモップを囮にして近づければいい。
近づいたらこっちのものだ。
「うおおおお!!」
俺は瀬川先輩に近づいてモップを振りかぶった。
「甘い!」
「え?」
何とモップが鞭によって一刀両断されてしまった。
「どんな鞭だよ!?だが俺は諦めない!」
俺はそのまま突っ込んだ。
「隙だらけよっ!」
瀬川先輩の横薙ぎの一閃が俺を襲う。
「どうかな!?」
俺はその一閃を左手の掌で受け止めてそのまま握った。
左手の掌から鮮血が飛び散る。
「な、何!?」
瀬川先輩が驚いた表情で見ている。
「肉を切らせて骨を絶つ!!」
「うっ!」
俺は右手の手刀で鞭を両断した。
その際ももちろん鮮血が飛んだ。
両手とも真っ赤だ。
「私の負け……のようね」
鞭が壊れたために性格も元に戻ったらしい。
「って随分酷い怪我じゃない!?」
はなびもその言葉に俺のところにやって来た。
「いやいや大したこと無いよ」
右腕は軽傷だが、左手は確実に重傷だろう。
力が入らない。
「俺にはまだやることあるし、行かなくちゃ」
「カイ先輩」
そんなとき、ナナちゃんがやって来た。
「すいません、この鞭を持たせたのは私なんです……」
「いいさ別に。誰も結果なんて完璧に予想できないんだからさ」
俺は涼しい顔で受け流した。
「アンタね……!」
はなびが多少……いや、相当ご立腹のようだ。
「はなび。俺は平気だから」
「でも治療ぐらいは……」
「そう……だな」
さすがにこの激痛にずっと耐えられはしないだろう。
「私がやります!」
ナナちゃんは、自分の持ってきた救急箱を取り出して包帯を出した。
「はい、手を出してください」
「あ、ああ……」
何かこういうの恥ずかしいな。女子トイレだし。
「はい、出来ました!」
俺の左手は包帯でぐるぐる巻きにされた。
すでに血がうっすらと包帯に滲んでいるが、平気だろう。
「さて、残り10分、頑張りますか!」
俺は立ち上がって女子トイレから出ることにした。
「ってどこに行くのよ!?」
はなびが俺に叫んだ。
「校庭だよ。決着、着けに行く」
俺は最後の戦場を校庭にした。
「わざわざ見つかるところに!?」
「ああ。隠れて勝つのって何だかせこいだろ?」
「アンタって本当に……損な性格ね」
はなびが呆れたように言う。
「知ってる」
俺はみんなに背を向けて外に出た。
「さて……」
「カイじゃないか!」
「!!」
俺は突然聞こえた声に慌ててその方向に目を向けた。
「真里菜……先生」
「中々頑張ってるじゃないか。女子トイレにいたけど」
真里菜先生は俺に近づいてきた。
「!」
俺は慌てて後に跳んだ。
「どうした?女子トイレにいたカイ」
「その呼び方は止めてください!……ってそうじゃねえ!」
俺は頭を抱えた。
「アンタの魂胆は見え見えだ!」
「エッチ〜」
「変態的な意味じゃねえよ!!」
俺は結局ツッコミを強制させられた。
「あなたも鬼なんですよね?」
「それはど「あなたならこう言うはずです」って何遮ってんねん!」
俺は真里菜先生の発言を遮った。
「鬼達が生徒とは一言も言っていない。教室に待機してればみんな鬼。だから私も鬼、ってそう言いたいんですよね?」
「ほほう。私のことがよく分かってるじゃないか。結婚しよう」
「ぞんざいにお断りします」
俺はさっさとこの場を離れたい。
早くしないと校庭に行けない。
「というわけでさようなら!!」
俺は初速を最大にして疾走した。
「あ!」
完全に出遅れた真里菜先生を振り切るのは容易だった。
「さて……」
俺は目の前の人ごみを見た。
これでは校庭に行けない。
「なら……」
俺は鬼達に追いかけられながら2階の窓から飛び降りた。
「あ!窓から逃げたぞ!」
鬼達はさすがに飛び降りずに階段を使った。
そして俺は見事校庭に到着。
「よし!誰でもいいからかかって来い!」
俺は大声で言った。
「では私が」
「え!?」
まさか委員長が来るとは予想していなかった。
確か委員長ってかなり強かったよね?
「もう時間がありません」
校庭の時計は12時28分。
あと2分というところだ。
「ならば私と戦うのが私達にとって一番勝てる方法ですよね?」
委員長がそんなことを俺に言ってきた。
周りの人たちは呆然としていたが、俺は知っている。
彼女の実力を。
「分かりました。勝負だ!」
だが俺はこの勝負を受けるしかない。
あと2分ということが俺の心に余裕……もとい隙を作ったのかもしれない。
「行きます!」
委員長がすさまじいスピードで俺に突進してきた。
セバスチャンさんより早い!
俺は何とか避けた。
「次は外しませんよ」
俺は怪我をしていることを忘れて左腕でガードをしてしまった。
「ぐあぁっ!」
俺はうめき声を上げた。
傷口にクリーンヒット!
「痛えっ!左腕はマジ勘弁!」
俺は委員長に懇願した。
「どうしましょうか?」
「う……」
次の攻撃はさらに早い。
ガードするしかない!
俺は右手を前に出してガードの姿勢をとった。
しかし、いつのまにか目の前にいなかった。
「あれ?」
「私はここです」
「後!?」
俺が後ろを向いたと同時にミドルキックがボディにヒットした。
「あぐっ!」
だが不思議と威力自体は大したことはなかった。
その光景を周りのギャラリーが固唾を呑んで見守っていたことに俺は知らない。
「やっぱり難しいですね。威力の加減というものは」
「本気じゃなかったのかよ!」
そのとき、校庭の時計が12時半を示した。
「あ!」
俺が時計に指を指した。
「だから?」
「え?」
委員長は攻撃を止めない。
「何でだよ!?」
「まだ昼休みじゃありませんよ。チャイムが鳴っていません!」
「そ、そうか……」
俺は再び冷や汗を流す羽目になった。
「では行きましょう!それにチャイムを待っても無駄ですよ。あの時計は私が3分進めていますから」
「3分も!?」
俺は気が遠くなった。
「おやすみなさい」
ゴスッ!
「う……」
俺はもろに手刀を首筋に食らって意識を簡単に失ってしまった。
俺は……まだ……
「はっ!」
俺は飛び起きた。
「ここは!?」
「保健室よ」
「え?」
周りにはいつものメンバーがいた。
「あれ?俺は確か……」
委員長にやられたはずだ。
「し、しまったあ!俺は負けてしまったのか!」
俺はすごく落ち込んだ。
勝負に勝てなかったこともそうだが、何より悔しいのはどっかの馬の骨にさや先輩のチョコレートを取られてしまったことだ。
「違うわよ」
「え?」
さや先輩が言った。
「あなたの勝ちよカイ。あの後あなたのクラスの委員長さんがあなたを守ってくれたのよ」
「そ、そうなんだ……」
俺はひとまず安心した。
「ん?ってことは俺の勝ち!?」
「そうなるわよ」
「レイ……」
レイが俺に言う。
「お前、体は平気か?」
「ええ。記憶も曖昧なの」
まさか頭に鞭打ったのか?
「体のほうはなんとも無いし、大丈夫よ」
「良かった……」
俺はほっと胸をなでおろした。
「じゃあ景品の授与ね」
「あ」
俺はさや先輩にチョコを渡された。
「良く頑張ったわね」
「いやまあ……その……」
恥ずかしくて言葉に詰まる。
「じゃあ俺達は用事あるから」
「じゃあね」
「え?ちょっ!お前ら!」
バタン
そう言って部屋には俺とさや先輩だけになった。
「別にここまで頑張らなくてもよかったのに」
「いや、でもさあ?」
俺は言葉を濁す。
「あなたには負けてもちゃんとあげたのに」
「でも俺は勝ちたかったんです」
「カイ……」
今度はさや先輩が恥ずかしがる番だ。
俺はさや先輩を見る。
「あのね、一応私もいるのだけれど」
突然後から声がしたので俺は驚いた。
「ええ!?」
しかしさや先輩は驚かなかった。
「何で今更驚いてるの。カイ?」
さや先輩は知っていたようだ。
「だってここ保健室なんだから養護教論がいて当たり前でしょ」
「た、確かに……」
「イチャつくなら余所でやりなさい」
「イチャついてなんか……」
いるか。
俺はバカなのか、アホなのか、間抜けなのか。
「と、ところで俊哉たちの用事ってなんなんだろうね?」
俺は急遽話題を変えることにした。
「授業よ」
「え?」
俺は耳を疑った。
「だから今日は午後から授業よ」
「って早く行かないと!」
俺は急いで保健室から出て行った。
「コラ!保健室内は静かに!」
そんな声が後から聞こえたが構わず走った。
あそこにいつまでもいるのは気恥ずかしい、というのもあった。
かくしてハチャメチャバレンタインはここにて終了した。
家に帰ると巨大な人型チョコレートがあった。
「オイオイ……」
しかも裸の姉さんの形。
「のわあっ!!」
俺は鼻血も吹いた。
チョコの食べすぎ5割、興奮5割だと思う。
「姉さんも何考えてんだか……」
俺は何か食べづらいので、そのチョコを溶かして食べることにした。
「ん?」
俺がチョコを溶かしていると電話が鳴った。
プルルルル……
「何だ?」
俺は受話器を取った。
「もしもし」
「カイか。約束の日だ。いったん戻って来い」
「まさか……もう!?」
「そうだ。マイはこっちに来ている」
「姉さんがか……」
何気に公衆電話からかけているところを見ると随分と忙しいのか?
「早くしろよ。もうすぐ始まる」
俺は父の言うことに耳を傾けた。
「皇家次期当主選抜会が」
俺はこの日、急いで日本を発った。
みんなにはしばらくアメリカにいると伝言を残して。
そしてこれが俺と……武満にとってのラストエピソードとなることに俺は知らない。
次回からクライマックス入りです。