第64話 逆転の生徒会
〜あらすじ〜
学校は3学期が始まった。
学校に行くことにあまり乗り気でない俺。
そんな俺はさや先輩に自分を避けている理由を聞いてみた。
そして俺はさや先輩からとある事実を聞いてしまった。
俺はさや先輩の発言に呆然として動けなくなっていた。
そして気がつくと屋上には誰もいない。
「さや先輩、婚約するんですか……」
「ナナちゃん……訊いていたのか……」
屋上にナナちゃんがやって来た。
「ああ。俺って何も出来ないんだな。ははは、笑っちゃうよ」
俺はあまりにも無力な自分に呆れて笑いがこみ上げてきた。
「先輩は……それで良いんですか?」
「ははは……良いも悪いも無いさ」
俺は屋上に横になった。
「俺ってやっぱり……ダメだな」
「そうですね」
「え?」
なぜかきっぱりと言われた。
「今の先輩はダメです。ダメの中のダメです」
「え?え?」
ナナちゃんの暴言はまだ続く。
「キングオブダメです。アルティメットダメです」
「ってそんなに言うことは無いだろ」
ナナちゃんは何も言わずに屋上から去っていった。
「ダメの中のダメ、か。確かにぴったりかもな……」
俺は目を閉じてさや先輩の笑顔を思い浮かべた。
「ちょうど潮時なのかもしれないな……」
俺は自嘲的な笑みを空に向けた。
そしてさや先輩の婚約の噂は瞬く間もなく広がった。
次の日から大勢のギャラリーがさや先輩の元に集まっていた。
さや先輩は終始笑顔で流していた。
「……本当に昨日泣いてた人なのかな?」
俺は一人遠くから呟いた。
でも、その笑顔が心からのものでないことを俺は知っていた。
「はぁ……」
俺は静かにその場から立ち去った。
授業も頭の中に入らない。
俺は昼休みに昨日のことを俊哉に説明した。
「そうか……噂は本当だったんだな」
「ふうん……さや先輩が婚約ね〜」
はなびが神妙な顔で呟く。
レイはチラリと俺を見た。
そういえばレイは事情を知っていたな。
「どうした?」
「何でもないわ」
俺はレイに笑顔で訊いたが、彼女は無表情で返した。
「でも遠い存在になっちゃったね」
咲が呟く。
「でも咲ってさや先輩に弄られてなかったっけ?」
「そ、それはそうだけど……」
はなびの質問に咲がうろたえる。
なんだかんだ言ってさや先輩のことは嫌いじゃないんだろうな。
「咲は虐められるの好きだものね」
「レイ!」
咲が真っ赤な顔をして怒る。
「でもどうするの?」
「何が?」
はなびが何かを俺達に訊いた。
「さや先輩の婚約祝いに何か送った方がいいのかな?ってこと」
「そうねえ……」
はなびと咲が婚約祝いについて考えていた。
「止めた方が良いわ」
レイが言った。
「何で?」
当然はなびが訊く。
「この婚約が望んでしたものとは限らないから」
「なるほど、政略結婚ってやつね。はぁ……」
咲がため息を吐く。
まあ彼女も人事ではないからな。
「じゃあ何もしないの?」
はなびがそう言うと、レイはまたちらりと俺を見た。
「な、何だよ」
「別に」
コイツは俺に何を言いたいんだ?
ダメ?ヘタレ?鈍感?
「そうね。一応婚約おめでとうございますくらいは言った方がいいかもしれないわね」
レイがそう言うとみんな頷いた。
ガラガラ
「ほらほら席につけ〜」
午後の最初の授業の担当の真里菜先生が教室に入ってきたので、俺達は自分達の席へと戻った。
放課後、いつものように生徒会室に俺は向かった。
「カイ」
しかしその途中にレイに呼び止められた。
「どうした?」
「話があるんだけれど、いい?」
「ああ。いいけど」
俺はレイに連れられて屋上にやって来た。
「また屋上か……」
「何?」
「いいや何でも」
俺は黙ってレイの言葉を待った。
「婚約のこと何で知ったの?」
「さや先輩に昨日教えてもらった」
俺は淡々と事実を述べた。
「……あなたは止めなかったの?」
「止めるも何もないだろ。俺は無力なんだ。何も、出来なかった……」
俺がそういうとレイは黙った。
「じゃあ行こうぜ……」
「はぁ……あなたってどうしようもないヘタレね」
「な……!」
俺はレイに真剣な目で見て言われた。
「好きなんでしょ?彼女のこと」
「……ああ」
「でもあなたの好きってその程度のことだったのね、すぐに諦めてしまうほど」
「そ、そんなことは……」
「なら何故すぐ諦めるの?」
そのレイの言葉に俺はうろたえた。
なぜならこの間武満に言われたことを思い出したからだ。
俺はまだ……傷つけられるのが怖い……
そう。下手に深く入ると余計傷ついてしまう……
自分の保身のことしか考えていない……
俺は……こんな人間なんだ……
「俺は自分のことしか考えていない最低野郎だからだ」
パチンッ!!
屋上にそんな音が響いた。
その音が俺がレイに叩かれた音だと気づくのに結構かかった。
「蛟刃カイってそんな人間じゃないわ」
レイが俺を見つめる。
「そんな人間が私を助けようとなんて思うわけ無いじゃない!」
レイが怒鳴った姿は初めて見た。
「あなたはいつだって誰かのために行動していたじゃない。水泳大会のとき、水泳はそんなに得意じゃないのにあなたはチームを勝たせようと必死に努力したじゃない」
俺は……そうだったのか?
「文化祭の時だって、暇が無いのに人探しを手伝ったじゃない」
そんなこともあったな……
「咲の代わりに不良に殴られたり、11月のあの傷だって、誰かを守るために負った傷でしょ」
あのときの俺は咲やさや先輩を助けるのに必死だったんだよな……
「だからそんなの全然カイらしくないわ!」
「らしくない、か……」
俺は空を見上げて考えた。
「俺、さや先輩が幸せになれるならそれでいいんだ……」
俺は自分の気持ちを口にした。
「でも、こんな形の結婚でさや先輩が幸せになれるわけ……ないよな」
「……」
レイは黙って俺の独白を聞いている。
「ははは……バカみたいだな。確かに今の俺はお前の言うとおり単なるヘタレ野郎だよ」
俺は自嘲的な笑みを浮かべながら言った。
「格好悪すぎだって俺。さや先輩の幸せって何なんだろうな……」
「はぁ……鈍感なのは否定できないわね」
「な、何だよ」
俺はレイに呆れられた目で見つめられた。
「婚約の日はもうすぐなんでしょ。なら、早くしないとね」
「え!?」
レイは屋上から去っていく。
「何してるの。生徒会室に行くわよ。ナナちゃんがみんなを説得したはず」
「え?何の話?」
「さ、早く」
「え?え?」
俺は疑問符を浮かべながらレイに黙ってついていった。
「じゃあ入るわよ」
レイが生徒会室の扉を開けて中に入ったので、俺も続けて入った。
「え?」
するとみんな俺のほうを見ていた。
「どうやらみんなの決意は同じのようね」
「悔しいけど……仕方ないわね」
はなびはなぜか悔しいらしい。
というか決意が同じってどういうこと?
「カイ先輩。さや先輩の婚約の日に蓮見邸に潜入しましょう!」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
俺は突然の発言に驚いた。
いや、驚いたもんじゃない。
「一体……?」
「さや先輩を止められるのはカイ先輩だけです。それは分かりますよね?」
「いや、まあ……」
俺は少し恥ずかしい。
「なので婚約の日に私達全員で蓮見邸に奇襲をかけます」
「そ、それって犯罪じゃん!」
俺は思ったことを口にした。
「じゃあアンタはさや先輩がどうなってもいいわけ?」
「そんなことはない!でももっと別の方法が……」
俺はみんなに迷惑をかけたくは無い。
「これが一番効果的です!相手は蓮見財閥ですよ!?交渉なんて通じませんよ!それに演出もありますから」
「何だよ演出って……」
「このヒロインを助けるヒーローみたいな演出でさや先輩は心を打たれるかもしれません!そうすると楽にことが運びますよ!」
「いやまあそうなんだけどさ……」
俺は躊躇っていた。
「まだそんなことを言っているんですか?」
ナナちゃんが俺を睨むように言う。
「そうじゃなくてだな……みんなを巻き込むのは少し……」
「あなた何を言ってるの?」
咲が俺を睨みつけた。
「え?」
「巻き込む?あなたどれだけ失礼なのよ」
「え?え?」
俺にはさっぱり分からない。
「私達は誰一人あなたに協力するなんて考えてないのよ」
「え!?じゃあどうして……」
俺は疑問に思った。
「さや先輩は私達の大事な……仲間よ!仲間を助けたいと思うのは当然でしょ!だからこれは私達自身の意志!みんなさや先輩を助けたいと思っているのよ!自分だけが思っていると考えているなんて失礼なことこの上ないわ!」
「あ、そうだったな……ゴメン」
俺はみんなに謝罪した。
助けたい気持ちはみんな同じなんだ。
「分かればいいのよ」
咲はそっぽを向いた。
「じゃあみんなの意志は一つですね!」
ナナちゃんがみんなに言う。
「ああ。カイ、俺達のタッグ復活だな」
「ハハハ……何か昔を思い出すな」
俺は俊哉に背中を預けて戦っていたことを思い出した。
「もう殴れるのか?」
「ああ。殴るのは好きじゃないけどな。でも、やるときはやる!」
俺は宣言する。
「行くぞ!俺達生徒会メンバーの力を見せてやろう!」
『おう!!』
ガラガラ
そのとき扉を開けて誰かが入ってきた。
しまった……鍵を閉めていなかった……
「最低でも停学1週間。下手したら退学だな」
「ま、真里菜先生……」
真里菜先生が入ってきた。
マズイ……この会話を教師に聞かれてしまった……
「私は悲しいぞカイ。非常に悲しい」
みんな押し黙る。
さすがのレイも冷や汗を流している。
「先生……邪魔をするなら例えあなたでも……!」
俺は身構えた。
「ああ!酷い!私を仲間はずれにするなんて!」
『え?』
俺達の時間が止まった。
「私、生徒会顧問なのに、みんなから仲間はずれ……」
「あの……一体……?」
「私を仲間に入れなければ他の教師にバラすぞ」
真里菜先生が俺達を脅してきた。
変な脅し方だが。
「えっと……それって真里菜先生も協力してくれるんですか?」
「ああ!当然だ!生徒が困っているのを放ってはおけない!」
真里菜先生が大きな声で宣言する。
「で、本当は?」
「面白そう。はっ!しまった!」
『……』
俺達はジト目で真里菜先生を見た。
「……コホン。まあ任せておけ。私は私でお前達にはできないことをサポートするから」
「本当ですか?」
「ああ。大人たちを黙らせるのは大人の仕事だ!」
なぜかこのときの真里菜先生はいつもと違うように見えた。
これが真実の姿なのかもしれない……いや、気のせいかな。
そして俺達の心は一つになった。
待っていろよ。
俺達の力を見せ付けてやる。
そしてさや先輩、俺が必ず助けます!
たとえ勝算のほとんどない戦いでも……
俺は誇りは捨てない。決して諦めない。
そして俺達は決戦の日に決戦の地へと向かった。
生徒会の誇りと信念を持ちながら。
次回予告
カイたちがいざ決戦の地へ。
カイ達生徒会の運命はいかに!?
次回は少し待ってください。
納得のいくまで現在執筆中です。
(もう3回も書き直してしまった……orz)