第63話 失意の生徒会
〜あらすじ〜
スキー旅行から帰ってきた俺達。
俺は未だに武満に言われたことを気にしていた。
そんな俺にも新学期がやってきたのだった。
新学期が始まった。
俺達生徒会のメンバーはみなより早く登校しなければならない。
しかし、武満に言われたことをずっと考えていた俺は、学校に行くのにあまり乗り気じゃなかった。
あのスキー旅行以来みんなと顔を会わせていない。
だから姉さんとしか顔を会わせなかった。
姉さんは俺のことを心配してくれたが、これは俺の問題だ。
俺は大丈夫といって誤魔化し続けた。
そしてそんな俺は今、始業式の体育館にいた。
「ちょっとカイ大丈夫なの?」
「ん?ああ。大丈夫だよ」
はなびに心配されたものの、俺は大丈夫と返しておいた。
「そんなことよりはなび、お前は新学期の挨拶の話をちゃんと考えたか?」
「そ、それは……」
予想通りだ。
「はい」
「え?」
隣のレイが俺に原稿を渡してきた。
「この通り読めば大丈夫」
「さ、さすがレイ」
「そろそろ静かにした方がいいわよ」
そして校長先生の話が始まったので俺達は黙った。
……意外と普通に話せたな。
そして校長先生の話が終わった。
「次は生徒会長からの挨拶。2年A組、蛟刃カイ」
「はい!」
俺かよ!はなびじゃなくて俺かよ!
俺はレイから渡された原稿を持って壇上に上がった。
「ふぅ……」
一応深呼吸して俺は舞台の上に立った。
「えー……!!」
そのとき俺はさや先輩と目が合った。
「あ、えーと……」
マズイ!言葉が出てこない!
「あ……」
ダ、ダメだ……原稿に何を書いてあるか分からない。
体がふらつくし、過呼吸もしている。
「カイ!」
はなび達が急いで壇上に上がった。
尋常じゃない俺の様子を心配してきてくれたのだろう。
「俊哉君!カイを保健室へ!」
「ああ!」
俺は俊哉におぶられた。
「あ……その……」
「いいから行くぞ!」
俺は俊哉によって保健室に運ばれた。
そして壇上では俺の変わりにはなびがスピーチをしていた。
「大丈夫か?」
俊哉に保健室について早々そう訊かれた。
「あ、ああ。悪いな、貧血を起こした」
「そうか……」
俊哉はホッとしたらしい。
「橘君、後は私がやるから君は体育館に戻ってなさい」
「はい。カイ、安静にしてろよ」
「ああ」
そう言って俊哉は出て行った。
「熱は無いようね。朝御飯ちゃんと食べた?」
「はい」
「そう、じゃあ疲れが溜まっただけかもしれないわね」
養護教論が俺にそう言って寝かし始めた。
「1時間くらい安静にしてなさい」
「はい」
俺は教師の言うことに従って、布団に潜った。
夢の中に俺は立った。
しかし、武満はいない。
まだ力が足りないのだろう。
俺は少しこの空間を探検してみたくなった。
だから俺は暗闇へと歩き出した。
そして幾分か歩いてみたのだが……
正直つまらない。
どんなに歩いても何もないからだ。
やっぱり止めようかな、と考えたとき、何か右の方に気配を感じた。
「?」
俺はその方へと歩いていった。
すると二つの扉が見えた。
「何でこんなところに扉が?」
「その扉を開けてはいけません」
「誰だ!?」
俺は後から聞こえた声にハッとなって振り向いた。
「お、お前は……妖精もどき……」
「もどきじゃなくて妖精です!」
「あ、そうなのか……」
俺は突然現れた妖精らしきものに驚いた。
「その扉はあなたの深層意識」
「じゃあこの中に武満がいるんだな?」
妖精は俺の言葉に頷いた。
「でも何で開けたらダメなんだ?」
「その扉を開けるとあなたの意識の中に彼の意識が一気に流れ込みます」
妖精は真剣な面持ちでそういった。
「すると……」
「するとどうなるんだ?」
「あなたの頭が内部から壊れてしまうでしょう」
「何だと!?」
俺は開いた口が塞がらない。
「じゃあ何で武満はこの扉を開けようとしない!?というか開けずにどうやってこの空間に来れるんだよ!?」
俺は疑問が疑問を呼んで訳が分からなくなっていた。
「だから扉が二つなのです」
「え?」
妖精が俺に説明し始めた。
「片方にはさっき言った武満の意識が。もう片方は武満の思念が、つまり武満そのものの部屋なのです」
「それで?」
逆に疑問が増えた気がする。
「この意識の方の扉を開けるとあなたの頭が壊れる、と言いましたね?」
「ああ」
俺は先を促がした。
「ようするにあなたが壊れてしまう。すると連鎖的にあなたの中にいる武満も壊れてしまう」
「ようするにその扉を開けると俺の他に武満も壊れるんだな?」
「そうです」
「じゃあ何のためにこの扉があるんだ?」
俺はまた質問を口にした。
「この扉は最終手段。自分も消えるが乗り移っている相手も消すことが出来る、武満の最終兵器」
「何っ!?」
最終兵器だと?
ならば武満は自分を犠牲にして俺を消せると言うことなのか!?
「でも現在彼にその意志は無いようですね。現にあなたもピンピンしています」
「そう……だな」
アイツは俺自身の中に閉じ込めておくんだ。
そう、誓ったんだ。
「ところであなたは?」
「ただの妖精です」
「ただじゃないですね!?」
妖精は消えていった。
「う……」
どうやら目が覚めるようだ。
俺は目を開けた。
「あれ?ナナちゃん?みんなもどうした?」
俺は周りにいたみんなを見渡した。
「様子を見に来たに決まってるでしょ」
はなびが言う。
「全く……もう昼だぜ」
「心配かけないでね」
「ああスマン。俊哉、レイ」
俺は二人に謝った。
「まあ無事で何よりですね」
ナナちゃんが笑顔で言った。
「一体どうしたの?」
「単なる貧血だって。疲労だよ疲労」
俺が咲にそう説明した。
「へえ。じゃあ冬休みの宿題はちゃんとやったんだ」
「え?あああ!?」
そんなことすっかり忘れてた!
俺のバカッタレが〜〜〜!!
「あれ?まさかやってない?」
「いやいやそんなことはないよはなびさん」
「嘘」
「ぐっ!」
レイに速攻でバレた。
「と、いうわけで俺は急いで帰るからな!」
俺は急いで立ち上がった。
「あ、ところでさや先輩は?」
「さあ?」
「そう……なのか」
少し落ち込んだ。
まあ俺なんかのために来るわけないか。
もう3年生だし忙しいんだろう。
「じゃあな!また明日!」
俺は笑顔でさよならを言った。
いや、多分笑顔だ。
Yuu SIDE
私は心の中で静かにため息を吐いた。
原因は目の前にいる私の親友の蓮見さや。
「はぁ……」
ずっとため息ばかり吐いている。
「どうしたの?」
「何でもないわ」
理由は大体予想つくけど。
「カイ大丈夫かしらね?」
私がそう話を振ってみた。
「ど、どうかしら?」
あからさまに動揺してんじゃん。
まあ私も突然のことに驚いたんだけどね。
「保健室に行ってくれば〜?」
私が促したのだが、さーやは首を縦に振ってくれなかった。
「……」
「はぁ……」
今度は心の中ではなく、実際にため息を吐いた。
「何があったか知らないけどさ、らしくないよ」
「そうね……」
「じゃあ帰るわ。また明日」
「ええ、また明日」
結局さーやは元気が出ていなかった。
いや、というよりも何か違う……
「まあそのうち何だか分かるでしょ」
私は自分にそう言い聞かせて今日もバイト先のコンビニへと向かった。
Kai SIDE
「ただいま〜」
「お帰り〜」
姉さんに迎えられて俺は帰ってきた。
「今日のお昼は何かな〜?」
「悪いんだけど俺宿題やらないと。だから姉さんはってうわあ!?」
「シクシク……酷い……酷いよ……」
姉さんが素で泣き始めた。
「作るから作るよ!だから泣き止んでくれよ」
「本当?」
姉さんが目をうるうるさせながら訊いてくる。
「ああ」
「ありがと〜〜!!」
そう言って俺に抱きついてくる姉さん。
ああ、俺ってヘタレ……
姉さんと昼食を食べ終わった後、早速宿題をした。
まあしかしいろいろ考えてしまって中々進まず……
終わったのは深夜だった。
「寝よう……」
俺は姉さんが入っているベッドにもぐりこんで寝た。
次の日、俺はたまたま屋上に行った。
本当に偶然だった。そこには先客のさや先輩がいた。
「さ……や……先輩」
「カイ……」
俺とさや先輩は初めて向かい合った。
「あ、その……」
「ごめんなさい」
さや先輩は俺を無視して通り過ぎようとした。
「ちょっ!」
俺はさや先輩の腕を掴んだ。
「何?この手は」
「す、すいません」
急いで手を放して、つい反射的に謝ってしまう俺。
「えーとその……」
「ごめんなさい」
さや先輩はそのまま行ってしまった。
「え?」
この日から俺はさや先輩と会わなくなった。
「これってどう思う?」
俺は俊哉に訊いてみた。
「お前が何かしたんじゃねえか?」
「そうか……な?」
まだ心の整理がついていないときにこれは結構堪えた。
「まあ俺は普通に挨拶したしな」
「そうなのか」
じゃあまさか俺だけ避けられてる!?
「一応何だか知らんけど事情を聞いてみるよ」
「ありがとう……俊哉」
「お前もらしくねえぞ」
そう言って俊哉は去っていった。
らしくない、か……
俺らしい、って何なんだろうな。
……
ん?
さや先輩と最後にまともな会話をしたのってクリスマス・イヴの夜だ……
と、いうことは原因は最後のキスなんじゃ……
「うわあああああ!!!!!」
「うるさいわね!」
ゴスッ
「あだっ!」
はなびに脛を蹴られた。
「脛は地味に痛いから止めろ」
「じゃあ次は延髄突き割るわ」
「それは死ぬから!」
結局俺には分からずじまい。
俊哉に期待するしかなさそうだな。
しかし、俊哉も分からなかったらしい。
昼休みに訊いて帰ってきたときにそう言った。
「そう……か……」
「お前が直接訊くしかないかもな」
「そう……だな……」
あんまり乗り気しないな。
「俺が屋上に呼び出してやるよ」
「ああ。わかった」
俺は放課後、屋上に向かった。
そして屋上にはすでに一人先客がいた。
さや先輩だ。
「さや先輩」
「カイ!?」
さや先輩が振り向いた。
「訊きたいことがあるんです」
俺はさや先輩と対峙した。
「私、帰る」
「さや先輩!!どうして俺を避けるんですか!?イヴの夜のことですか!?」
「あなたには関係ないわ」
俺はいつもより強い口調で訊いた。
「そんなはず無いじゃないですか!」
「いいからほっといてよ!!」
「え?」
さや先輩が初めて俺を怒鳴った。
「さよなら、って言ったでしょ」
「え?」
確かイヴの日に言われたような……
「だからもう帰るわ」
「さや先輩!」
俺はさや先輩の腕を掴んだ。
「放して!」
「嫌です!」
俺は初めてさや先輩の命令を拒否した。
「理由を教えてもらうまで放しません!」
「いいからほっといてって言ってるでしょ!!」
さや先輩が必死に抵抗する。
けど俺は放さない。
「そんなこと言われてほっとける訳無いじゃないですか!」
俺はこの会話で昔の自分を思い出した。
「昔の俺にはほっといてと言われてほっとかなかったくせに、自分は良いんですか!?」
「あなたと私は違うわ!」
「同じですよ!俺はさや先輩の力になりたいって言ったじゃないですか!一生守るって言ったじゃないですか!」
「無理よ!もう無理なのよ!」
さや先輩の目から涙がこぼれ始めた。
「私の運命はもう決まったのよ!」
「え?」
「私はもう来週に婚約するの!!」
「え……」
俺は衝撃で言葉が出ない。
まさかこんなに早く婚約が決まるとは思っていなかった。
「私がどんなにカイを好きでも!絶対に結ばれないのよ!この気持ち分かる!?分からないでしょう!?」
さや先輩の悲痛な叫びが俺の心に突き刺さる。
「だからお願いだからもう構わないでよ……悲しいだけだから……」
「お、俺は……」
ドウスレバイインダロウ。
To Be Continued……
次回予告
失意のカイ。
もうどうすればいいのか分からない。
しかしそこに確かにあった生徒会メンバーたちの絆!
その絆がカイの原動力となるのか!?