第62話 苦悩の生徒会
〜あらすじ〜
俺達は2泊3日のスキー旅行へと来ていた。
俺はその1日目にまあ……いろいろとやらかした。
そしてスキー旅行の2日目を迎えた。
スキー旅行2日目。
田島以外みんな一通り滑れるようになったので、俺達は田島と古賀を除いて集まった。
ていうかあの二人はまた変なことを画策しているだろう。
「じゃあ今日はみんなで滑ろうか」
「そうね。カイとの約束もあるし」
覚えていたか!
何でも言うことを聞く約束を!
「じゃあまずは全員分の荷物を準備してもらおうかな」
「はい……」
パシリからスタートしてスキー2日目は始まった。
数分間滑って分かったことは、昨日は初心者だった人たちが上手く滑れていることだった。
「レイ……」
「どうしたの?」
レイはすでに俺より上手くなっていた。
「いや、何でもないです……」
少し複雑だ。
「カイ先輩〜〜〜!」
「ん?」
ナナちゃんが俺に向かって突撃してきた。
「止まりませ〜ん!!」
ドゴッ
「オワァ!!」
俺は吹っ飛んだ。
「ご、ごめんなさ〜い」
ナナちゃんが舌を出して謝った。
「はは、ははは」
俺は笑って痛みを誤魔化した。
「ねえ、競走しない?」
はなびが俺達に提案した。
「レース?」
「そう、競走!負けた人は勝った人に昼食を奢るの」
「ベタだな」
「別にいいでしょ!」
俺はみんなを見た。
「じゃあ俺は審判やるから」
「逃げたな俊哉」
「まあいいだろう?」
俊哉はスタート地点の端に行った。
「じゃあ私達7人でやるわよ!」
やる気がマックスのはなび。
さり気なく闘志を燃やしているであろうレイ。
ポーカーフェイスの咲。
楽しもうとしているナナちゃん。
多分最も運動神経がいいと思われる委員長。
俺に向かって意味深な笑みを浮かべる姉さん。
そして俺。
そんな俺達がスタート地点についた。
「準備は良いか?」
俊哉が俺達に訊く。
「ああ」
「ヨーイ……ドン!」
その合図と共に俺達が滑り始めた。
俺もそこそこのスタートだったが、はなびと咲がロケットスタートを成功させたようだ。
「さすがはなびだな……」
俺はスピードを上げようとするが、その前に委員長とレイに抜かれた。
「は、早いなお前ら」
すごいスピードで斜面を下っていく俺達。
周りの人たちは唖然としていた。
まあはなびやレイはかなりの腕前だからな。
「委員長に抜かれるか〜〜!!」
俺は委員長に詰め寄った。
「甘いですよカイさん」
「な……」
委員長が飛び上がった。
「ショートカットだと〜!?」
かなりの運動神経と度胸が無ければこんな行動が出来るわけが無い。
「やるわね彼女」
レイも感心している。
「カイ先輩!あなたには致命的な弱点があるんですよ!」
ナナちゃんの声が後から聞こえた。
「弱点だと?」
「カイ先輩は私達全員の言う事を聞かなくちゃいけないんですよね?」
「ま、まさか!?」
「私に抜かれてください」
そう言われて素直にスピードを落とす俺はヘタレだろうか?
「じゃあね〜」
もう後には姉さんしかいない。
まずいぞ……本当に奢らされてしまう。
俺は最下位にならないように頑張った。
しかし俺は失念していた。
俺が姉さんの願いを断れないことを。
「カイ〜」
「ね、姉さん……」
「私最下位になるの嫌だな」
「お、俺もいやだよ」
俺は姉さんの誘惑に負けないように言った。
「お姉ちゃんの言うこと聞けない?」
「で、でもさ……」
俺って弱すぎるだろ。
「お願い。私をビリにしないで……」
「ぐうっ……お、俺は……」
何でこんなに迷ってるんだ俺は……
姉さんは俺を見て泣きそうな顔をしていた。
そして俺は覚悟を決めた。
「どうぞ姉さん」
「わーい。ありがと〜」
姉さんは笑顔で俺を抜いていった。
「はぁ……もういいや」
俺は適当にスピードを出して滑った。
「結局俺ってこうなるんだな」
俺は最後にゴールした。
「じゃあ約束どおり私に昼飯を奢ってもらうわよ」
「トップははなびか」
どうやら1位ははなびらしい。
2位は僅差でレイで3位は咲、4位は委員長。
ここまではかなり早いと俊哉が言っていた。
「ん?って俊哉お前も最初スタート地点にいたってことは……!」
「ああ。実質的に俺が1位」
俊哉はみんながゴールする前にゴール地点にいた。
それが何よりの証拠。
「まあそんなことよりお昼ごはん食べよう!」
「元気だなお前」
はなびはいつも以上に元気だった。
「そりゃカイに集れるからね〜」
「高いものは頼まないでくれると助かる」
「どうしようかな〜」
俺の財布はパンクすることが確定した。
「まあ食堂へ行きましょう」
俺達は大きい食堂に入っていった。
「ていうか昼代って宿代に含まれてるんじゃないの?」
「昼だけは含んでないわ」
レイがそう言うが、俺は昨日昼飯を食べていないので、そのことは分からなかった。
で、早速俺達は食堂に入って昼飯を注文することにした。
「ふう……食った食った」
「命令」
昼食を食べ終わった後、はなびが俺に言い放った。
「な、何?」
「私と一緒に滑りなさい」
「は、はい」
俺は強引にはなびによって午後の予定を決められた。
「じゃあ私も行く〜」
「姉さん……」
「いいでしょはなびちゃん?」
「あ、はい……」
はなびが少し落ち込んだが、俺には理解できない。
まあ姉さんは……ってこんなこと言ってるから俺はシスコンって言われるんだ。
「じゃあはなびと楽しんできてね」
咲が俺に言った。
というか姉さんも一緒だぞ。
俺達はみんなに見送られながら外に出た。
「カイ〜!」
「ね、姉さん!」
いきなり俺に抱きついてくる姉さん。
「カイ!」
「何故俺!?」
何故かはなびに怒鳴られた俺。
「鼻の下伸ばしてる!」
「実の姉に伸ばすわけねえよ!」
「え〜伸ばさないの〜」
「姉さんは黙っててくれ」
こんなやり取りをしてスキーどころじゃない。
全く……なんで全て俺にとばっちりが来るんだろう?
そんなこんなでスキーが出来ない。
「まあまあ。スキー出来なくなるぞ」
「そうね」
「うう……」
一応二人とも?納得してくれたようだ。
そしてリフトの前に来た。
「……」
リフトは、二人乗りだ。
「カイ、乗ろう!」
姉さんが俺を引っ張った。
「ダメですマイさん!カイは私と乗るんです」
「何言ってるのはなびちゃん。私とカイは姉弟よ。なら一緒に乗るのは当然でしょう?」
「でも節度と言うものもありますよ!」
はなびと姉さんが言い合いを始めてしまった。
俺にはどうすることも……いや、出来るかも。
「まあまあ二人で乗ってくれ。それで万事解決だ」
「まあいいわ」
「そうね。勝負はお預けよ」
で、一体何の勝負をしているんだ?
さっきからいがみ合っているし。
まあ夕食のおかずでも賭けているんだろう。
そして二人は渋々リフトに乗った。
「ほらカイも!」
「ああ……」
俺は次のリフトに……乗らなかった。
「ちょっとカイ!」
「何してんのよ!」
「じゃあな。疲れたから俺は帰る」
「卑怯者ぉぉぉぉ!!!!」
はなびの叫びが木霊したが、雪のためにあんまり響かなかった。
そして進言どおり俺は宿に戻った。
「ずいぶん早い帰りね」
「レイ、お前行かなかったのか?」
宿のロビーにはレイがいた。
「咲もね」
どうやら咲もここにいるらしい。
「ところではなびとカイの愛しいお姉さんは?」
「愛しい言うな」
レイはいつものように俺をそういう風にからかう。
「違うの?」
「いや、まあ違くは無いけど……」
俺は言葉を濁した。
外を見ると俊哉が逆ナンに遭っていた。
「なあレイ、俊哉ってもてるよな」
「どこがいいのか知らないけど」
「厳しいな」
レイの理想は何となく高そうだ。
「ただいま帰りました〜」
「あ、ナナちゃん」
ナナちゃんが帰ってきた。
まだ時間は早いぞ。
「カイ先輩、はなび先輩と先輩のお姉様は?」
「ああ……面倒くさいから逃げてきた」
俺は事実を述べた。
「酷いです」
「最低ね」
「人間のクズね」
さり気なくここにいた咲が俺に止めを刺した。
「さ、咲、それ本気かよ……」
素で落ち込みそうだ。
「あ、そんなわけないでしょ!」
咲が必死に否定した。
「まあどちらにせよ、帰ってきたら謝罪しないとね」
「はい」
俺は項垂れながら返事をした。
「それにしても意外ね」
「え?何が?」
レイが何かを考えている。
「お姉さんから逃げるなんて」
「いや、それは……」
「単なるシスコンじゃなかったのね!」
咲がレイの言葉を代弁した。
「俺はみんなからどう思われてるの!?」
『姉に手を出す鬼畜野郎』
「随分酷い言われ様ですね!?しかもみんな1語1句間違ってないのかよ!?」
妙なシンクロをした3人に俺はたじたじになった。
そんな会話を続けた後、はなびと姉さんが戻ってきて謝罪をした。
「別にいいよ。ね、マイさん?」
「そうねはなびちゃん」
「ええ!?」
この二人いつの間に仲良くなったんだよ!?
おかがで俺にとばっちりが来なくて助かった。
そして時間は過ぎて、俺達は夕食を食べ終わった。
「さあ温泉温泉!」
『じーっ』
「え?」
みんなに見られている俺。
「アンタ昨日何やらかしたか忘れたんじゃないでしょうね?」
「は、ハイ!覚えているであります!はなび大佐!」
俺は背筋をピンと伸ばしてはなびに敬礼のポーズをした。
どうやらみんな俺のことを怪しんでいるようだ。
「大丈夫大丈夫。俺が見張っておくから」
田島がそういった。
「信用できないから却下」
「NOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!]
田島は床に伏したまま動かなくなった。
もちろん俺は倒れている田島を当然蹴り上げた。
「えーと……」
「俺が見張るから大丈夫」
今度は俊哉が言った。
「わかったわ」
「それなら安心ね」
田島とは雲泥の差だ。
「じゃあ俊哉君頼んだわよ」
「はい」
姉さんに念を押されて俊哉は返事をした。
俺って信用ないのかな〜とか考えてしまう。
そうして女子はみんな部屋から出た。
ちなみにここは俺と姉さんと委員長の部屋だ。
「じゃ、大富豪でもやろうぜ」
「そうだな。田島、エロトランプだぞ」
「何!?」
突然起き上がった田島。
分かりやすい奴。
そして女子達が全員部屋に戻ってきてやっと俺達が温泉に行けた。
もちろん今回は何も起きなかった。
だからそのまま寝て、次の日になって、帰る、のはずだった。
夢までは。
「また武満か……」
最近じゃ武満の空間を見慣れているおかげで完全に判別できるようになった。
「今度は何の用なんだ?」
「お前、蓮見さやをどうするつもりだ?」
「は?さや先輩?」
何でさや先輩がここで出てくるのだろう。
「そうだ。お前はアイツのことを一生守る、と言ったな」
「え?あ、ああ。そうだな」
「その女は婚約者がいるんじゃないのか?」
「え!?そ、そうだったな」
俺は動揺してしまった。
「ならば一生懸けるのは無理だろう?」
「そ、それは……」
しまった……近頃ドタバタしすぎていてすっかり忘れていた……
「だからどうするつもりだ?と訊いている」
「お、俺は……」
さや先輩は俺のことが好き、なんだろう。
俺も同じく、なんだろう。
しかし……だからって結ばれるとは限らない。
「素直に手を退くのか?」
「お、俺は……」
武満に追及されて俺はうろたえる。
武満にとっては至福のときだろう。
「それは優しさやお人よしでもない。単に臆病なだけだ!」
「っ!!」
「貴様はやはり傷付けられるのが怖いようだな。最後の一歩が踏み出せないではないか!」
「くっ……俺は……」
俺は頭を抱えた。
出来ることなら俺はさや先輩に告白をしたい。
でも向こうは婚約者持ちで財閥の娘。
俺なんかが認められるわけが無い。
「まだ虐め足りないが、時間が無いのでな、ここで失礼しよう。ふふははは!」
最後の武満の笑い声が俺の頭の中に響いた。
俺はまだ……克服できていないんだ。
それを実感せざるを得なかった。
次の日、俺は体調不良で先に帰った。
そして俺は冬休みの間に誰とも会わなかった。
しかし3学期は始まった。
俺は始業式に渋々向かったのだった。
次回予告
3学期が始まった。
しかし俺はいつもどおりとは程遠い状態。
そんな俺は始業式の演説中に……