番外編10 伝説の生徒会長(後編)
遅くなりましたが後編です。
俺達は「伝説の生徒会長」の手掛かりを得るために、七瀬邸へと向かった。
「へえ…意外と大きい家ね。」
レイが感心した声で言う。
確かに豪邸という訳ではないが、平均以上である。
「一応十人姉弟ですから。」
「それもそうか。」
「じゃあどうぞ。」
俺達はナナちゃんに導かれて家の中に入った。
「お邪魔しまーす。」
みんな礼儀正しく挨拶して中に入った。
「あら?こんにちわ。ナナから話を聞いております。ナナの姉の都です。」
「あ、初めまして。」
俺達はそれぞれ都さんに挨拶した。
「さあどうぞ。」
「すみません。ありがとうございます。」
俺達は都さんに勧められるままにリビングの椅子に腰掛けた。
「すみません。まだ一美姉様は帰って来ておられないので、もう少し待って頂けますか?」
「あ、はい。元々こっちの一方的な都合なので。」
「申し訳ありません。何かあればお申し付けください。」
そう言って都さんは退がって、俺達は都さんに出されたお茶を飲みながら談笑することにした。
「なんか都さんって家政婦さんみたいだね。」
「え?リアルにそうですよ。」
「リアルなのかよ!!」
まさか本当にそうだとは思わなかったが。
「さあ山手線ゲームを再開しましょう!」
「まだやるの!?」
さすがにもういいだろ。
元々暇潰しとしてやったんだから。
「じゃあ東海道線ゲーム…」
「そっちから離れろー!」
ナナちゃんがまた提案する。
本当になんで電車系ばかり…
「じゃあモ◯ハンですか?」
「すぐそっちに行くんだね!」
ナナちゃんのモ◯ハン狂ぶりは国内でも屈指のレベルだろう。
「仕方ありませんね。椅子取りゲームに譲歩しましょう。」
「どこら辺が譲歩!?しかも迷惑だよ!!」
ナナちゃんは自分の家だから気にしないかもしれないが、一応都さんがいる。
「ならば究極の譲歩、リアル鬼ごっこ。」
「怖っ!!」
「対象は全国の蛟刃さん。」
「少なっ!!むしろ俺だけ!?」
さすがに一人で鬼ごっこは嫌すぎる。ありえない。
でもありえないなんてことはありえないってどっかのホムンクルスが言っていた。
「はぁ…もうネタ切れですー。」
「ええ!?ネタそれだけ!?」
「まあまあ。カイを虐めれば少しは暇潰しになるわよ。」
「そこ、不穏当なこと言わない!」
俺はさや先輩にビシッと言ってやった。
「それもそうね。」
「君も賛同するな!!」
レイがしっかり便乗してきた。
「じゃあまずは一発…」
ゴキゴキ
そう言ってはなびは近付いてくる。
「ねえ、あなたまさか俺に肉体的苦痛を与えようとしてない?」
「精神的ならいいの?」
「良くないよ!」
最終的に咲まで便乗してきましたよ。
「俺って不幸なキャラだな。」
「いや、むしろ幸運だぞ。」
何を言うんでしょうか俊哉さんは。
「これだけ多くの女子に虐められるのは滅多にないぞ。しかも一部の人間ならむしろ喜びに溢れる。」
「俺はその一部の人間じゃないからな!」
どうやら今日の俺の運勢は最悪のようだ。
そうして俺は一美さんが来るまで虐められていた。
3時間ぐらい経ってナナちゃんのお姉さんの何人かと弟の橙真君が帰ってきた。
「さて、ここで私が家族紹介をしま〜す!」
ナナちゃんがまだ一美さんが帰ってきていないため、暇つぶしとして家族紹介をすることにした。
「じゃあまず長女の一美お姉さんからで…」
ナナちゃんからの説明によれば、一美さんは年齢は三十路を超え、面倒見がいい人。性格ははなびに近いらしい。
次女の双葉さんはもう結婚してここには住んでいないらしい。性格はお淑やかで生徒会の誰にも属さないらしい。(この発言で生徒会のレイ以外の女子達がナナちゃんを一斉に睨んだ。)というかその時点でお淑やかでは無いんじゃないか?という発言は言わないことにした。
三女の都さんは年齢は27でどこかのお屋敷に勤めているらしい。今日はたまたま実家にいるだけ、のこと。
四女のシノさんは24歳で医大の6年生。頭はいいが無口らしい。今もまだ帰ってきていない。
五女の五喬さんは21歳でファッションデザイナーをやっているらしい。ナナちゃん曰く家族一エロいらしい。…少し気になる。
六女の睦さんは18歳でさや先輩と同い年。自称不良で、破天荒の生活を目指しているらしい。
七女のナナさんは16歳でとっても美人で家族一の常識人で100年に一度の逸材らしい…あれ?これってナナちゃんじゃん。
八女の八重さんはナナちゃんの双子の妹と言う設定らしい。というか事実だ。性格は姉にぜんぜん似ていないらしく、不思議キャラらしい。…ツッコムのも面倒だ。
九女のくるむちゃんは14歳で健康的なアウトドア派らしい。活発で明るい子で世界を愛するコスモポリタン(これはおそらく嘘だろうが)でもあるらしい。
そして長男の橙真君は12歳で常識人…というか家族の中で比較的まともらしく、大人びている。これは俺も確認済み。というか9人の実姉と暮らすのは大変だと思うぞ。何せ俺は一人でも大変なのに。
こうして紹介をしてもらっているうちに時間が大分経ってくれた。
そのおかげで一美さんが帰ってくるまで暇じゃなかった。虐められてもいたしな。
「ただいま〜。あら?お客様?」
一美さんが帰ってきた。
「お帰りなさい一美お姉さん。」
ナナちゃんが挨拶する。そのときのナナちゃんの目は輝いていた。
多分尊敬でもしているのだろうな。
「初めまして。私達は光芒学園の生徒会の役員です。急に押しかけてきて申し訳ありませんでした。」
さや先輩が真っ先に礼をした。
「こちらこそ初めまして。七瀬家の長女、七瀬一美です。それで一体どのようなご用件で?」
一美さんも礼儀正しい。言っては悪いがナナちゃんにあまり似ていない。
「一美さんは光芒学園のOGですよね?」
「そうですが、一体どうかなさったんでしょうか?」
さや先輩と一美さんの会話が続く。
「15年前…」
さや先輩のその発言に一美さんの眉がピクッと動いたのを俺は見逃さなかった。
「そのときの生徒会についてお伺いしたいものなのですが…」
「…15年前ですか。それを何故私に聞くのですか?他にも卒業生はいたはずなのですが。」
「これを見て下さい。」
さや先輩は卒業文集にあった例の部分を見せ一美さんに見せた。
「…。私に生徒会長のことを訊きたいんですね。」
「そうです。ある事実が明らかになりましたから。」
「ある事実…とは?」
「その年の生徒会長が100パーセント支持率で当選したということです。」
とうとうさや先輩が核心に入った。
一美さんが何を口にするのか気になった。みんな目と耳を一美さんに傾けている。
「そうですね。彼…その人は確かに100パーセントの支持率で当選しましたね。」
「!」
やはり小坂先生の言ったとおりだった。でも何故そんな事実が噂になってしまったのだろうか。
何かまだあるような気がする。
「では何故その事実が噂になってしまったのですか?記録に残さなかったのですか?」
「それは…」
さや先輩もそう思っていたのか。というかほとんどみんなそこを疑問に思っているはずだ。
「うちの生徒会長はあまりにもドジな人だったんです。」
『はぁ?』
ドジって何だ?
いやいやいや意味は分かりますけれどもね。
「パソコンを壊してしまってその年の生徒会の記録は保存できず、卒業文集に生徒会のページを作り忘れる…まあそんなこんなで結局今に至るというわけなんです。」
『…』
みんな黙りこくったが咲だけは何か考えている素振りを見せた。
「お話は以上ですか?」
「その生徒会長さんは今どこにおられるのですか?」
間髪いれずに俊哉が訊いた。
「すみません。それは言えないんです。」
「そうですか。」
俊哉も深く追求しなかった。
「あの…どうしてその生徒会長の支持率が100パーセントだったのですか?」
俺が今度は訊いてみた。
普通じゃありえない。最低でも一人くらいは反対すると思うのに。
「それは正直に言って人柄です。彼は誰からも愛されるようなそんな人だったんです。」
「そ、そうなんですか。」
てっきり何か策略でも使ったのかと思っていた。
あ、さや先輩少し悔しがってる。
「質問は以上です。」
さや先輩がすぐに持ち直してお辞儀をした。
俺達も続いてお辞儀をした。
「時間を使わせてしまってすみませんでした。」
「いえ、お構いなく。」
「失礼いたしました。」
俺達はそう言って七瀬邸を後にした。
結局雑談の方が長かった。
「ナナ。」
「は、はい!!」
カイ達が帰った後、一美はナナを呼んだ。
「フフフ。あなたが私のことを言ったのね?」
「ええ!?だ、ダメですか?」
一美はいつの間にか猫をかぶるのを止めて額に青筋を浮かべていた。
ナナちゃんは少し恐怖を感じている。
「別に良いんですけど、そのせいでドラマを見忘れたじゃないの!!」
「録画しましたから大丈夫ですからっ!だから叩かないでくださいっ!でも適度に…」
なんてことがあったかもしれない。
俺達はとぼとぼと帰った。
結局あまり良い情報は得られず…。
でもまあ噂の信憑性を確認できただけでも良しとしよう。
もう夜遅いのでちゃんと女子達を送らなくては。
「手掛かりなしですか…」
はなびがため息をついた。
「そうかしら?」
レイがそう言った。
「そうね。手掛かりも無くは無かったわ。」
咲も同意。
「フフッ。さすがは二人ともすごいわね。」
さや先輩も分かっているような口ぶりを…
俺は俊哉を見た。
すると俊哉はおどけて見せたのでホッとした。
「まず生徒会長は男性である。そして魅力に溢れる人。彼女、七瀬一美さんも生徒会役員、役職は書記か副会長というところね。」
咲が説明する。
「そして彼女とその生徒会長さんは未だに連絡を取っているわ。」
「!」
どうしてそんなことまで分かるんだ!?
「彼女は当時その生徒会長さんに好意を持っていた。そして多分その人も。訳があって今は連絡を取り合うだけなのかもしれない。」
「でもさ、それって生徒会長さんが単に今の自分のことを教えていない可能性もあるんじゃない?」
「それは無いわ。」
レイに即答された。
「だってそこまで好かれる人柄の人がそんなことをするとは到底思えない。うっかりはあってもこんなことをうっかりなんてさすがにカイじゃないんだから無いでしょう。」
「…」
今さり気なく俺が侮辱された気がするのだが。
「まあどちらにせよ。余計に謎は深まってしまったのかもね。」
さや先輩がそう言う。
「それに…小坂先生のこともあるし。」
小坂先生?何でここで出てくるんだ?レイの口から。
「そうね。彼は何かを隠しているわ。」
咲も呟いた。
「あなたも何か彼が呟いたのを見たのね。」
レイが咲に訊くが、咲は首を横に振った。
「そうじゃないわ。あなたが何かを隠しているのが分かったから。」
「そういうことね。」
オイ。話についていけないぞ。説明してください。
「ほら二人とも他の人達が分かっていないわよ。」
さや先輩の言うとおり俺とはなびは目を丸くしている。
俊哉は…こんなときにそっぽを向いている。
大物になるな。あいつは。
そして二人から聞いた話によれば小坂先生は何かを隠しているそうなのだ。
俺は微塵も分からなかったけどな。
こうして一応俺達の「伝説の生徒会長」についての活動を終了した。
理由として隠していることを無理に聞きだしても…という俺の意見。
さや先輩とはなび意外は賛成してくれた。
はなびは当然の反応かもしれないが、さや先輩は大人気なく駄々をこねていた。
それを俺達は呆れながら見ていたのだった。
そして今俺は「デザート・イン・オアシス」でレイとそのことを話していた。
「でさ、それで…」
「コラ!仕事中にイチャついてんじゃねえ!」
「うわあ!!」
マスターに耳元で怒鳴られた俺。
「全く…最近の若い奴らは…」
「マスター。それ、自分が老けた証拠。」
「レイちゃん…言うねえ。」
レイはちっとも反省していない。というかまあマスターも本気で怒っていないであろうが。
チリンチリン
「あ、客よ。いらっしゃいませー。」
パタパタと扉に向かったウェイトレス、レイ。
「平和だねえ…」
「いや、平和じゃないときってあるんですか!?」
「まあここも3年前は抗争が絶えなかったからねえ…」
「ええ!?」
「冗談に決まっているでしょ。カイ、あなたもマスターとイチャついていないで仕事してね。」
「っそんなわけないだろ!!」
嗚呼…冗談だと分かっていてもついムキになってしまう…
マスターなんて笑って流しているしな、やっぱり大人だな。
「あ、一美と双葉!久しぶりだな!」
「え!?」
そこにいたのはこの間会ったばかりの一美さんと初めて出会う双葉さんだ。
「おうお前ら、この二人は双葉が結婚するまではよくここに来てたんだよ。」
「そうなんですか…お久しぶりです一美さん。あと初めまして。」
俺は二人に挨拶をした。
「久しぶりね。カイ君とレイちゃん。」
「初めまして。お姉さまからお話は聞いてます。双葉です。」
双葉さんはナナちゃんの言ったとおりお淑やかな人だった。
レイもキチンと挨拶して二人の注文を取った。
「アンタも老けたね。この間会ったときとは別人じゃないかしら?」
「はっはっは!一美もだよ!」
「レディーにそれは無いでしょ?」
一美さんの額に青筋が浮かんだ。
あ、この間は猫を被っていたんですね。
「まあまあ姉様。マスターさんも。他のお客様に迷惑ですよ。」
「違えねえ。ハハハハハ!!」
…マスター。あなたの人生終わりましたよ。
「…死ねっ!」
ドゴッ!!
「おわあ!!!!」
一美さんのアッパーで飛ばされたマスターはゴミ箱に頭から突っ込んだ。
『あははははは!!!』
店中大笑いしていた。
もちろん俺も。レイは声に出してないけど笑ってはいる。
「姉様も相変わらずなんだから…」
双葉さんも呆れて見ている。
「じゃあね。」
「さようなら。」
コーヒーを飲み終わった二人は席を立った。
一美さんは恥ずかしそうに、双葉さんは申し訳なさそうな顔で挨拶した。
「おう。また来いよ。」
マスターが元気良く言った。
さすがに疲れ知らずのダイナモか!?
こうして俺達はバイトが終わったので帰る事にした。
「いや、まさか一美さんとマスターが知り合いだとは。」
「単なる知り合いだと思う?」
「へ?」
何をいっているんだこの人は。
「まああなたにその反応は似合いすぎだけど。」
「どういうことだ?」
まさか…マスターが伝説の生徒会長だというのか!?
「それはないよ。マスターが伝説の生徒会長だなんて。」
俺は笑いながら言った。
「…どうして?」
「だってあの人高校中退じゃん。生徒会長が中退はマズイよ。」
「…そうね。」
お、納得してくれたみたいだな。
何か俺がレイを口で負かすのは初めてかもしれないな。
「じゃあまた明日な。」
「そうね。さようなら。」
俺はレイと別れた。
「でもね、生徒会長の任期って…11月までよ。」
「え?」
「さようなら。」
俺は最後にそうレイに言われて混乱した。
ん?それってどういうことだ?
謎は深まるばかりだ。
まあいいか。
「理想に勝てない男は…夢も失うもんさ…」
これで伝説の生徒会長編は終了です。
次回の更新は未定です。