番外編07 武満じゃない、俺は悪魔。
武満視点です。
あの事件は武満にとってどうだったのかというものです。
気がつくと街が燃えていた。
俺はこのとき何で町が燃えているかがわからなかった。
火事にしては大規模すぎる。
一体どうして?
そんなことを考えていたが、すぐにハッとした。
あの街には愛する人がいる。
そうして拙者はすぐに町の中へ走った。
「お喬!」
俺はその愛する人の名を呼んだ。
こんな火事の中、生きていれば奇跡であろう・・・
しかしそれでも諦めずに拙者はお喬を探した。
走って数分、お喬の家が見えてきた。
拙者はさらに走る速度を速めた。
「お喬!!大丈夫か!返事をしてくれ!」
ドンドン
扉を叩いてみるが気配が無かった。
お喬は拙者の子を身篭っている。
だから早く逃げられない。
拙者は扉を強引に開けるがお喬の姿は無かった。
そのとき
ガタタッ
何か物音がした。どうやらこの家の裏の方から聞こえた。
拙者はすぐそこに向かった。
まさかお喬か・・・!
拙者は期待に胸を膨らませた。
・・・!!
そこにいたのは変わり果てた血だらけのお喬と幸成だ。
「幸成殿!?一体どうしたのですか!?」
拙者は状況が上手く飲み込めなかったので幸成殿に詰め寄った。
「・・・」
幸成殿は黙りこくった。
どうしたのか?拙者はもう一度訊いた。
「一体どうしたのだ!?」
「・・・キリシタンには制裁を加えなければいけない。」
「え!?」
そうして漏れてきた言葉は今までの幸成ではなかった。何か違う、誰も寄せ付けさせない冷たさを持っていた。
こんな幸成を俺はシラナイ。
俺は最悪な予感がした。
「ま、まさか・・・」
「ふふふ・・・ははははは!いけないのはキリシタンだ!幕府が禁止しているというのに・・・」
「な・・・!」
変わり果てた幸成はやはり俺の知らない男だった。どうして幸成が!?
拙者はにわかに信じられなかった。
しかし今の状況を見れば一目瞭然であることは分かっていた。
抜き身の刀と、血だらけのお喬。
そうすると一つの結論に自然と行き着いてしまう。
「お前らの神に祈ってみればいい。祈れば助かるのではないか?」
「クッ・・・」
そんな幸成の言葉に拙者は必死で祈った。
神様なら助けてくれるかもしれない。
お願いだから夢であってくれ・・・!!
そんなことを思ったが、何も起きはしなかった。
拙者は神に見捨てられた・・・そんな現実を味わった。
「神とはかくも無情なものだ・・・」
そう言って幸成はその場を立ち去ろうとした。
「ゆきなりぃぃぃぃぃ!!」
拙者はもう幸成に対する怒りしかなかった。
拙者は抜刀して幸成に向かっていった。
しかし幸成殿はさっとかわして逆に反撃した。
「グウッ!」
拙者ははじき飛ばされた。元々拙者は幸成に剣で勝ったことは無い。
拙者の完全敗北・・・
「ふっ。最後に一つだけ教えてあげましょう。あなたの父にキリシタンを抹殺せよと進言したのは私です。」
その発言に拙者は目を見開いた。
幸成・・・信じていたのに・・・どうして・・・どうして!!
「お喬ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
拙者は血だらけのお喬を抱きかかえて天に吼えた。
しかしそんな雄たけびすら神は見捨てたのだ。
拙者は決心した。
現世で救いが無いならば・・・後世まで呪い切ってやる!
現世での苦しみなど生ぬるい・・・
拙者は胸に悪魔の刻印を彫った。
悪魔はキリスト教で禁じられているがそんなものはどうでもいい。
神がこっちを見捨てるなら、こっちだって神を見捨ててやる。
神にも復讐だ。
「世界が憎い。自分を認めない奴らが憎い。何もかも壊したい。何もかも消したい。力が欲しい。全てを滅ぼす力が。絶望が見たい。恐怖に怯える絶望が。」
拙者は淡々と言った。
今の拙者を動かしているのは憎しみのみ。
「絶対に許さない・・・皇幸成!!」
拙者はそう言って胸元に剣を差し込んだ。
どうか悪魔よ・・・拙者の・・・いや、俺の願いを訊いてくれ給へ・・・
俺は最後まで憎しみの感情しか持たなかった。
気がつくと何も無い空間にいた。
「ここは・・・」
全く状況が読み込めない。
俺は悪魔になったのか?
胸元を見ると禍々しい刻印が黒く光っていた。
俺はその何も無い空間を歩き続けてみた。
・・・
これが最初の俺の覚醒。
右も左も分からない状況だったが、時間がたつにつれて自分は誰かの思念の中に入っていることが分かった。
そう、俺の願いは成就したのだ。
これで皇家に復讐が出来る・・・
俺は歓喜に打ち震えていた。
しかし、時間がたつにつれて俺の中にもう一つの感情があった。
憎しみのほか・・・疑惑だ。
正直俺は幸成が憎い。
愛する女性を殺した裏切り者の幸成が。
だが、俺は肝心な瞬間を見ていない。
本当に幸成が殺したのか?
そんな感情が出来つつあった。
最近自分でもおかしいことは分かっている。
原因は分かっている。
今の俺の宿り主、皇カイだ。
あの男は誰よりも優しく俺すらも受け入れた男。
皇家を恨まなくてはいけない・・・のだが心の底から皇カイのことを恨んでいるのかが時々わからなくなる。
・・・今更何言っているんだ?
俺は悪魔だ。
皇家が憎い・・・それでいいじゃないか。
俺はその感情を自ら封印した。
さあ・・・苦しむがいい・・・皇カイ。
俺は悪魔。
中途半端なところに入れたのは正直悪いと思っています。