第2話 喧嘩の生徒会
仮タイトルは「いざ、約束の地へ」
誤字脱字あったらすいません。
俺には幼なじみがいる。
世の男共は可愛い幼なじみに朝起こされて、一緒に朝食を食べ、学校に行くことを夢見ているはず。
しかし俺、蛟刃カイは見事に逆転しているのだ。
そう、朝にはなびを起こすのは俺の役目で朝食も俺が作るのだ。
……………………それでも羨ましいですか……すまん。今は反省している。
俺は独り暮らしをしている。家族がいないわけではないが、もう一年ほど会っていない。
家族は父、母、姉だ。訳があって今は別姓を俺は名乗っている。
はなびは両親と共に暮らしているが、親が共働きのために朝起こすことが出来ない。
そのために毎朝俺が起こすのだ。
そうこうしているうちに部屋の前に到着。
そして一応ノックする。
が、予想通り返事が無い。
遠慮なくドアを開け、布団からはみ出ている寝相の悪い幼馴染を起こしに懸かる。
第1段階、声をかける。
・・・返事がないただの屍のようだ。
第2段階、ゆする。
「んあ・・・」
艶かしい声をあげてドキッとするが何とか襲いたい衝動をこらえる。・・・って違うだろ。
第3段階、実力行使。
俺は布団を剥ぎ取って眠り姫をベッドから落とす。
ゴギッ
「グギャッ!」
頭から床に衝突したはなびは女と思えない悲鳴をあげて起き始めた。
「おい。お寝坊、朝飯作ったから早く来いよ。」
「ん。」
パジャマがはだけているはなびから目を離して俺は部屋を出た。そのときの俺の心臓は破裂しそうだった。俺ってそんなに飢えてるのかなぁ……とか思いながら下へ降りた。
はなびと共に登校して教室に入ったとき、教室が異様に騒がしかった。
何だろ?と俺が首をかしげていると、
「おはようさん。カイ、はなびちゃん。」
「ああ、おはよう。」
「おはよう。俊哉君。」
何故こんなに騒がしいのかを俺は俊哉に聞いてみた。
「ああ。そのことか。何かこのクラスに転校生が来るらしい」
「え?だってまだ4月の中旬でしょ?」
はなびが当然のように疑問に思っている。まあ俺も。
「俺も良く知らねえけどさ・・・カイ、何か聞いてるか?」
「いや、何も」
「だよなぁ」
確かにこの時期に転校生は非常に不自然だ。
なんか家庭の事情でもあるのかもしれない。
そうこうしているうちにチャイムが鳴って担任が入ってきた。
「ほら、席に座れ。」
この担任は倉橋真里菜。女のような顔をして女のような名前のれっきとした男である。
ついでに生徒会顧問もやっているが、顔を出すことはほとんどない。
「何だカイ。私の顔をじろじろ見て。やっぱり惚れたか?」
「んなわけねえだろ!」
「フフフ・・・男同士でも愛は成り立つのよ?」
言い忘れていたが心も女な厄介な人である。
「俺が好きなのは体も女の奴だ!」
「では私が去勢した暁には恋人になろうではないか。」
「言い忘れていましがアンタは除きます。」
「先生をアンタだなんて…酷い!あの夜のことは遊びだったのね!?」
『なぬ!?』
言っておくが叫んだのは俺ではない。真里菜ファンクラブの会員の男達である。
ちなみに俺の隣にもファンクラブの男がいるので正直五月蝿かった。
「貴様!!真里菜様にそんな不埒な真似を!?」
「そこになおれい!蛟刃カイ!」
次々とファンクラブの男達が俺を睨みつけて立ち上がる。
「俺はそんな夜は知らない!」
「じゃあ昼なのか!?白昼堂々か!?」
「俺は何もやってね〜〜〜〜!!」
はなびと俊哉はいつものことだと思って手も貸さない。
だがはなびのこめかみがひくついているのは気のせいだろうか。
まあはなびはいつも怒っているし良いか・・・。
「はい。冗談はこれまでにして・・・」
「何だ冗談か・・・」
「疑って悪かったな蛟刃。」
いきなり手のひらを返したように席に着くファンクラブの会員共。ていうかこれいつものやり取りだろうが。学習しろや。
「転校生を待たせては悪いので〜。あ、ちなみに転校生は美少女よ。カイ、襲わないでね。」
「しねえよ!」
俺ばっかなんでこんな目に・・・といいつつ机に伏す。
「じゃあ入ってきて。」
先生が声をかけた。
ガラガラ
『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
扉が開いて転校生が入った瞬間に大歓声が聞こえた。主に男子の。はっきり言って五月蝿い。
そんなに美人なのか、と目を開けて前を見た。
「は・・・」
確かに凄い美人だった。クールビューティーが似合いそうな感じだ。
足はすらっと長く、スタイルもそこそこ。そして顔は確かにかなりの美人だ。
思わず見惚れているといきなり腕に痛みがはしった。
「痛!」
「むぅ〜〜〜〜」
右隣の席のはなびがこっちを睨みつけながら腕をつねっていた。俺なんか悪い事したかな・・・?
「自己紹介してね。どうぞ」
「風見レイです。」
『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
言っておくが俺は歓声を上げていない。というか名前名乗っただけでこの歓声は無いだろう。
浮かれ過ぎだ皆。飢えすぎだ皆。
「じゃあ席はカイの左隣ね。」
ん?左隣?俺は左を見た。ファンクラブの男と目が合った。空席じゃねえだろそこ。
「田島君は席を前に詰めてね。」
「は〜い」
ファンクラブなので平然と担任の言うことに従う。ていうか俺は疑問に思ったことを口にしてみた。
「てか何で俺の隣なんですか!」
「そうですよ!」
お、珍しい。はなびも加勢し始めた。俺の前の席の俊哉ははなびと俺を見比べてくすくす笑っていた。
「だってラブコメの王道でしょう?転校生の席が主人公の隣になるのは」
「まあ確かに…って今の発言メタだったよねえ!?」
「さ、座ってね。」
「はい。」
メタ発言で俺とはなびは鎮圧されてしまった。
しかしずっと隣ではなびが「負けないもん負けないもん・・・」と呟いていた。何かの勝負でもしているのかもしれない。
「じゃあ授業を始めるわよ。」
こうして授業が始まったが、男達はあんまり集中していなかった。
授業が終わったと同時に俺の左隣に大量に人が集まってきた。
「レイちゃんって呼んでいい?」「彼氏いるの?」「趣味は何?」「君と出会ったのは運命だと思うんだ!」「あなたは神を信じますか?」「心中しませんか?」
おい、こんなに質問したら彼女答えられないだろう。ていうか最後の二つを質問したやつなんか意味わかんねえよ。
しかしレイは動じなかった。それどころか一言もしゃべらなかった。
「おーい聞こえてる〜?」「友達からでいいからさ〜。」
ピクッとレイの表情が動いた。そして顔を上げるとそこには絶対零度の目があった。
「私。友達いらないから。“友達ごっこ”なら他所でやってくれる?」
こうして席から立ち上がって教室から出て行った。
そして教室は一気に静かになった。
「感じ悪〜い。」「あ〜あ性格ブスか・・・」「転校初日でこれはないわ〜。」「ありえな〜い。」
皆口々に悪口を言い始める。本人いなくなったらすぐこれか・・・嫌になる。そこへ俊哉とはなびがやってきた。
「あの目・・・まるで昔のお前だな。」
「・・・」
俊哉が神妙な顔で話しかけ、はなびは俯く。
「・・・だな。」
「私・・・レイさんのところに行ってくる!」
「止めておけ」
俺はすぐにはなびの袖を掴む。
「何でよ!?」
「お前が行っても無駄だよ」
「な、何それ!?昔のアンタに対して何も出来なかった私に対してのあてつけ!?」
「そういうわけじゃないんだ・・・だから・・・その・・・」
何でこういうときに言葉が上手く出てこないんだ俺!
「もういい。アンタなんか知らないから!」
「あ、はなび!」
はなびは俺を振りほどいて行ってしまった。俺は自責の念に駆られた。
「ったく、もっと上手い言い方無かったのか?」
「悪かったな。」
はあ、とため息を吐いて俊哉は話しかけてきた。
「まあ過ぎたこといっても仕方ないさ。後できちんと謝っておけよ。はなびちゃんがお前の事嫌うはずなんて無いからな。」
「そうかあ?いつも嫌われているような・・・」
「はあ・・・この鈍感が。」
いや、意味わかんねえよ。俺ってそんなに鈍感かよ・・・
結局その後俺ははなびに話しかけるタイミングがなく、何も言えなかった。だがはなびもレイに対して何か言った訳でもなさそうだったので一応はホッとした。
そして結局生徒会室にははなびは来なかった。
「まさかはなびちゃんと何かあった?」
「ええまあ・・・」
会長が普通に俺に聞く。
「俊哉は見てたの?」
「はい。」
「そうかあ・・・ということは悪いのはカイね。」
「ええ!?」
会長がさも当然という風に言い放った。
「だってはなびちゃんを怒らせたんでしょ?」
「確かにそうです。」
「男女の喧嘩は大抵男が悪いんです。」
ナナちゃんも俺への口撃を開始してきた。
「まあまあ、カイも一応反省してるんですから・・・」
「反省ぐらいならサルでもできるわ!」
俊哉が少し二人を宥めようとするが、会長は俺への攻撃の手を緩めない。
「だいたいあなたいろいろ鈍すぎなのよ!」
俊哉の後に今度は会長にも言われた。俺ってそこまで鈍いのか!?というかさっきと論点ズレてね!?
「あの俺ってそんなに鈍いですかね?」
『鈍い!』
3人の声がハモった。さすがにこれは落ち込むぞ・・・
「はあ・・・はなびに謝ってきます・・・」
「出来るの?」
「!」
会長が真剣な目つきになる。会長は普段おちゃらけている分真面目になると結構威厳がある。
俺はついその瞳から逃げたくなる衝動に駆られた。
「私には無理だと思うわ。あなた口下手だから。」
「そんなことは!」
「事実よ。どうせまた喧嘩になるわ。」
「・・・」
俺は何も言い返せない。事実だからだ。
これほど自分の性格を呪ったことは無かった。
「はなびちゃんも少し経てば頭が冷えるわ。その時にしなさい。今は頭に血が上って聞いてくれないと思うわ。」
「じゃあどうすればいいんですか?」
「自分で考えなさい、少年。ちょっときついかもしれないけれどこれは私なりのエールだから。」
「・・・・わかりました。」
「じゃあもうあなたは帰っていいわ。」
「え?」
俺はもちろん驚く。
「今のあなたじゃ仕事できないでしょ?帰って頭冷やして休んでいなさい。」
「はい。」
俺は渋々うなずいて帰り支度をした。会長の言うことは何故か信頼性がある。
まあ俺も会長の人柄に惚れた男だからな。
こうして俺は帰路についた。
…帰ってみたのはいいのだが何だか落ち着かなかった。
はなびと喧嘩することは何回かはあったが、いつもはすぐに収まっていた。
それなのにどうして今回は・・・とつい考えてしまう。
「ああもう!落ちつかねえ!こうなったら気晴らしに外に行くか!」
よし!と気合をいれ、勢いよく立ち上がった。そしておもむろに外へと出た。
とりあえずコンビニで立ち読みでもするか・・・と考え、ファミリア・マートへと向かうことにした。
「いらっしゃいませ。」
「・・・・・」
瀬川先輩が店員だったので帰ろうとしたが・・・
「待ってよ。もうすぐバイト終わるからさ」
一応引き止められたから振り返って尋ねる。
「どれくらいですか?」
「2時間ぐらいかな?」
「帰ります。」
「ケチ!せめてなんか買っていけ!」
疲れていたのでツッコミも出来なかった。そしてそのまままた行く当てがなくなった。
で、結局ブラブラしているうちに深夜になった。
はなびの家を見上げるとはなびの部屋に明かりがついていたので、はなびは家に帰ってきているらしい。
俺は黙ってそこから立ち去って家へと帰ることにした。
翌日・・・
結局ほとんど寝れなかった俺はいつもの日課として一応はなびを起こしにかかる。
あまり気が乗らなかったが謝ることの出来るチャンスだと思った。
扉の前に立ち部屋をノックした。
しかし反応は無い。
いつものことだと軽い気持ちで部屋を開けると部屋の中には誰もいなかった。
あわてて玄関へと行ったらはなびの靴が無かった
「マジかよ・・・」
完璧に嫌われたかも・・・という不安を抱えて俺も登校することにした。
教室の中に入るといつもと変わらず女子の友達と談笑しているはなびの姿があった。
とりあえず落ち込んでいないことにほっとしたが少し複雑な気持ちになった。
「よう。今日は早いな。」
「ああ。俊哉か。」
いつものように俊哉と話す。しかしはなびはこっちに目すら向けなかった。
「ったく・・・俺の話聞いてねえだろ・・・」
「え?ああ・・・すまん。」
はなびのことが気になって会話に集中できない。
「まあ仕方ねえな・・・頑張れよ。」
「ああ・・・」
正直自信ありません。というかもう俺のことなんてどうでも良いと思ってるんじゃあないか?
そんなことまで考えてしまう。
そしてまたはなびと話せなかった。
「・・・この意気地なし。」
「すいません。」
「謝る相手が違うでしょ?」
「・・・はい。」
俺は結局生徒会室に来て会長に弄られていた。しかし今回のは俺が悪い・・・と思っている。
「先輩のせいではなび先輩来なくなりましたね。」
「う・・・・」
ナナちゃんも容赦が無かった。俊哉は・・・と目を向けると俊哉はいなかった。
「あれ?俊哉は?」
「そういえば俊哉もいないね。」
「また先輩のせいじゃ・・・」
「俺は俊哉には何もしてねえぞ!」
さすがに俊哉が来ないのは俺のせいではない・・・と願いたかった。
「案外情けないカイに愛想尽かしたのかもね〜。」
「う・・・」
まずい・・・否定できない。俺って駄目な奴だ・・・
ガラガラ
「愛想は尽かさねえよ。親友だろ?」
俊哉が入ってきた。俺は最悪な事態は回避できたらしい。
「俊哉あなたどこへ行ってたの?」
会長がもちろん聞く。
「ああ・・・ちょっとな・・・なあカイ。」
「何?」
「お前さ、生徒会の仕事手につくか?」
正直つきません。
「別に・・」
「正直に言ってくれ。」
さすがに俊哉は俺の嘘を簡単に見破った。俊哉には嘘をつけない。会長にもだけど。
「つかない・・・」
「だろうな。お前、今日帰れ。」
「え?」
何故そんな突拍子もないことを・・・確かに戦力外だけど。
「心落ち着かせろ。だからお前今行かなければいけないところに行け。」
「はあ?」
よくわからない。これは何かのとんちだろうか?
「まさかお前・・・忘れたのか?」
「忘れたって・・・ああ!」
俺の昔の記憶がよみがえる。
はなびとの思い出がよみがえる。
「何でこんな大事な約束を忘れていたんだ・・・」
「よし!後は頑張れよ。相棒。」
「ああ!すいません会長、早退してもいいですか?」
「どうぞ?今のあなた使えないし」
といいながら会長は微笑んでいた。少しドキッとしつつも俺は急いである場所へと向かった。
夕暮れの公園。一人の少女がベンチに腰をかけていた。俺は近くまで寄った。
「なつかしいな・・・」
ふと漏れる声。つい昔を思い出してしまった。
小さい頃によくここではなび達と遊んだ記憶がある。
「何しに来たのよ・・・」
今日始めて俺に話しかけてくれたはなび。
「懸垂をしに・・・な。」
「!!」
そうそれは俺とはなびの大事な約束。
「喧嘩したら悪いと思ったほうが懸垂を相手に許してくれるまでやるんだろ?」
「それ・・・」
「馬鹿だよな・・・こんな簡単な約束を忘れるなんて・・・」
でも、思い出した。俺は鉄棒のところまで寄っていく。
「今回は何回だ?」
「死ぬくらいかな。」
「はは・・・仕方ない。」
そして俺は懸垂を始める。
しかし3回ぐらいではなびが笑い始めた。
「何だよ?」
少しムッとなったがはなびの笑顔が見れて嬉しい気持ちもあった。
「だってその鉄棒小学生用じゃん。格好悪〜い。」
「うるさいな。なら早く許してくれよ。」
「い・や・だ。もっと笑わせてよ。」
こんな格好悪いことはしたくはないが、代償がはなびの笑顔ならまあいいか、とそんな風に思う。
そしてこの日、日が暮れるまで俺は懸垂し続けた。
そして翌日…
「痛ってぇ…」
見事両腕とも筋肉痛になった。字も書けないかもしれない。そしてその状態で俺はいつもの日課をしにいった。
「はなび、起きろ。はなび!」
努力はしたものの筋肉痛の俺は結局はなびを起こせずに二人揃って遅刻した。
「ああ・・・眠い。」
はなびがまだ寝ボケ眼のようだ。
「お前結構寝てただろ。」
「だって・・・だって・・・昨日寝れなかったんだもん。」
「は?」
「カイに嫌われるんじゃないか・・・とか考えてたから・・・」
寝ぼけているせいか、いつもより素直なはなび。
「ああ・・・それでお前朝いなかったのか・・・」
どうやら一人で起きれるようになったわけではないらしい。
まあ昨日はそれどころじゃなかったから考えなかったけど。
「え?昨日来てくれたの?」
はなびが意外そうに聞く。
「当たり前だ。俺達は幼馴染だからな」
「あ・・・幼馴染か・・・」
少し残念そうな顔をするはなび。
「え?まさか嫌だったか?」
「そんなことはない!私はアンタの幼馴染なんだからこれからも私を起こしなさい」
何故か命令された。が、不快感は感じなかった。
「ああ。任せろ。」
そう言うとはなびは笑顔を見せた。
この笑顔を見て、今だけは両腕の筋肉痛は不快ではなかった。
そう、感じた。
レイはどこで使いましょうかね・・・
感想あったら言ってください。励みになるし、反省にもなります。
ナナ「次回予告!」
カイ「何故か俺が後輩とオリエンテーリングに行くことになった!」
ナナ「ところでおりえんてーりんぐってどういう意味ですか?」
カイ「……辞書で調べなさい」
ナナ「えー。まさか知らないんですか〜?」
カイ「そ、そんなことはないぞ!」