第1話 いつもの生徒会
仮タイトルは変態カイの日常
生徒会はこんな感じ。
会長 蓮見さや
副会長 蛟刃カイ
副会長 水島はなび
書記 七瀬ナナ
会計 橘俊哉
事態は切迫していた。この状況は非常にまずい。
なぜなら俺は女子更衣室のロッカーの中にいるからだ。誓って言うが、変態ではない。じゃあ何だ? と聞かれたら普通の高校生としか答えられない。
そんなことより、問題にして欲しいのは何故このような状況になってしまったのかということだ。
そもそも男子が女子更衣室に入っている時点で普通の状況ではないことが窺える。
重ねて言うが変態じゃない。
しかし誰もいない女子更衣室ならば平然と出れるであろう。
そう、出れない理由は今ここで女子高生達が下着を俺の目の前で曝している……着替え中であるからに他ならない。
俺がチラッと視線を向けると女子高生の下着姿が……。純白の下着が……
……
いかんいかん!煩悩に負けてはならないのだ。
俺は首を激しく横に振り払い、急いで目線を下にずらした。
そんなことをしているといつのまにか俺が入っているロッカーの前に一人の女子生徒が。
ロッカーは使うためにあるわけなので、開けられても不思議ではない。
しかしこのロッカーを開けられると非常にまずい。どれくらいまずいかは、各自で検討して欲しい。
とにかく、一歩間違えれば俺が覗きという名の「汚名」を着せられてしまうこととなる。
まあ覗いているのは事実だが。
目を外に向けるとその女子生徒は自分の目の前で服を脱ぎ始めた。(更衣室だから当たり前であるが)
そしてその女子生徒の下着姿が目に飛び込んできた。
黒ですか……
あ、いやいや別に下心なんて……と思っているけど心臓の鼓動が止まらない。
オソッチマエヨ!ホンノウニシタガエ!ソレガオトコサ!オトコハオオカミ!
俺の中の何かが目覚める前に目の前の下着……じゃなくて女子生徒に早くどこかに行って欲しかった。
その時。
ブッ!!
鼻から血が吹き飛んで鼻血がドクドク流れ始めた。
どうやら先に自分の頭が限界に来たらしい。
どうやら俺も結構純粋な青年なんだ……そしてこの姿を人に見られたらもうこの学園には来れないだろう……と呑気に焦っていると。
キーンコーンカーンコーン
授業スタートの合図が鳴り響く。それと同時に女生徒達はバラバラと更衣室から出ていく。
これで開放されると思って、早速出る準備をする。
だが、自分の前にいた女子生徒は最後一人だけ動かない。
おかげで出るに出られない。
良いから早く行ってくれよ。
しかし、あろうことか、その女子生徒は何と俺のいるロッカーを覗いた。ばっちり目が合ってウィンクしながらこう告げた。
「エッチ」
「会長!?」
そう、この俺が着替えを除いていた女子生徒は光芒学園生徒会長、蓮見さや。
かなりの美人でファンクラブも多数あるような人なのだが……ドSだ。
顔を真っ赤にした俺は、逃げるようにその場を去った。
それを後ろから見ている会長と呼ばれた生徒は……
「可愛い」
と、小さく笑っていたのだった。
「というのが一部始終だ」
「この役得者が!」
俺はわざわざ親友の橘俊哉にさっきの会長の着替えシーンを語り、いつものようにじゃれ合っていた。
「落ち着いて聞くんだ、俊哉。確かに俺は会長の下着姿を見てしまった」
「それで?」
早くしろよ、と言わんばかりに急かす相棒。
「美人でスタイルも良かった。」
「…」
「いや!違うぞ!決して疚しい気持ちがあったわけじゃない!確かに興奮したけど…ゲフンゲフン!」
「…」
本気で呆れられ始めたらしい。
「そんな目で見ないでくれ相棒。これは陰謀なんだ!」
「陰毛?」
「陰謀だ!テメッわざと間違えただろ!」
「ああ」
素直に言われると怒る気力もなくなるよな…
「実はこの事件の前にこんなことがあったんだ!」
俺は話し始めた。忌まわしき事件(覗き)の発端を…
光芒学園。そこまで有名でもないが無名でもない先進的な高校。その生徒会は生徒達を過ごしやすいように日々努力している。生徒会の一員である俺、蛟刃カイは今日も会長のパシリ……ではなく生徒会の仕事に精を出していた。
そんな俺は、仕事のことについて会長に相談したいことがあったので、彼女を捜しに3年の教室のある廊下まで足を運んでいた。
そんなとき、俺は見知った顔を見かけた。
「瀬川先輩。会長の居場所をご存知ですか?」
「さーやのこと?そうねえ…」
俺が話しかけた人物は瀬川ゆう。前生徒会副会長である。ちなみにそこそこの美人なのだが女王様気質。
「心当たりは無いわね。あ、そうだそうだ!少し頼みがあるのよ」
何か思い出ような顔をした。
「頼みですか?」
俺は怪訝そうな顔をしながら訊き返した。
何せ、瀬川先輩はサドッ気があるので発言には注意が必要だ。昨年度には酷い目にあった…その話は追々話すであろう。
「ちょっと忘れ物をしてきたのよ。それを取りに行って欲しいの」
「忘れ物ですか?……ってそれパシリじゃないですか!!」
「お願い。ウルウル」
「口で言わないでくださいよ。分かりましたよ。取りに行きますから」
「さっすが〜!愛してるわよカイくーん!」
といって抱きついてくる先輩。個人的にむ……胸が当たっていることが非情に気になる。仕方が無いじゃないか。思春期の男なんだ。
「あの…冗談はいいですから離して下さい。」
「おおっ!私の胸に興奮したのね!?」
「ああはいはい。そうですから。場所はどこですか?」
この人は適当に流すのが一番だ。成長したな、俺。
「つれないわねえ。女子更衣室よ」
「え?」
「だから、女子更衣室。」
……
「嫌ですよ!!」
ちなみに、沈黙は迷いなんかでは断じてない。
「取りに行くっていったじゃん!それとも去年のことばらしていいのかな?」
「う……」
実は密かに弱みを握られていたりする。本当に敵わない。
「じゃあよろしく。ついでに一部始終も話してね〜」
そう言って去っていった。当の本人は一部始終って何で?と疑問に思っていたりする。
そしてそれを深く考えなかったことを後悔することになった。
それから後のことは…想像通りである。
ようするに俺は会長と瀬川先輩に嵌められてしまったのだ。忘れ物も“わざと”忘れたらしい。
どうやら本人曰く「カイを虐めるためには前日からの下準備が重用。」だそうだ。
そんなことをしている暇があったら、勉強しなさい。受験生だぞ?
とにかく、いつも被害にあっている俺の身にもなって欲しい。唯一のメリットは会長の着替えぐらい……じゃないじゃない!煩悩よ立ち去れ!
「というのがあってだなあ!」
いつのまにか目の前には誰もいなかった。
確かに長い話だったけれどそこまでして聞きたくなかったのか!?
その行動が不審だったらしい。
「誰に話してるの?カイ。そんなことやってるとキショイから止めて」
案の定俺に話しかけてきた女子生徒。
「うおっ!」
「何よその反応!あんた、会長の着替え覗いてたんですってね!」
何故知ってる。紹介が遅れたが、こいつは水島はなびといって俺の幼馴染に相当する。普通は可愛い幼馴染なんて羨ましいかもしれないが、すぐ怒るのが玉に瑕。
「いや、確かに結果的にはそうなっちゃったけど……」
「最低よ!」
「いや、だから訳があって…」
「どうして会長なのよ!スタイルいいから!?」
俺を糾弾することに命懸けているのか?
相変わらず俺に対して厳しい態度を取りやがるな……いつも起こしてやってるのに。
「だから俺の話を……」
「着替えだったら私がいくらでも見せてあげるのに……」
さりげなくボソッと言ったのを聞き逃さなかった俺。しかしはなびの着替えを覗くのは命が幾つあっても足りないだろう。
「いや、それは止めてくれ。」
「何よそれ!私の着替えは覗く価値もないってこと!?」
「だからそういうわけでは……」
「どうせ私なんてスタイル会長ほどよくないわよ!」
ああ。何故こうなる。俺は正当な判断をしたと思うんだけどなあ……
「二人とも、夫婦喧嘩はよそでやればいいだろ?」
ここにニヤケ顔の男再来。俊哉だ。ちなみにこいつは俺と同じく元不良だが今ははなびや俺と共に生徒会の役員をやっている。
「「誰が夫婦だ!!」」
「おお。息ぴったりだな」
「アンタそんなに私と夫婦になるのが嫌なの!?」
「いや、何故そこに反応する!?というかお前だって嫌がってたじゃねえか!」
「私はいいのよ!でもあんたに言われると何かむかつくのよ!」
「何だその理不尽な発言は!」
正直はなびと話すといつもこうなる。まさか俺嫌われてるのか!?
「お邪魔虫は退散するとするか……。で、屋上行かないの? 昼休み終わっちまうぜ?」
俺とはなびはハッとした。
「そうだった!」
「こんな奴に構ってられないわ!」
はなびは屋上へ走って行った。が、すぐに走って戻ってきた。
「あんたも行くんでしょ!」
「イタイイタイ」
俺ははなびに引き摺られながら教室の外にでた。それから俊哉もやれやれといった感じで俺たちの後についてくる。それが俺たちのいつもの日常。というか…そうなった。
放課後、生徒会の活動は大抵その時間に行われる。
俺はいつものように生徒会室に向かい、いつものように生徒会室に入室した。
ガラガラ
パンパン
「……何ですかこれは」
俺が生徒会室の扉を開けた途端に会長からいきなりクラッカーを食らった。
「カイの覗きデビューおめでとうっていう祝い」
「いや、そんなものいりませんから!しかもデビューって何!?」
「あ、経験済みだった?」
「そっちじゃねえ! 俊哉! はなび! 何とか言ってくれ!」
「ふうん。経験済みだったんだ〜」
「まあ、なるようになるさ」
二人とも全く協力してくれなかった。
「それで、私の着替えどうだった? 興奮した?」
「してませんよ! たいした見てないし」
興奮しました。すいません。
「と、言うことは見たことは否定しない、と」
「ああ! 確かに見ましたよ! 会長はスタイルがいいなとか思いましたよ!」
言った後に誤爆に気が付いた。つい本音が……
「しまっ……」
「ふうん。そうなんだぁ……」
「先輩、不潔です!」
いままで沈黙を守っていた生徒会の書記で後輩の七瀬ナナが俺に止めを刺した。
「すいませんでした」
結局俺が謝ることになった。
もういつものことだから慣れてるけどっ! 気にしてないけどっ! でも何故か目から熱いものがっ!
「まあ冗談はこれくらいにしておいて……」
「そうよね」
「そうですね」
「そうだな」
「って冗談かよ!!」
「え?それ以外に何が?」
「いえ、何でもありません。それよりどうしてはなびが知ってるんだ? 昼休みまでは、さや先輩の計画を知らなかったみたいだけど……」
「……カイ、処刑される?」
「い、いえ……俺はまだ死にたくは……」
まずい。さや先輩の心に火をつけてしまったらしい。
ここはまず、話を摩り替えて……
「コホン。それで、はなびがどうしてそのことを知ったんだ?」
身の危険を感じた俺は話を変えることにした。
「はなびちゃんは早とちりしちゃったからね〜」
「それは言わないでくださいよ先輩……」
結構ばつが悪そうに項垂れるはなび。最後まで会長の話を聞かずに俺のところまで飛んでいったらしい。
「おかげで酷い目にあったな……」
「何か言った?」
「いや……」
どうやら俺は運が無い方らしい。
「じゃあ早速だけど、初日じゃやることないし〜。そうだ!カイ!ナナちゃんに学校を案内しなさい」
「え?俺?」
「どうしてカイなんですか?」
何故かはなびが不審そうに聞く。
「どうしてはなびちゃんが聞くのかな?」
「そ、それは……」
何故か顔を赤くしてうろたえている。おおかた会長に弱みでも握られているのだろう。ならば俺が助け舟を出さねば。
「いいですよ。行こうかナナちゃん」
「先輩が嫌じゃなければ」
これで万事解決のはずだ。と思ったらはなびの奴が睨みつけている。
俺は一応会長に虐められそうになったはなびを助けようとしただけなんだがなあ……。一応会釈してナナちゃんと共に廊下に出た。
「そういえば先輩、あの時は有難うございます」
「あの時? ああ、入学式のことか」
あの時とは俺とナナちゃんが始めて会った時である。
その日は俺が一応生徒会役員として入学式の準備に来た日のことだ。
その最中に買出しを頼まれた俺は、校門を出てコンビニへと急いでいた。
そんなとき、不安そうに木を見上げている一人の女子生徒を発見した。
学年章からして新入生であることに気付いた俺は、「急がないと遅刻するよ」と声をかけた。
「はい……」
彼女は心ここにあらずで返事したみたいだったが、急いでいるので大した気にも止めずにコンビニへと走った。
しかし、コンビニから戻ってきた時にもまだその女子生徒はいた。
いた、というか何故か木によじ登ろうとしていた。
さすがに不審だったので「何してるんだ?」と聞いた。
そうしたら「猫が……」とぼそぼそ呟くのが聞こえた。
俺は上を見上げて猫が枝のところにいるのを見てなるほど、と頷いた。
そしてその光景を見捨てて置けなかった俺はコンビニ袋を下に置き、その女子生徒を制して自分で登る事にした。
木によじ登るのは得意だったので簡単に猫の近くまで行ったものの肝心の猫自体がこちらへ来ない。
何度もアピールを試みたが、こちらを睨みつけるだけで来ようともしない。
さすがに見かねて俺は猫の近くまで寄ったのだが、猫は枝の先まで逃げてしまう。
そして俺はつい、枝の先のほうまで足を出してしまう。
すると、案の定体重を支えきれなくなった枝がポキリと折れてしまった。
「やべ!」「キャッ!」と俺は下方にいる彼女の悲鳴を聞きながら、猫と共に木から落ちていくも、何とか手を伸ばして猫を捕まえることには成功した。
が、それに集中しすぎたせいで、俺は着地に失敗してしまう。
正確に述べると、着地自体は問題なかったのが、俺はコンビニ袋の上に着地してしまった。
そのせいか、買ってきたパンはペチャンコにつぶれてしまった。トホホ……
そして猫は俺の腕の中からさっさと逃げて女子生徒の腕の中に入っていく。
どうせ俺は嫌われてますよ……とか一瞬思ったが、その女子生徒も猫も喜んでいるみたいだし良いか。
「よしよし。もう大丈夫だよ。あの……ありがとうございます」
「いや、それよりも急がないと遅刻するよ」
「あ、はい! 本当に有難うございました」
こうしてその女子生徒は去っていった。これが俺と七瀬ナナとの出会いだ。
そして、その日のうちにナナちゃんは生徒会に加入した。で、今に至るわけである。
「いや。あれはいいよ。それより俺はその後会長に潰れたパン全部食べさせられた記憶のほうが強いし……う……吐き気が……」
「フフフ。それは災難でしたね。先輩」
ナナちゃんは笑っていたのでその発言は上辺だけのものだろう。
「そういえばナナちゃんはどうして生徒会に? まさか俺がいたから?」
少し期待しながら聞いてみる。
「残念ですね。私は中学生の頃から会長を尊敬していたんです。だからです」
どうやら会長とナナちゃんの出身中学は同じらしい。
「残念だなあ。ま、会長はドSだけど基本いい人だし仕方ないか」
「でもフラグは立ってますよ……」
「え?」
何かフラグがどうとか…まあいいか。
「何でもありません」
そうしてフフフと誤魔化した様に笑った。結構ナナちゃんは見た目の割りに大人びている。でも可愛いので生徒会のマスコットになること間違い無しだ。
そんなこんなで、いつの間にか空は暗くなりかけていたため、俺たちは帰ることにした。
そして帰り道、俺は生徒会メンバーと帰路についていた。
「カイってさ、夢はないの?」
会長が突然脈絡も無く聞く。
「夢ですか……そうですね……今は特にありませんね」
「え?昔カイってウルトラマンになりたいとか言っていなかったっけ?」
「いつの話だよ!?それって幼稚園位の話じゃない!?」
はなびがちゃかし、俺がつっこむ。
「カイ、似合っているわよ」
「そうです。そうです」
「会長まで止めて下さいよ。ナナちゃんも」
会長が弄り、ナナちゃんが便乗する。そして俊哉は後ろで微笑んでいる。
俺たちの日常はこんな感じだ。
「会長の夢こそなんですか?」
「教えてあげない」
「ケチっすねぇ」
俺たちは「あはは。」と笑い合った。
しかしいつまでも平和な日常が送れるはずは無いと、俺が一番理解していた。
出会いもあれば別れもある。
でも今はこの日常に身を預けようと、そう思った。
これはまだカイが自分や世界、全てをまだ知らなかった時。
そして、全てを知るときが彼に着々と訪れていたのであった……
結構大変ですね。特にキャラの書き分けが。
はなび「次回予告!」
カイ「次回まさかの俺とはなびが大喧嘩!?」
はなび「カイが悪い」
カイ「何でだよ!?勝手に決めるなよ!?」
はなび「だって大抵の喧嘩はカイが悪いじゃない」
カイ「そうだったっけ?」