第15話 奇跡の生徒会
仮タイトルは「奇跡は起きるものじゃない。起こすもの。」
長いです。
〜あらすじ〜
6月を終えて7月の始め、水泳大会が行なわれる。
俺達は優勝を目指しこの戦いに望む。
じめじめした季節は過ぎ去り、水泳のシーズンが到来した。
俺達は今その水泳大会に出ているのだ。しかし俺は不安を抱えていた。
つい先日・・・
「ふふふ・・・球技大会で分かったことがある・・・」
この大会の概要を伝えたHRで真里菜先生がみんなにこんなことを口にしていた。
「我々は最強だ!だから臆せずに進むのだ!我らの前に敵はいない!!」
『うおおおおおおおお!!!!』
真里菜先生の激励(?)にクラス中が盛り上がった。俺はいまいち盛り上がれない。なぜなら真里菜先生だからだ。あの人今回はどんな賭けをしたのだろう?
「よし!しかもこのクラスには奇跡を起こした男、蛟刃カイがいる!」
真里菜先生の発言にみんながいっせいにこちらを向く。
「そうだ!このクラスのヒーローだ!」
「蛟刃カイこそ我らのメシアだ!」
「次も奇跡を起こしてくれるはずだ!」
「カイ!頼んだぞ!」
「このクラスの命運はお前に懸かっているんだ!」
「さあ!カイ!クラスのみんなに勇気を与えるんだ!」
クラスの人達は口々に俺をおだてる。ちなみに最後の発言は真里菜先生だ。
「あ、えーと・・・絶対に勝ちましょう。」
俺は当たり障りのない言葉をみんなに告げた。
『うおおおおおおおお!!!!』
俺の言葉に異常な盛り上がりを見せるクラスメート達。お前ら、こんな奴らだっけ?
「と、いうことでカイ。君は我らのキャプテンだ。そして君はエースでもある。頼んだぞ?」
俺は返事したくはなかった。
「あ、はい。」
しかし俺はそれに答えてしまった。だってさ・・・あの空気じゃ断れなくね?断った途端にクラスの雰囲気が凍りつくことが目に見えている。
「よし!解散!!」
真里菜先生の声でみんな散り散りになった。
そしてはなびと俊哉が俺のところに来た。もちろんレイもだが。
「ちょっとアンタなんで引き受けちゃったのよ。」
「お前今回は球技大会のようにいかないんじゃないか?」
はなびと俊哉が俺を心配するような発言をした。レイは首をかしげているが。
さて、何故俺はここまで心配されるのか。
俺あんまり水泳得意じゃないんだよね。泳げるようになったの中学生の頃だし。確かに泳げるが、せいぜい並レベルだ。
だからバスケのように上手くはいかないだろう。
「あの空気で断れると思うのか?」
「無理ね。」
「無理だな。」
「ご愁傷様。」
レイは俺達の発言で俺が何故こんなことを言われているのか理解したらしい。
「水に濡れると女の子になってしまうのね・・・」
ただ、ものすごい誤解だが。俺は二分の一じゃないぞ。
「で、どうするんだ?」
俊哉が心配そうに聞く。
「そうだな・・・どうしよう?」
「早めに練習だけでもしといたら?」
はなびもこれしかないと言わんばかりに言う。
「そうだな・・・」
「カイの女の子の姿は見てみたいわ。」
「いや、アンタは黙っててくれ。」
レイは勘違いしているようだから黙らせた・・・が口元が笑っていた。しまった・・・演技だったか。全て最初から冗談だったのか。
「でも練習場所はどうするの?」
はなびが当然の疑問を口にする。
「そうだな・・・出来るだけ貸切のほうがいいな。」
確かに貸切プールじゃないと練習の邪魔になる。
「さや先輩に頼んだら?」
レイがそう口をする。
「いや、望みはないぞ。」
前回の球技大会で全く手を貸してくれなかったので今回もそうだろう。
「・・・まあ手が無いこともないがな。」
俊哉が意味深な発言をする。
「どういうことだ?」
「あまり気乗りはしないが手はある。」
俊哉があまり気乗りしなさそうなので俺は躊躇う。
「お前が乗り気じゃないならやっても仕方ないよ。」
俺がそう言うと俊哉が慌てて言い繕う。
「いや、やろう。形振り構っていられないしな。」
「どういうことよ。」
はなびが俊哉に詰め寄る。
「まあ黙って着いて来いよ。」
そう言うと俊哉が先頭に立って歩き出した。俊哉が先導して歩くのは初めてだと思う。なにせこいつはいつも俺やはなびに合わせているから。
「おっと。その前にみんな水着もってこいよ。ついでに泊まりセットもな。」
「へ?泊まるの?」
俺が間抜けそうな声を発する。
「ということはアテがあるのね。」
レイは全てを理解したようだ。
そして俺達は水着とお泊りセットを家から持ってきた。
「で、こんなの持たせてどこに行くのよ。」
「ちょっと、な。」
はなびの疑問を俊哉は軽く流して俺達は歩き始めた。
そして歩いて数分、俺達はある豪邸の前に立っていた。
「え?何ここ。国会議事堂?」
俺は冗談を交じらせて疑問を口にする。俊哉は黙って暗証番号を入れて門の中に入っていった。
「え?お前ここで働いているの?」
俺は間抜けな声でまた訊いた。
『おかえりなさいませ、俊哉様。そしていらっしゃいませお客様。』
入り口に入るとメイド達が俺達に一斉にお辞儀して迎え入れた。
「何ここ・・・?」
はなびと俺は呆気に取られていた。
「あなたまさかここの橘正蔵の縁者なの?」
「まあ・・・な。一応孫・・・ということになっている。」
レイの質問に答えた俊哉の発言で俺達は驚いた。まさか俊哉の家がこんなに金持ちだったとは・・・しかも橘正蔵は今の財務大臣だ。しかし俊哉は今一人暮らしだ。何でだ?一人暮らしする必要無いんじゃない?
「アンタなんで黙っていたのよ!?」
はなびが当然のように詰め寄る。
「あんまり知られたくないからな。何せ俺は元不良だから。」
その発言に全員が固まった。確かに現財務大臣の孫が不良だったというニュースはマスコミが飛びつきそうだ。なにせ総理大臣の孫がロックバンドのヴォーカルをやってるだけで騒ぐからな。
「俊哉様。荷物をお持ちいたします。あと、例の準備が整いましたので至急いらっしゃってください。」
「ありがとう。桜子さん。でも荷物は自分で持つから。」
そうメイドの桜子さんに告げて俊哉は俺達を手招きした。
俺達が俊哉に連れられた先は室内プールだった。驚いたな・・・こんなものが設備されているとは・・・
「うわあ・・・凄い。」
「そうね。」
はなびとレイも感嘆している。
「更衣室はあっちだ。俺達はあっちだ。」
俊哉はそう言ってはなびとレイと分かれて俺と別の更衣室に入った。
「さて、お前ははなびちゃんとレイちゃんのどっちが好みだ?」
は?俺は固まった。何でそんな質問今してるんだ?
「どうした?気分でも悪いのか?」
俊哉はそう言うと俺の顔を覗き込んだ。俊哉の瞳に俺の間抜け顔が映った。
「いや!お前何言ってるの!?」
俺は混乱した。いきなり訳の分からない・・・分かるけれど、変な質問されて。
「そのままの意味だが?」
「そうだけど・・・俺は別にどっちでもいいし・・・」
「二股か。」
「違う!」
せっかく俺が真面目に答えた・・・(確かにどっちも可愛いと思う・・・)のに俊哉は俺をちゃかしやがった。
「そういうお前はどうなんだよ!」
「う〜ん・・・」
俊哉は真面目に考え始めた。
「そうだな・・・俺ははなびちゃんの方が好みだな。」
「え?はなび?何で?」
まさかはなびのことを俊哉は好きなのか?俊哉ははなびのことを温かい目で見ていたかも・・・
「お前嫉妬しているのか?」
「は?そんなわけないだろ!!俺はお前に世話になっているから、どっちかが好きなら手助けしてあげようと思っただけだよ!」
これは本心だ。確かにはなびが俺の元から離れるのは寂しいが、俊哉なら安心できる。
「はぁ・・・」
俊哉は大きくため息を吐いた。何で?余計なお世話か?
「報われねえよ・・・はなびちゃん・・・」
「は?何?」
俺は俊哉が何か呟いたのは分かったのだが聞き取れなかった。
「何でもない。俺ははなびちゃんに恋愛感情はないから。余計なことはするな。」
「そうなのか?」
俺は一応俊哉が遠慮していないかどうか確かめる。
「そうだよ。それに俺、好きな奴いるし。」
「え!?」
「誰にも言うなよ。」
俺は俊哉に好きな奴がいるのが驚きだった。まさか・・・そんな素振り一回も見せてないんじゃないか?
「ああ。それって俺の知っている奴?」
「そうだよ。めちゃくちゃ知ってる人。」
俺はそれに驚いた。俊哉の発言からするに俺と仲のいい奴かもしれない。
「これ以上訊くなよ。野暮だからな。」
そしてこれ以上俊哉には追求せず、一緒に水着に着替え終わって更衣室を出た。
更衣室から出てはなび達を待った。
そしてはなび達も学校の水着で来るのかな・・・と思っていた。
「お待たせ〜。」
しかしそれは裏切られた。はなびはビキニで来ていた。
「な、何でビキニ!?」
「だって俊哉君が水着持って来いって言ってたから。どれでもいいじゃない。」
はなびは始めから水泳の練習する気はないらしい。
「あのね、勘違いしているのかもしれないけど水泳の練習の必要があるのはあなただけよ。」
「え!?」
レイがさも当然のように言った。
「だって私達は泳ぎ得意だし。」
「そんなぁ〜。」
俺は情けない声を出した。みんながプールで遊んでいる中で一人だけ練習してるって虚しすぎる。
「ほら!さっさとやりなさい!」
はなびに急かされて俺はプールに飛び込まされる。
「私はカイにつくから二人は遊んできて〜!」
「は〜い。お邪魔虫は退散しましょうか。」
「ふふふ。」
そう俺達に生暖かい視線を向けながら二人は去っていった。
「なあ。お前遊ばなくていいのか?」
はなび一人だけ遊べないって可哀想だなとか思っていた。
「私はいいのよ!ほら!」
こうして俺は水泳の練習を学校から帰ってきたときにやらされ続けた。
水泳の練習をし続けて数日経った。
そしてついに水泳大会を翌日に迎えたのだった。
「もう泣いても笑っても明日は水泳大会。」
「そうだな。」
はなびと俺がプールで話している。
「だから自信持ちなさい!」
「おう!!」
俺は気合が入った。確かにまだ不安が拭いきれない。でもここまできたらやるしかない!
「気合入っているところで悪いが、桜子さんが夕食をご馳走してくれるそうだ。遠慮するなよ。」
俊哉は俺とはなびにそう言ってきた。
「わかった。」
俺はそう返事をして着替えに行った。
夕食はものすごく豪勢だった。
「うわ〜。こんな広いテープルで食べるの初めて〜。」
はなびが感動したように言う。
「料理もおいしそうね。」
レイも微笑みながら感想を述べる。
「じゃあいただきます。」
『いただきます。』
俊哉の挨拶の後に俺達が続いて挨拶して食べた。
味はやはりものすごく美味しかった。俺とはなびは兎も角、レイまでいつもより多く食べた。そして俺達はもちろん完食した。
「ふふ、この家に住んだらすぐに太ってしまうわね。」
そうレイが漏らした。
「うう・・・あんたが言うと嫌味にしか聞こえない〜。」
はなびがレイと楽しそうに談話していた。俊哉は桜子さんとなんか話していた。
「俊哉様。正蔵様は今日の夜中に久しぶり帰宅なさるそうです。」
「そうか・・・わかった。」
俊哉は浮かない顔をしていたが俺が見ているのに気づくと微笑んだ。その微笑に多少引っかかりを覚えたが。
俺達は今日は家に帰る事にした。さすがに明日は水泳大会だから自分の部屋で寝た方がぐっすり眠れるであろうというみんなの判断である。
「じゃあまた明日!」
そう言ってはなびは帰宅した。そして俺と俊哉はレイも送った。
「さようなら。」
はっきり言ってレイはクールなので「さようなら」と言われるともう会えなくなりそうで怖い。
そして俺と俊哉だけになった。
「なあ俊哉なんで家に帰らないんだ?お前の爺ちゃん帰ってくるんだろ?」
「・・・」
俊哉は無言だ。それ以上聞くなということだ。
「わかったよ。ここまで送ってくれてありがとうな。」
「ああ。じゃあな。」
「ああ。」
俺達はそう言って別れた。今は俊哉のことではなく明日の水泳大会のことを考えよう、とベッドの中で目を閉じた。
そしてまあ今に至っている。
何故不安かと言うと実はさっき泳いだのだが緊張のせいか、あまり速く泳げなかったからだ。
みんなは調子悪いのかと思ったのか、俺の種目をメドレーリレーと最後の自由形リレーだけにしてくれた。しかし両方アンカーだが。
「やっぱり所詮は付け焼刃ね。」
レイに痛いところを突かれた。そういうレイは100mバタフライ個人で優勝しやがった。この女は本当に隙が無い。
はなびも優勝までは行かなかったが100m自由形と200m女子メドレーで活躍して3位になっていた。
「おい、カイ行くぞ。」
俊哉に言われて俺は立ち上がった。種目はメドレーリレーだ。俺は自由形を泳ぐ。自由形なら俺も他と大差が無いという俊哉の配慮だ。そういう俊哉はバタフライだ。
そして俺達はスタート位置に立った。ピーーー!!という笛の後、第1泳者がスタートした。
俺のクラスは案外頑張って2位だった。続いて俊哉の番だ。
さすがに速く、あっという間に1位になって後を引き離した。
そして第3泳者も1位をキープしたが、追いつかれていた。
そして俺、飛び込みに多少失敗して俺はいきなり出遅れた。そして気づいてみれば総合6位で何とか決勝に進めたレベルだった。しかも続いて俺の自由形リレーでも足を引っ張って総合7位でまたぎりぎり決勝戦に行くという失態だった。
「ごめん。」
俺はみんなに謝った。みんなのドンマイドンマイといった感じの顔が俺にとっては心苦しかった。
俺がそういう風にみんなから離れて落ち込んでいると委員長がやって来た。
「大丈夫ですか?」
「あ、まあ・・・」
俺は適当な返事しかしなかった。まあそれだけで落ち込んでいるということだ。
「ごめんなさい。カイさんって泳ぐのはそこまで得意じゃないんですよね?はなびさんから聞きました。」
「ああ。すまん。」
俺はまた謝った。
「もう!謝らないでいいですよ。私たちが強引に出させたのが悪いんですから!」
「ごめ・・」
と、言いかけたところで委員長に手で口を塞がれた。
「だから謝らないでいいですよ。」
委員長はずっと笑っていた。
「そうですね・・・この薬飲んでみませんか?」
「何それ?」
正直妖しそうな薬だったので俺は心の中で麻薬かもしれないと焦った。
「ドーピングみたいなものです。一時的ですけど、身体能力か向上するんですよ!」
そんな薬本当にあるのか?しかし委員長が嘘ついているとは思えない。いつも優しいしな。
「まあいいから一粒。」
そう言って強引に飲まされた。すると本当に体が軽くなった。今まで背負っていた荷物を降ろしたみたいだった。
「なんか体が軽い。」
「そうでしょう?決勝まで持つと思いますからこれで頑張ってください。ちなみに依存性は無いので大丈夫ですよ。そして皆さんには内緒です。」
「ああ。分かった。」
俺がそう言うと満面の笑みを浮かべて委員長は去っていった。そして俺はみんなの元に戻った。
「俺は大丈夫だから。絶対優勝する!」
俺の並々ならぬ気迫にみんなが息を飲む。
「でもアンタ・・・」
はなびが心配そうに言う。
「任せろ。俺は必ず勝つ。」
何の根拠があるか知らないが心まで軽くなった俺はみんなを激励した。そしてみんな俺の方をただじっと見つめていた。
「分かった。ただし負けたら1年間一人で掃除だ。」
真里菜先生が俺に言う。
「はい!!」
「それでこそ私のカイだ。」
最後の発言はいらなかった。はなびが俺を睨んでいるからだ。
「みんな!カイを信じてやれ。」
『うおおおおおおお!!!!』
真里菜先生の発言でみんなのテンションが最高潮に達していた。クラスの心がまた一つになった。他のクラスから見れば不気味に思うに違いない。この残りの二つで勝たなければ優勝できないクラスがここまで盛り上がっているからだ。
そして俺はメドレーリレーに望んだ。
メドレーリレーは俺の前で3位だった。勝つには二人抜かさなければいけない。しかし俺の心は冷静だった。
きちんとはなびに教えられた通りに泳いだ。それに薬の効果のせいか、いつもより速く泳げた。
そして結果は見事トップだった。俺の凱旋にクラスメート達が大騒ぎで迎えた。
「凄いな。何をやったんだ?」
そう、俊哉に質問され薬のことを話そうと思ったが、委員長に口止めされていたために適当に濁した。
俊哉は納得しきれない表情をしたがこれ以上聞いてこなかった。
そして迎えた自由形メドレー決勝。俺達は意気揚々と向かった。次々と快進撃を続けるこのクラスを警戒しないわけにはいかなかったのか、ちらちらとこっちをよく見られた。
そしてリレーが始まった。自由形リレーだから差はそんなに開かないが、なかなか追いつけない。そこんとこを俺は良くかみ締めた。
俊哉が4位にまで順位を上げたが、次の男子が5位に落とす。よって俺は5位スタート。抜く人数は4人。正直絶望的だ。
それでも俺は一縷の望みを・・・奇跡を信じて泳ぎ続けた。
一人抜いた。
二人目も多分抜いた。
三人目は?それとも俺は誰かに抜かされた?
最後の方は一生懸命すぎて覚えていない。気が付くと2位でゴールした。ああ・・・優勝できなかったのか・・・。
俺はどうやら約束を破ってしまった。奇跡は起こらなかった・・・かに見えた。
「ではこれより一斉にドーピング検査を開始します。逃げた人はドーピングと見なして全員失格にします。」
さや先輩の凛とした声が響いた。ていうかドーピング検査なんて高校でやるのか?・・・・やべえ!!俺まさか失格!?それに周りは混乱の渦だ。そりゃそうだろう。
ハッと委員長を見たが委員長はニコニコしていた。何で!?
そして一斉に行なわれて・・・何人か失格者が出た。そして最後の自由形リレーで俺に勝った人も失格になった。
というかドーピングしている奴やっぱり何人かいたのか・・・
そして俺の番だ。俺はもし引っかかってしまったら・・・という不安でいっぱいだった。そうしたらみんなに申し訳が立たない。
検査はあっという間だ。もちろんプロの人が行なっている。多分蓮見財閥の関係者であろう。
俺も終了した。検査結果は・・・・・白だった。ドーピング検査に引っかからなかった。この時点で俺達が自由形メドレーリレーを優勝、そして総合優勝が確定した。
『うおおおおおおお!!!!』
クラスメート達みんなで叫びあった。はなびと俺はまたもや抱き合っていた。水着姿で。しかし興奮のせいか、俺達は気にしていなかった。
そして閉会式。俺はクラスの代表として優勝トロフィーを受け取った。
その時の周りの拍手は俺が今まで感じたどの拍手よりも嬉しかった。
「委員長結局あの薬って何ですか?」
閉会式の後に俺は一番の疑問である薬の正体を聞いてみた。
「あれは薬じゃないですよ。単なるレプリカ。あ、人体に特に影響はありませんよ。それにしても病は気からでしたね。本当に優勝してしまうとは。」
委員長が嬉しそうに俺に話す。どうやら単なるレプリカだったから俺は検査に引っかからなかったようだ。
「何だ・・・俺てっきり薬の力だと思っていたよ。ははは・・・委員長に借りが出来ちゃったな。」
そう言うと委員長は俺に微笑んだ。
「借りも何も私は球技大会の借りを返したまでですよ?」
そう言って委員長は足早に去っていった。
そのまま俺は休憩するために生徒会室へ行った。
部屋に入ると疲れているにも関わらず黙々と仕事をしているさや先輩を発見した。
「あれ?今日は休みじゃないんですか?」
「その予定だったのだけどね。意外にもドーピングしていた人がいて忙しいのよ。だから手伝え。」
なんか命令されましたよ。でも手伝いますけどね。
「さや先輩は奇跡が起こるのを信じますか?」
俺は素朴な疑問をさや先輩に仕事しながら吐いた。
「信じないわ。」
それは予想外の一言だった。球技大会のこともあって俺は会長は信じる派だと思っていたからだ。
「何で・・・?」
「奇跡は起きるものじゃない。起こすもの。私はそう信じている。」
俺は会長の呟きが心に染みた。やっぱり会長は凄い人だと実感させられたのだ。
しかし次の一言は予想外だった。
薄暗い部屋で一人の女子生徒・・・もう隠す必要は無いが、城凪夕陽が誰かと連絡を取っていた。
「実験は成功です。すぐにでもこちらへお願いいたします。」
いつもと違い、感情が込められていなかった。いや、こちらがいつもなのだろうか。
「はい。そうです。わかりました。ではお気をつけて、マイ様。」
そう言って携帯の電源を切った城凪夕陽。その彼女の瞳には一体何が映っているのだろうか・・・
俺は絶句した。
「今、何て?」
「奇跡を自分で起こす・・・っていうのは馬鹿らしいかもしれないのよ。」
奇跡を起こすのが馬鹿らしいって?何でだ?
「奇跡が起きた。でもそれに人為的なものが加わって奇跡が起きる。それって奇跡?」
「それはその人が奇跡を起こしたってことになるんじゃないんですか?」
俺はさや先輩の質問に答えた。
「違うわね。奇跡は起きるかどうか分からないから奇跡。でもその人が奇跡を起こすのは確定している。矛盾しているの。奇跡は何度も起きたら奇跡じゃない。」
俺はかなり混乱していた。何が言いたいのかよく分からない。
「つまり、あなたが起こしたのは奇跡じゃない。」
「え?」
俺が自分で全部今までの奇跡を起こしてきたのか?しかも確実に起きるように・・・
「あなた一体何者なの?」
さや先輩の瞳は俺を見ているのかよく分からない目で問いかけてきた。そしてその問いは何故か俺の心を深く抉った。俺は一体・・・・
「ごめんなさい。気にしないで。忘れてくれる?ていうか忘れろ。」
しかしすぐにいつものさや先輩に戻った。命令またされたし。
「今の冗談よ。あなたの困った顔が見たかったの。」
「何だ・・・」
少し焦った。冗談にしては真剣だったが、多分そうした方が俺が本気でうろたえるからだろう。
「じゃあ後よろしく。」
そう言ってさや先輩は全ての仕事を押し付けて帰った。いや、待ってよ、俺今滅茶苦茶疲れているんだけど。
そう考えながら仕事をした。そして先ほどのさや先輩の言葉を反芻した。本当に冗談だったのか・・・?俺は心に引っ掛かりを覚えつつも仕事に戻った。
俺はこのときまだ何も知らなかった。
そう、何も。
もうすぐ第1部終了かもしれませんがすこしまだ続きます。
真里菜「次回予告……もとい、カイへのセクハラタ〜イム!」
カイ「はい〜〜〜〜!?」
真里菜「じゃあまずはそのミニスカートを脱いでもらおうか」
カイ「俺はそんなもの穿いていないぞ!」
真里菜「じゃあパンツが丸見えじゃないか!」
カイ「そういう意味じゃねえよ!!次回は祭りの話だ!七夕だから!」
真里菜「もみもみ」
カイ「声だけセクハラは止めてください」