番外編TIPS:魔物関連情報:回収屋
とある死霊術師謹製のアンデッド達の名称。死体の回収を目的としたアンデッドであり、多種多様なものが世界に放たれている。
回収屋という呼称はあくまで作成者や神がそう呼んでいるだけで、バッカス王国ですら、これらが一種の人造魔物であるという事は正確に把握出来ていない。疑いはあると考えられているが確証には至れていない。
世界各地に放たれた回収屋達は人間や魔物の死体を探し出し、死体まるごとあるいは死体の一部を回収した後、作成者に回収物を引き渡していく。回収物は新しい人造魔物の材料として使われていくのだが、作成者がズボラであるため回収を忘れられてずっと徘徊し続けている回収屋もいる。
回収方法は主に回収屋の身体に取り込むというもの。
骨を回収するアンデッドであれば、死体から骨を奪って自分の身体に取り込み、増設していく。あるいは不要になった骨と入れ替えて運搬していく。
骨専門の回収屋でバッカスでも有名なものはエルンブ・ヴァルフィッシュというアンデッド。人間の死体を大元に作成される事が多く、放流されてから2、3年で原型を留めない増設進化を果たす。別名、骨のキメラ。
エルンブ・ヴァルフィッシュは数ある回収屋の中でも好戦的な存在で、同じアンデッドはもちろんの事、まだ生きている人間や魔物を見境なく殺し、死体から骨を剥ぎ取っていく。好戦的過ぎて格上の魔物に突っかかってやられてもいるのだが、作成者曰く「そんぐらいドジっ子の方が可愛げがあるでしょ?」とのこと。
回収屋の中で「最強!」と作成者が言って止まないのが「竜牙兵」と名付けられた人造魔物。実際、非常に高い戦闘能力を有する。
作り方は作成者曰く簡単。
エキドナという魔物の肚から産まれた生物の骨肉を用意し、盆地に築いた巨大回転刃調理器具に生死問わず投げ入れ、ペースト状になるまで細かく切断。平行して塩コショウを少々加えていく。この際、塩は高所から「ファサァ……」と振りかけるように入れるのがミソとの事。
隠し味として巨大回転刃調理器具の縁で調子乗って踊っていた手乗り骸骨が「ワァ!?」と中に落ちていくとあら不思議。ペースト状になっていた死肉達がスライムのように動き出し、腐臭を撒き散らす竜型アンデッドへと大変身っ!
そのまま数多の冒険者達を容赦なく殺しつつ、死体を取り込みながら進化。魔物も見境なく殺し、最終的に全長100キロを超える巨大な死肉へと成長した。
発生した時点で全長1キロの巨体であり、その踏みつけは人魔を砕き、死肉より発生した腐敗ガスを基礎に放たれたブレスは威力偵察にやってきた冒険者達に逃げる隙すら与えず抹殺。このブレスは口限定ではなく体中のどこからでも放つ事が可能な全方位攻撃である。
さらに腐臭を媒介とした毒ガスを辺り一帯に振りまいており、接近も困難。オマケに自身の身体から子機として1~50メートルほどのアンデッド達を無数に生成する事が可能という性能を盛りに盛った回収屋であった。
巨体ゆえに直ぐにバッカス冒険者ギルドに見つかり、危険視され、討伐隊が差し向けられたが討伐に失敗。放っておくと死体を取り込んでさらに巨大化していくという凄まじさを持つため一刻も早く倒す必要性があったが、現状の戦力では対応は不可能、弱点も不明という事で一時討伐を断念して撤退。
しかし、スパルトイの進路上に衛星都市を持っていた馬系獣人士族のアルカディア士族は必死に攻撃を敢行。政府から戦士団と撤退と都市から引き上げる命令を飛ばされつつも、面子を重んじて士族戦士団だけでスパルトイに挑んでいった。当然、彼らは次々と蹴散らされていく事になった。
このスパルトイ進行の数日前、集合野営地でアルカディア士族と揉めたアルゴ隊は、士族戦士団がやられていく光景を高みの見物。
ゲラゲラと笑いながら酒の肴としていた。
アルゴ隊所属冒険者の大半は性格が悪い者が多い。
そんな中、アルゴ隊の巨人の少年はオロオロとアルカディア士族戦士団がやられていく光景を見つめ、皆に「たすけにいかなくていいの?」と言いたげにしていた。概ね言いたい事を察したアルゴ隊の面々は「いいのいいの」「本隊は撤退してるし~」「馬鹿共がやられてくとこを見てればいーの」となだめていった。
少年はなだめられなかった。
言葉がわからなかった。
だが、言葉通じたところで、結果は変わらなかったかもしれない。
巨人の少年は黙って自身の武器を手に取り、頭に乗せていた総長を仲間に預け、急ぎ走って士族戦士団の救援へと向かっていった。
一時降ろされた総長は慌てて飛んで追いすがり、アルゴ隊の面々はその光景を素っ頓狂な顔で見送り、ため息をつき、「仕方ねえなぁ」と追随していった。
激闘の末、スパルトイは本隊到着前にアルゴ隊とアルカディア士族戦士団によって討ち果たされた。トドメはスパルトイの体内に潜り込み、発生時から核となっていた人間の頭蓋を砕いた巨人の少年の一撃であった。討伐後もしばし、少年は体内をうろつき、掘り返し、しょんぼりとした様子で外に這い出てきた。
アルカディア士族戦士団の面子は一応保たれる事となった。そもそも、保つ必要があったのかというところはあるが、戦士団の面々は気まずそうにアルゴ隊の少年のもとへ訪れ、謝辞を伝えた。
その謝辞は理解されなかった。
ただ、少年は笑った。言葉交わす代わりに笑顔を返した。
此度は、双方が笑顔を交わす結果となった。
アルゴ隊に加わった少年の武勇はさらに高まり、さらに注目されていった。