番外編TIPS:組織・集団編編:アルカディア士族
馬系獣人の士族。部類としては武闘派士族。集団での機動戦を得意とし、寄り集まって一斉に射撃しつつ、広範囲を移動あるいは逃げ続けながら戦い、魔物を減らし、数の優位を取ると接近戦を挑んでいく戦型を取る。
戦場が限定されている都市防衛戦はあまり得意ではなく、機動戦以外は大抵苦手。戦い方はワンパターン極まりないが、人間ほど柔軟に対応してこない魔物相手には十分効果的であり、しばしば他所の士族に遊撃隊として雇われている。一芸に秀でた武闘派士族である。
ただ、商業や都市運営に関しては苦手で戦士団派遣で稼いだ資金を事業の失敗でよく溶かしている。そういう意味でも不器用な士族である。ウォール士族によく資金を融通してもらっており、頭が上がらず、半ばウォール傘下の戦闘部隊として動いている。
士族内でも「もうちょっとこう、頭よく立ち回らなきゃ駄目じゃね?」と問題視されているがパッとした人材が育っていないのが現状。
バッカス王国に下る以前、士族内に生まれた不老の超越種を事実上の追放を行っており、その人物を長として据え続けておけば躍進していたのではないかと主張する「歓待派」という現士族長家に緩やかな叛心を抱いている派閥が存在している。
歓待派は士族の半数を占めるほどの派閥で、士族の幹部会議を経ずに大挙して元アルカディア士族の超越種に帰還を懇願しにいった事もあるが、頼まれた当の本人は「はあ? いまさら知るか」「つーかお前らが長を盛り立てずにうだうだやってんのも士族発展してねえ一因じゃん」「帰れ帰れ~!」と追い返されている。
士族内がギクシャクしているものの、士族の戦士教育だけは一貫している。
伝統の戦法を成立させるため、アルカディア士族ではまず身体強化魔術を磨く事が求められる。具体的には不整地を延々と走り続ける訓練を行う。士族内訓練を始めて1年間はひたすら走り込みをさせられるのだ。
訓練用に自治都市の市壁の半分は土を盛って障害物もある不整地にされており、常に誰かしらが走っている。24時間~100時間ほど走り続ける訓練も行われている。士族内会議ですら、しばしば集団で走りながら行われる。士族を出た超越種がそっと目を伏せて「そこから改めろよ」と言うほど超体育会系士族である。
そうして身体強化魔術と足腰を鍛えつつ、訓練開始2年目になるといよいよ走行しながらの弓射の練習が始まる事となる。他の訓練も行いはするが、士族戦士団に入って以降も大半がこの走行&射撃の訓練なので、戦士を育成するというよりは「人型走行射撃兵器」でも作っているようである。魔物相手には有効な戦術なので未だこの教育方針は曲げられていない。伝統を重んじると言えば、聞こえはいいかもしれない。
ちなみにバッカス王国のとある週刊誌で数年に一度、「この士族にだけは生まれたくないランキング」が集計されているのだが、アルカディア士族はその体育会系っぷりから毎回5位以内の位置をキープしている。ちなみに1位は毎回カンピドリオ士族である。
単調ながらも対魔物を強く意識して育成された戦士達が遊撃隊として派遣されていくわけだが、当然、それ以外にも士族で遠征を企画する事もある。
毎年、「エリュマントス参り」と呼ばれている狩猟遠征が行われており、現在もエリュマントス山岳地帯の最寄りにある集合野営地・ツェゲーに士族戦士達が詰めかけ、大猪狩りに勤しんでいる。
これはエリュマントス山岳地帯がアルカディア士族発足の地である事から行われているもので、大猪が大量発生してからは泣く泣く、山岳地帯から落ち延びたものの祖先の霊を弔うためにも続けられている。
ただ、その際にアルゴ隊と出くわして乱闘騒ぎを起こしている。
平時であれば別段、仲が悪いわけではないが、その乱闘騒ぎが起きた年、アルゴ隊は人語を解さない巨人の少年を隊に迎えており、「バッカス最強の冒険者クランが都市郊外出征許可を持つ未成年の少年を仲間にした」という事は業界で大いに噂になっており、ツェゲーでも巨人の少年は注目を集める事となった。
自分達よりも若い少年が注目され、強者達が集うアルゴ隊に迎え入れられているのを「気に入らない」と断じた血気盛んなアルカディア士族戦士が少年にちょっかいを出したところ、何を言われているかわからない少年に代わり、アルゴ隊の面々が「いや、そいつはお前全員が束になっても勝てないよ」「わしが育てた」「素材が良すぎた」と当たり前のように言い、戦士団の怒りを買う事となった。
その時点で殴り合いの喧嘩になりかけたが、騒ぎを聞きつけた野営地の自治会が割って入り、「冒険者らしく狩比べでもしろ」と仲裁。
ツェゲーに来ていたアルカディア士族戦士総勢とアルゴ隊の少年一人で、「どちらが多く大猪を狩れるか」の勝負が行われたのだが、士族戦士団が大敗するという結果で勝負が終わる事となった。
ここで事が終わっていれば、まだ良かった。
だが勝敗に納得していない士族戦士団の一部が、少年が一人になったのを見計らって詰めより、罵声を浴びせていったのだ。
少年は相手が何を言っているかわからなかったが、とりあえずニコニコと笑った。楽しく笑っていれば仲良くなれると、アルゴ隊の面々と触れ合っているうちに覚えたのだがこの場では逆効果であった。
まだ病み上がりで床に伏せっていたイアソンがこの騒ぎを聞きつけ、駆けつけ、少年に向けて「野人の子」「捨て子」「父親が魔物と姦淫して出来た化物だろ」と罵っていた者達を怒鳴り上げて殴りかかった。
殴りかかったが、イアソンはけちょんけちょんに返り討ちにあった。アルゴ隊の総長ながら、腕っぷしは弱い彼は簡単にやられてしまったのだ。
巨人の少年は何故ケンカが始まったのかわからず、ビックリして固まっていたがイアソンが殴られて壁に叩きつけられると、目を剥いて怒ったが、「来るな!!」と見た事がないほどの形相の怒鳴ったイアソンに怯え、制止される事となった。
乱闘はイアソンと一部の士族戦士だけで行われ、イアソンが負けた。だが、あまりにもイアソンが弱すぎたために呆れた戦士達の方から去っていく結果となった。
イアソンは少年相手に「ぼくが勝ったぞ」と言い張ったが、少年はイアソンがなんと言ったかわからなかった。なぜ怒り、なぜ戦い、なぜ自分に向かって怒鳴り、そしていまはボロボロになりながらも笑っている理由が、理解出来なかった。
少年は言葉がわからなかった。
だがこの時、初めて言葉がわからない不便さを理解したのだった。
理解して、理解出来るよう、励んでいくのだった。