番外編TIPS:冒険者関連情報編:ツェゲー
とある集合野営地の呼称。
ツェゲーがあるのは臨海監視都市・マルペールの北西にあるエリュマントス山岳地帯内、あるいはその最寄り。山岳地帯の情勢によって場所が変わる。
エリュマントス山岳地帯はエリュマントス・ボアと呼ばれる大猪が多数生息しており、ツェゲーはその大猪を目的とした遠征部隊の野営地が寄り集まって出来た集合野営地である。
常時200~400名の冒険者が詰めており、その冒険者相手に商売をしている者たちを含めると500人ほどが集い、狩猟生活を送っている。
あくまで集合野営地なので都市間転移ゲートは無い。衛星都市の作成も検討されていたが非常に荒れやすい場所であるため、衛星都市の開拓は諦められ、いざという時はたたみやすい集合野営地が拓かれている。
荒れやすい場所にしている最大の要因はエリュマントス・ボアである。
平均的な熟練冒険者では10人がかりでやっと1体討伐出来るほど強い魔物であり、シルエットは猪そのもの。
半端な武器強化魔術では薄皮を避ける程度の堅牢な肌の持ち主で、不整地でも時速80キロほどで大地を踏み砕きながら走り、速度が乗っていると10メートルは軽く飛ぶ敏捷さまで持ち合わせている。当然、その体当たりは「痛い」などと形容では済まされない。
単体でも十分過ぎるほど強いだけではなく、数が非常に多く、不定期に大量繁殖する個体が現れる事で近場に衛星都市を作るとなると防衛費が非常にかさむ事から今の所は都市が作られずにいる。
ただ、エリュマントス・ボアの肉は非常に美味で知られている。
外側の肉は噛みちぎりにくいのだが、噛めば噛むほど口内に旨味が広がる肉である。サイコロほどの大きさに切って薄めのタレを少しずつ口内に入れつつ、ガムのように噛み続けるという方法で食されている。
全ての肉が硬いわけではなく、内臓周りになるとトロリと蕩けそうな霜降り肉があり、内臓と共に高価に取引されている。その取引額に目が眩んで出来心で狩りに来た遠征部隊が全滅するという事が頻繁に起きている。
アルゴ隊に拾われた巨人の少年もこの大猪の肉はとても好んでいた。
買ってきて貰ったものを食べた際には興奮しながら一時間ほどで一頭まるごとをペロリと平らげ、おかわり欲しそうにしていたほどお気に入りの肉であった。
それを見たアルゴ隊の面々は「久々にツェゲー行って焼き肉祭りするか」「獲れたてが一番だからなぁ」「生が最高なんだよ、当たりを引くと最悪だが」と言い合い、狩猟遠征のために集合野営地入りとなった。
少年は感度3000倍の病み上がりで唸っているイアソンをそっと籠に入れて運びつつ、アルゴ隊の面々に連れられるままでに都市郊外を歩いた。
野営地も、都市内よりは怖くないと頑張って踏み込んでいった。イアソンが傍にいてくれれば大丈夫だと思い、少年は努力した。端っこに留まる程度が限界だったが、それは少年が踏み出した確かな一歩だった。
ただ、巨人の少年はなぜ集合野営地に連れて来られたかは理解出来なかった。相変わらず言葉がわからないため、意思疎通出来ていなかったのだ。
だが、仲間達が「さっそく一匹狩ってきてやったぞ」と事もなげに大猪を連れてきて、獲れたて新鮮の肉を食べた時、少年は理解した。
自分の「好き」を仲間が理解してくれて、自分のためにここまで連れてきてくれた事を理解して、とても嬉しげにほころんだ。
ふにゃふにゃと笑った。
無垢な少年の笑みを見た大人達は満更でもなさそうな笑みを浮かべ、「もっと食べろ」「おかわりもあるぞ」「ご飯も沢山あるからな」と促し、翌日も集合野営地で過ごしつつ、少年も連れて狩りに出る事となった。
そして、厄難に巻き込まれる事となった。
それをもたらしたのはとある獣人系士族であった。