番外編TIPS:バッカス街歩き編:スプマンテ
アンボワーズの南南東にある都市。自治管理はレプロブス士族が行っている。
レプロブス士族は元ドワーフ系士族であったが、士族に迎え入れた南部系オーク傭兵団の種の強さに押され、オーク系になった士族である。
バッカス王国の傘下に入った当初はドワーフの採掘技術とオーク傭兵団の武力を合わせ鉱業主体で動いており、スプマンテも鉱業都市として拓かれたものだった。
取れる鉱石そのものは希少ではなくとも、都市間転移ゲート設置可能であった事から衛星都市よりも輸送費や防衛費が安上がりな事から弱小士族であったレプロブス士族の財政を潤わせていたのだが――やがて鉱石枯渇が近づく事になる。
そのこと事体は織り込み済みであり、士族上層部は完全に枯渇する前に都市の扱いを検討。結果、「鉱石以外にめぼしい資源はないため、スプマンテを放棄して他所へ移る」方向で進められていく事になった。
しかし、これは士族全体で大きな反発を呼んだ。
都市間転移ゲート設置可能の鉱業都市は士族財政だけではなく、士族所属者の懐も温めたのだが――同時に「転移ゲートある都市の快適さ」を覚えた者達は「移転するなら次も都市間転移ゲートのあるところが良い!」と主張したのだ。
士族上層部も可能であればゲートがある場所がいいとは考えていたものの、スプマンテを拓いた時ほどの幸運には恵まれず、移転反対派を説得出来る材料を得られないまま互いの主張は平行線。刻一刻と資源枯渇からの士族財政赤字の道へ近づいていったが、議論の末に「第三の道」を選択。
その第三の道――レプロブス士族が選んだのは都市残留の道であった。
単にスプマンテをそのまま自治するのではなく、鉱石が枯渇してもなお赤字転落しないよう、スプマンテで「新たな事業」を興そうとしたのだ。
当然、鉱石が枯渇するとめぼしいものが無いだけに再興は難航を極めた。しかし士族上層部はもはや腹をくくって「鉱業で得た資金を限界まで投入」「士族解体も覚悟し、財政破綻ギリギリまで踏ん張る」と決めていた。
上層部の者もまた人の子であり、都市間転移ゲートがある事による恩恵は有り難く感じており、最後は自分達を助けてくれたスプマンテの地に、それなり以上の愛着があったがゆえの決断をしていたのだ。
再興の過程で多少、迷走はあった。ついに完全に鉱石採掘が採算の取れる限界のラインを突破してもなお、新たな事業を立ち上げる事は出来なかったが、それでもなおレプロブス士族はスプマンテで足掻いた。
最終的にスプマンテは観光都市として再起していく事となった。
都市の大半をテーマパークとし、ブランド化に成功した事で赤字財政を脱出。一度は枯れたはずの都市を再生し、新たに得た利益で現在は第二自治都市まで開拓。一連の流れは都市再興モデルとして教科書でも紹介されるほどとなり、マリア士族もレプロブス士族のやり方をパクったがそちらは無残に失敗している。
そんな観光都市・スプマンテに巨人の少年の姿があった。
冒険者を辞めさせられ、アルゴ隊と別れる事になった彼はひとまずグレンデル家に預けられ、「普通の生活」を送る事となった。
彼にとって慣れない事ばかりで、戸惑いから泣きそうになる事がしばしばあったが、それでもイアソンに「頑張ってみてくれるか?」と頼まれた少年は「頑張ってみる」ことを選んでいた。
その普通の生活の一環として、彼はグレンデル家の者に連れられ、スプマンテを訪れ遊んでいたのだが――彼の脳裏を過るのは「総長と一緒が良かったなぁ」というものばかりで、しばしば、「このままじゃいけない」と頭を振り、「普通の子供らしく」いまの生活を楽しもうとした。
「――――くん、お腹減ってない? そこで串焼き買ってきたげる」
「ぅ……ぁ……」
少年がまごついているうちに、グレンデル家の巨人種の女性は屋台へと走っていた。彼は「まだ減ってないよ」と言おうとしたものの、直ぐに答えられなかった自分の口下手さに少し、落ち込んだ。
普通の子供である事に馴染みが薄く、その事に引け目を感じていた彼は、せめて、何か褒められるような事をしたいと思っていた。
そんな折、都市が魔物に襲撃される事になった。
襲撃してきた魔物は周囲に特殊な霧を立ち込めさせる天魔であり――瞬く間に都市の大半を霧で包み、観光で訪れていた者達をパニックに陥らせていた。
「――――くん! どこ!? 早く、逃げましょ!」
「ぼ、ぼく…………て、てつだって、くる」
「手伝うって……ちょっ、ま、待って!? 駄目よ! もう冒険者は辞め――」
少年は制止を振り切り、都市の外縁部へと向かっていった。
迫る戦いの予感に高揚していた。戦場が自分が人の役に立てる場所。自分らしくいられる居場所であると、歓喜していた。
そうして、防衛部隊の援護に向かう途上、彼は子供の泣き声を聞いていた。
泣いている子供――年頃は自分と対して変わらない子供を捨て置けなかった少年は、人に話しかける緊張からおどおどしながらも話しかけていた。
「うぇぇぇぇん……!」
「だ……だっ……だいじょ、ぶ……?」
「パパが、パパがいないのぉ……!」
「た、たいへん? だいじょぶ、ぼく、手伝う」
「ホントにっ……?」
「う、うんっ……もう、だいじょぶ……」
「そうだね、大丈夫だね」
少年が抱き起こした子供はニタリと笑い、少年の身体に刃物を突き刺していた。
それで死ぬ事は無かったが、人間では考えられないほど異常な毒耐性を持つ少年相手でも効くよう、特別に調合された薬により、少年は倒れ伏していた。
「あれ……あれっ……?」
「まだ喋れるんだ!? それぐらい元気だと、パパも喜んでくれそうっ!」
少年が助けた子供は笑顔を深め、その背中から巨大なコウモリのような翼を生やし、巨人の少年を掴み、霧の中を都市郊外に向けて飛翔していた。
救出は間に合わなかった。
少年は誘拐され、連れ去られた先で豚面の騒乱者と出会う事になった。
正確には、再会する事になった。




