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番外編TIPS:種族編:管理種


 神が人間を虐げるために作った人間。機械でも完全な異形でもなく、あえて人型にしたのは「その方が悲劇的おもしろい」という感情的な理由がある。


 管理種は大まかに分類すると三種類が存在している。


 一つが前期型管理種というもので、これはオーガが代表格である。単純に高い戦闘能力を与え、自分以外の人間を弄ばせつつ、管理させる目的で作られた。


 神は前期型に関して「失敗した」とも言っているが、永遠にとまではいかずとも、長期間に渡ってオーガが人類を支配し、奴隷や玩具のように使っていた時代は確かに存在している。結果的に1人のオーガが個人的事情で激怒した事で管理体制が一気に崩壊していく事となったが、それまでは、概ね成功していた。


 二つ目は後期型管理種というもの。オーガのような独立した種族ではなく、エルフやオーク、獣人やゴブリン、ヒューマン種なども基礎に「不老や比較的高い魔術適正」を付与した改良人間が作られる事が多かった。


 オーガほど傍若無人に振る舞わない者が多く、悲劇を好む神にとっては後期型の方が「失敗したと言うべきではないか」という意見がある。


 三つ目の管理種を知る者は、とても少ない。その一部とはいえ、三つ目に該当する者が表舞台に出ている事から「そういう人物がいた」という事は広く知られていても、それが三つ目――あるいは原初の――管理種であった事を知る者は少ない。


 これは神が新たに作った生命ではなく、魂まで改良された罪人であった。罪状は「オレに唾した罪」であり、管理種としての能力は期待されておらず、ただひたすら神の「腹いせの道具」のような存在であった。先に上げた一部の者は弄ばれつつも、自身の目的を達成すべく動いてはいたが。


 前期型管理種であるオーガは、オーガによる人類管理体制崩壊以降、他の人類が住まわない大陸で魔物や同族同士で殺し合う「遊び」を行っていた。


 オーガの中でもまともな神経をしていた者は、体制が完全に崩壊する前に話し合いで解決しようとしているうちに殺害され、最終的に「たのしい同士討ち」という蠱毒から生き延びたのは「必死に逃げ回った者」か「単純に強い狂人」であった。


 神はこの事を「悪のオーガが滅び、たちの悪いオーガだけが生き残った」と評した。単に同族で殺し合うだけなら、まだ、笑い話で済んだだろう。


 だが、オーガの生き残りが別大陸より帰還する日がやってきた。


 帰還した理由は殆どの者が「単なる気まぐれ」であったが、折り悪く、その気まぐれはヒューマン種を滅ぼそうとしている「バッカス連合首長国」が出来上がった時に被さるものだった。


 最初、オーガ達は魔術王という決戦兵器おもちゃに興味を示し、連合首長国とやり合おうとしていたが、連合首長国側が交渉を取りまとめ、ひとまずは「先に西方諸国と統覚教会を滅ぼす」という事で合意に至った。


 だからこそ、オーガ達の矛先は西方を指す事となった。


 西方は西方で、新しい玩具つるぎがやってきたために。



「おぉ~。いっぱい飛んできてる。まるでイナゴねぇ」


 連合首長国の本隊に先んじて――抜け駆けで――攻めてきたオーガのうち一体は手にした槍で肩を叩きつつ、呑気そうな様子で自分達に向かって飛翔してきているゴブリンの群れを見やった。


「例の破裂するやつか。うざったい……」


 槍持ちの女オーガの隣にいた別のオーガ――帯刀した女オーガは舌打ちしつつ、空に向けて無造作に手を振り、「パンッ!」と空気を鳴らしていた。


 破裂音それが鳴った瞬間にはもう、ゴブリン達の先鋒は肉片と化していた。


 行われたのは手中から魔力の塊を、水のように投擲したもの。魔術とは言い難い技巧のない一撃だったが、桁外れの魔力量に支えられたそれは、ただそれだけでも城壁すら消し飛ばす事が可能であった。


「お見事お見事、さすがはわたくし達の首領ね。そのまま露払いして頂戴な」


「チッ……勝手に押し付けておいてよく言う」


「あらぁ、納得済みかと思ったのに。嫌なら今から代わってあげましょうか?」


「いい。その代わり、アレとやり合うのも、向こうにある神器2つの権利の余のものじゃ。お前は指を咥えて余を褒め称えておくがいいわ」


「横取りはしていいんでしょう?」


「お前から先に殺してやろうか」


 帯刀した女オーガは不機嫌そうな顔をさらに深め、同士討ち――よりも先に、先鋒が全滅してなお躊躇わず飛んでくるゴブリン達を撃ち落とし、殺していった。


 人間爆弾としてマティーニ防衛戦に参加したゴブリンの少年。


 彼は幸いと言うべきか、先鋒には参加していなかったものの、それでも壁のように飛んできた魔力の奔流の余波で身体を打たれ、地上へと落下していた。


「ぅ…………」


 単なる余波でも、彼から光を奪うには十分な威力だった。


 それでもなお、折れそうになる心を奮い立たせ、彼は飛んだ。


 全盲これぐらい夜間飛行が少し難しくなった程度のものだ。それに、これがあの子の視ていた世界と同じでなら、共有出来たようで少し嬉しい――と思っていた。


 自分は最期に、大事な人と同じ世界観を得たという喜びを胸に、飛翔した。


「…………!」


 少年は飛んだ。自分が地上どこから飛び立ったのかよく記憶したまま、とにかく高く飛んでいった。それが必要な事だと考えたがゆえに。


 督戦隊代わりに防衛戦に参加させられた少年の上司は、少年が敵前逃亡を図ったとして咎め、怒鳴り、矢を射掛けさせたが、直ぐに口も聞けなくなった。


 同族のゴブリン達に恨まれ、戦場に引き戻されようと追いすがられたが、この戦場で誰よりも早く、高く飛んだ彼に追いつける者は誰もいなかった。


「はっ……はっ……はっ……!」


 身体が明らかに異常を訴えてもなお、彼は高く飛んだ。


 誰よりも速く高く――戦場を俯瞰していた白鳩より高く飛び、外界の喧騒が微かに届く大空で、今までやってきた盗聴仕事よりも懸命に耳をそばだてた。


 目が見えなくてもいい――まだ耳が聞こえる。


 空を飛べればいい――まだ戦える。


 統覚教会の人間では対処しようがない敵――オーガのところに行ければいい。


 彼はこれが自分の最後の飛翔だと信じていた。それでもいいと思っていた。虫けらのように死なず、ただ事をなせれば、それでいいと決意していた。


「いた……!」


 彼は賭けに出た。


 せめて、一体だけでも人間爆弾の力で屠る。


 そのためには爆発に巻き込めるほどの距離に近づく必要がある。


「行くぞっ……!」


 だから彼は高空まで飛翔し、急降下で飛翔速度を加速させ、何とか敵に肉薄しようとした。微かな話し声を頼りに、せめて一人を倒そうとしていた。


 そうすれば少しでも少女が逃げやすくなると信じて。


「――――!」


 めしいた目では到底成功しないはずの特攻。


 だが、彼はそれによって届く事に賭けた。分の悪い賭けだった。


 成功率は低かろうが構わず、飛んで、落ちて――やがて到達した。


 帯刀したオーガの直上――女オーガの頭上、ぴったりの位置へと届いた。


「よく頑張ったわねぇ」


「…………!」


 あと少しのところで、空を見上げていた槍持の女オーガに――満面の笑みを浮かべ、少年が落ちてきていたのを見つめていたオーガに捕まる事になった。


「ぁ……ぁ……!」


「惜しい、惜しいわねぇ。あとちょっとでバーバを殺せたのにねぇ」


「おい、スカサハ。何を遊んどる。さっさと殺さんか」


「あらぁ? 亜人は助けるようにって言われて無かったかしらぁ?」


「ハッ! 確かに言われた! ゴブリン以外はな! まあ、面倒くさいから全部殺す。ヒューマン種もエルフもオークも巨人もゴブリンも、歯向かってこようがなかろうが殺す。あるのは殺す順番だけ。魔術王も連合首長国の馬鹿共も、後で殺す」


「ふふ……だそうよ? ほら、早く爆発しないでいいのかしらぁ?」


「…………!」


 少年は言われるまでもなく、せめて腕一本ぐらいは持っていこうとした。


 自爆しようとしたが――それは叶わなかった。


「なんで……! なんでえっ……!?」


「爆発しないのぉ? まあ、したところで多少焦げる程度で、直ぐ治るけども……ここまで来て爆発しないなんて、だらしのない子ねぇ……」


「何で、何でっ!? なんで死ねないんだよぉ!?」


「あなた達は、自分の意志で爆発するんでしょ? 死にたくないんじゃないの?」


 可笑しそうに微笑み、見下ろしてくる女オーガに対し、少年は「違う」と言った。自分は本心で死にたいと自らの心を偽っていた。


「単に死にたいだけなら、私が、手伝ってあげるわぁ……❤」


「…………!」


 女オーガは存分にいたぶりながら殺す気で、握る手の力を強めていった。


 少年はあくまで爆発しようとしながら、それに抗った。


「ひ……ぶ……ぐ、ェ……!」


「ほらほらほら❤ はやくはやく❤ 爆発しないと❤ どうせ死ぬなら、みっともなく生き足掻くんじゃなくて、ぱぁっと散ってみて頂戴な……❤」


「ぅー! うぅぅぅぅ……! う、グ、ェェェェ……!!」


 握りつぶされつつある少年は必死に足掻いたが、抗えなかった。


 オーガの怪力により、内臓が次々と潰されていった。


 ゴブリンは、ひ弱であった。単に飛べるだけの力のない生き物だった。


 だが、それでも、彼は「死にたくないから死ねなかった」のでは無かった。


 そもそも、この場において魔術ばくはつという理が断たれていたたのだ。



「連合首長国の方ですね……。その子を、解放して貰えませんか」


 魔術無効化それは、一本の剣が成したもの。


 それを手にしていたのは、今にも死にそうなほど疲弊した一人の青年だった。青年かれは旗槍を手にした老人に伴われ、オーガ達の目前に到達していた。


 到達し、その手の剣で戦場全体の魔術を切っていた。


「あなた、どなた?」


「どこにでもいる、普通の高校生……だったはずの、ただの男です」


「へぇ……❤ どうやら一歩遅かった……いえ、ちょうど良かったのかしらぁ❤」


「ハハハ! 阿呆らしい理由で妨害にあってるらしい話は聞いておったが、ちゃんと、その手中に収めたみたいじゃなあッ!?」


「……出来れば退いて貰えませんか。戦うのは本意ではないので」


「不殺か! くだらん!」


「いえ、必要なら戦います。ただ……後の事を考えたら、戦わずに済む方がいいし、僕自身、ここで殺されたくないんですよ。まだやる事があるんです」


「御託はいい! 殺し合い、ただひたすらに命のやり取り出来ればええ! スカサハァッ! 手は出すなよ!? お前はそっちのしなびた爺でも嬲り殺しておけ!」


「はぁい❤」


 嬉々として臨戦態勢に入っていったオーガの手中より、投げられたゴブリンの少年は剣を持った青年に受け止められ、治癒魔術で一命を取り留める事になった。


「キミは下がって。この場は、僕達が」


「ちょっと待て。俺も戦力として数えられているのか」


「頼りにしています、キュクレインさん」


「ふざけた事を言う。……オーガ相手では、凌ぐのが精々だぞ」


「それは僕も同じです。お互い、何とか生き残りましょう」


「貴様に賭けたのは、間違いだったのかもしれんな」


「無駄死にしたくなかったら協力してください。賭け金は、貴方の命も含まれているはずです。もちろん、僕の命も……」


「確かに。……あとで文句ぐらいは言わせろよ」


「もう言ってますよね……」


 魔を断つ剣を持つ青年は一歩、前に出た。目的を果たすために。


 対するオーガは今までの不機嫌をかなぐり捨て、獰猛な笑みで問いかけた。


「余の名はバーバ・ヤガー。小童こわっぱ、貴様の名は!?」


「ミカド……。ミカド・タイラーという名前だそうです」


「そうか! では踊り狂え! 余を楽しませて――汚らしく死ねッ!!」


「嫌です」


 かくして、ゴブリン達の爆発が児戯に思える戦いが始まっていった。


 少年ゴブリンは逃げず、回復した目で事の趨勢を最後まで見守った。




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