番外編TIPS:騒乱者編:カストル&ポルックス
二人で一人の騒乱者。人類がエルフしか存在しない世界からやってきた異世界人なのだが、バッカスに転生してくる以前から特殊な性質を備えたエルフであった。
彼らは双子の兄弟であり、兄のカストルは火と雷の魔術、弟のポルックスは剣術と拳闘をそれぞれ得意としていた。剣の間合いではポルックスが戦闘を行い、距離が開くとカストルの魔術が飛び、火と雷で仕留められずともひるんだ隙に一気に距離を詰めたポルックスが相手を殺すという高度な連携を得意としていた。
二人は時折、兄弟喧嘩をしつつも一度戦いが始まれば怯まず戦い、格上相手でも連携で打ち倒すなり、引き際を過たず逃走する騒乱者であった。
ただ、二人は狂人として見られていた。
騒乱者としての活動をしているだけではなく、相対した戦士達の眼の前には一人しかいないのに、その一人――正確にはポルックスが独り言で会話し続けているように見えたためである。
そのため「一人二役をしている二重人格の騒乱者」と判断されていたのだが、バッカス政府に捕まった事で「兄弟がどちらも実在している」事が発覚。本人達は「「だから俺ら二人いるって言ってんじゃん!!」とキレた。
二人なのに一人であるからくりは、二人が双子である事が原因であった。
二人は最初から双生児であったのだが、妊娠初期に兄カストルの方だけが流産。いわゆるバニシング・ツイン現象により胎児が母体に吸収された事で身体は消滅したが、魂は母体に留まり、出産時に母が死んだ事でカストルの魂は弟ポルックスの身体を器に双子で揃って同居する事となった。いわば魂の結合双生児である。
無事に生まれたポルックスは物心ついてから兄と一緒である事に気づいていたが、周囲は誰も信じてくれず、兄カストルに「まあまあ、信じてもらえねえなら別にいいじゃねえか」となだめられてそのまま生活。
訓練の末、二人で一つの身体を操作する事を覚え、戦闘中でも素早くお互いに得意分野を受け持つという「連携」で戦士として頭角を現していく。だが、戦果の最中、彼らの活躍を疎んだ味方の罠にかかり、戦死する事となった。
その後、転生してきた兄弟は騒乱者の巣へ最初に降り立ち、神に「元の世界に戻りたければ騒乱を巻き起こせ」と指示された。
「元の世界に帰りたいよね?」
「「ああ。帰ってクソ男爵共を皆殺しにしてやりたい」」
「じゃあ頑張れ」
「「でもお前のツラが気に入らん。死ねッ!」」
兄弟は揃って神に反逆しつつ、神の騒乱者をボッコボコにし始める事となった。神は二人の思い切りの良さにドン引きしたが、「ま、まあ騒乱者狩りする騒乱者にしとこ……」と程々に導きつつ放置するようになった。
その後、騒乱者集団との戦闘の日々が続く中、横から割り込んできた冒険者クラン・アルゴ隊に「邪魔だタコ」「死にやがれ!!」と乱戦を開始。アルゴ隊の冒険者に手傷を負わせつつも「駄目だ、勝てん」「じゃあの!」とその場は逃走。
逃走に成功し、以降、7ヶ月に渡ってアルゴ隊を仕留めるために戦い続ける。共闘を持ちかけてきた騒乱者は「「横取りする気か死ね!!」と殺害。
あくまで二人でアルゴ隊に打ち勝つ道を模索したが、死闘の末にヘラクレスに敗北。敗北と、ヘラクレスの頭上で偉そうにふんぞりかえってきたイアソンに「ばーかwwwww負けてやんのwwwww」とメチャクチャ煽られた事を不満に思い、出所後はまっすぐアルゴ隊にカチコミをかけにいった。
が、その時にはもう、自分達を倒したヘラクレス――アルゴ隊創立に携わったヘラクレスは戦える状態では無くなっており、失意の中でイアソンを捕まえ、「やめろ~!?」と言うのに構わず、彼のケツにストローを挿して空気を入れて無聊を慰め、冒険者としてバッカスに根付いていく事となった。
ちなみに、現在は一人ではなくちゃんと二人が存在している。
バッカス政府に捕まった事で公に「二人いる」ことを認知してもらい、「治癒魔術で兄の身体を生成し、完全に独立した二人の人間にする」という提案を持ちかけられ、二人は迷ったが出所まで兄弟会議を続けた後、決断している。
彼らのように一つの身体に二人以上の人間が存在する事はバッカスでも稀に発生しており、意図せずそうなってしまった時は二人と同じく身体を分ける事が多い。
二人になって出所した二人はイアソンに「おまえらつよいな! ぼくの部下になれ! こきつかってやる!」と誘われ、アルゴ隊に加入。
世界を巡りつつ、イアソンいじめのついでに元の世界に戻る方法を探しているが、帰還に関してはもうほぼ諦めてバッカスで所帯を持っている。
他、イアソンになついた人語を解さない巨人の少年を構って遊び、彼の武術と魔術の師の一人にもなっていった。悪い遊びの師にもなろうとするが、内気な少年は二人が悪い顔をしていると直ぐに逃げる日々を送っている。
イアソンが名付けた巨人の少年の名前に関しては内心、少し複雑なものがあったが、これはこれで一興として冒険者稼業を続け、時折兄弟喧嘩も続けている。