番外編TIPS:戦法編:煙幕
対人、対魔問わずよく使われる戦法。単に煙を焚くだけではなく状況によって煙の種類も変える事になる。対人でも魔術拡散紙より格段に安上がりな事から使われる事が少なくない。
最も利用されているのは単に視覚阻害を目的とした煙幕である。バッカス冒険者は1メートル先も見えないほどの煙が辺りを包んでいても索敵・観測魔術が十分に使えれば周囲の地形を把握する事が可能で、主に魔物相手に使われている。
魔物が人の位置を掴み残っているうちに煙の中から矢を射掛け、一方的に殺すという用途で使われ、時に嗅覚に優れた魔物であればその嗅覚も無効化する煙を焚き、対応していく事になる。
索敵・観測魔術を交えれば魔物の大きさを問わず使う事が可能で、煙幕で全身を包み込むのが困難なほど超大型の魔物相手でも足元をうろつく、あるいは逃走用途など煙幕の出番は少なくない。
対人であればお互いに魔術で位置把握はしやすいが、この時に出てくるのが索敵阻害の術式も込めた煙幕である。
広域の解呪魔術を煙幕に乗せ、索敵の精度を落とすという方法もあるがこれはお互いの索敵に支障が出かねない事からあまり使われず、対人でよく使われるのは特定の周波数を設けてそこに合うように索敵すると問題なく索敵出来るというもの。
仲間内ではその周波数を揃えておき、相手にはそれを解く事を強要しつつ、右往左往しているところに仕掛けて一気に勝負をつけるという使われ方をしている。
ただ、索敵魔術と一口に言っても音源、熱源、魔力反応など様々な索敵アプローチがあり、それ全てに対応する索敵阻害は非常に困難である。
その非常に困難な事を当たり前に強要してくる魔物がペイルライダーであるのだが、それに準ずる……ほどではなくともかなり高度は索敵阻害煙幕を張るアルゴ隊は天魔・プロメテウスの狙撃対策に煙幕を用いていった。
『66!? jZqhn5,5……!』
『cZafgypzpys4it@wq@\>xt@Zq-4t@9huet』
『e7<4jed(q@yをtyt@5wgq>ato6dsme4t@』
アルゴ隊の煙幕はプロメテウスに一定以上の効果を与えた。
「よっしゃ! このまま距離を詰」
しかし致命には程遠く、隠形魔術も使って距離を詰めようとしていた精鋭の一人がプロメテウスが放った矢を回避した瞬間、地中を疾走ってきた別の矢に股間から脳天まで貫かれながら宙に巻き上げられ、死亡した。
直ぐに余力あるものが死体を後方に投げ、即座に蘇生させて戦線に復帰させたが、距離を詰めようとしていた冒険者達は立ち往生せざるを得なかった。
「うへぇ、ちんこやられた」
「丁寧に治しておいてやったぞ」
「ほんと? でもこれ女の子になってる気がするぅ! お前から殺すぅ!」
「おいおいおい! コレ、どうやって近づけと」
プロメテウスの周囲に無数の矢が、衛星のように周回していた。矢弾操作により物理法則から解き放たれた矢群は大地すら水のように泳ぎ走り、勢いが無くなろうが新たに弓から追加された矢がその穴埋めを行われていく。
さすがのアルゴ隊も瞬時には対応しかねる矢と異能の暴力。
そんな中、立ち尽くす冒険者の一人を、天魔が指揮者の如く指し示した。
『n|z:q』
『止まるな動け!』
「…………!」
矢群が動きを変え、棒立ちの冒険者を強襲したが交信魔術で声をかけたイアソンにより、間一髪で即死は避け、身体の半分を持って行かれつつも治癒魔術で復帰。
『怯むな、くぐり抜けるのは難しくても圧力を与え続けろ。ヤツの矢群は壁じゃない、網だ。四方八方から撃ちまくってりゃ抜くのは不可能じゃない』
大勢で天魔一体へと挑みかかっていった。
そして、巨人の少年は総長から離れ、もう一体の天魔へと切りかかっていた。
自身の価値を「勝ち」で証明するために。