番外編TIPS:第八試練編:パイア
討伐隊を襲撃してきた魔物であり、神からイアソン達に下された十二試練の第八を司るもの。休眠状態にして運搬してきた豚顔の騒乱者が頃合いを見計らい、第六と第七に続く本命――彼にとってコントロール出来る限界という意味の本命として、覚醒状態にして解き放った。
敵を求めた魔物達は辺りを見渡し、激しい戦闘が繰り広げられている野営地に向かい、進撃していき――同じく野営地に向かっていたラドゥーンや他の魔物達の群れを足場に進んでいった。
その姿は全身を猪の如き体毛に覆われているが、シルエットそのものは人によく似た形をしていた。だが、数体のパイアは足が四本、あるいは腕が三、四本ある異形であり、その体躯は小さなものでも2メートルを超え、大きなもので10メートルを超えていた。
拡散紙で放出する魔術の威力を削がれていた討伐隊は、魔物を踏み砕いてでも構わず飛んできたパイア達に野営地内へ侵入し、周辺に最も強い魔術を行使しているメーデイアへと殺到していった。
「調査隊長を守れ! 彼女がやられると総崩れになりかねん!」
「ごめん、もう少し……あと3分、持たせて!」
暴れるパイア達に対し、討伐隊長率いる前衛部隊が包囲して対処しようとしていたが、その中でイアソンを頭に乗せていた巨人の少年は死臭と共に届いてきた異臭を察知し、前衛が前に出るのを止めようとした。
だが、僅かに間に合わず――魔物の群れの後方に潜む豚顔の騒乱者が淡々と手元を操作したその時、野営地内にいたパイア達が身体中から大量の油を吹き出し、爆発していた。
メーデイア達が咄嗟に解呪魔術を使ったものの、ほぼ非魔術的な業――科学技術により編まれた魔物爆弾は解呪の無駄撃ちに使わせるフェイント用の魔術を囮に、防護魔術用のリソースを割かせ、討伐隊の前衛部隊をほぼ全滅に追い込んでいた。
野営地防衛の要であるメーデイアは負傷しつつも溜息ではなく舌打ちをもらしつつ、急ぎ削れとんだ体表を治癒魔術で治し、何とか立て直しを図ろうとした。
そこに後続の爆破用ではないパイアが乱入してきたものの――爆破からほぼ無傷で生き残った巨人の少年が一人で五体のパイアを相手取り始めていた。
数と個体の強さで押されてはいたが、彼はイアソンの指示を忠実に守り、魔物達が他に行かないよう、自分に釘付けにしようとした。
ただ、パイアと打ち合うたびに――パイアから聞こえてくる呪詛の如き金切り声を聞くたびに、その動きは精細さを欠いていった。
『eqeqeqeqe……!』
『at@fudt@at@uyw@by<g@<4og@!』
『6j5m<b4<u;』
『d@2@yt@<q@;kfoto4j;qt<ttttt<6meq@!!』
「ァ……ァ……」
「おい、どうした!? しっかりしろ!」
彼自身も、殆ど単なる音でしかないはずのものに、何故こうも怯えてしまうのかわからなかったが、何とか崩れずに済んだのは髪の毛を手綱のように引っ張り、叱咤してくるイアソンの存在であった。
「そうちょ……総長……!」
「怖いか!?」
「こ、こぁい……! こぁいよぉ……!」
「よしじゃあ逃げるぞ撤退ッ!」
最後に強くパイア達を弾き飛ばす形で打ち込ませた後、イアソンは事前の手はず通りに野営地内で大量の煙幕弾を炸裂させ、生き残った冒険者達に北へ――海に向かって逃げるよう誘導していった。
討伐隊は既に半壊しており、満身創痍ではあったが、途中、巨人の少年に拾われたメーデイアは手ひどくやられている事に苛々しつつも魔術を行使し、殿として追いすがるパイアやラドゥーン達の行進を少しでも押し留めた。
「イアソン! 撤退の手筈は――」
「まだ九割」
二人がそう言葉を交わした刹那。
討伐隊が逃げ込もうとした海から、10メートルほどの大剣を鼻先につけたような魔物が現れていた。それは長大な体躯を持つ竜の如きもので、全長は元々、100メートルを超す、この海域まで回遊してきたものであった。
だが、海面に飛び出してきた魔物は頭から20メートルほどのところで身体をもげさせ、赤き血潮を吹き出し、海を染めながら海中に没していった。
もげた部位は切断されており、それにより退路が切り開かれていた。
「いま、十割になった」




