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番外編TIPS:魔物習性編:人間判別能力

 大多数の魔物は人間を襲う習性を本能に刻み込まれている。


 そのため、バッカス冒険者ギルドは設立初期から現在に至るまで「魔物視点の人間判断基準」に関しての研究を続けている。


 判断基準は魔物によって違うのだが、判断材料となるのは匂いと外見が最たるもので、人が立てる音に関しても敏感に反応する。恐るべき事に人語を認識しており、人の会話と単なる音を聞き分ける事が「敷居を隔てて人の会話と単なる音のどちらに反応するか」などの研究により発覚している。これは発音等で判定しているらしく、人が何を言っているか具体的に理解出来る魔物は少ない。


 他にも人が使う魔術や、火や煙が立ち上っていると「人間が文明の利器を使って起こした」と判断して寄ってくる事さえある。


 挙げ句の果てには魂でも判別可能であるらしく、魔物そっくりの外見に揃えても看破してくる種も存在している。


 ただ、これらの人間判別能力は100%的中するわけではない。例えば畑に設置していた案山子かかしを「容姿的に人間! 衣服から人間の臭いする! ころす!」と判断して襲う事すらある。


 この事を活かし、囮用の人形を使う狩猟手法がある。人形の素材は様々で石や土を固めて現場でこしらえる事も出来る。人の匂いが染み付いた古着は人形に着せる事もあるが、木の棒を骨子に古着で人形の身体を作る事もある。


 ビニール製で持ち運び便利なダッチワイフのような囮人形が使われる事もあり、冒険者達が冗談混じりに名前をつけてパーティーメンバーの一員のように扱う事もある。風船式は簡単に割られるので基本使い捨てである。ただ、ダクトテープで無理やり補修して使われ続けている歴戦の囮人形ダッチワイフもいる。


 外見にしろ匂いにしろ精巧に作れば作るほど魔物が引っかかりやすいので、専門の人形職人もいるほどバッカス冒険者業界で活躍している。


 アルゴ隊のイアソンもよく囮人形を使っている。


 イアソンは総長ながら弱く、よく囮にされているがその事に業を煮やした本人が木工を覚えた事がアルゴ隊で木製囮人形がよく使われ始める契機となった。魔物用の囮以外にも債権者から逃げる時の囮にも利用されている。


 イアソンを模った的当て人形が販売される契機ともなったが、それは本人が憤慨して肖像権の訴えを起こし、利益の1割を寄越す事で決着して現在も販売が続いている。魔除けや懐に忍ばせて置くと魔物の攻撃を受けてくれたという噂もあり、的当て人形目的以外にも地味に売れて続けている商品である。


 アルゴ隊に迎え入れられた人語を解さない巨人の少年も直ぐにイアソン人形を気に入っていった。気に入り、自分でも木工を覚えていった。


 最初は拙く、イアソンそっくりに作れない事がじれったく気に入らない様子で、泣きそうになっていたがイアソンの指導のもと、ナイフで木を削りだし、魔術で手のひらをヤスリとして形を整える事を覚えていき、ぐんぐん上達していった。


 暇さえあればイアソン人形を量産して隊内で「どれが総長かわからねえ事件」が頻発する事になったが、イアソンは好んで自分の人形を量産してくれる事を満更でもなさそうにし、「売ってくるわ!」と引き取った人形を債権者に見つからないよう密かに借りている倉庫に並べて飾っている。


 巨人の少年はイアソン人形ばかり作っていたが、イアソンが人形を贈られると嬉しそうにする事に気づき、アルゴ隊所属の冒険者など気に入った相手、仲良くなりたい相手、優しくしてくれた相手をモデルとした木工人形を贈るようになっていった。



 言葉はまだわからなかった。


 それでも、贈った相手の顔を見て嬉しそうにする事は増えていった。


 幼い頃から魔物に命を狙われ、怯えながら隠れ潜み、時に精一杯の抵抗をして殺してきた彼にとって相手をよく見る事は生存に必要不可欠な技能だった。


 その事が人と触れ合う事に活かされていったのは少年本人ですら自覚は無かったが、彼が「にんげん」として生きていくのに役立っていく事になった。



 少年にとって、言葉は必要不可欠なものではなかった。


 この時はまだ、必要ではなかった。



「アァ~」


「あ、コラ動くな。採寸してるんだから」


「アァ~!」


「あーもう! 縛るぞ!? さすがに縛って測るぞ!」


「やめろー! テセウスの手付きがスケベなのが悪いんだバカ」


「アァ~!」


「どこがスケベだ、どこが。お前と一緒にするなよ、イアソン」


「いや、男相手にスケベな手付きはしないって。なっ?」


「アァ~♪」


「言葉も上手く通じてないだろうに。仲の良いもんだ」


「ふふん♪ コイツは、ぼくの一番の部下に仕込むからなっ!」


「ウー」


「ギャッ! 噛むな! 歯型がつくぅ!」


「お、いいぞ、そのまま噛まれてろ、いまのうちに採寸する。……しかしこの子、ホントにデカいな……先生の見立てだと、まだ7歳ぐらいだろ?」


「うん。何かメチャクチャでかくなりそうなんだってさ。50メートルぐらい?」


「ごじゅ……ちょっと、異常だな……。日常生活送るのにも不便だから、2、3メートルぐらいに縮めておいた方がよくないか? この子のためにも」


「うーん……どうする? どうしよっか?」


「うー……???」





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