番外編TIPS:技術編:魔人化技術
人間が肉体だけ魔物になり、意識は人間的な理性を保つ技術。半魔化とも言われるが「魔人化の方がカッケェ」と魔人と言われる事が多い。ただ、魔人の方は別の言葉と混合されがちなので注意は必要。
魔物の多くは人間より優れた身体能力、特化した異能を持ち、その事は世界開拓事業を進めるために力を欲していたバッカス王国も強く注目してきた。
アプローチは様々だが「意識は人間、身体は魔物」となる人体改造の技術はとある騒乱者の十八番であるが、バッカス王国でも技術として確立させている。
ただ、魔物と化す事は精神に非常に強い悪影響が出るもので、特に魔人となっている最中は魔物側の意識に強く引っ張られ、理性が吹き飛びやすく……というか理性を保つのが非常に困難になっている。
完全に人間へ戻れば理性的な行動も可能となるが、油断すると一瞬で意識を飲まれ、これに抵抗出来るかどうかは個人差が激しく不安定な技術である。
そのためバッカスでは禁呪とされているが、世界開拓事業の停滞期には魔術的薬品を使った一時魔人化技術が実戦投入されており、戦果も上げている。が、戦果以上に暴走による人的被害の方が多いことから技術確立初期から厳しい安全対策と事前使用申請無しでは使用禁止となっている。
未だ不安定さを解消出来ない事から、現在は一般に使用許可が降りる事はまずない。今も使用されているもの主なものは、カンピドリオ士族の人狼化技術だが、あちらは本質的には魔人化とは違うものである。魔人化技術の研究結果が数多くフィードバックされてはいるが。
ただ、魔人化は魔物寄りになる事から魔物に襲われ難くなるという副次作用と、確かな戦闘能力底上げが出来る事から主にナス士族で研究が続いている。動物に魔物化用薬品を投与し、意図的に暴走させて野に放ち、稼働限界が訪れると残存魔力を使って自爆させるという方向では実用化が進みつつある。士族長が苛烈な人物である事もあって、ナスは存外、業が深い。
騒乱者の間では魔人化は現在も比較的ポピュラーなもので、所在不明の工房で作成された魔人化薬品が密かに出回っている。
安心安全、副作用なしを謳われているが、そんなことを信じている騒乱者はごく一部で、どうしようもなくなった時の「一か八か」の手段で使われるのが普通である。極稀に常用していても魔物の意識を乗りこなしやすい適合者もいるが……。
大抵の騒乱者が使用して1分程度で完全に魔物側に意識を飲まれて理性無き獣となるか、身体が溶けて自滅するのだが、対バッカス王国としては「非常に有用」という研究成果が製造元から発表されている(統計はとってない所感)
というのも、バッカスの騎士や高位の魔術師は神との協定により、対魔物戦闘が制限されているため、魔人化した騒乱者相手では戦闘行動が不可となるため、「戦わずに済むかもしれない」という意味で有用なのだ。
もっとも騎士は半端に魔物化した騒乱者は人間の部分だけを削り殺し、完全に魔物化すると理性のないまま暴れっぱなしとなるため、動向だけ追跡用の道具を打ち込んで確認し、冒険者を派遣し対処するのでちょっとばかり自由な時間が伸びる程度で根本的な対抗手段にはなりづらい。
むしろ怖いのは一般人が魔人化の薬を摂取させられる事で、バッカス政府はそうならないように厳しい監視網を敷いている。敷いているが完全ではない。が、都市内でその手の事件が起きたケースは一度しかない。
神側で「そういう無差別テロはあんまりフェアじゃないしな……」と騒乱者側を出来るだけ止めているおかげである。神にも情け容赦はたまにある。止まらないようなら政府に事前勧告し、騒乱者を吊るし上げさせている。
第六試練討伐に動きつつも、第七試練、第八試練、第九試練、第十試練にも襲撃される事となった討伐隊はまず、野営地での迎撃戦を展開していく事となった。
この戦いで真っ先に戦端を開きにいったのが、騒乱者・デルピュネであった。
彼女は異世界出身の騒乱者であり、なし崩し的に犯罪を犯し、都市郊外にある騒乱者の巣で生活することを余儀なくされた当時は騒乱者内でもうだつの上がらない実力の者であった。
だが、魔人化への高い耐性を骨人間としか言いようのない不気味な騒乱者に見出され、魔人化から23度に渡って生還し、「あの子の次ぐらいにすごい!」と称賛され、24度目の魔人化で塩と砂糖の分量を間違った骨人間の所為で理性が完全に吹き飛び、魔物と化していった。
意識は残っており、本人は自分が「正常」だと思っているがその行動原理は完全に魔物と化しており、「これはこれで面白いのでオッケー☆」と骨人間と助手の豚により野に放たれ、ラドゥーン討伐隊を強襲。
野営地への第一歩を踏み込む――――はずが爆発四散して即死した。
「うへ……相変わらず、メーの業はエゲツないな……」
「褒めてる暇があるならさっさと働いて。アンタの部下共はどこ行ったの」
「ここにいるぞ!」
「ァゥ……」
「アンタとその巨人以外は?」
「ふふっ……教えてほしいか? 教えてほしいか~!?」
魔女は身体強化ローリング・ソバットを放った。