番外編TIPS:冒険者関連知識編:索敵行軍
バッカス冒険者達は魔術を使って活動するのが普通で、「魔術無しで仕事するなど不可能」と言われるほど冒険者業界は魔術に依存している。
そんな彼らが最も頼りにしている魔術は身体強化、あるいは索敵魔術である。
特に索敵魔術の巧者がいるといないとでは行軍、戦闘、日程の短縮、目標の発見と様々な面で障害が出る事になる。
索敵魔術に優れた者はある程度の水準を超えると頻繁に引き抜きにあう事となり、腕っぷしの強さより索敵の上手さが尊ばれやすくなっており、収入の面でも単に強いだけのものより安定を得やすい。
ただ、索敵手は冒険者パーティーの中で真っ先に死にやすい立ち位置である。
多くの索敵手は頼りになる前衛冒険者達に守られ、ぬくぬくと行軍できる――という事はあまり無く、単騎あるいは少人数で先駆けする事を求められる。
長距離を移動する遠征ではその傾向が顕著で、2~3人ほどの索敵小隊に振り分けられ、本隊に先んじて都市郊外の「魔物が潜んでいる可能性が高い場所」や「本隊から離れた場所で索敵網を展開して少人数で黙々と進む」事になる。
時に1人だけで斥候に出される事もあり、魔物を発見し損ねるとまず最初に死ぬの事になるのは斥候に出ている索敵手本人である。
とはいえ、索敵手をあまり酷使し過ぎると本隊に大打撃が与えられかねない事から、索敵斥候は概ね交代制で索敵小隊は索敵手2人に加えて腕利きの護衛も少数つけるのが一般的である。
遠征部隊によっては神経をすり減らす仕事である索敵手を休めるため、斥候に出している時以外は本隊に戻ってきてもらって荷車なり人間運搬用の背負籠に乗ってもらい、休んでもらっている。
与えられる責務は重いが、冒険の趨勢を決める役割だけに収入面でも待遇面でも優遇されやすいのが索敵手である。もちろん索敵を重んじていない集団では軽んじられるが、ある程度の索敵魔術を持っていれば集団間の転職活動は容易である。
異世界人の中には索敵手が重んじられる風潮を「ヒーラーよりスカウトの方が好まれるゲーム設計」と言う事があるが、バッカス人には馴染みの薄い冗句である。
戦闘部隊の華々しい活躍と比べると索敵手の仕事は黒子染みたものなのだが、軽んじると様々な事に支障が出る事になる。索敵も立派な戦いであり、そこに身を投じる索敵手達は戦闘の趨勢を左右する槍の穂先である。
竜種・ラドゥーンの群れを叩きに都市郊外を進むイアソンは、アルゴ隊の冒険者の中で一人、討伐部隊の本隊の中にあった。正確には一人、「ちょこん」と輜重隊の荷をベッドに寝転び、くつろいでいた。
政府調査隊のメーデイアはくつろいでいるイアソンに軽くイラッとし、その上に荷を置いて「ぐえっ」と呻かせながら話しかけていった。
「アンタの部下共だけ別行動してるんだけど、ちゃんとついてきてるの?」
「へーきへーき。討伐戦開始の前後1日ぐらいには間に合わせるって。中には先行して既におっぱじめてるのもいるし……ウチのクランの冒険者が好き勝手にやるのは政府のお偉方も承知の事だろ?」
ちょうど、行く先で大きな爆発音と魔物達の断末魔と、野蛮な冒険者の哄笑が聞こえてきた事に対し、「な?」と軽い調子で言うイアソンに対し、メーデイアは「まあそうだけど……」といいつつ微妙な顔を浮かべずにはいられなかった。
アルゴ隊の冒険者達は強い。強いが、愚連隊過ぎて扱いは難しい。
政府内ではアルゴ隊の運用に関してマニュアルまで作られており、基本、独立遊兵としてテキトーに放っておくのが良いとされ、今回はアルゴ隊を先鋒として暴れさせ、取りこぼしをその他の部隊で着実に潰すという作戦で動く予定であった。
アルゴ隊の扱いに関し、二人が話をしている時、本隊の後方が騒がしくなった事に対し、二人は戦闘の気配を感じて身構えたが――結局、後方に展開中の索敵部隊が討伐隊に「コソコソ」とついてきている冒険者を見つけただけだった。
それは見つかった事に対し、泣きべそをかいている巨人の少年であった。
「そうちょ……そうちょいたぁ……」
「おっ、おまっ……何でここにいるんだ! 今回は留守番だって言ったろ!?」
「ゥー……」
イアソンの独断で、今回は――あるいはこれからずっと――グレンデル家に預けられていた少年は、「総長いない」と寂しがり、こっそり抜け出し、鼻を犬のようにくんくん鳴らし、イアソンを頑張って追ってきたのだ。
総長と離れたくないあまり「いやいや」と頭を振る少年に対し、結局はイアソン側が折れ、討伐隊につれていく事となった。
「そうちょ、いくとこ……ついてく。ぼく、たたかう! そうちょの、役にたつ」
「もうっ……か、勝手にしろ! ばーか!」
「んっ!」
「でも、ちゃんとぼくの目の届くとこにいろよ。あっ、ちゃんとメシ食べたか? 武器と防具ぐらいしか持ってきてねえじゃん。ばかっ! 何か飲め!」
何だかんだいいつつ、甲斐甲斐しく少年を構うイアソンに対し、メーデイアは少し物を言いたげにしていたが、黙って目を逸し、溜息をついた。