番外編TIPS:バッカス街歩き編:シャンパーニュ
バッカス政府所有の都市。ラインガウの西方にあり、バッカス国立学院を筆頭に様々な学術研究機関が寄り集まっている学問の都。
元々、国立学院は首都サングリアにあったが政府がナスのヴィンヤーズと同種の魔物不可侵地帯を手に入れた事からそこに学院を移転し、それに乗じてシャンパーニュが拓かれる事となった。
国立学院だけではなく、それ以上の高等教育や専門教育のための学び舎もあり、国立のものは全て授業料無料、教科書や学習に必要なものは基本的に政府支給、学生は毎日定食2つまで無料、希望者は寮生活可能で国営寮は寮費無料、学生及びその家族は転移ゲートパス無料となっている。
国立学院に通わず、家庭教師や小規模の学び舎で義務教育を行う者も中にはいるが未成年者の九割以上が毎朝通っている。
そのため、朝方は最も人の流入が激しい都市となる。これを渋滞させず捌き切るために通学転移担当の魔王の使い魔がいるほど。
シャンパーニュには保育所も存在し、数ヶ月以上に渡るお泊り保育も受け付けている。これは国で最も就業者の多い冒険者が遠征等の理由で長期に渡って不在となりかねないため、そういった家庭の子供を家で一人にしないため国――というより魔王が率先して整備したという経緯がある。
保育園担当の魔王の使い魔達もおり、この使い魔達は児童の世話だけではなく各家庭を訪問して子供を迎えに行くという役割を担っている。
保育児童以外の未成年者もシャンパーニュで一時的に預かる、あるいは夕餉時も忙しい家庭であれば学院の食堂で子供に夕食を出すという事を行っているが、親が不在がちの冒険者の家庭は半寮生活を送っている事が多い。この寮は国営以外の寮も利用されており、国営寮の利用は衛星都市に実家がある家庭が優先となる。
消極的ネグレクトへの対策ではあるのだが、家庭によっては政府に子供を預けっぱなしのまま、積極的ネグレクトを加速させているという側面もある。育児放棄対策の職員もいるが、あまりにも酷い家庭は某淫魔が出動していく。
そんなシャンパーニュに「総長の奥さんが暮らしている」という話を聞いたアルゴ隊の少年は「総長の好きなものを教えてもらう」という目的で訪問。
が、案内役とうっかりはぐれてしまい、迷子で泣きべそをかくこととなった。
「ゥ……そうちょ……ゥー……」
「ァ=ャァァァァァァ……!?」
「…………」
「…………!?」
迷子になった先にて――伝説の剣の如く、厳か地面に刺さるものがあった。
刺さっていたのは学院内の畑で、よく見ると頭から地面に突き刺さって下半身だけ地上に出している幼女二人であったが――何となく苦しそうなので、少年は慌てて抜いてあげるのであった。
「アニャアアアアアアアアアアアア!」
「…………!?」
「ひぅぅぅ……」
幼女のうち一人は抜き放つとマンドレイクのように奇声を発し、お互いにビックリする事になったが……なんやかんやで事なきを得る事となった。
「んに……あんがと! あんがと! あんにゃは、学院の畑を守ってたのだ。最近、何者かが勝手に野菜食べてるからね……? ボリボリ。たべる?」
「ァゥ……」
「あっ、あっ、勝手に食べちゃだめです……。モフ尻尾さんが漁りにくるから、それ警戒して仕掛けられてた落とし穴に頭からかかる事になったんですよ……?」
「まことに~!? おかぴぃ。あんにゃ、自分で種まきして水やりしたのに」
「まだ育ちきってないから、つまみぐい妨害用なんでしょ……」
三人は畑の隅っこに座ってニンジンをかじった後、少年の探し人を知っている獣人の幼女が先導する中、学院の奥にある塔を登っていった。
「メーちゃん! メーちゃん! おきゃくさんだよぉ」
「は~い。あら~、お嬢様、泥んこで……えっと、どなたかしら?」
「あぅご隊の……そうちょ……ぃあそんさん、のことぇ」
「…………」
塔に住まう魔女は微笑して客人達を出迎えようとしたが、「イアソン」という名前を聞くと笑みを浮かべたまま「スッ……」と扉と鍵を閉め、高度な魔術で急ぎ堅牢に強化した後、発狂したように叫びながら扉とは反対側の窓へと走った。
「イ゛ア゛ァ゛ァ゛ーーーーッ! あの元旦那ッ!! また! 私を! 連帯保証人にしやがったかカスがーーーーッ!! ころす!!」
叫び走り、ダイナミックに窓を突き破って飛んで逃げていったが、幼女達の手助けを借りた少年に捕まる事となった。