番外編TIPS:冒険者関連情報編:カルヴァドスの森
互助組織・アマゾニスの本拠があるアンボワーズから遥か東にある森林及び山地の名。別名、眠りの森。
希少鉱石が見つかる事からオーガが奴隷を派遣し、採掘を行わせている時代があったが、「眠り病」と呼ばれた病が発生した事で長期に渡って人を遠ざける禁忌の地となっていた。
カルヴァドスの森で発生した眠り病は、森林内あるいはその近隣で突如として強烈な睡魔に襲われ、昏睡状態が続くというもの。
症状が重い者は眠ったまま意識を取り戻さず、死に至る事すらあり、オーガに派遣された奴隷達は採掘からの撤退を進言していたが、長くその意見は却下され続けていた――が、視察にきたオーガすら眠り病にかかり、命を引き取った事から採掘者は次々と撤退していく事となった。
オーガ達の国が実質的に滅びた後、西方諸国が栄えている間もカルヴァドスの森は人を遠ざけ続けていた。向こう見ずの者が探索に赴き、そのまま還らなかった事からその度に禁忌の地としての存在感を強めていた。
しかし、一方で人を寄り付かせない未踏の地である事から、カルヴァドスの森の中心部には「俗界の者を寄せ付けない楽園がある」「異世界に戻るための扉がある」と信じられ、一種の信仰の対象となり、救いを求めて森に踏み入っていく者もいた。実際はそんなものなど無いのでほぼ全員が死ぬ事となった。
眠り病の謎が解かれたのは、バッカス建国後の事であった。
アンボワーズの開拓を成功させたバッカス王国は世界開拓事業を進めるうえで、カルヴァドスの森と向き合わざるを得なくなっていった。
森を避けるとしても森林地帯だけでも広範囲に渡り、眠り病そのものはカルヴァドスの近隣でも発生するため、眠り病に対処できない以上はかなり広い範囲を開拓せずに遠回りしなければならず、森に近づかないという事は森林と山内にある鉱石の採掘も行えないという機会損失を意味していた。
ひとまず、最悪の場合は蘇生魔術に頼る事とし、調査隊を派遣する事になったのだが、その際、調査隊に参加する異世界出身の冒険者が「カラチの眠り病と似てるなぁ」と言った事で一気に眠り病の正体が判明していく事となった。
眠り病の主要因はカルヴァドスの森の地下より漏れ出るガスで、麻酔薬に似た性質を持っている事からそれを吸ったものが昏睡状態に陥る事が発覚したのだ。
さらにそのガスを森に住まう固有種の魔物が吸い、体内で毒性を強め、吐いたものが一帯に蔓延する事で死の眠りのガスの効果を高めている事が判明している。
森の外でも眠り病が発生している件については森からガスが漏れ出ているのが原因で、その漏れ出し方は風向きに左右されている。
原因が明らかになった事でバッカス王国はガス対策を施したうえでカルヴァドスの森に入り、採掘作業を行っていった。ただ、あまり近くに都市を作るとガスに飲まれかねない事から酸素ボンベ等の対策を持ち込んで遠征による採掘が主に行われ、その基地としていくつかの集合野営地が存在している。
アルゴ隊はそのカルヴァドスの森に神の十二試練をこなすために赴き、グレンデル開拓社は都市全体にガス対策を施した鉱業用の新都市開拓のために森の近くまでやってくる事となった。
その道中、一行は第三試練を司る新種の魔物「レルネ・ヒュドラ」と交戦。竜種ヒュドラを凌ぐ猛毒を吐く魔物相手に苦戦を強いられるが、異常な毒耐性を持つ巨人の少年が第三試練の魔を討ち滅ぼし、突破する事と相成った。
ただ、少年はその戦闘で負傷する事となった。
「アゥ……」
「おい、その足どうしたんだ?」
「ふんあ……なんか……」
「何か踏んだ?」
「ウ~……」
大怪我では無かったが、戦闘の最中、何かを踏んだらしい少年の足には甲羅の破片のようなものが刺さり、痛々しい状態となっていた。
治療は施されたが、傷口から入り込んだ毒はさすがに効いたらしく、命に別状は無かったものの、少年はしばし、風邪程度の熱に浮かされる事となった。
幸い、グレンデル開拓社の巨人が開拓街まで少年を運び、養生させてくれる事となった。少年がグレンデル開拓社の巨人――同種の巨人に少し懐いてきた事もあり、アルゴ隊はその好意に甘える事にした。
「よし、アイツが寝てるうちに第四試練もボコボコにしてやろう」
「第三みたいに襲ってくるかな?」
「第三のヒュドラ上位種みたいのは強かったからな……油断ならねえ!」
「森をうろついてたら、そのうち出会うだろ」
「「「「「森のどこにいるんだろうなー」」」」」
ちなみに、第四試練を担当するのはカルキノスという魔物であった。
カルキノスは巨人の少年に勝るとも劣らない毒耐性を持つ化け蟹の魔物で、ちょうど少年の足に刺さっていたものと同じ甲羅の持ち主であった。
つまり……そういう事なのだが、アルゴ隊が真実を知ったのはもう少し後の事であった。神は当然のように三日三晩寝込んだ。