番外編TIPS:組織・集団編:グレンデル開拓社
バッカス王国の商会。主な業務は都市郊外における建築業。他、飲食店や冒険者寮の運営も行っている。
士族あるいは政府から依頼を受け、護衛の戦士らと共に遠征を行い、所定の場所に開拓街を作っていっている。都市間転移ゲート設置に関しては政府任せだが、それ以外の建築仕事は全て自商会で請け負っている。
都市作りの依頼を受けるとまず、少数精鋭で現地入りし、冒険者ギルドの力も借りながら周辺魔物状況を調べ、同時に開拓予定地の測量を開始。
持ち帰った情報をもとに急ぎ、設計図を仕上げていく。開拓を急ぐ場合はひとまず「都市外縁」「都市防衛機構」「上下水網」「仮設建築物」の設計だけ仕上げ、細かな区画割りに関しては現地の開拓工事と平行して詰めていく事になる。要は箱と最低限必要なものだけ先に仕上げておく形だ。
現地における開拓の手順としては仮設の防壁と堀で開拓場所をぐるりと囲い、陣地を作った後、都市間転移ゲート設置作業を進めていく。
これは完全に余談だが、ゲートの有無は移動と運搬、安全面で非常に強い要因となるため、衛星都市や野営地の方は平米辺りの単価はゲート有りの都市より高くなりがちである。
ゲートが無いと建材運搬が非常に手間がかかる事から必要最低限以外の作業はゲート開通してからが本番となる。グレンデル開拓社の場合、ゲート開通までは戦闘行動も可能な職人しか派遣しない商会内規定がある事もあって、初期開拓は存外、少人数で行っている。
グレンデル開拓社は建築屋の中でも殊更ホワイトな事で知られており、過酷な現場になりがちな郊外作業も「人命第一」で行っている。発注者側は「開拓第一」でやってくれと頼みがちだが、グレンデルは安全確保が十分に出来ていない場合は仕事を断っている。
その手の仕事の選別が出来るのは郊外での建築屋需要が高い事も関係しているが、グレンデル開拓社の腕と、バッカスの都市の三割を拓いた実績も大きいと言っても過言ではないだろう。
建築業と他の業務も全てグレンデル家という巨人の大家族が同族経営しているが、士族には属していない市井の者達である。グレンデル家だけで300人以上の巨人がいるため、ちょっとした巨人系の士族と言ってもいいだろう。
一家の殆どのものが同じ家で暮らしており、それだけ多くの巨人が集っている事からグレンデル家の本家はバッカスで最も巨大な邸宅である。月に一度ほど巨人の子供がはしゃいで家の壁が吹っ飛んでいるが建築屋だけあって自前で直せて家計に優しい。たまに客人が素足で踏み潰されて内臓が飛び出ているが、細かいことは気にしない大らかな巨人が多いのがグレンデル家である。
好き勝手にフラフラと暴れているアルゴ隊はそれほど関わり合いのない商会だが、神の十二試練達成のためにとある場所に向かう際、アルゴ隊とグレンデル開拓社が同道する事となった。
「お前もデカイけど、アイツらもデカイなぁ」
「アゥ……」
小さなイアソンは巨人の少年の頭の上にいてなお見上げる高さにいるグレンデル家の巨人達を見上げ、巨人の少年も自分より背の高い人間がゴロゴロといるグレンデル開拓社の面々をこわごわと見上げていた。
巨体ゆえに怒らせると下手な武闘派士族より怖いグレンデル家ではあるが、概ね温厚であり、アルゴ隊の面々が「担いでいってくれ~」と10メートル超の巨人達の背に勝手に乗っても別段怒らずに快く乗せてもらえる事にもなった。
「キミもこっちおいで。肩車してあげよう」
「おっ! 良かったな♪ 乗せてもらえー!」
「…………?」
巨人の少年はグレンデル開拓社の面々の中でも一番大きい巨人に誘われ、少し怯えた様子でおどおどと近づき、つまみ上げられて肩に乗せられる事となった。
「…………!?」
「うぉー! 高え~~~~!」
少年は初めての肩車を最初は怖がっていたが、イアソンがキャッキャと騒いでいる事で安堵し、普段とは違う不思議な景色に段々とはしゃいでいった。
はしゃぎ、グレンデル家の面々にも大いに可愛がられるのであった。
イアソンに、少し離れたところから見守られながら……。
「…………」
「どうしたんだよ、総長? ぼーっとして」
「いや……やっぱり、同族同士の方が、いいのかなって……さ」
「んー……そうかもなぁ……。巨人は身体デケえし、同族同士でつるんでた方が窮屈せずに済むとか言うしな」
「……だよなぁ」