番外編TIPS:組織編:アルゴ隊
バッカス最強の冒険者クラン。最大ではない。概ね50人ほどで構成されており、所属冒険者の出入りはあるが質はバッカス最強を保ち続けている。
創始者はゴブリン種のイアソン。クラン設立当時はまったくの無名で、イアソン自身は現在もあまり強くない。話術には定評がある小狡い男で、「ぐふふ♪」と金儲けを画策しては良いとこで失敗して借金塗れになって「やばやば!」と慌てて都市郊外に高飛びしているが、不思議と仲間に恵まれ、一度の遠征でポンと大金を稼いでくる事も珍しくない。
小狡い男ながらも慕われている……という事は別になく、仲間の冒険者の間でも扱いは結構ぞんざいである。酔っ払った仲間の尻の下敷きになり、平たく潰れる事もしばしば。
それでもクラン創設から現在に至るまで強者ながらも曲者揃いのアルゴ隊を束ねている事から、総長としての手腕は優れているといってもいいのかもしれない。野生の鷲に頭を鷲掴みにされ、「わぁぁぁぁぁ……!」とさらわれていっても、殆どのクランメンバーが「あ、総長いねえ」「まあそのうち帰ってくるだろ」とそのままにする事も珍しくない。
総長はイアソンだが、アルゴ隊が勇名を馳せるきっかけを作った冒険者は別とされる。他ならぬイアソンが「アイツがいたから~」と誇り、酒席でよく自慢している。
その冒険者の名はヘラクレス。イアソンと出会った当時はまったく無名の少年であったが、イアソンの口車にのって冒険者となり、アルゴ隊の創設メンバーになって以降、メキメキと頭角を現していき、バッカス最強の冒険者と言われたヒューマン種であった。
弱いイアソンはヘラクレスの頭にちょこんと乗り、ふんぞり返って「いけ~! ヘラクレス~!」と魔物との戦闘を煽り、木にぶつかって「ぬわーっ!」と落ちるとひょいと拾い上げてもらい、心配されると「ふ、ふん、この程度でやられるもんか」と強がってみせていた。
二人は異なる種族ながら親友であった。
イアソンが「ぐふふ♪」とスケベな笑みを浮かべ、背面飛行スカート覗きを行い、ぺしゃんこに踏み潰されるとヘラクレスがしょうがなさそう笑いつつ、平たくなったイアソンを空気入れで膨らませるような関係であった。
イアソンはいつもヘラクレスの武勇を自慢し、喧伝し、実力による確かな裏付けがあった事からアルゴ隊の主攻は名実ともに有名冒険者として名を馳せていった。その事はアルゴ隊の名を上げる事にも繋がり、二人の周りにはクランの内外問わず、沢山の仲間が出来ていった。
二人はいつも一緒だった。
ただ、やがて一緒に冒険をしなくなった。
それでもイアソンは冒険から帰ると、せっせとヘラクレスの家に通い、新たな冒険譚を相棒に話し、「一緒に新大陸を見に行くぞ~!」と朗らかに誘った。
ある時はヘラクレスの好物をわざわざ取りに行き、「いっぱい食べろよ♪」と言ってニシシと笑い、硬いものを食べるのが困難になってくると世界一美味しいと言われるスライムを慌てて取りにいくほど、二人の関係は長く太く変わらなかった。
飲み屋ではお金で女の子を侍らせ、ふんぞり返り、立派な格好を好むイアソンもヘラクレスの前では金色の羊毛で作られたモコモコの着包みを身にまとい、「どうだ! ぼくは何を着ても似合うし、可愛いんだぞ♪」と窓辺で踊った。進んで道化になった。
ヘラクレスが目を開けて見てくれなくても、ポロポロと大粒の涙をこぼし、「おいっ……! 無視するな……寝過ぎだぞっ……いっしょに、冒険いく……やくそくっ……!」と呼びかけ続けた。
アルゴ隊からヘラクレスという名の冒険者がいなくなって、しばらく経った後のこと。
変わらず総長を務めていたイアソンは、ひょんのことから獅子の竜種を打倒した巨人の子供を拾う事になる。都市郊外で育った巨人の子は人語を解さず、野生動物のように人を威嚇し、遠ざけていた。怒るというよりも人という種を怖がり、何度も逃げた。
ただ、子リスのように小さいゴブリン種のイアソンは「こわくない」と思ったのか懐き、心許して「むんず」と掴み、自分の頭に無理やり乗せるほどだった。
他の人間にはなかなか心を許さなかった名無しの巨人の子を拾ったイアソンは、彼をアルゴ隊に迎え入れ、育ての親になっていく事になった。
「おい、お前! ぼくをガジガジかじるんじゃない! イテテッ!」
「ウーッ……!」
「ふひひ♪ くすぐったいぞ! む、そうか! お前じゃわからないか……名前がないとだな?」
「な、あ、エ」
「そうだな……じゃあ、世界で一番カッコイイ奴の名前を、お前にやろう」
「ァー……ァァエ……」
「今日から、お前は――――」